チェロ弾きの哲学ノート

徒然に日々想い浮かんだ断片を書きます。

ブックハンター「親子で学ぶ英語図鑑(上)」

2016-01-24 12:44:12 | 独学

 103.  親子で学ぶ英語図鑑(上)  (キャロル・ヴォーダマン著 リービン・リザーズ訳 2014年10月発行)

     Help Yours Kids with English  by  Carol Verderman    Copyright©2013

 本書のサブタイトルは、”基礎からわかるビジュアルガイド” とありますように、イギリスに於いて親子が一緒に楽しく英語(国語)を 学び直すために編集されたものです。このため、英語の全体像についてのイメージが把握できる構成になっていると考え、取り上げました。

 本書は、四つの章から構成されてます。 第1章 文法 (garammer) 、 第2章 句読法 (punctuation) 、第3章 スペリング (spelling) 、第4章 コミュニケーション技能 (communication skills) です。

 無論、主要部分は、第1章の 文法 ですが、第2章の句読法(句読点)も正確にその機能を理解するのと、してないのでは大きな差を生じます。

 第3章のスペリングは、発音と並んで正しく把握していないと、記憶する単語の数が増大するに従って、似通った単語同士が干渉し合って、前に進まなくなります。(私はその見本です(笑))

 第4章のコミュニケーション技能は、言語のそもそもの目的が、コミュニケーションのための道具ですので、手紙を書いたり、議論をしたり、台本を書いたり、スピーチ原稿を書いたりできなければ、言語を道具として十分に活用して、いないことになります。

 次に本書の各章ごとに、見出しの部分を見ていき、本書の全体の構成を見ることによって、英語の全体像に、一歩だけ近づけると思います。

 

 『 第1章 文法 

 1. 文法の目的 (The purpose of grammar) 

 言語の組み立て方〔仕組み〕を文法といいます。単語は言語を組み立てる要素です。文法は、単語をどのように組み合わせれば適切な語句や節や文になるかを決定する一連の規則です。

 2. 品詞 (Parts of speech) 

 単語は言語を構成する単位ですが、意味が通じる順番に並べなければなりません。品詞は、特定の単語がどう使われるかを示すものです。

 3. 名詞 (Nouns) 

 名詞は人・動物・事物を名づけるための品詞です。文はふつう、最低1つの名詞か代名詞を含みます。名詞は単数形か複数形のどちらかで表され、普通名詞と固有名詞の2つのグループに大別されます。

 4. 複数形 (Plurals) 

 複数形とは、2つ以上の物を指すときに名詞がとる形のことです。ほとんどの名詞は、単数形(singular form) と複数形(plural form) で形がことなります。

 5. 形容詞 (Adjecives) 

 形容詞は、名詞や代名詞を修飾〔説明〕したり描写したりする単語や語句です。

 6. 比較級と最上級 (Comparatives and superlatives) 

 形容詞は、名詞や代名詞を”比較する”のに使います。ほとんどの比較級は語尾が -er になり、最上級は語尾が -eat になります。

 7. 冠詞 (Articles) 

 冠詞には2種類あります。定冠詞 (the) と不定冠詞 (a) です。

 8. 限定詞 (Determiners) 

 限定詞は常に名詞の前に置かれ、名詞の内容を明確にします。これは日本の学校文法では、扱わない品詞分類です。指示限定詞(that)、所有限定詞(my)、数量詞(much)などです。

 9. 代名詞 (Pronouns) 

 代名詞は”名詞の代り”を意味し、名詞の代用となる単語です。

 10. 数と性別 (Number and gender) 

 代名詞や限定詞は、それぞれが指す名詞に合わせなければなりません。英語では、対象となる人間が3人称単数の場合、男性か女性かによって人称代名詞を使い分けます。 』

 

 『 11. 動詞 (Verbs) 

 ほとんどの動詞は動作動詞です。動詞は文中で最も重要な単語です。動詞がないと、文の意味が通りません。動詞は人や事物の動作や状態を表します。

 12. 副詞 (Adverbs) 

 副詞は動詞、形容詞、他の副詞を修飾します。adverb という単語は本来、”動詞に加える”を意味し、これが副詞の主な働きです。副詞は、何かがいかに、いつ、どこで、どのくらいの頻度で、どんな度合いで起こるかなどの情報を提供します。

 13. 単純時制 (Simple tenses) 

 動詞の時制は、動作が行われる”時”を示します。他のたいていの品詞とは違って、動詞は形を変えます。それらの異なる形を時制といい、1人称、2人称、3人称によって行われた動作の”時”を表します。

 14. 完了時制と進行時制 (Perfect and continuous tenses) 

 これらの時制は、ある行為が続いているのか終わったのかなど、時の経過について詳しく説明するものです。

 15. 助動詞 (Auxiliary verbs) 

 本書では、本動詞を助ける動詞を特に助動詞と呼びます。基本的な助動詞〔第一助動詞〕は、be と have と do です。その他の助動詞〔法助動詞〕は can , could , may , might , must , ought , shall , should , will , would です。

 16. 不規則動詞 (Irregular verbs) 

 動詞の中には、不規則な活用変化をするものもあります。不規則動詞は、重要な動詞なので不規則に変化し、主なものは、75~100個くらいです。

 17. 動詞の一致 (Verbagreement) 

 動詞の”数”は、主語の”数”で決まります。名詞や代名詞のように、動詞にも単数動詞や複数動詞がありますが、動詞は主語に一致させなければなりません。すなわち isと are 、have と has のことです。

 18. 態と法 (Voices and moods) 

 英語の文は、いろいろな”態”と”法”で表現されます。動詞は2通の態で使うことができます、それは、能動態と受動態です。法とは、直接法、命令法、仮定法の3つです。

 19. 句動詞 (Phrasal verbs) 

 すでにある動詞に副詞や前置詞が付くと、新たな動詞になります。句動詞とは、(動詞+副詞)、(動詞+前置詞)、(動詞+副詞+前置詞)の組み合わせです。例として、get up、look out ……です。

 20. 接続詞 (Conjunctions) 

 接続詞は単語や句や節を結びつけます。接続詞は文中の2つ以上の部分を連結するのに使います。各部分を同時に連結したり(and)、従属接続詞 (because) を使って主節と従属節を連結したりします。 』

 

 『 21. 前置詞 (Prepositions) 

 前置詞は、文中の名詞、代名詞をほかの単語と結びつけます。前置詞は決して単独では使いません。前置詞は、名詞や代名詞と文の他の部分との関係を示す単語です。

 22. 間投詞 (Interjections) 

 間投詞は、感情を表すために単独で使われる単語や語句です。例えば、ouch(痛み)、eek, ooh, really〈驚き)、mmm, yeah〈喜び)、oh no(落胆)、help(パニック)、aha〈理解)……です。

 23. 句 (Phrases) 

 句とは、文の一部を構成する語群のことです。句は動詞を含まず、形容詞、副詞、名詞、前置詞の働きをし、それぞれ、形容詞句、名詞句、副詞句、前置詞句となります。

 24. 節 (Clauses) 

 節は文の主要な要素です。節とは、主語と動詞を含む語群のことです。節には、主節、従属節、関係詞節、副詞節があります。

 25. 文 (Sentences) 

 単純なものから複雑なものまで、文にはいろいろな種類があります。文は、単文、平叙文、疑問文、命令文、感嘆文などの種類があります。

 26. 重文 (Compound sentences) 

 重文とは、主節が2つ以上ある文のことです。接続詞、;(セミコロン)、:(コロン)を使う方法があります。主な接続詞としては、and、for、or、yet、so、but、nor の7つがあります。

 27. 複文 (Complex sentences) 

 複文は、少なくとも1つの従属節を含む文です。主節だけを含む重文とは違って、複文は1つの主節と1つ以上の従属節からできています。

 28. 節の正しい用法 (Using clauses correctly) 

 文がいくつかの節を含むときは、正しい意味になるように、節を一定の順番に並べなければなりません。従属節は主節と結びついたときにだけ意味を持つ節ですが、主節はそれだけで完全に意味が通らなければなりません。

 29. 修飾語句の扱い方 (Managing modifiers)

 修飾語句とは、他の単語、語句、語を説明する単語や語句や節のことです。修飾語句を正しく使うと、生き生きとした魅力的な文になります。しかし、修飾語句を文中の間違った場所に置くと、文全体の意味が変わってしまいます。

 副詞の位置の誤り : 1語の修飾語として、副詞のonly、almost、just、nearly がよく使われます。これらはふつう、修飾する語の直前に置きます。違う場所に置くと、別のものになります。

 I just asked Maria to lunch. (つい最近マリアに話しかけランチに誘った) I asked just Maria to lunch. (マリアだけをランチに誘った)

 I almost ate a whole pie. (パイを丸ごと食べたかったが、少しも食べなかった) I ate almost a whole pie. (パイをほとんど丸ごと食べた)

 形容詞や前置詞でもできるだけ修飾する語の近くに置くべきです。 Jim found a silver woman's bracelet. (ここに置くと、silver woman になる) Jim found a woman's silver bracelet. (ここに置くと、女性の銀製のブレスレットの意味になる)

 30. 誤用しやすい単語 (Commonly misused words) 

 よく起こる文法ミスがいろいろあります。話すとき文法的に間違えるのはよくあることですが、書くときに同じように間違えると、文の意味に影響が出てきます。例えば、that か which か?  may か might か?  can か may か?  whether か if か? ……などです。

 31. 否定語 (Negatives) 

 否定語を使うと、肯定文が否定文になります。ふつうは、助動詞の後に not を加えます。 』

 

 『 32. 関係詞節 (Relative clauses) 

 関係詞節は、形容詞節になって名詞を修飾します。関係詞節は who, whom, whose, that, which の関係代名詞を使って、文に情報を付け足します。

 33. イディオム、類似表現、比喩表現 (Idioms, analogies and figures of speech) 

 ある種の工夫をすれば、話し言葉や書き言葉がもっとおもしろく、もっと説得力のあるものになります。比喩表現は、ある点を強調したり、受け手が何かを視覚化したりするのを助けるなど、さまざまな効果を生み出します。

 34. 口語表現と俗語 (Colloquialisms and slang) 

 口語表現と俗語は、ふだんのくだけた話し言葉の一種です。

 35. 直接話法と間接話法 (Direct and indirect speech) 

 せりふの伝え方には、2つの方法があります。ある人の発言を、引用符でくくってそのまま文中で再生する場合を”直接話法”といいます。一方、ある人の発言を、そのままではなく引用符も使わずに伝える場合を”間接話法”といいます。 』

 

 『 第2章  句読法

 36. 句読法って何? (What is punctuation?)

 句読法とは、内容理解を助けるために文章中で使われる符号の使い方のことです。言いたい内容を明確に伝えるためには、単語だけでは不十分です。単語と単語の関係、文の中断、さらに感情を表現するためには、句読法の符号の助けが必要です。

 37. 終了符と省略記号 ”。” (Full stops and ellipses)

 終止符は文が終わったことを表し、省略記号は文や単語が省略されていることを表します。文の省略の例として I thought … 、単語の省略の例として Washington, D.C. などです。

 38. コンマ (Commas)

 コンマは文中の要素を区切るために使われます。コンマは単語や語句や節を区切るために使われます。前置きの句 例として、Once upon a time, there was a garden. 直接話法 例として、Grandma asked, "Can we find more of these flowers?" 呼びかけ の例として、Let's eat Grandma.

 39. セミコロン (Semi-colons)

 セミコロン ( ; ) は、内容的に関連性の強い文や語句を結びつけます。2つの主節を結びつけるセミコロンは、どちらの節も比重が同じで、関連性も強いことを示しています。

 例として、May was warm; it was pleasant. などです。副詞が接続詞として働いて節と節を結びつけるとき、例として、June was hot; however, some cities were rainy. などです。

 40. コロン (Colons)

 コロン ( : ) は文を部分に分けるだけでなく、その部分同士が密接に関連しているころを示します。コロンは、説明、協調、リスト、引用、タイトルとして、使います。

 説明の例として、They know her secret: she is obsessed with socks. 強調の例として、She thinks about one thing: socks.

 41. アポストロフィ (Apostrophes)

 アポストロフィ ( ' ) は、名詞を所有格にしたり、短縮形で省略された文字の代用にするときに使います。文字の省略の例として、it is = it's  、I am = I'm 、I have = I've 、cannot = can't 、所有格の表し方の例として、grapes' seeds(ぶどうの種) 、women's story などです。

 42. ハイフン (Hyphens)

 ハイフンは、単語と単語、あるいは単語内の部分を結合したり分離したりするために使われます。明確さの例として、big-hair society (巨大髪型の、愛好会)、動詞の名詞化の例として、a get-together (会合)などです。

 接頭辞の例として、re-formed (再結成された)、self-service (セルフサービスの)、数字を買い表す例として、twenty-four 、複合修飾語として、hair-loss issues (抜け毛の問題)などです。

 43. 引用符 (Inverted commas)

 引用符 ( “ )は、間接話法や引用文などで使う符号です。引用符は、いつも対で使います。直接話法の例として、“Do pandas eat meat?“  one visitor asked.

 44. 疑問符 (Question marks)

 疑問符(?)は、尋ねる文がそこで終るという合図です。直接疑問文(direct question)では、主語の前に助動詞がきます、例として、When did you last see your cat ? 。

  埋め込み疑問文(embedded question)の語順は平叙文と同じく、主語+動詞になります、例として、Do you know where the cat is ? (where 以下の部分)。

 付加疑問文(tag question)は、平叙文の末尾に加える疑問文です、例として、You don't think I'm responsible, do you? (do you ? の部分)。

  修辞疑問文(rehtorical qusetion)は、言いたいことを強調するためにだけ使う疑問文です、例として、Do I look like a cat thief ? (私は猫泥棒にみえるだろうか(→ いや、そんなはずはない)) 』

 

 『 45. カッコとダッシュ (Brackets and dashes)

 カッコとダッシュは、文中で「強い中断」を表すものです。中断のためのカッコ、例として、The driver bought a new watch. (His old one had stopped working.)  中断のためのダッシュ、例として、It was a long wait - the longest I'd ever had. 「長く持ったー今までで一番長く」

 46. 箇条書き (Bullet points)

 箇条書きにすれば、読み手を文章のキーポイントに注目させることができます。箇条書きにするときの句読法

 Remember to bring these items:

   ・ a water pistol

   ・ a unicycle

   ・ roller sketes.    (最終行は、ピリオド)

 47. 数、日付、時 (Numbers, datea and time)

 Between 1.30 and 11 p.m  (アメリカ英語では、Between 1:30 and 11:00 p.m. と表記する)

 Between half past one and eleven o'clock.  (単語で表した時刻)

 48. その他の句読法 (Other punctuation)

 使用頻度がそれほど多くない句読点として、スラッシュ [/] は、ネットアドレスに使われます、又は選択肢を表す。

 アットマーク(単価記号) ("at"sign) [@]  は、メールアドレスに使われ、個人ユーザー名とホストドメイン名を区切ります。 アンパサンド (ampersand) [&]  は、and を表し、企業名、組織名に使われます。

 アスタリスク(星印) (asterisk) [*]  は、ページの下に追加情報があることを示します。 ナンバー記号 (hash) [#]  は、pound sign、number sign ともいい、number の代りに使えます。

 49. イタリック体 (Italics)

 単語や語句を周囲の語句と区別したいとき、文字をイタリック体にします。タイトルや外国語であることを示したり、強調したりする時に使われます。 』

 

 『 第3章 スペリング

 50. なぜつづり方を学ぶの? (Why learn to spell?)

 スペリング〔つづり方〕は、読み書きのどちらにも大切です。 文字 : 英語のアルファベットには、26文字あり、小文字と大文字で書かれます。 意味 : 多くの英単語はラテン語やギリシャ語に由来します。これらの語根 ( root ) を知って意味を理解しておけば、文字をつづるのに役立ちます。

 単語のはじめと終わり : 単語に別の要素が加わって、新しい単語になるものもあります。この追加分を接頭語、接尾語と呼び、単語の意味を変化させます。

 例として、redevelopment 語根は、develop 開発する、re 接頭語は、再(ふたたび)、ment 接尾語を付けると動詞が名詞になり、〔再開発〕の意味になる。

 51. アルファベット順 (Alphabetical oder)

 辞書は、単語をアルファベット順に並べてそれぞれの定義をまとめたものです。この方法で並べているのは、単語を探したり、つづりや定義を調べたりするのを容易にするためです。

 52. 母音 (Vowel sounds)

 英語のアルファベットには5つの母音字 A、E、I、O、U が含まれます。それぞれの母音字は短音または長音で発音されます。2文字の母音として、aw 〔オー〕、oi 〔オィ〕、ow 〔アゥ〕、oo 〔ウ〕短音、oo 〔ウー〕長音 があります。

 53. 子音 (Consonant sounds)

 英語には、アルファベット全体から5つの母音を除いた21個の子音があります。2文字で1子音は、ch、ng、sh、th(無声音)、th(有声音)、zh などです、

 子音の連続は、単語の最初か最後によく現れます。 bl : block、br : bread、cl : clam、cr : cracker、ct : perfect、dr : drink、fl : floor、fr : fruit、ft : sift、gl : glaze、gr : grapefruit、lb : bulb、ld : mild、lf : self、lk : milk、lm : elm、ln : kiln、

 lp : pulp、lt : malt、mp : chomp、nd : grind、nk : drink、nt : mint、pl : plum、pr : pretzel、pt : adapt、sc : scallop、sch : school、scr : scrape、sk : skeleton、sk : whisk、sl : slither、sm : smoke、sn : snack、sp : spaghetti、

 sp : crisp、sph : sphere、spl : splatter、spr : sprinkle、squ : squid、st : steak、st : toast、str : strawberry、sw : sweet 、tr : trout、tw : twin  以上です。

 54. 音節 (Syllables)

 単語は音節ごとに分割すれば、発音したり正しくつづったりするときに役立ちます。どんな英単語も1つ以上の音節でできています。単語を音節ごとに理解すれば、複雑な単語も単純化され、記憶しやすくなります。単語の分割法には、はっきりした決まりがあります。

  ① 長母音+子音字の例として sa-ving。 ② 2文字以上で1音、1文字だけの音節の例として phys-i-o-ther-a-py。

  ③  短母音+子音字の例として mod-est 。 ④ 接頭辞と接尾語の例として re-han-dle。 ⑤ 同じ子音字、異なる母音の例として im-me-di-ate-ly 。

 単語の強勢(アクセント)の規則  

 ① 多くの英単語では、最初の音節に強勢ががある dam-age。 ② 接頭辞や接尾語を含む単語はふつう、語根に強勢がある in-ter-rup-tion、この場合は、rup です。

 ③ de-, re-, in-, po-, a- で始まる単語はふつう、その部分に強勢はない pro-gres-sive、この場合は、gres です。 ④ 最後の音節に長母音があるときは、その音節に強勢があることが多い sus-tain、この場合は、tain です。

 ⑤ 途中に同じ子音字が並んでいるときは、その直前に強勢がある mid-dle、この場合は、mid です。 ⑥ 接尾辞が、-tion, -ity, -ic, -ical, -ian, -ial, -ious のときは、ふつう直前の音節に強勢がある im-i-ta-tion、この場合は、ta です。

 ⑦ 接尾辞が -ate のときは、ふつうその2つ前の音節に強勢がある o-rig-i-nate、この場合は、rig です。 ⑧ ①~⑦の規則にあてはまらない3音節以上の単語は、ふつう最初の2音節のどちらかに強勢がある sym-pho-ny この場合は、sym です。 』

 

 『 55. 形態素 (Morphemes)

 形態素とは、単語の〔意味を持つ最小の単位〕のことです。すべての単語は少なくとも1つの形態素からできています。形態素を理解すれば、正しいつづりを書くのに役立ちます。

 形態素には、自由形態素 (free morphemes) と拘束形態素 (bound morphemes) があります。自由形態素は、単独で単語になり、拘束形態素は、自由形態素と結びついて使われます。

 ① 自由形態素に -s  という拘束形態素を加えると、cup / cups 複数形になる。 ② 自由形態素に 's を加えると、swimmer / swimmer's 所有を表す。

 ③ 自由形態素に -ier を加えると、hungry / hungrier 比較級になる。 ④ 自由形態素に -est を加えると、long / longest 最上級になる。 

 ⑤ 接尾辞(拘束形態素) -ness をつけると、bright / brightness 形容詞を名詞に変える。 ⑥ 接尾辞 -ion をつけると、act / action 動詞を名詞に変える。

 ⑦ 接尾辞 -ful をつけると、spite / spiteful 名詞を形容詞に変える。(悪意→悪意のある) ⑧ 接頭辞 un- をつけると、help / unhelpful 意味を反対にする。(役立つ→役立たない)

 56. 変則的な英語を理解する (Understanding English irregularities)

 英語は、多くの言語によって形成されてきました。英語の土台はラテン語とギリシャ語ですが、他の外国語も取り込みながら発展し続けています。

 ラテン語の影響 cominitiare → commence (始まる)の起源、superbus → superb (優れた)の起源、verbatim → verbatim (逐語的な)そのまま今も使われている。

 ギリシャ語の影響 skeleton → skeleton (骨格)同じ、pharmakon → pharmacy (薬学)の起源、deinos and saurus ギリシャ語では 〔恐ろしい〕 と 〔トカゲ〕 これが結びついて、dinosaur (恐竜)の起源。

 古英語の影響 aepl → apple (リンゴ)を表す、lang → long (長い)を表す、helm → helmet (ヘルメット)を表します。

 フランス語の影響 parler → parliament フランス語は(話す)を意味し、英語は議会を意味する、recrue → recruit フランス語は、未熟な兵士を指し、英語は新兵の起源。

 57. 語根 (Roots)

 語根は単語の一部で、接頭辞や接尾辞がなくても意味を持つものです。語根は英単語そのものや英単語の一部で、たいていはラテン語やギリシャ語に由来します。語根がうまく見極められるようになれば、語彙をつづったり増したりするのに役立ちます。

 myth 語根は、〔物語〕を意味し、-ology 接尾辞は〔~の研究〕を表し、mythology 〔神話集〕の意味。 re- + form 〔形〕の意味で、reform 〔改善する〕の意味。

 gen 〔誕生〕を意味し、-etic という接尾辞は、〔~に関係した〕を表し、genetic は、〔遺伝学の〕意味。 lingu 〔言語〕を意味し、-ist 接尾辞は、〔行為する人〕を表し、linguist は〔言語学者〕の意味。

 58. 接頭辞と接尾辞 (Prefixes suffixs)

  接頭辞は、語根の前に付いて語根の意味を変えたり新しい単語を作ったりします。 ab- ~から離れて abnormal、 al- すべての almost、 anti- 反する antisocial、 com-, con- 共に community、

  ex- 外へ export、 im-, in- 中に income、 non- ~でない nonsense、 out- 他より優れて outstanding、re- 再び reapply、sub- 下の subway など46個が表になってます。

 接尾辞は、語根の後に付いて、語根の意味や品詞を変えます。 -dom 存在する状態 freedom、-en ~になる brighten、 -ful ~に満ちた cheerful、 -ic ~の特徴を持つ historic、 -ist ~する人 artist、

  -ty ~という性質 society、 -ly 副詞 friendly、 -ment ~という状況 enterainment、 -ness という状態 happiness、 -sion ~という状態 intrusion など51個が表になってます。 』

 

 本当は、見出しだけに済ましてすでに、終了している文字数ですが、多少内容を書かないと、意味がありませんし、途中で終ると、当初の目的であります、英語の全体像の意味がありませんので、英語図鑑(前)、(後)に分けます。 (第102回)


ブックハンター「下流老人とブラック企業を解決せよ」

2016-01-20 20:12:10 | 独学

 102. 下流老人とブラック企業を解決せよ  (藤田孝典、今野晴貴 対談 文芸春秋 2015年12月号)

 藤田孝典:NPO法人 ほっとプラス代表理事 「下流老人」(朝日新書)の著者

 今野晴貴:NPO法人 POSSE代表理事 「ブラック企業」(文春新書)の著者

 『 藤田 : いまは現役時代に公務員や会社員として働いていた人でも、本当にあっけなく「下流老人」になっています。相談に来られる方は、これまで貧困とは無縁だった”普通の人”ばかりで、一様に「自分がこんな状態になるなんて」と口にします。

 本人や家族の病気による高額な医療費、熟年離婚、介護費用の負担、子どもの失業など想定外の要素が重なると、今の社会では一気に転落してしまうんです。

 私は毎年三百人ほどの相談を受けてきた経験から言えば、年収四百万円以下の家庭だと年金支給額も限られ、貯蓄も多くないことから、高齢期にギリギリの生活を強いられる危険性があります。

 「下流老人」を読んだ現役世帯からも、老後を心配して「非正規雇用なんですがどうしたらいいか」 「いまの状況だと老後の年金はいくらか」といった相談が週に何件も舞い込んできます。

 試算をしてみると「厚生年金を入れても八万円」といったケースが多くて一様に驚かれます。自覚がないだけで、すでにみなさん下流に片足を突っ込んでいるんです。

 今野 : 一方で、同書の「下流」という言葉に、一部の福祉関係者からは批判の声も挙がったそうですね。「下流」という用法は階層を生んで差別を助長すると。

 藤田 : 私だって「上流」 「下流」といった区別は好きではないんですよ。ただ、あえて刺激的な言葉を使ったのは、日本人の”一億総中流”意識に強い問題意識を持っているからなんです。

 内閣府の調査では、日本人の実に九割が「自分は中流」だと答えているんですが、貧困支援をしている現場の感覚からはかけ離れているんです。

 いまは「中流」だと意識している国民の少なくない人々が、日本の社会保障制度の中では、近い将来に下流化する崖っぷちにいる状態なんです。「下流老人」では、その現実を伝えたかったのです。

 今野 : 当事者意識が希薄ですよね。穴に落ちている人がいても、「自分だけは落ちないだろう」 「自分には関係ない」と、根拠のない自信をもっているんですよね。

 藤田 : 私が相談を受けていた七十代のある男性は、長女が中学校でいじめを受けて不登校になった。それから三十年間、実家でひきこもり状態になり、うつ病も患っています。

 年金は夫婦合わせて月額十七万円ですが、娘さんの生活費や治療費がかさみ、自宅を売り払って貯金を切り崩しながら暮らしています。

 実家に住み続ける子どもが、ブラック企業に勤めている、メンタルケアが必要などの理由で、親の経済力に寄りかかり、結局は共倒れになってしまう状態を”檻のない監獄”とよんでます。家族の存在が想定外のリスクと化しているのです。

 今野 : 一昔前なら、社会にも会社にも余裕があって、立ち直るチャンスもあったのでしょうね。

 藤田 : いまは「中の上」だと思っている家庭でも簡単に転落してしまいます。本書でも紹介しましたが、五十代半ばの男性は、若年性認知症を発症して勤めていた地方銀行を早期退職しました。

 現役時代は年収千二百万円あったそうですが、夫婦関係に亀裂が入って妻と離婚。財産や年金は分割され、いまは月額十二万円の年金を受け取って暮らしている。

 現役時代の所得が高くても、年金支給額が半分になってしまえば、生活保護基準に該当するレベル。彼は家賃滞納でアパートも追い出され、私たちが保護したときには、埼玉県の公園で生活していました。

 身なりはボロボロで、意志疎通も満足にできない状態でした。下流老人は本人の意思とは関係なくなるものですが、老後を迎えるにあたっての自己防衛策もいくつかあります。

 例えば、年金や介護、生活保護といった制度を理解すること、地域や社会との接点を増やすことを実践すべきですね。

 今野 : 僕が相談を受けた、ワタミの介護現場は壮絶でした。老人介護施設で職員一人が最大で五十人ぐらいを受け持ち、ずっと家にもかえれない状態が続く。

 本当は禁止されているんですが、入居者がいない空き部屋に泊まって連勤する。そんな中、ムードメーカーだった主任が泡を吹いて廊下で倒れてしまい、本部に連絡すると 「泡を吹いただけか。そのまま働かせろ」 との指示が出て、救急車すら呼んでもらえない。やがて主任は口数が少なくなり、ある日姿を消したそうです。

 藤田 : もともと「福祉」と「労働」は別の分野なはずが、これだけ労働現場が劣化してくると、多くの人がそれに耐えきれず生活保護に流れてきますし、隣接した構造になっています。

 今野 : いま、介護現場に限らず、うつ病などメンタルヘルスの問題も大きい。常勤で働いていた人が病気や怪我になった場合、傷病手当金が支払われます。

 その内訳を全国健康保険協会が発表していますが、精神疾患が右肩上がりに急増している。特に二十代、三十代では半分近くを精神疾患が占めています。

 藤田 : その社会的コストは膨大です。精神疾患になった結果、自尊心が傷付き、社会復帰の失敗を繰り返した人へのサポートはとても難しい。本人の自尊感情をふたたび高めて 「大丈夫ですよ」 と自信をつけてもらう寄り添い型の支援が必要になりますが、一人を週五日働ける状態まで復帰させるには多くの時間とお金がかかります。

 今野 : ブラック企業を野放しにしておけば、うつ病になったり自殺したりする国民も増える。当然、医療費は増加して、税収は減ってしまいます。ブラック企業自身は若者を使い捨てにするだけで済みますが、国家としては大きな損失なんです。

 僕は「国滅びてブラック企業あり」と警告を鳴らしてきました。ですから、ブラック企業を取り締まって、一人ひとりが社会復帰しやすいように社会保障を整備した方が国益にもかなっていると思います。

藤田 : その通りです。本来「経済対策」と「社会保障」は車の両輪で、どちらも社会を推進されるエンジンの役割を果たしています。それこそ、放っておけば、十分な収入を得ていないブラック企業社員こそ後に下流老人化する可能性が高いんです。

 高齢者や非正規労働者も消費するわけですし、その人たちが再生産を行えないと企業経済も回らない。安倍政権が気にしている国内の個人消費が落ち込むのは当り前です。 』

 

 『 今野 : 僕たちも貧困や労働の問題を扱っているというだけで、いまだに「貧困対策より、経済成長の方が先だ」と批判されたりしますね。

 藤田 : 社会保障を先行投資としてとらえる視点が必要だと思うんです。将来の負の資産を減らして、働ける人、納税者を増やそうという発想です。このままでは国家財政も破綻してしまいますから。福祉政策は、決して経済成長と相反する動きではありません。

 今野 : 持続可能な社会の仕組みを作るということですね。

 藤田 : 少子高齢化が進めば、社会を維持できるはずはありません。フランスやオランダではすでに五十年前に舵を切っていて、教育と住宅に徹底的に投資をして、ゼロ成長、マイナス成長になっても子どもを産んで育てる仕組みができている。

 教育費は無償化されて、公営住宅が普及しているので現金収入が少なくても生活していけるのです。公営住宅であれば、家賃は月五千円から一万円程度。民間賃貸住宅への家賃補助制度もあります。

 極端な事例では、マクドナルドの店員として働く月収十二、三万円の非正規労働者でもなんとかなる。低収入を補う生活インフラを早急に整備すべきなんです。

 今野 : 東京では、月額の手取り十五万でも家族なら生活は厳しい。

 藤田 : 六万円、八万円もする家賃はとても負担できません。日本にも公営住宅はありますが、応募要件を満たしても、首都圏では当選倍率が三十倍から、ときには八百倍というケースまでありました。

 私たちの活動では、衣食住の中でも住宅を重視していて、理解ある大家さんからアパートを借り上げたり、生活困窮者に物件を紹介しています。

 というのも、職探しをするためにも、まずは履歴書に書く住所が必要だからです。”貧困ビジネス”と呼ばれる悪質な業者の餌食になってしまう可能性もあります。劣悪な住環境に押し込み、粗食を与え、入居者の生活保護費をピンはねする手口です。

 今野 : 住まいを失うと、一気に「下流」へと転落してしまいます。ブラック企業で働く若者が、なかなか辞められない一因でもあります。蓄えがなく、当座の給料すら出なくなると、職と同時に住む場所までなくなってしまうのです。

 藤田 : 安倍政権が「一億総活躍社会」を目指すのであれば、それ相応の土俵を作る必要があります。活躍することを望んでない人はいない。

 そのためには、住宅政策などでボトムアップを図って、いま活躍できていない人に最低限の暮らしを保証してほしい。それが中間層にとっても 「下に落ちても、あれぐらいの生活はできるんだな」 という安心感につながります。 』

 

 『 今野 : 住宅や教育などの最低限の生活保障があれば、仕事としては一日八時間の単純労働でも、それ以外の時間は自由になって、ボランティアや地域コミュニティ、スポーツなどクリエイティブな活動に身を置くことができる。どれも間接的に日本の国力を高めて、社会に貢献することにつながります。

 藤田 : 本当に声が挙がらないんですね。私たちが支援した方の中には、所持金がなくなって青森県から歩いてきた男性がいましたけど(笑)、そこまでバイタリティのある方は圧倒的に少数です。みなさん、「中流」だった自分が生活保護を受けることに後ろめたさを感じて、極言状態まで我慢するんですね。

 今野 : 自殺者が多いのも、声高に主張するより、「自分が悪い」と考えるほうが気が楽になるのかもしれません。

 藤田 : 年間約二万五千人が自殺で亡くなっているといいますが、これは遺書が発見されたケース。遺書がない場合や自殺未遂者まで含めると、支援の現場の感覚では年間何十万人もいると感じる。社会が崩れつつあることを如実に表しています。

 今野 : いま、安保法制に反対している「SEALDs」の活動で、改めて民主主義のあり方に注目が集まっています。ただ、ちょっと思うところもある。もっと身近な生活で改善を求めるべき点にも目を向けてほしいです。

 国会前で「安保法制は憲法九条違反だ」と勇ましくデモをやって会社に戻ると、目の前で労働基準法違反のサービス残業がまかり通っているじゃないかと(笑)

 藤田 : 同じ憲法でも「健康で文化的な最低限度の生活」を定めた憲法二十五条の方がよほど重要ではないかと思いますよ。現実に貧困問題があるわけですから。

 今野 : 政治の役割も重要ですが、国民一人ひとりの意識も改める必要があります。僕たちも現場の支援活動に携わりつつ、政策提言をふくめて情報発信を続けていきたいですね。 』

 

 私たちはこれらの問題に対して、どうすれば良いのだろうか。私が信じる格言に ”物は置場所、人には居場所”です。(居場所とは住む所と職場(社会的役割))

 この住居という問題の中に、東京の港区の中で5千円の家賃の住宅は、要求として無理はあるが、私の住んでいる北海道であれば、国民の権利として、国が保証することは、それほど難しい問題ではないと思います。

 次に、仕事ですが、教育(再教育)、医療、農業、健康回復施設、ひきこもり回復の研究所、介護研究所、リハビリ訓練センター、難民問題研究所(実験所)、砂漠化緑化研究所(実験所)、栽培植物試験センター(実験所)、……の職場を実績のある団体(企業、大学)が用意し、その分の税金を免除する等の政策を行なってはどうでしょうか。

 税金免除するということは : 税金を集めて、それを再配分して、何かを行っても、公務員だけ増えて、効率が非常に悪い。それよりも税金を納める人が、考えてその責任で(公表する)雇用を創造する方が、効率が数倍良いのではないでしょうか。

 国会議員や自治体の長は、A4判一枚のレポートをこれらの問題に対して、公表すること、政党がそれを妨げるのなら、政党など無用の長物である。何の具体的な提案すらできない、人間を私たちが選んでいるであれば、それは民主主義に対する冒涜ではないでしょうか。(第101回) 


ブックハンター「岳飛伝 十四」

2016-01-17 15:05:22 | 独学

 101. 岳飛伝(十四)激撞(げきとう)の章  (北方謙三著 2015年8月)

 本書は、水滸伝全19巻、楊令伝15巻の続編として書かれている岳飛伝14巻目の一部です。読者の皆さんは、水滸伝も楊令伝も読まれてないと思います。

 本来であれば、水滸伝、楊令伝 、岳飛伝のあらすじと登場人物についての解説をしてから、これからの部分を読んでもらうべきですが、これらの事をすべて省略して、北方謙三の中国時代小説の面白さが伝わるかどうかの試みです。まず侯真(こうしん)が王貴(おうき)に報告する場面から始まります。

 

 『 「北に行って、王清は働ける?」  「本人が、やる気があるなら……。逃げているのだ。生き抜こうという気はあるだろう。能力は、そこは王貴殿の兄弟さ。体術の腕も立つ。なにしろ、子午山で、あの燕青(えんせい)殿のそばにいたのだからな」

 「燕青殿は、あんたの師でもあるだろう」  「武松(ぶしょう)殿と燕青殿さ。この二人とした旅は、俺の躰に、まだしみついているよ」  「楊令殿を、捜す旅か」

 「そうだよ。あの時、なぜみんな楊令殿を求めたのだろうか」  「誰も、頭領になりたくなかったからだ、と俺は李俊(りしゅん)殿に聞いたな」  「そう言ってしまえば、それだけのことだが」

 侯真が、瓢(ふくべ)の酒を一度呷(あお)った。こうして、酒を持ち歩くようになったのは、いつのころなのか。

 「ひとつだけ確かめておくが、王貴殿の、王清に対する気持ちは、どれくらいなのだ。やはり、兄弟の情か」

 「兄弟であることは、確かだ。幼いころ、一緒に育った。俺は、王清より、すべてのことで勝っていた。しかし、あいつは本気をだしていないことも、どこかで気づいていたよ。兄弟としての情はあっても薄いのかもしれん。梁山泊(りょうざんぱく)に背をむけようとばかりするあいつが、ゆるせなかったのかもしれん」

 「いまは?」  「あのころ、俺が絶対だと思っていた梁山泊は、もうないのだ。いや、ひとりひとりの心にある、ということだな。宣凱(せんがい)や俺が、まずそう思い定めようとしている。張朔(ちょうさく)は、海で生きるつもりのようだしな。王清も、生きたいように生きればいいのだ、梁山泊聚義庁にいる俺と兄弟であることで、いささかつらい思いをさせるかもしれないが」

 「わかった。張朔の心づもりは、十三湊で瓊英(けいえい)殿の代りをさせよう、というところにあると思う。五郎は、日本に置いておくと、殺されるかもしれんし」

 「それでいい、そこに生きる道があるのなら」 侯真がかすかに頷いた。 午(ひる)を知らせる鉦が、打たれている。 王貴は、崔蘭(さいらん)が持たせた料理を、卓に出した。

 「このところ、酒を飲む姿しか見ていない、侯真殿。一緒に食わないか。食っている姿も、見てみたいよ」  「奥方の料理か」  侯真は、瓢を一度呷ると、饅頭を二つに割り、煮込んだ肉を挟んで食い始めた。

 「ところで、調べはついたのか、侯真殿?」  「なんの?」  「胡土児(コトジ)さ。兀朮(ウジュ)の養子の」  「俺がそれを調べていると?」 「北へ行く回数が多い。このところ、侯真殿だけでなく、金主まで調べはじめているようだ」

 「そうか。はっきりするまで、誰にも言わないつもりだったが、まわりからわかってきてしまうものか」 侯真は、饅頭を食ってしまい、指を舐めた。

 「楊令殿の息子だ。間違いない、と俺は思っている」  聚義庁に入ってくる情報には、金軍のものも少なくない。胡土児という男が、いきなり兀朮のそばに現われ、しかも養子だった。その過程ははっきりしないが、自然ではなかった。なんらかの理由で、兀朮は胡土児を養子にしたのだ。

 「楊令殿の息子が、梁山泊と闘っているのか。皮肉なものだ」  「胡土児は、知らんよ。なにか感じているかもしれないが。関係ありそうな人間は、みんな死んでいる。ただ、会寧府の北の村で、一緒に遊んでいたやつなどはいるのだ」

 宣凱と王貴が、胡土児のことを楊令の息子かもしれないと思いはじめたのは、謎に包まれる必要もない人間が、謎に包まれ、しかも武将ではなく、兀朮のそばに居続けているからだった。そして、年齢が、楊令が北にいた時と符合した。

 「胡土児は、兀朮が父親だと思い定めている。いろいろ感づいても、気にしていないと思う。自分の血に、負けるような男ではないな」  「会ったのか?」  「爪のかたちが、そっくりだった。楊令殿と」  「息子だとしても、いまさらどうしようもないな」

 「兀朮の方にも、息子に対する感情があるような気がする」  「吹毛剣(すいもうけん)を」  「どこにある?」 

 「聚義庁に保管されている。それだけは、胡土児に届けるべきでないかな。正直に言うと、やがてあの剣は、聚義庁の重荷になりかねない、という気がするのだ」

 「なんとなく、わかるような気もするが」  「誰が、なんと言って届ければいいのかな」  「戦の前が、いいだろうな」  「そうかな」

 「春の戦について、羅辰(らしん)と話してみた。兀朮の、金主に対する愛情も、あるとしか思えないのだ。金主と胡土児は、複雑な関係になりそうだぞ」

 「俺は、南から北上してくる秦容(しんよう)殿の軍を、どう援護するか、その策を講じなければならん、この役は、統括だな」

 「王貴殿も、統括と呼ばれている。知らないわけではあるまい」 頭領ではない、という意味での統括だった。何人いてもいいのだ。

 「それにしても、北でも南でも、戦か」  「一度、中華を底の底からかき回す。濁るだけ濁らせて、宣凱と俺は眼を凝らすのさ」

 「死人が、多く出るだろうな」  「これまでに死んだ人間の数と較べると、わずかなものだと思う、侯真殿」

 「俺が、酔って独り言を呟いているようになったら、任務からははずしてくれ」  「いまの任務からは。致死軍よりいくらかつらい任務を、宣凱と俺は、智恵を搾って考えるよ」

 侯真が、ちょっと首を振った。それから、昼食の礼を言って出て行った。やるべきことは、いくらでもあった。隣り同士の部屋にいるのに、宣凱に会えたのは、夕方になってからだった。

 王清のことを伝えた時は、宣凱は黙って聞いていた。しかし吹毛剣を胡土児に届ける話になると、色をなした。

 「なぜ、私なのだ?」  「それは、統括だからだ」  「おまえも、統括と呼ばれているではないか」  「先任の統括ではないか。おまえ以外に、この役を果たせる人間はいない」

 「待てよ、王貴」  「俺は、おまえの要請で、聚義庁に入ることを肯(がえ)んじたのだ。悩んだが、ほかならぬおまえの要請だ。俺はそれについて、文句は言わなかった」

 「おまえでなく、張朔に要請すべきだった」  「やつは、いつも海の上だ。それに、やつも俺と同じことを言っただろうと思う」 宣凱は、しばらく黙りこんでいた。

 「それにしても、いまこの時に、楊令殿の息子か」  「めぐり合わせを、なぜなどと考えるなよ、宣凱。いつかはっきりするだろう、と俺たちは思っていた。しかし、すでにはっきりしていると、心のどこかで感じていたさ」

 「そうだな」  「おまえ、楊令殿が好きだったろうが。少なくとも、俺より親しく接してきたはずだ。やはり適任だ。俺も一緒に行きたいが、二人して聚義庁を空けるわけにはいかん」

 「私が、やらなければならないのか」  「いやなら、吹毛剣はおまえが持っていろ」  「酷いことを言うなよ、王貴」

 「ほかに、言いようはない」  「嵌(は)めたな、侯真殿と二人で」  「ひとつだけ、逃れる方法があるぞ、宣凱。おまえと同じくらい、適任の人がいる」

 「史進殿か?」  「あの人に頼む度胸があるなら、おまえ、頼んでみろ」  「鉄棒で、殴られるな。そして、口からはらわたを飛び出させる。私の、そういう姿を、おまえは見たいのか?」

 「ほんとうの話、適任は史進殿だろう」  「私もそう思う」  「二人で、頼みに行こうか」  「おう。おまえはやはり、私の友だ」

 呼延凌(こえんりょう)にまず話を通して、できれば一緒に行って貰う。王貴は、一瞬だけそう考えた。呼延凌に蹴り倒されそうだ、と思った。呼延凌の拳は、不意に飛んできて、避けきれないのだという。王貴は、これまでに一度も打たれたことがなかった。

 さまざまのことを、冷静に話し合って決めてきた。二人だけで、時には七、八人で、多い時は十数人で。曖昧な意見は許さなかった。

 曖昧なものが膨らんで、手に負えないほど大きくなるかもしれないからだ。可能なかぎり、曖昧さを排除して、すべてをわかりやすくしておく。

 宣凱も王貴も、死力を尽くしていた。その先にあるのは、死や不名誉かもしれないが、いま、確かに誰よりも生きている。しかし、史進にものを頼むなどということになると、若造にもどってしまう。

 「ほんとうに、一緒に行ってくれるな、王貴」  「ああ」 外は、暗くなっていた。聚義庁の明かりも、まだ消えない。 』

 

 『 全身に、粟がたった。なにか、とてつもないものが近づいてくる。そんな気がした。胡土児は馬上で、剣の柄(つか)に手をやった。しかし、抜かねばならないような、害意は感じられない。

 騎馬隊である。その姿が、次第にはっきりしてきた。血に塗(まみ)れている。そう思った。部下たちも、縛られたように硬くなっている。

 赤い色の正体が、見えた。赤騎兵である。なぜだ、とは考えなかった。ただ、赤騎兵が近づいてくる、と思っただけだ。開封府(かいほうふ)から、それほど大きく外れていない東の原野だ。胡土児の隊の野営地は、四里ほど西だった。

 赤騎兵が、ずらりと並んだ。二百騎。胡土児の隊と同じだった。二騎が、前へ出てくる。九紋竜史進(くもんりゅうししん)。じわりと、全身に汗が出てきた。胡土児は部下を制して、一騎だけで前に出た。

 史進についているもう一騎は、具足をつけておらず、侯真という名の男であることはわかった。史進の横では、消えてしまいそうに見える。史進と、むかい合う格好になった。じっと見つめてくる史進の眼を、胡土児はなんとか見返していた。

 「戦に来たのではない」 史進の声は、低く落ち着いていた。 「赤騎兵を伴っているが、あいつらは俺自身のようなものでな。なにをやっても、離れることがないのだ」

 動いている赤騎兵しか、見たことはなかった。それも、信じられないような速さで駆ける、赤騎兵だ。赤い塊は、戦場では巨大なけもののように思えた。血に塗られた、いるはずのないけもの。

 「胡土児。おまえとは、戦場でしか見(まみ)えることはない、と思っていた。こんなふうに会うのも、悪くない。俺は、いまそう思っている」

 「俺は、はじめて史進殿を見て、はじめてその声を聞きました」  「戦場で、会っている」  「あれは、史進殿であって、史進殿ではありません」

 「どういうことだ?」  「こわくないのです。とても緊張していますが、恐怖はありません」 史進が、声をあげて笑った。 「眼の前にいるのは、ただの老いぼれか」

 「史進殿です。いま見えているのが、史進殿です」  「胡土児、おまえはつまらんことを言うな」  「申し訳ありません」  「話が、できるか?」  「もう、話しています」

 「ほんとうに、つまらんことを言う。部下だったら、蹴り倒しているぞ」  「俺は部下ではありませんが、一度ぐらい、蹴り倒されたいという気もします」

 「話だ、胡土児」  「わかりました。俺の野営地に来られますか。そこなら幕舎がありますし、焼けた鹿の肉などもお出しできるのですが」

 「腹は減っているが、めしを食いに来たわけではない」  「話ですね。ここでよろしいでしょうか?」  「腰を降ろすと、気持ちのよさそうな草だ」 

 史進が、身軽に馬から降りた。胡土児も、慌てて降りた。草の上に腰を降ろし、史進は横を指さした。並んで座る、という恰好になった。

 「梁山泊の若造どもは、度胸がない。呼延凌までだ」  「戦場では、度胸の塊のように見えます」 

 「つまらん話だが、年寄りの俺に持ち込んできた」 胡土児は、ただ頷いた。史進と並んで、腰を降ろしているのだ。

 「剣を、ひと振り届けに来た」  「頂戴いたします」  「おい、少しは驚け。理由ぐらい訊け」

 「いつか、誰かが、剣を届けに来る。その時は黙って受け取れと、といわれました」  「誰に?」

 「金軍総師にです。いや、父に」  「兀朮殿が、そう言ったか」

 そう言った。そんなことがあるのかと思ったが、ほんとうに届けられたようだ。それも、九紋竜史進によって。

 史進が、黙って袋に入れられた剣を差し出した。頭を下げ、胡土児はそれを受け取った。強い気配のようなものが、一瞬、剣から伝わってきた。

 胡土児は、それをいま見ていいものかどうか、迷っていた。しかし、手だけは動いている。気づくと、袋から剣を出し、鞘を払っていた。

 拵(こしら)えなどには、眼はむかなかった。鈍く白い刃(やいば)の光が、不意に胡土児を縛りつけた。吸いこまれているのだろうか。撥ね返されているのだろうか。剣が、じっと自分を見つめている、と胡土児は思った。

 「吹毛剣という」 史進の声が、遠くから聞こえたような気がした。

 「英傑の血を受けた者に、返すだけだ」 ようやく、意志の通りに、手が動いた。鞘に納め、袋に入れた。

 「会えてよかった、胡土児」  「行ってしまわれるのですか、史進殿」 

 「おまえは、なにも言わずに受け取った。それでいい」 史進が立ちあがり、胡土児も立った。

 馬にむかって歩いていく史進の背を、胡土児は黙って見つめていた。赤騎兵が、一斉に馬首を回した。史進と、赤騎兵が駆け去っていく。侯真ひとりがぽつりと残っていた。瓢を持ち、酒を飲んでいる。

 「飲まなきゃ、いられないな。俺は、滑稽としか言い様がない役回りだった」 侯真が、また瓢を呷った。

 「その剣の謂(いわれ)について、説明しなければならないので、強引についてきた。あの人は、俺などはじめからいないように、ただ駆けていたよ。あの人は、言葉が少ない。俺が、説明しなければならないだろう、と思ったのだ」

 「語ってくれた。実にさまざまなことを。雄弁な人だった」

 「まったくだ。この歳になっても、俺は言葉がないと落ち着けない。落ち着ける人間がいるのだということが、痛いようにわかったよ」

 胡土児は、袋に入った剣を、脇に抱えるように持っていた。もう、気配らしいものはなにも伝えてこない。

 「俺も、消えるよ、胡土児殿」  「見送ろう、風になることはないぞ、侯真殿」 侯真は、馬のところまでゆっくりと歩き、胡土児を見て一度笑うと、駆け去った。

 調練の予定は、あと二日残っていた。何事もなかったようにそれをこなし、胡土児は部下を率いて、開封府郊外の軍営に戻った。沙歇(さけつ)に、帰還の報告をした。軍営は、いつもと変わりはない。

 袋に入った剣を持ち、本営に行ったのは陽が落ちてからだった。営舎に入る時、胡土児は海東青鶻(かいとうせいこつ)の旗を仰ぎ見た。階(きざはし)に足をかけると、衛兵が直立した。

 「入ります」 声をかけ、胡土児はじっと立って待った。入れ、としばらくして返答があった。

 兀朮は、具足を脱いでいた。卓には、開封府周辺の地図が、拡げられている。そこで戦がある、とでもいうような感じだ。

 「九紋竜史進に会ったそうだな。赤騎兵が、遠くからだが、目撃されている」  「俺に、会いに来られました」

 「その剣が、届けられたのか」  「はい」  「おまえに、言い渡すことがある」

 兀朮は、一度、眼を閉じた。そうすると、ひどく歳をとっているように見える。胡土児は床に眼を落とした。

 「北に行き、耶律越里(やりつえつり)の指揮下に入れ」 これから、梁山泊との戦だった。北に行くということは、その戦からはずれるということだ。

 「納得できなくても、行け」 耶律越里は、病だった。長い病で、快方にむかってはまた悪化する、ということをくり返していた。そのたびに、少しずつどこかが冒されている、と斜律里(しゃりつり)の書簡にはあった。実際の指揮官は、斜律里だろう。

 「耶律越里は、冬を越せまい」  「どうしても、ここにいてはならないのですか?」

 「これは、軍令だ。いや、俺の頼みだ」  「父上、俺は父上の息子です」

 「そうだ。北へ行っても、それは変わらぬ。終生、変わることはない」  「父上とともに、戦をすることは許されないのでしょうか?」

 「俺の息子であると同時に、幻王楊令の血を受けている。それが、おまえだ」

 「完顔成(かんがんせい)殿が、俺をよく見に来られました。弟を訪ねるふりをして、俺を見に来られていたのだと思います」

 「おまえは、自分の血に気づいていた、というのか?」

 「なにか、不思議だっただけです。ほかの子供には見むきもせず、俺だけをそばに呼んで、いろいろと話されました」

 「おまえの躰に流れる血を与えた男に、会ったことがあるだろう。虎より弱い人間が、なぜ虎に勝てるのか、幼いおまえに教えようとした男だ」

 「俺の躰にその男の血がながれていたとしても、俺の心には、父上の血が流れています。戦人である、兀朮の血が」

 「俺も、そう思っている」  「そばにいさせてください、父上」

 「ならぬ、吹毛剣で、梁山泊の人間を斬ってはならぬのだ。それをやれば、おまえは人でさえなくなる」

 「望むところです」  「俺は俺の息子に、人でいて欲しいな」 兀朮の眼から、水が流れ落ちてきた。涙だとは、思わなかった。ただの水だ。

 「父上、お願いします。北の戦線は、斜律里の指揮で、十分に維持できます」

 「おまえが、斜律里のために剣をひと振り用意すると言った時から、こういう日が来るだろうと思っていた。剣とは、まことに厄介なものでな」

 「この剣は、捨てます」

 「できるか、おまえにそれが。宋建国の英雄、楊業(ようぎょう)が、自らの命をかけて、打った剣だ。一緒に打った鍛冶は、打ち終わった時に死んだと言うぞ」

 「捨てられます。思えばただの剣にすぎません。この場で、叩き折ることもできます」

 「俺の片脚を落とした剣だ。岳飛(がくひ)の右腕を落とした剣でもある。それをおまえは、叩き折ると言うのか?」

 「この剣がなければ、父上は俺を、息子のままでいさせてくださいます」

 「この剣があろうとなかろうと、おまえは俺の息子だ。それは忘れるな。おまえが息子と思える自分が、俺はいとおしいほどだ」

 「ならば、せめて戦の時だけでも、そばにいさせてください」

 「ならぬ。これは、父と子の約定だ。破れば、父子(おやこ)の縁が切れるぞ」

 「俺にわかる理由を言ってください」  「陛下だ」 兀朮は、また眼を閉じた。

 「というより、俺の甥だな。あれは、俺に息子がいることを、許しておらん。虎坊党(こぼうとう)を遣って、おまえの動静を調べあげている。史進の赤騎兵がおまえのところに行くのを見ていたのも、虎坊党の者たちだ」

 「俺には、なにほどのこともありませんが」

 「剣で、殺しに来ると思うか。弓矢で狙うと思うか。毒もある。もっと陰惨な、謀略もある。俺はいま、そういう思いから烏禄(ウロク)を守るだけで、精一杯だ」

 「俺が、海陵王を斬ります、この剣で。そして、この地に新しい国を建てればいいのです」

 「そうやってできた国は、そうやって潰れる。俺の親父は、遼(りょう)という国を相手に、女真(じょしん)族を率いて闘ったのだ。そうして、国を建てた。これは大事なことなのだ。海陵王を斬ることは、俺の親父をおまえの祖父を斬ることと同じだ」

 「わかりません」

 「俺も、海陵王については、わからないことがしばしばある。俺にかわいがられたいと思いながら、俺を憎んでもいる。そして、そういう自分を持て余してもいるのだろう」 兀朮が言っていることは、理解していた。しかし、頭でだけだ。

 「明日、北へ発て、胡土児」  「そんなに」

 「しばらくは、会寧府より南に来ることを禁じる。軍令よりも重いぞ。父として、禁じているのだ」 兀朮は、決めていた。胡土児がこの剣を手にした時、そうしようと決めていたのだろう。決めたことを、覆したことはない。

 「俺の身勝手で、おまえの人生をかき回してしまった。それでも、おまえは、俺の息子だ」

 「父上は、俺の誇りです」  「行け、胡土児。三年は、会寧府から南へ来るな」 兀朮は、一度も吹毛剣を見ようとはしなかった。外に出ると、沙歇が立っていた。

 「総師は、俺が絶対に死なせん」  「沙歇殿は、すべて御存知だったのですか?」

 「おまえを北にやる、と総師が決められた。おまえの隊の代りに、手足のように動く二百騎の隊を、調練された。本気なのだと思っただけで、おまえが北へ行く理由はしらない」

 「父を、よろしくお願いします、沙歇殿。三年経ったら、帰ってくるつもりです」 並んで、歩いていた。自分の営舎のところで、沙歇は止まった。胡土児はむき合って一度頭を下げ、それから自分の営舎に向かった。

 早朝に、出発した。 ただの出撃というかたちで、見送るものはいない」 』 (第100回)

 


ブックハンター「クリエイティブ資本論」

2016-01-08 14:47:14 | 独学

 100. クリエイティブ資本論  (リチャード・フロリダ著 井口典夫訳 2008年2月)

 The Rise of the Creative Class   by  Richard Florida   Copyright © 2002

 本書は、原題からは、副題の「新たな経済階級(クリエイティブ・クラス)の台頭」の方が近いと考えられます。著者は、現代は都市が経済、文化、科学・技術をリードし、その都市をクリエイティブ・クラスがリードしている。従って、クリエイティブな人材が、国家の社会資本であるとして、「クリエイティブ資本論」というタイトルになっていると考えられます。

 

 『 リチャード・フロリダは、いま世界で最も注目されている都市経済学者の一人である。フロリダの主張は、従来の細分化された学問領域にとらわれることなく、都市経済学・経済成長論から文化論・社会学・政治学にまで踏み込んで展開される。

 人のクリエイティビティを最高の資源・財として真正面から捉え、それが自由闊達に発揮されるように経済・社会全体を再構築すれば、都市・地域や国はもちろんのこと、地球全体の富も最大になるであろうということを、さまざまな事例・データ等に基づいて論じている点に特徴がある。

 背景にあるのはライフスタイルや生き方の変化である。生活できることが当たり前となり、その分、人生に何かしらの意義を求めたいとする人々の増大が引き起こしている変化である。

 自分自身のアイデンティティを確立しようとする、内発的なエネルギーから生み出される変化とも解釈できる。それが仕事に取り組む姿勢、時間や余暇の使い方、日常生活の過ごし方、コミニュティのあり方に大きな影響を与えているのである。

 フロリダの主張は、停滞する都市・地域はもちろんのこと、ネットバブルの崩壊やテロの脅威の前に逡巡していた欧米先進諸国が立ち上がる際の指針の一つとなり、各方面から好評をもって迎えられた。 』 (「訳者のあとがき」より)

 

 『 私たちには輝かしい未来がある。私たちが発展させてきた経済・社会制度は、人々のクリエイティビティを引き出し、それをこれまで以上に活用できるようにした。

 結果として私たちの生活水準は向上し、より人間らしい持続可能な経済が構築され、人々の生活をより満ち足りたものにする貴重な機会が生み出されている。

 しかし、こうした見通しが実現する保証はなく、実現するのと同じくらいたやすく、実現しない可能性がある。いまアメリカは、まさにその状態にある。私たちがもたらした変化はまだ完成してない。

 この時代の大きなジレンマは、素晴らしい可能性を生み出しながらも、一方でそれを実現するための経済・社会制度が十分に行き渡っていないことになのである。だれかがそれを用意してくれるわけではない。

 クリエイティブな可能性を最大限に引き出すことと、その見返りが与えられることでこの変化は完成するが、それを行うのは私たち自身であり、私たち全員に委ねられていることなのである。

 クリエイティビティは究極の経済資源である。新しい考えや物事をよりよく進める方法を生み出す力は、やがて生産性を向上させ、生活水準を向上させる。

 農業の時代から工業の時代への大変化は、当然のことながら天然資源や労働力によって引き起こされたものであり、最終的にはデトロイトやピッツバーグに巨大な産業拠点を生むこととなった。

 いま起きている変化は、さらに大きな変化に発展する可能性がある。というのも、以前の変化は物理的に投入するものを土地・人員から原材料・労働力へと置き換えるものであったが、今度の変化は人の知性や知識、クリエイティビティといった無限の資源に基づいているからである。 

 本書が主張しているのは、場所はいまも重要な経済的・社会的な構成要素であるということだ。人に仕事を、仕事に人を結びつけるのは場所である。

 人と仕事を結びつけるのに役立つ「厚みのある」流動的な労働市場を提供するのも場所であり、「結婚市場」を形成し、生涯の伴侶を見つけられるようにするのも場所である。

 経済成長が企業・雇用・技術から生まれるとする従来の理解は完全ではない。技術が重要であることについては私もまったく同意見であるが、他の要因も大きく関与している。

 私が提唱する成長に必要な「三つのT」の第一の要素として、技術(technorogy)がある。技術はイノベーションやハイテク産業の集中度によって測定することができる。

 第二のTは才能(talent)である。ここでいう才能とは、経済成長理論で通常使われているような「人的資本」(高等教育を修了した資格を持つ人口の比率)を指しているのではなく、実際にクリエイティブな仕事に就いている人口の比率で測定したクリエイティブ資本のことである。

 第三のTは寛容(tolerance)である。開かれた寛容性の高い場所はさまざまな種類の人を引き寄せ、新しい考えを生み出すという強さを持っている。

 人間の歴史の大半において、富は肥沃な土地や原材料など、その場所の天然資源の恵みによってもたらされていた。しかし今日の重要な資源はクリエイティブな人材であり、それは流動性が非常に高い。

 この資源を呼び込み育成し、動かす能力が、競争力の重要な側面となっている。その際、寛容性と開放性は重要な要素である。 』 (ペーパーバック版の序文)より

 

 『 クリエイティブ・クラスの際立った特徴は、「意義のある新しい形態をつくり出す」仕事に従事していることである。私はクリエイティブ・クラスを二つの構成要素から成るものと定義している。

 まず中核となる「スーパー・クリエイティブ・コア」には科学者、技術者、大学教授、詩人、小説家、芸術家、エンタテイナー、俳優、デザイナー、建築家のほかに、現代社会の思潮をリードする人、たとえばノンフィクション作家、編集者、文化人、シンクタンク研究員、アナリスト、オピニオンリーダーなどを含む。

 またソフトウエアのプログラマーないし技術者、映画作成者などの職業にもクリエイティブなプロセスがあろう。私の定義で最上位のクリエイティブな仕事とは、すぐに社会や実用に転換ができるような、幅広く役立つ新しい形式やデザインを生み出すことである。

 たとえば広く製造、販売、使用できる製品設計や、さまざまに応用可能な原理や戦略の考案、繰り返し演奏される音楽の作曲などである。クリエイティブ・クラスの中核をなす人々は正規の仕事としてこれを行い、報酬を得ている。

 仕事には問題解決のほかに問題発見も含まれるかもしれない。このスーパー・クリエイティブ・コアを中心に、そのまわりに「クリエイティブ・プロフェショナル」が位置している。

 ハイテク、金融、法律、医療、企業経営など、さまざまな知識集約型産業で働く人々である。特定の問題解決のための複雑な知識体系を武器に問題解決に当たるが、それには通常、高等教育が必要であり、そのために高度な人的資源を必要とする。

 この種の仕事に就く人が広く実用的な方法や製品を考案することのあるかもしれないが、基本的な職務ではない。クリエイティブ・プロフェショナルに正式に要求されるのは、自分の裁量で考えることである。

 彼らは標準的なやり方を独自に応用したり組み合わせて状況に当てはめ、判断力を駆使し、時には過激で新しいことを試すことさえあるかもしれない。

 医師、弁護士、経営者などのクリエイティブ・クラスは、多くのさまざまな事例に対処しながらこうした仕事を行っている。仕事を通じて新しい技術、治療計画、経営方法の試行や改良に携わり、時には自分で開発することもあるかもしれない。

 このように自分でつくり出す仕事を続けていれば、クリエイティブ・クラスからスーパー・クリエイティブ・コアの仲間入りをすることもあるだろう。転換可能で汎用性の高い新しい形式を生み出すことが、現在のスーパー・クリエイティブ・コアの基本機能であるからだ。

 同様のことが、増え続ける専門技術者にも当てはまる。彼らは複雑な知識体系を応用して物理的な材料を扱っており、十分に創造的なやり方で問題解決に当たっていると言える。

 たとえば医学では、緊急救命士は「現場の診断をもとに処置を行い」、超音波技師や放射線技師は「生物学、薬理学、疾病過程に関する知識から診断上有益な情報を導き出す」が、どれもかつては医者にのみ許されていた領域である。

 また単一クーロン抗体の生成など、一部の生物医学分野においても、各人が難解な基礎知識を頼りに自分なりの判断力を働かせて、同じ製法や手順を踏んでも、同じ結果が得られるとは限らない。

 こうした個別性が生じることは、図らずもクリエイティブな仕事の一つの特徴なのである。しかし労働者ならだれでもクリエイティブ・クラスに仲間入りできるわけではない。事態は逆方向に進んでおり、仕事は単純労働化し、マニュアルに規定されている 』 (第4章 クリエイティブ・クラス)より

 

 『 余暇の過ごし方の変化にはさまざまな要素が関係しており、しかも理解が難しい。クリエイティブ・クラスに属するある男性は、なぜアクティブなレクレーションを好むのかという質問に対して、「単位時間当たりのエンタテイメント性が高いから」と簡潔に答え、続けて自分考えを説明してくれた。

 ハイキングや散歩といった、昔から行われているレクレーションでも、たえず体を動かしていることになるので、目の前の景色はさまざまに変化し、いままで見えなかったものが見えるようになる。

 風景や店頭のショーウィンドウを眺めるため、あるいは通りで出会った人と話をするために話をするために立ち止まってみたり、一緒に歩きながら会話に熱中したり、一人で歩いてぼんやりと考え事をすることもできる。

 ロッククライミングのようなエクストリーム・スポーツにも、同じような効用がある。こちらはもっとハードだ。身体面でも精神面でも、登ることに常に集中しなくてはならない。上達してくれば、より難易度の高い新しい岩場に挑戦することができ、選択の幅、可能性が広がる。

 ロッククライミングで要求される精神集中は過酷だが、その分、仕事からの完全な解放をもたらしてくれる。クリエイティブ・クラスに好まれるアウトドア活動は、アドベンチャー志向のものが多い。

 登山、ハイキングまたはそれに類するスポーツの本質は、毎日仕事に追われる現実とは違った別世界に入り込み、過酷なタスクをクリアーしながらその世界を探検し、経験することにある。

 私が選んだスポーツは、幅の狭いタイヤのロードバイクでツーリングするという伝統的な形式のサイクリングである。そこでもう一度考えてみると、サイクリングの持つクリエイティブ精神に訴える一面に、答えがあるような気がしてくる。

 サイクリングは多面的である。ある程度まとまった距離を走るならば、激しい運動、挑戦、解放、探検、自然との対話が一度に行える。ペダルを漕ぐことに集中している時、一定のリズムと流れのなかに身を委ね、頭の中にあったものをすべて忘れる。 』 (第10章 経験の追求)より

 

 『 場所は、だんだんと私たちにとって重要なアイデンティティとなってきている。昔、企業が経済を動かしていた頃は、多くの人が自分たちの会社を模範として、自分たちのアイデンティティを見つけていた。

 あるいは自分が育った町に住み続け、家族や昔からの友人と強い絆を結ぶことができた。不安定で常に変化を遂げるポストモダンな世界においては、「アイデンティティの力」は決定的な特徴となっている。

 「どこに住み、何をしているか」の組み合わせが、「どこに勤めているか」に代り、アイデンティティの主要な要素になっている。四〇年前だったら、「ゼネラルモーターズに勤めています」 「IBMで働いています」が、今日は、「私はソフトウエア開発者で、オースチンに住んでいます」と答えるいうことで自らのアイデンティティを語るだろう。

 一〇年前は、「どちらにお勤めですか」と聞いただろうが、いまは「どこにお住まいですか」である。会社が支配していた生活が終焉し、新しい序列がつくられつつある。場所がステータスシンボルとして重要になりつつある。

 私が調査した多くのクリエイティブ・クラスは、自分たちのコミュニティに関わりたいと思っていると言う。それはどちらかといえば「社会をよくしたい」といった気持ちの表れではなく、その場所で自分のアイデンティティを積極的に確立したいという欲求と、アイデンティティを反映し、確認できる場所の構築に積極的に貢献したいという気持ちの両方が反映されたものである。

 たとえばピッツバーグでは、建築から都市計画、グラフィックデザインからハイテク技術までのクリエイティブ分野の若者たちが、「グランド・ゼロ」と名づけた自由な集まりをつくっている。

 このグループは、二〇〇〇年の初めの頃、クリエイティブ・クラスの若者たちの感心とライフスタイルの実態を知るために私が開催した、一連のブレーンストーミング・セッションから生まれたものだ。

 グループの初期の運動は、中心市街地の商業地域を、ありふれたショッピングモールにしようとする再開発計画に反対するものであったが、そのすぐ後に、クリエイティブな環境と都市のアイデンティティに注目するようになった。

 初期の「マニフェスト」はクリエイティビティと場所、そしてアイデンティティの結びつきについて語っている。ここにその全文を載せておこう。

 〈 クリエイティブな友人へ

 話し合い、行動を起こす時がやってきた。私たち、この街の物や文化をつくる者たちは、お互いに結びつき、参加する必要がある。私たちは皆、ピッツバーグを、消費者、スポーツファン、起業家にとって、よりよい場所にするためにはどうすればよいか、聞く準備はできている。

 車で来て買い物をしていく郊外の若い消費者を取り込むための計画を聞こう。私たちのことではない。私たちはすでにここにいる。食べる物、ストーリー、写真、音楽、ビデオゲーム、絵画、建築物、パフォーマンス、コミュニティ、何であれ、活発に作り出している。

 私たちはこの街の文化をつくっているのだ。何がピッツバーグを独自でおもしろく、そして老若男女にアピールするかを知っている。私たちはこの場所らしさを維持し、そしてそれをもっと高めたいと思っている。

 ここにある物を破壊して取り去るのではなく、利用したい。撤去や立て直しを促進する代わりに、文化を内部から湧き出させるような都市憲章を切望する。私たちはあらゆるメディアを通じ、積極的に私たちの意見を聞いてもらおう。私たちの都市をよりよくするために。

私たちは、私たちがやり遂げることを通じて、感心、討論、議論、論争、そして地域のプライドさえも喚起していく。そして公共政策をつくる人々に、若いクリエーターたちの意見を大きな声ではっきりと聞かせたい。〉 』

 

 『 クリエイティブ・クラスが住む場所を決定する要因のすべてをひとくくりにする言葉として、私がつくり出したのが「場所の質」という言葉である。「生活の質」というコンセプトに対比して使っているものだ。

 これは場所を定義し、それを魅力的にするユニークな特徴を表している。一般的に、場所の性質として三つの面を思い浮かべることができる。

 ・ 何があるか――建築物と自然が融合しており、クリエイティブな生活が求めるには最適な環境。

 ・ だれがいるのか――さまざまな種類の人々がいて、だれもがそのコミュニティに入って生活できるよう、互いに影響し合い提供し合う役割を果たしている。

 ・ 何が起こっているのか――ストリートライフの活気、カフェ文化、芸術、音楽、アウトドアでの活動。それらすべてがアクティブで刺激的な活動である

 都市がもたらす場所の質は、相互に関係する経験の集合として把握できる。そのうちの多くは、ストリート文化のようにダイナミックで一般参加型のものである。だれもが単なる観客以上のことができる。そのシーンの一部になることができるのだ。

 また、その経験を変えることもできる。つまり組み合わせを選び、集中の度合いを望みどおりに変え、単にその経験を消費するのではなく、つくり出すことに関わるのである。

クリエイティブ・クラスの多くの人たちも、自分たちのコミュニティの質の形成に関わりたいと思っている。二〇〇一年の秋、プロビデンスで商業地区再生計画の専門家グループを相手に講演した時、三十代の専門家が言ったことはその本質をうまくとらえていた。

 「友人と私がプロビデンスに来たのは、ここにはすでに私たちが好む本物があったからです。古くから住民、歴史的建築物、そして混じり合う民族です」。

 それから彼は、街のリーダーたちにこの特質を再生計画の基本にしてほしい、そうすることで彼や彼の仲間が積極的に力を貸すこと訴えた。

 彼は、クリエイティブ・クラスの人々は、自分にとってやりがいがあり未来をつくる手助けができる場所を、彼と同じように探し求めているのだと言った。そして「私たちは完成されていない場所がほしいのです」とうまくまとめた。

 場所の質は、自動的に生じるものではない。むしろコミュニティのさまざまな面を一つにまとめる作業を含む、ダイナミックなものである。 』 (第12章 場所の力)より

 

 『 経済成長の鍵はクリエイティブ・クラスを惹きつける力にあるのではなく、その潜在的な能力を新しいアイデアやハイテク産業、地域振興といったクリエイティブ経済の成果に転換することにある。

 潜在的な能力を正しく測定するため、私はクリエイティビティ・インデックスと呼ぶ新しい測定指標を生み出した。それは次の四つの要因、すなわち、①労働力におけるクリエイティブ・クラスの人口比率、②一人当たりの特許件数で測るイノベーション、③ミルケン研究所の有名なハイテク都市指数、④ゲイ指数で測る多様性指数の4つから成る。

 クリエイティブ・インデックスは、ある地域のクリエイティビティの潜在可能性を計測するうえで、ただ単にクリエイティブ・クラスの人口比率で比較するよりもよい方法だと考えられる。

 なぜならば、この指標はクリエイティブ・クラスの集中度と、経済のイノベーションの結果とを共に反映するものだからだ。

 クリエイティブ・インデックスは私がある地域のクリエイティブ経済全体での位置を知るうえで基準としている指標であり、地域の長期的な潜在能力を知るバロメーターとして用いているものである。

 また私は、クリエイティブ・インデックスの高い地域をクリエイティブ・センターと呼んでいる。クリエイティブ・インデックスによって、以下のようなことがわかっている。

 ・ サンフランシスコ・ベイエリアは、疑いなくクリエイティビティにおけるアメリカのリーダーである。広いサンフランシスコ・ベイエリアに含まれる主要地域をここに見れば、どれもクリエイティブ・クラスの上位一〇地域にランクインしている。シリコンバレー(第一位)、サンフランシスコ(第二位)、バークレー=オークランド地域(第七位)といった具合だ。

 ・ 他の勝ち組にボストン、ニューヨーク、ワシントンDCといった伝統的な東海岸の地域が入る一方、オースチン、シアトル、サンディエゴ、ローリー=ダーラムのような歴史の浅い地域もはいる。テキサス州からは三つの地域、オースチン、ダラス、ヒューストンが上位一〇地域にランクインしている。中西部の二つの都市、ミネアポリスとシカゴも非常に健闘している。

 ・ 大都市はクリエイティビティを生み出したり獲得したりするのに明らかに有利である。全米で二〇あるクリエイティブ・センターは、三つを除けばすべて人口一〇〇万以上の大都市である。これはおそらく、大都市ならば豊富な選択肢を提供できるためであろう。

 ・ ただし、大都市がクリエイティビティを独占しているわけではない。いくつかのやや規模の劣る地域、サンタフェ、マディソン、アルバニーは高いクリエイティビティ・インデックスを誇る。サンタバーバラ、メルボーン、デイモン、ボイシもかなりよくやってる。

 ・ 大都市圏の一部である都市、アナーバー、ボルダーなども重要なクリエイティブ・センターである。これらの都市には、大きな研究大学がある。

 ・ クリエイティビティは有名なハイテク産業の拠点、文化拠点に限られたものではない。デモイン、ボイシ、アルバニー、ゲインズビル、ポートランド(メイン州)やアレンタウン(ペンシルバニア州)も、クリエイティビティ・インデックスでは上位にある。これらの地域は一般的にはハイテク産業の拠点とは見られていない。これらの地域の経済的な将来性は意外に明るいかもしれない。

 ・ クリエイティブ経済への移行のなかで、多くの地域が取り残されている。このグループにはバッファロー、グランドラビッズ、ミシガンのような古い工業地域が含まれており、またノーフォーク、ラスベガス、ルイビル、オクラホマシティ、ニューオリンズ、グリーンズバラのようなサンベルトにある都市も不安定な位置にいる。この新しい階層地図での負け組は、南部や中西部の小都市や地域であり、取り残され完全に後塵を拝している。 』 (第13章 クリエイティビティの地図)より

 

 『 人々と経済活動を都市部に連れ戻したのには、複数の要因が関わっている。第一に、犯罪発生率の低下で都市部がより安全になったことだ。ニューヨーク市では、最も屈強な住民さえもかっては歩くのを恐れた区域を、いまではカップルが散策している。

 また、より清潔にもなっている。人々は、もはやかつての工業都市の煤煙、廃棄物にさらされることはない。ピッツバーグでは、人々は都心の公園でピクニックをし、かって列車が通っていた軌道を、インラインスケートやサイクリングで風を切り、かって汚染されていた川で水上スキーを楽しんでいる。

 第二に、クリエイティブなライフスタイルやそれに見合う新たな快適さを求めるうえで、都市はうってつけの場所になっていることだ。快適な生活空間が、人々を惹きつけ、地域の経済成長を刺激するうえで果たす役割については、すでに述べてきた。都心の再生は、クリエイティブ・クラスを惹きつけるのと同じライフスタイル要素に関係していることがわかった。

 第三に、都市が人々の大移動の恩恵を受けているという点だ。夫婦として生活する人が減少し、長い期間独身で過ごすひとが多くなることで、都市は独身の人々のライフスタイルの拠点であると同時に、出会いの場としても機能するようになっている。あるいは、諸外国からの移民を受け入れてきたという都市の歴史的役割からも、恩恵を受けている。

 第四に、都市がクリエイティブティとイノベーションの促進者としての役割を取り戻していることだ。ハイテク産業およびその他のクリエイティブな試みは、ニューヨーク、シカゴ、ボストンなどで見捨てられていた市街地の中で芽生え続けている。

 「都市の重層的な特質、専門店、都市生活、娯楽、そしてビジネスと文化活動の広範な融合に接することができる」点から、多くのハイテク企業が都市的な環境を好んでいることを見出した。

 第五はマイナス要因であり、現在の一連の都市再生が、古くからの住人と、新たに引っ越してくる裕福な人々との間に、深刻な対立を引き起こしている点である。都市再生では、強制撤去によって、高級化を進める都市がますます増えている。こうした場所は、最富裕層を除き、だれの手にも届かないものとなってしまっている。 』 

 

 『 大学はクリエイティブ経済の主要な機関なのであり、大学が果たす多面的な役割は、まだあまり理解されていない。大学は単にスピンオフ企業を生み出す研究プロジェクトを量産するために存在しているのではない。

 地域の経済成長に効果的に貢献するには、大学はクリエイティブな場所の三つのT、すなわち技術、才能、寛容性を相互関連させる役割を果たさなければならないのだ。

 ・ 技術――大学は、ソフトウエアからバイオテクノロジーに至るまでの先端研究拠点であり、新たな技術と、そこから派生してできる会社にとって重要な情報源となる。

 ・ 才能――大学は、驚くほど効率的に才能ある人々を惹きつけ、その効果は真に魅力的なものである。著名な研究者を惹きつけることにより、次に大学院生を惹きつけ、会社を生み出す。ごく一般の企業も、定期的に人員を補充するために、大学の近くに拠点を置くようになっている。

 ・ 寛容性――大学は、クリエイティブ・クラスを惹きつけ、抱えておくのに役立つような進歩的、開放的、そして寛容な空気をつくり出すことも一役買っている。オースチンやアイオワシティなど多くの大学街は、常にゲイやその他のアウトサイダーの居場所であり続けてきたのである。 

 しかし、これは大学単独で行えるものではない。周辺のコミュニティには、大学の生み出すイノベーションと技術を吸収し発展させる能力を持ち、クリエイティブ・クラスが求める幅の広いライフスタイルに合わせた快適な生活空間と場所の質を提供することが求められる。

 したがって、大学はハイテク企業の生成と成長にとって、必要条件ではあるが、十分条件ではない。経済学者であるマイケル・フォガーティは、大学発の特許情報の流れには、一貫したパターンがあることを見つけた。

 知的財産はデトロイトやクリーブランドといった古い工業地帯の大学から、ボストン圏、サンフランシスコ・ベイエリア、そしてニューヨークといったハイテク産業の拠点へと移動しているのである。

 新しい知識は多くの場所で生じているが、こく少数の人々しかそうしたアイデアを吸収し生かすことができないのだ。知的財産を経済的財産に変換するには、アイデアを吸収し発展させるクリエイティブなコミュニティが、社会的な構造として組み込まれていなければならないのである。

 大学もこの社会的な構造の一部にすぎない。大学が惹きつけた才能をとどめる場所の質と経済基盤の両方を整備するのは、コミュニティの責任である。

 スタンフォード大学単独で、シリコンバレーを一大ハイテク拠点にしたわけではない。地域の経済界とベンチャー投資家が、この種の経済が必要とする社会基盤を提供したのである。

 スタンフォード大学に隣接するパロアルトは、新興企業、ベンチャー投資家、ハイテクサービスの提供業者に、事務所スペースなどさまざまな施設を提供するハブとして機能している。

 同じことがボストンにも当てはまる。MIT周辺のケンドールスクエアは、放棄された工場や倉庫で荒廃していたが、それらの建築物の改装によって刷新されていった。いまでは新興企業、ベンチャー投資家ファンド、レストラン、地ビールメーカー、カフェ、ホテルがそこにある。

 つい最近、オースチンの地域指導者はインキュベーション施設とベンチャーキャピタルだけでなく、アウトドアの娯楽環境やクリエイティブな人々の求める質の高い場所を創造するために、積極果敢な措置を行っている。

 フィラデルフィア、プロビデンス、ニューヘブンなどでは、大学と地域のリーダーが、このような質の高い場所を積極的に大学の内外につくり出そうとしている。 』 (第16章 クリエイティブなコミュニティの構築)より  (第99回)