先行する中国の研究結果では
写真:現代ビジネス
8/23/2020
新型コロナウイルスの感染拡大が続き、国内の感染者数は6万人に迫っている。 新型コロナに関しては、世界中の大学や研究機関から様々な研究結果が発表されているにもかかわらず、何故か国内での報道は極端に少ない。
特に、新型コロナの後遺症に関連した報道はほとんど見られない。何故、新型コロナの後遺症についての報道はされないのか。
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新型コロナ関連の情報では、当初は中国発が多く目を引いた。
中国の重慶医科大学などの研究グループが6月に医学雑誌「ネイチャー・メディシン」に発表した研究結果がある。それによれば、重慶で新型コロナウイルスに感染して症状が出なかった(無症状)8歳から75歳までの男女の患者37人と症状が出た患者37人について、抗体の量の変化などを比較した。
その結果、感染後しばらくして作られる「IgG」抗体は80%以上の患者で検出されたが、退院から2ヵ月後に調べたところ、「IgG」抗体が検出された患者のうち、無症状の患者の93.3%、症状があった患者の96.8%で「IgG」抗体が減少していた。「IgG」抗体が減少した割合は、患者全体の70%を超えている。
さらに、新型コロナウイルスの働きを抑える「中和抗体」も、無症状の患者の81.1%、症状があった患者の62.2%で減少していることがわかった。また、「無症状の患者のほうが免疫の反応が弱い」としている。
研究対象者数が72人と少ないことから、この結果だけで「新型コロナは抗体が出来にくい」と結論付けるのは早計かも知れない。だが、4月25日にWHO(世界保健機関)が新型コロナウイルスの抗体が出来ても、再感染する可能性があると警鐘を鳴らしている。
空気感染リスクも排除できない
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7月6日にはスペインの保健省が、新型コロナ感染後に体内で作られる抗体が、短期間で減少したとする研究結果を明らかにしている。
この研究は約7万人を対象に3ヵ月にわたり3回の抗体検査を行い、1回目の検査では陽性だった被験者の14%が3回目の検査で陰性となった。最終的に抗体を保有しているのは被験者全体の5%にとどまった。
さらに、7月14日には韓国政府が国内の3055人を対象に新型コロナの抗体ができているかどうかを検査した結果、1人しか抗体が確認されなかったと明らかにている。朴ヌンフ保健福祉相は「抗体を持つ人がほとんどいないということは、韓国社会が集団免疫を形成することが事実上、不可能ということだ」とコメントしている。
一方で、7月6日には世界32カ国の239人の科学者が「新型コロナウイルスは空気感染する可能性が高い」とする共同意見書をWHOなどに提出している。 これに対してWHOは7日、感染予防・対策技術チームを率いるベネデッタ・アッレグランツィ氏が「密閉空間や換気が不十分な混雑した場所では、空気感染の可能性が排除できない」との見解を示し、新型コロナウイルスが「空中に浮遊する極小の粒子で感染する可能性を示す科学的証拠が蓄積されつつある」と認めている。
共同意見書は、オーストラリア・クイーンズランド工科大学のリディア・モラウスカ教授が筆頭執筆者となり、英オックスフォード大学の学術誌「臨床感染症(CID)」に掲載された。
意見書では、「新型コロナウイルスが空気中で数十メートル移動できることが“合理的疑いの余地なく”、複数の感染事例の分析で示された」としており、「これまでの対策では感染を防ぐのは難しい」と指摘し、感染防止策の強化を訴えている。
新型コロナについては以前から、「エアロゾル」と呼ばれる霧状の微粒子となっても感染するとの指摘もあり、空気感染の可能性について議論がなされている。
WHOも日本政府も新型コロナの感染は、咳やくしゃみなどによる「飛沫感染」と主に口や鼻の粘膜から感染する「接触感染」によるものとし、そのための感染防止策として飛沫を除去するための“手洗い”や2メートルの“ソーシャルディスタンス”などを勧めている。
この他、新型コロナウイルスが変異しているという研究結果も多数見られている。直近では、海外メディアで8月17日に世界の複数の地域で確認されている「D614G」と呼ばれている感染力が10倍高いウイルス株の感染拡大が報道されている。
新型コロナは抗体が出来にくい、あるいは、空気感染する可能性、ウイルスの変異といった研究結果は、新型コロナからの感染を防ぐ国民の側からも、非常に重要な意味を持つものであり、当然、“お騒がせ報道”は避けるべきだが、研究機関や出典を明確にした上で、国民に注意を促すべき情報が多く含まれているのではないだろうか。
世界で相次ぐ「後遺症」の報告
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最近、特に目に付くのは新型コロナの後遺症に関するものだ。海外では多くの研究結果が発表されているにもかかわらず、国内ではほとんど報じられていない。
例えば、新型コロナにより全身の血管が炎症状態になる「川崎病」と類似した症状が発生するケースは一部のメディアで紹介されているが、この他にも新型コロナの後遺症としては以下のような研究結果が発表されている。
・イタリア・ジェメッリ大学病院などが7月、退院患者143人を追跡調査した結果、回復から平均2か月の段階で87.4%の患者に後遺症があった。
目立ったのは、疲労(53.1%)、呼吸困難(43.4%)、関節痛(27.3%)、胸痛(21.7%)といった症状。
・中国の孫文大学第五附属病院が退院30日後の患者を調べたところ、半数以上に肺拡散容量の低下、呼吸筋力の低下、肺画像異常が認められた。
・米国の医学誌『JAMA』に掲載されたイタリア・パドヴァ大学などの研究では、発症から4週間経過した軽症患者113人のうち、46人(40.7%)は味覚または嗅覚障害が完全には良くならず、12人(10.6%)は症状が変化しないまたは悪化していた。
・英国マンチェスター大学が7月31日、新型コロナに感染し退院から8週間が経過した121人を対象に調査したところ、8人が聴力の悪化、8人が耳鳴りの症状など、合わせて16人が聴覚の異常を報告。
・「キドニー・インターナショナル」誌の調査では、ニューヨークの医療法人の新型コロナ患者3分の1以上で急性腎障害が見られ、15%近くで人工透析が必要になった。
・イタリアのジョバンニ23世病院では600人近い新型コロナ患者の予後に、肺機能の障害が約30%、神経学的な問題が10%、心臓の問題が10%、慢性的な運動能力障害が約9%に見られる。
・ドイツのフランクフルト大学病院の研究チームが新型コロナから回復した100人以上の人々の心臓の健康を調べ、そのうち50人が感染前に健康で、57人が心臓病のリスクが高いグループに属していた。
等々、取り上げれば枚挙に暇がない。
では、なぜ海外のこうした研究や調査結果が国内で取り上げられることが少ないのだろうか。
都内の総合病院の内科医は、
「多くの病気には後遺症がある。例えばインフルエンザ・ウイルスでも呼吸器やあるいは内蔵疾患につながることもあり、新型コロナの様々な後遺症を取り上げることに、あまり意味はない。それよりも、新型コロナを予防すること、感染初期の段階で治療し、重症化させないことの方が重要」という。
確かに新型コロナによる様々な後遺症を取り上げて“騒ぐこと”は適切ではないかも知れない。それでも若年層に対しては、多くの後遺症があり、新型コロナに感染しないことの重要性、感染予防の重要さを知らせるためには、重要な情報だと思うのだが。