中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

社員99人以下の会社の人材育成に役立つ情報を発信しています。

第1,158話 指示待ち人間から脱出するためには

2023年03月15日 | キャリア

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「指示待ち人間が多くて困っています」

これは先日、弊社がある企業の新入社員フォロー研修を担当させていただく前の打ち合わせの時に、研修のご担当者から聞いた言葉です。

皆さんはご存知だと思いますが、「指示待ち人間」とは、他者から指図されない限り自分から何も行動を起こさない、主体性に欠ける人を指す言葉です。この言葉がいつから、そしてどういうことをきっかけに使われるようになったのかはわかりませんが、少なくとも私が人材育成の仕事を始めた30年前には使われていました。そのように考えると、いつの時代にも新入社員に限らず、指示がなければ自らは行動を起こさない「指示待ち」の人が多かれ少なかれいるのだと思います。

さて、先日、昨秋現役を引退したスピードスケートのオリンピック金メダリストの小平奈緒さんがテレビ朝日「徹子の部屋」に出演されていたのを見る機会がありました。

小平さんは、ソチオリンピック後にオランダに2年間留学した際に、「自ら考えて未来を描き、自分を育てることを意識的に行った」との話をされていました。その中で、オランダで暮らしている際にある程度はオランダ語を理解できるようになった後も、言葉はわかるけれども(自らの)言葉が出てこないということを体験したそうです。

それは、オランダ語に精通していないからということではなく、「私の中に意見がなかった。日本で暮らしていると、何でもかんでも指示されることに対して応えるということが多かった。」「『奈緒はどうしたい?』という問いに対して、『私はどうしたい、私はこういう未来を描きたい』ということを言葉はわかるけれども、意見を言えなかった。」のだそうです。そして、その体験を踏まえ、「自分はこうしたい。という自分を育てていこうと思った。」そして、「1人で何とかしないといけない状況に身を追い込んだことで自分という人間が育った。自分を持てるようになっていった。」とおっしゃっていたのが印象的でした。

マスコミなどを通して私が持っていた小平さんのイメージは、「ストイックに試合に挑戦し、話をする際は自分の言葉で話し、自身に対して責任を持つ人」というものでした。しかし、それらのイメージからする小平さんの姿は、決して天性のものではなく、意識的にそういう生き方、考え方を選択してきた結果であることが、ゆっくりと言葉を選びながら丁寧に話をする姿から伝わってきました。

私たちも、仕事などで自分にあまり自信が持てなかったり、周囲の反応を気にしすぎてしまったりすると、主体的に動くよりもつい指示を待ってそれに応えて動くという選択をしたくなることが多いと思います。しかし、自分はどうしたいのか、その結果、どういう行動を選択するのかということを自ら考えることによってこそ、自分自身を育て、ありたい自分に近づいていけるということなのだと思いました。

小平さんには以前から「いろいろな意味でとても強い人」というイメージを持っていましたが、ご本人の話を聞いてその理由の一端が分かった気がしたとともに、あらためて自分もそれに向けて頑張らねばと思いを新たにしました。

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第1,151話 リスキリングは何から始めればよいのか

2023年01月25日 | キャリア

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最近、様々なメディアをはじめ注目を浴びている「リスキリング」ですが、その意味は全てが「DX教育」とイコールではないものと考えられるものの、「技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために新しい知識やスキルを学ぶこと」とされています。今後DX化がますます進んでいった際に対応できるように、新たなスキルの習得することが推奨されているのです。

しかし、現段階では具体的にリスキリングを始めているという人はあまり多くはないです。その理由としては、「具体的に何から始めたらよいのかわからない」と考えている人が多いようです。また、リスキリング以前にも「AIの知識が必要」と発破をかけられたり、過去にも定期的に様々な知識やスキルを身に付けることを推奨されても、さほどの広がりを見せずに結局は形骸化してしまった例もあります。そういうことから「またか」と考えてしまっている人も少なくないのではないでしょうか。

しかし、私たち人間にとって新たなことを学んだり挑戦したりすることは、長いビジネス人生を考える上で、また仕事をしていなかったとしても人生を豊かなものにする上で大切なものであることは確かなことです。

先日、NHKの「あさイチ」にモデルや女優として活躍している冨永愛さんが出演していました。冨永さんは現在NHKで放送されている「大奥」に主演していますが、ドラマの乗馬シーンの撮影時にはエキストラではなく、冨永さん本人が乗馬し撮影に臨んだとのことでした。

冨永さんによれば、今回の撮影のために乗馬を練習したのではなく、「いつか乗馬のシーンに臨むことがあるかもしれない。そのときにはエキストラでなく、自ら馬に乗って撮影ができるようにしたい」と以前から考えていて、乗馬に取り組んでいたとのことでした。そうしたところ、ある番組で「いつか自ら乗馬するドラマに挑戦したい」と話す機会が訪れ、たまたまその放送を見ていたNHKの番組プロデューサーが今回の大奥の吉宗役に冨永さんを抜擢したとのことでした。冨永さんは「チャンスが来た時につかめる自分であれ」ということを大切にしているそうで、そのための準備を日ごろから怠らないようにしているとのことでした。

この話を聴いて私が感じたのは、「学びなおし」というような大げさなものでなくても、「乗馬のシーンを自ら演じたい」というように、いつか自分がやりたいと考えることを具体的にイメージして実際に動くことの大切さです。リスキリングというように大上段に構えなくても、シンプルに自分が将来手に入れたい、こうなりたいと思うことをはっきりイメージし、それに向けて準備をしていくということが大事であると思うのです。

ちなみに冨永さんの話で、もう一つ私自身が見習いたいと思ったのは、「自分が手に入れたいと考えることを他者に話す」ということです。冨永さんのようにメディアで話をすることは普通のビジネスパーソンにはなかなかかなわないことなのかもしれませんが、「他者に伝える」ことは誰でもできることです。自分の声で語ることによって、自身の想いをあらためて認識することになるでしょうし、もしかするとそれを聴いた人がチャンスをくれるということもあるかもしれません。

「リスキリング」という言葉にプレッシャーを感じすぎたり踊らされたりするのではなく、自分がやりたいことをイメージしてそれに向け具体的に行動すること、そしてそのことを自ら語ることが大切なのだと思います。

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第1,149話 リスキリングを始める

2023年01月11日 | キャリア

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「生き残るものは大きなものでも強いもでもない。変化していくものだ」

これは、作家で日本大学の理事長をしている林真理子さんが著書の「成熟スイッチ」(講談社現代新書2022年)の中で語っている言葉です。この本の中で林さんは、成熟について「昨日のままの自分だと、少しつまらないよ」「ちょっとしたことでもいいから何か新しいことをして、昨日とは少し違った自分になってみる。」また、「成熟にはキリがありません。毎日新しいスイッチを入れながら、自分の変化を楽しむことができたら、なんて素敵な人生でしょう。」と言っています。

林さんの活躍はここで改めて紹介するまでもありませんが、作家として様々な賞を受賞するだけでなく、それ以外にも次々と新たなポジションに就いています。それは本人が欲したものばかりではないのでしょうが、一方で欲しいと考えたものは必ず手に入れているようにも見えます。そして、そのための努力は惜しまない、ゴールを設定しない林さんの生き方に私は一読者としていつも刺激を受けています。

さて、最近は「リスキリング」の重要性が大きく叫ばれるようになり、政府も具体的な支援に力を入れることを明言しています。そのために、「人への投資」に5年間で1兆円を投じ、従業員にリスキリングをさせた企業や働き手への助成金も強化する方針とのことです。個人も学び直しをしたいと思えば、その機会を得られる環境が整いつつあるわけです。

しかし、こうした報道を見聞きする度に私がいつも思うのは、はたして今度こそ日本に「学び直し」という考え方が根付くのだろうか?ということです。なぜなら、わが国ではこれまでにも「リカレント」、「生涯学習」など多少意味合いは異なるものの、「学び」をキーワードとする言葉が30年位前から何度も取りあげられてきていますが、どれも今ひとつ根付いていないように感じるからなのです。実際、「学びなおし」への参加率は35%とOECDの平均よりも5ポイント低いのが実情で、諸外国と比べリスキリングへの関心が薄いことが問題視されているのです。

それでは、今後組織や個人が「リスキリング」に対してどうすれば積極的に取り組むことができるようになるのか、そのためにはどうすればよいのでしょうか。この答えはなかなか簡単には出ないように思います。それは、日本人の国民性から言って林さんのように変化を楽しむことができる人は限られているように思えるからなのです。

しかし、このまま立ち止まっているわけにはいきません。ありきたりのことかもしれませんが、まずは「ありたい自分」、つまり自分が手に入れたいものを少しでも具体的にイメージしてみるところから始めることなのではないかと思います。そして、林さんのように何か新しいことを少しずつでも始め、昨日とは異なる自分になっていく、その変化を楽しむことなのだと思います。

私自身、年の初めの今だからこそ新しいスイッチを入れることから始めてみたいと考えています。

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第1,143話「絶対悲観主義」を薦める理由

2022年11月23日 | キャリア

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「悲観」とは、「物事がうまくいかず、悲しんで失望すること。または落胆すること」と辞書に書かれています。楽観の反対の意味である悲観は、一般的にはマイナスの状態をさして使用することが多い言葉です。

「自分の思い通りにうまくいくことなんて、この世の中には一つもない」、「こと仕事に関していえば、そもそも自分の思い通りになることなんて、ほとんどありません」

これは「絶対悲観主義」(楠木健2022 講談社+α新書)の中での著者の言葉です。

「自分の思い通りにうまくいくことなんて、この世の中にはひとつもないという前提で仕事をする」こと、「世の中は甘くない、・・・うまくいくことなんてひとつもない」これが楠木氏が言うところの「絶対悲観主義」です。

絶対悲観主義を前提に仕事をすれば、たとえば会社の内外を問わず納期が過ぎてしまっているのにもかかわらず何の音沙汰がないことに慌てたり、イライラしたりするなどのマイナスの感情を持つことが減るのかもしれません。もともと上手くいかないことを前提に、予め先手を打ったり予防線を張っておいたりするなどの備えをしておけば、仮にそれがうまくいかなかったときでも「やっぱりそうなったか!予期していたとおりだ。それなら、こういう手を打とう」というように、さほどがっかりもせずに、粛々と事を運べばいいというふうになるのかもしれません。

私たちは物事を楽観的に考え、「きっと大丈夫だろう」「きっとうまくいくだろう」とさしたる根拠もなしに思い込み、きちんとした準備もすることなく物事を始めてしまい、その結果痛い目を見るということが少なくない。そうしたことから、この「絶対悲観主義」の考え方が出てきたようにも思えます。

私自身、これまで仕事やプラーベートの上で思いどおりにいかず、慌てたりいらいらしたりすることは数えきれないくらいあったわけですが、はじめから自分の思い通りにうまくいくことなんてないのだと思っていれば、さぞかし気持ちは楽だったろうなと思います。

同時に、私はこの「絶対悲観主義」は「自分の思い通りにうまくいくことなんて、この世の中には一つもない」から、物事をいい加減にやってもいいと言っているのではなく、「自分自身はやるべきことをきちんとやったうえで、それ以上のもの(他人や環境など)には過度の期待をしないこと」と言っているようにも理解をしました。

他者や周囲の環境は、なかなか自分の思い通りにコントロールすることはできませんが、逆に言えばそれ以外の自分でやれることはきちんと準備をしておく。まさに「人事を尽くして天命を待つ」ことの大切さにも触れているように感じられたのです。

「思い通りにいかないことを前提条件にすることで、逆に自分に対して楽に生きることができる」との著者の言葉、何十年も仕事をしてきたからこそ、改めて染み入ります。良い意味で他者に期待しない、その上で自身としてどう準備するのかが大切なのだと思います。

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第1,139話 自らの決断を悔んだときにヒントとなる言葉

2022年10月26日 | キャリア

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「この会社に就職したのが間違いだったのかも」、「内定を得ていた別の会社を選んでいたら、希望の部署に配属されたのかもしれない」

これは以前、弊社があるクライアントのカウンセリングを担当させていただいた際に聞いた言葉です。2社から内定を得て迷いに迷った結果、一方を選んだのにもかかわらず、入社した会社では希望とは異なる部署に配属されてしまい、その後も希望してもなかなか異動がかなわないとのことです。こうした状況の中で冒頭のような悩みを抱え、私のところに相談に見えたのでした。

私たちは、就職のような人生における大きな決断をはじめとして、日々様々な決断をしています。そして決断を続けた結果が、これまで自分が歩んできた道になるのだと思いうのです。

一方で、様々な決断の結果、その後の人生が必ずしも思い通りにいかないようなことがあると、自らの決断を悔むことは誰にでも起こり得ることだと思います。そのようなときにどのように考え、どのように対処するのか。それこそが、その人らしさと言えるような気がします。

先日ある舞台を観に行った中で、主人公を演じる大竹しのぶさんが発する次の台詞を聞いて、こうした思いを強く持ちました。有名な台詞ですから、聞いたことがあるという人も多いと思います。

「誰が選んでくれたのでもない、自分で選んで歩き出した道ですもの、間違いと気づいたら自分で間違いでないようにしなくちゃ」 「過去のことは未来を考えたらちっぽけなもの」

これは「女の一生」の中で主人公が発する言葉なのですが、私自身とても染み入りました。

「女の一生」は、森本薫が昭和20年に文学座のために書き下ろした戯曲で、女優の杉村春子さんが生涯に947回にわたり主人公演じ続けたものです。現在は、大竹しのぶさんが舞台で演じられていますが、二つの大戦により激動の時代を生き、その間、担いきれないほどの重みに耐えながら生きぬいた主人公が発した言葉にはまさに「生きた証」が感じられます。また同時に非常に説得力のある重みのある言葉であるとも思うのです。

人は誰でも人生の中で幾たびも大きな決断を迫られることが起こりえます。その結果、一生懸命に考えて良かれと思って選択した道であっても、必ずしも思い描いていたとおりにはならないことも少なくないわけです。そういう中でどのように考え、行動するのか。「女の一生」で聞いたこの台詞が大きなヒントになるような気がしています。

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第1,129話 「三五館シンシャの日記シリーズ」が興味深い

2022年08月17日 | キャリア

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「何歳まで働くのか」、近年注目されることの多いキーワードだと思います。年金の受給開始年齢や保有している財産の有無、さらには健康状態や社会のニーズなど様々なことが関係しますので、必ずしも本人の希望どおりにはいかないとは思います。内閣府の令和2(2020)年度の調査でも、60歳以上の人の9割近くが70歳以上まで働きたいと考えているとのことです。

このように高齢者の労働について注目されることが多い近年ですが、私がここ数年、興味を持って読んでいるのが、三五館シンシャの「職業日記シリーズ」です。読んだことがあるという方も多いと思いますが、この日記シリーズは中高年(高齢者が中心)の働く日々のドキュメンタリーです。既に11冊が出版されていますが、交通誘導員、派遣添乗員、メーター検針員に始まり、ディズニーキャスト、そしてコールセンターと続き、最新版は住宅営業マンに関する内容です。私はたまたま最初に出版された交通誘導員の日記について、新聞広告で知ったことがきっかけで読み始め、その後は新しいものが出るたびに必ず読んでいます。

このシリーズが面白いのは、我々が生活していく中で接点はあるものの、知り合いなどに勤めている人がいない限り、なかなかその実情を知りえない職業について、著者のリアルな体験を通して知ることができることだと考えています。

また、それぞれその職業に就くまでの経緯は著者自身の希望とは異なり、様々な事情からいたし方なく就いたケースがほとんどであり、さらに肉体的・精神的にも大変なのにもかかわらず、その多くは低賃金なのです。しかし、それぞれの著者は、顧客から怒鳴られたりクレームに対応に奔走したりする中で、まれに感謝されることもあり、そうした時々に小さなやりがいを感じながら、明日へのモチベーションにつなげて仕事に励んでおり、読者である私たちはそうした姿に共感するのだと思うのです。

「職業日記シリーズ」を発行している、三五館シンシャの代表取締役 中野長武氏によると、「このシリーズは、すべて著者の持ち込みの企画であり、仕事のハッピーな側面だけを描くものではありません。私生活の痛みも、全てをさらけ出す覚悟が決まっているかどうか。それがコンセプトであり、著者に求める“条件”です」(DAIMOND online)とのことです。

このシリーズを読むたびに、「あの職業の内情はこうなんだ」、「いずれの職業も大変だ」などと感じられ、あらためて「働くということは決して簡単なことではない」と率直に感じるのは、プライベートも含めて著者がすべてをさらけ出している、つまり建前ではなく本音で書かれているからなのでしょう。

高齢者に限らず、我々は日々仕事をする中で、ふと自身の今後のキャリアをどのように築いていくか、何歳まで働くのか、どのように生きるのかなどについて考えることがあると思います。

そういう時に、このシリーズをとおしてそれぞれの職業や人生の喜怒哀楽に触れることで、何からのヒントになるところがあるように感じます。年代に関わらず、読んでいただきたいと思う1冊です。

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第1,122話 人柄をフルに発揮して組織で活躍する女性管理職

2022年06月29日 | キャリア

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「部下に注意したり指摘したりする際に、『私自身はできているのだろうか?』と考えてしまうのです。」

これは、先日ある組織で中間管理職として活躍している女性Aさんから聞いた言葉です。Aさんは入社後すぐに研修の部署に配属されたため、そのご縁で私はAさんと知り合いました。

Aさんは、バリバリとリーダーシップを発揮するというよりも、職場のメンバーの間をうまく調整したり、ご本人は気づいていないかもしれませんが、積極的にコミュニケーションをとることで温かな雰囲気の場を作るタイプです。そうしたこともあって外部の人間である私もAさんをはじめ、同じ組織の方たち数人と定期的に交流する機会を持たせていただいてきました。

そのAさんも入社後27年が経過し、今では課長補佐として働いています。先日久しぶりにお会いする機会がありましたので、女性管理職としての悩みについて尋ねてみました。そのときにAさんから聞いたのが冒頭の言葉です。これまでAさんが多くの人と接する姿を見てきた私は、Aさんは言うべきときに言うべきことを、きちんと穏やかに発言できる女性だと考えていましたが、そこに経験も加わり、Aさんらしい管理職になっていることが伝わってきました。

管理職として部下や後輩を注意したり、叱ったりしなければならない場面で、Aさんのように「自分はできているのだろうか」と内省することができる管理職は、どれくらいいるのでしょうか?一般的には、部下等の行為に対して「あるべき論」から指摘をする人が圧倒的に多いのではないかと思います。内省(reflection)とは、自己を深くかえりみること、自分自身と向き合い、自分の考えや言動を振り返り、気付くことを自ら観察することですが、Aさんは部下と接するときに、まさに内省をしているのです。

冒頭の発言の後に、私から「注意したり、指摘したり、叱ったりしなければならないとき、たとえば部下が遅刻を繰り返すようなことが起きた際には、どうしていますか?」と伺ったところ、Aさんは少し考えてから、「遅刻をした理由をまず質問します。遅刻するには、何らかの理由があるはずだと思うから」と答えました。

弊社が行う研修では、上司が部下を注意したり叱ったりする際には、まず質問し(事実を確認する)、そして相手の言い分を聞くステップを踏むことが大切であるとお伝えしていますが、Aさんはまさにこれを自然に行っていたのです。これはAさんが経験から学んだことなのか、元々の人柄なのだろうかと思いましたが、おそらくは両方なのだと思います。このように考えると、Aさんは自分ならではのリーダーシップをしっかりと発揮されていると言えます。

我が国では、女性管理職の割合が少ないことが以前から問題として顕在化しています。これは、Aさんのような力を持つ女性がちゃんといるのにも関わらず、管理職というポジションに就いていない組織がいまだに少なくないことを表しているのではないでしょうか。

私は、Aさんのように人柄をフルに発揮して組織で活躍する女性が増えれば、その組織はより活性化し、結果、組織の業績等も上がっていくのではないかと考えています。こうした女性リーダー・管理職がもっともっと増え、活躍できるようにするために、組織はどのようにすればよいのか、あらためてしっかり考える必要があるのではないでしょうか。

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第1,121話 嘱託職員として求められるプロ意識

2022年06月22日 | キャリア

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「後ほど上の者から説明します」

これは先日、私の知り合いがあるメガバンクを訪れた際に、待ち時間を質問したところ、対応した行員から返された答えとのことです。

具体的には、知り合いが店舗を訪れた際、既に5~6人が待っていたため、シルバーと思しき行員におおよその待ち時間を質問したのだそうです。その行員の説明では、「既に待っている人以外にも、今後予約をしたうえで来店する顧客がいる可能性もあるため、待ち時間はわからない」とのことだったとのこと。そこで「では、予約の人は何名くらいいるのですか?」と続けて尋ねたところ、その行員は近くにいた他の行員数人に声をかけ、話を始めたそうです。その際、その行員の「私は嘱託ですから・・・」や別の行員の「いや、私も〇〇で・・・」との声が聞こえてきたそうです。そして、知り合いのところに戻ってきて発したのが、冒頭の言葉だったのです。

知り合いは予約者の数を質問しただけなのに、「上の者から説明します」とはどういうことなのかと、一瞬呆気にとられてしまったそうです。

行員同士の会話から、対応した行員は嘱託職員のようでしたが、それは顧客の側には関係のないことで、顧客の前ではプロとしてしっかり回答してもらう必要があります。そもそも、このような簡単な質問にも嘱託職員が返答する権限が与えられていないとしたら、それも問題です。もしかしたら、知り合いの質問はルーチンの質問ではなかったのかもしれませんが、この行員の対応は顧客の質問に考えようとすることすら放棄してしまっているように思えます。これでは、嘱託職員としての存在意義がないのではないでしょうか?

「嘱託」とは、一般的には定年退職後に契約のもと勤務していた組織に続けて勤務する人のことです。また、有期契約で1年単位で契約を更新し、現役時代の経験を活かし、サポート的な業務を担当し、給与は定年前に比べ7割~半分程度に下がることが多いようです。そのような事情から、モチベーションが大きく下がってしまう人がいることも事実で、問題として顕在化しているところもあり、組織としてやる気を維持し力を発揮してもらうための取り組みの必要性が言われているところです。

実際、これまで私自身がお会いした嘱託として働いている人達は、過去の経験をもとに部下や後輩への知識やスキルの継承に力を注いでいたり、積極的にクレーム対応にあたったりするなど、意欲的に働いている人がほとんどでした。しかし、今回のメガバンクの嘱託職員のようでは、残念ながら戦力としてカウントするのは難しいと言わざるをえません。

新規に人を採用することが難しい状況の今、嘱託職員はこれまで以上に組織にとって大切な戦力となるべき人材です。外部から新たな人材を採用しゼロから育成するよりも、高い生産性を期待できるだけでなく、定年退職者を嘱託社員として再雇用することは現在、組織に課せられた社会的な義務にもなっています。そうであるならば、嘱託社員には、これまでに培った能力を最大限発揮してもらい、組織に貢献してもらわなくてはなりません。同時に、そのためには嘱託社員のモチベーションを維持することも大切なことです。

顧客対応をはじめ仕事の上では立場に関係なく、みなプロであるはずです。嘱託職員として対応する際にも、プロ意識が必要であることをあらためて認識していただくとともに、組織の側にもモチベーションを維持してもらうための取り組みが必要であると考えています。

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第1,114話 配偶者の転勤に伴う女性のキャリアの決断

2022年04月27日 | キャリア

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「夫のアメリカへの転勤に伴うため、退職することにしました」、「転勤する前に同じ職場だった夫と社内結婚をしましたが、遠方のため当初から別居結婚でした。夫の転勤があと3年はかなわないことがわかりましたので、この度私が退職して一緒に暮らすことにしました」

これは先月末に別々の企業に勤める2人の女性からそれぞれ聞いた言葉です。2人は人事部に所属していましたが、とても優秀な社員で生き生きとした表情で活躍し、将来を期待されていました。そういう2人が同じタイミングで退職という決断をされたため、連絡を受けたときは、正直驚きました。

夫の転勤への同伴を理由に、女性がそれまで築いてきたキャリアを断念せざるを得ないことは、本人のみならず組織にとっても大きな損失です。特に女性自身の希望とは異なるわけですから、苦渋の決断をしなければならなかったことは非常に残念だと思います。

近年、さまざまな組織において社員の異動をどのように考えるのか、活発な議論が交わされるようになっています。転居を伴う異動を敬遠する人も少なからずいることから、そうした人から選ばれる組織になるためには、全国への異動はさせず地域を限定して異動させたり、また、異動を受け入れる社員に対しては報酬面で優遇したりと、いろいろと工夫をする組織が増えています。世の風潮としては転勤を見直す方向に動き始めているようですが、それでは今後、転勤は減少へと進むのでしょうか?

これに関しては、簡単に答えを出せるものではないと思います。それは、転居を伴う異動の目的は組織により様々だからです。一般的に、異動を行う目的は人材育成をはじめ、ローテーション、組織の活性化、転勤先の社員の教育、社員のモチベーションの向上、顧客開拓など、実に多様です。これらの目的を達成する手段は他にもあるかもしれませんが、異動による効果は大変大きいこともあり、多くの組織で取り入れられてきた経緯があります。

私は以前に異動を積極的に行っていない企業の研修を長期にわたり担当させていただいたことがありますが、それによるプラスの面もある一方、マイナス面も多々顕在化していると感じました。マイナス面の一番には、セクショナリズムがありました。異動がなく一つの部署に居続けることで、自部署のことには精通する反面、他部署との交流が限られてしまうことから「垣根」ができてしまうのです。その結果、部署ごとに部分最適の視点のみで仕事をしてしまい、全体最適の視点が生まれにくいのだと感じました。その企業では、マイナスを解消し社内を活性化するために、部署横断的なメンバーを集めプロジェクトチームを作ったり、レクリエーションを行ったりしましたが、部署の壁を超えることは簡単ではなかったようです。

このような企業の実例を知っている者としては、組織における異動によるメリットはデメリットをはるかに凌ぐものだとは考えていますが、一方でそれによって冒頭の例のように、女性がキャリアを中断せざるを得なくなることはとても残念だと考えています。

それぞれの家庭の事情や人生観なども関わることから、それぞれがどのように折り合いをつけるのか、その答えを見つけるのは簡単なことではありません。

しかし、「女性の活躍」が叫ばれている中、また今後ますますそれが求められていくであろう中、組織はこうした問題をどのように考え対応するのか、個人はどのように決断するのか、今後も議論は続きそうです。

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第1,110話 若者たちはなぜ成長を焦るのか?

2022年03月30日 | キャリア

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「若手で活躍をしていた人が複数人退職することになってしまって・・・とても残念です。」

これはつい先日、ある1,000人規模のサービス業の人事部の管理職から聞いた言葉です。

詳しく話を聞いてみると、退職を表明した人はいずれも20~30歳代だそうですが、彼らは若手の中でも中心的な存在で、生き生きとした表情で仕事をしていたそうです。上司からの評価も高く、周囲との関係性もよく将来を期待されていた逸材だったということです。

このように周囲に期待され、生き生きと仕事をしていたのにも関わらず、彼らはなぜ退職を決意したのでしょうか?

直属の上司、そして人事部が個々に面談し退職理由を聞いたところ、「もっとキャリアアップしたい」、「自分の能力や技能をより活かせるところに転職する」とのことだったそうです。いずれの理由も非常に前向きな理由だと感じます。

私が様々な組織で研修を担当させていただいたり、上述のように人事部のご担当者の話を聞かせていただいたりする中で感じているのは、近年、若手社員のスキルアップへの関心がますます強くなったり、成長欲求が高まっているという傾向です。

スキルアップへの関心や成長欲求が強いことは、前向きでとても素晴らしいことだと感じます。一方ですぐには成長感を得られにくい部署での仕事だったり、学生時代の友人との相対的に比較して成長感を得られていない場合、そのことに焦ってしまう人が多いように感じます。

たとえば、学生時代の友人が上司の同行なしに一人で営業に出かけているような話を聞いた場合に、自身はまだ上司の同行のもとに営業活動をしていたりすると、友人は目覚ましく成長しているのに自身は置いてきぼりにされているように感じてしまうことがあるようです。その結果「早くキャリアップできる会社へ転職しよう」と考えてしまうこともあるようなのです。

では、そもそも「成長する」とはどのような状態をいうのでしょうか?実際に若手社員にインタビューをしたことがあるのですが、多くの人は「できないことができるようになること」と答えます。具体的には「素晴らしい企画書が作成できるようになる」、「大勢の前でも堂々とプレゼンテーションができる」など、華々しい状態をイメージする人が圧倒的に多いようです。

しかし、机上で習得できる知識やスキルならともかく、働く中で身につける知識やスキルは時間をかけながら、経験を重ねる中でようやく身につくものであり、それはそう簡単に手に入れることはできないものだと私は考えています。時間をかけて真面目に仕事に取り組んだ結果、ようやく手に入れることができるものであり、「成長する」ことはそれほど簡単なことではないと思っているのです。

成長欲求が強いこと自体は悪いことではありません。しかし、くれぐれも目に見える成長感を得ることが目的にならないでほしい、そのために焦らないでじっくりと仕事に打ち込んでほしいと老婆心ながら思っています。

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