「8頭もいる!」
知床が世界遺産に登録された数年後に訪れたウトロの旅館の窓から見える範囲にいたエゾシカを数えたところ、何と8頭もいました。近所の犬や猫よりも多いのではと思われる数にびっくりすると同時に、少々興ざめもしてしまいました。
今、北海道ではエゾシカの生息数が増えすぎ、様々な問題が顕在化しています。2013年にエゾシカが関係した交通事故は1,818件で、10年前の約3倍です。交通事故以外にも列車との事故や高山植物などの食害などをあわせると、被害額はおよそ64億円にもなるそうですから、エゾシカによる影響が甚大であることがわかります。
私はその昔、学生時代の夏休みにも知床を尋ねているのですが、当時の知床ではエゾシカを見かけることは極めて稀で、たまに出会えたとすればそれは幸運なことと考えられていました。
旅行途中に出会った学生同士で、「今日はエゾシカに何頭出会った、キタキツネを何匹見かけた」とその数を自慢し合ったことが今となっては大変に懐かしく感じられると同時に、この20数年の間の変化に改めて驚いてしまいます。
エゾシカがここまで増えた理由は、狼の絶滅、狩猟者の減少による捕獲数の減少、温暖化、さらに人間が食用にすることが減ったなど様々あるようです。環境や人間とうまく共存できる、適正な数を大幅に超えてしまった結果の被害の大きさを考えると、このまま静観しているわけにもいかない事態だと思います。
さて、話は大きく変わりますが、先日の朝日新聞に現在弁護士や税理士など、難関と言われる試験を突破した「士業」の人たちが厳しい環境下にあるという記事が掲載されていました。
かつては、試験は難関だけれども合格すれば高額な報酬を得られるとして大変人気だった公認会計士や税理士、弁護士といった「士業」ですが、今は資格を取っても弁護士事務所に就職できず、独立して事務所を開いても会費を払うことができずに、弁護士の道を諦めてしまう人もいるそうです。花形に思える「士業」も実は大変に厳しい状況にあるのですね。
なぜ、こうした事態になってしまったのか?原因の一つには、資格保有者が増加して供給が需要を大きく上回っている、いわば適正な数を大きく超えている状況があるようです。
こうしことから、政府も「司法試験の合格者数が多すぎる」ということで、合格者数を「年3,000人程度」とした目標の撤廃や法科大学院の統廃合など、是正に向けた検討に入っています。
難関の「士業」の話と冒頭のエゾシカの話を同じ土俵で考えるのは失礼だとも思いますが、どちらもいわば適正な数を越えてしまった結果、思わぬ形で影響が出てしまっているという意味では同じと言ってもいいのではないでしょうか。
需要と供給のバランスが大切である。これは自然の世界の話だけでなく、我々のビジネスの世界においても言えることです。
いずれにしても競争に勝って生存し続けることは簡単ではないということですが、私も決して他人事ではありません。資格のない研修講師は比較的参入しやすいと考えられており、どうしても供給過剰になりやすいので、この世界でも厳しい競争を生き抜くことはなかなかに大変なことなのです。
(人材育成社)