中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第1,160話 入社式で記憶に残る社長の話にするには

2023年03月29日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「具体的な内容は思い出せません」

これは、弊社が企業の新入社員フォロー研修を担当させていただいたときに、受講者から聞くことが多い言葉の一つです。

フォロー研修は、概ね入社半年後から1年未満のタイミングで実施されることが多いのですが、受講者の大半は入社式のときの社長の挨拶や訓示などの内容を思い出せないということが多いようです。

入社式で社長が訓示として話す内容は、組織の歴史・理念やパーパスをはじめ、企業をとりまく環境の変化、そして新入社員への期待と激励が中心です。将来その企業を背負って立つ存在になってもらうためにも、前向き姿勢や積極的な行動、たゆまぬ挑戦を求めるものが多いようです。

実際、私がこれまでにお会いしてきた社長は、いずれも入社式の訓示には相当の準備をして臨んでいらっしゃったようですが、冒頭の例のように少し時間が経つと残念ながら新入社員の記憶にはほとんど残っていないというのが現実のようなのです。

それでは、なぜ社長の訓示は新入社員の記憶に残らないのでしょうか。

疑問に思った私は、これを機に様々な企業の社長が過去に話された内容をあらためて確認してみました。すると、いずれの企業の社長も丁寧に話をされてはいるものの、その内容は「あるべき論」に終始し、「その会社らしさ」や「その人らしさ」といった特徴が感じられないことに気が付きました。もし別の企業の入社式で話をしたとしてもさほど違和感がない、どこでも通じるような内容が多かったのです。無難ではあるものの、さほどインパクトはないため、これではあまり記憶に残らないのも仕方がないのかもしれません。

それでは、どうすればよいのでしょうか?新入社員の記憶に残すために受けを狙ったり、突飛なことをしたりするのでは、本末転倒ということになってしまいます。

そこで私がお勧めしたいのは、「キーワードを絞って話をする」ということです。環境の変化や組織の理念、新入社員に求めることなどの中で、特にこれからの1年ほどで求めるキーワードを1つ、多くとも3つ程度に絞ったうえで、どのような経緯でそのキーワードを大切にしているのか、社長自身のエピソードを交えて話をするのです。もちろんキーワードを絞って話したからといって、全新入社員の記憶に残るかはわかりませんが、社長が自身のエピソードを交えて話した言葉や新入社員への想い・期待というものは、少なくとも通り一遍の内容よりはるかに心に響き、記憶に残るのではないかと思います。そして、それを聞いていたうちの何人かでも将来仕事をしている中で壁に突き当たり、進むべき方向性を見失ったりしたようなときに、入社式で聞いた社長の話しを思い出すことで、あらためて前に進もうとする原動力になるのであれば、訓示本来の意味があったと言えるでしょう。それこそ社長冥利に尽きると言えるのではないでしょうか。

今週土曜日は4月1日、早くも新年度が始まります。来週は入社式というところも多いと思いますが、各社の社長が入社式でどのような話しをされるのか、私自身も今から楽しみにしています。

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第1,159話 部下よりも経験が少ない業務を担う際には

2023年03月22日 | キャリア

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「経験のない仕事の部署の管理職になるので、少々不安です。」

まもなく4月、新年度を迎えますが、弊社が研修を担当させていただいている組織のご担当者数名から、異動の連絡を既にいただいています。多くの人が異動を前向きに捉えているとのことですが、中には冒頭のように新天地での仕事に不安を抱えている人もいらっしゃるようです。

さて、ご存知のとおり、本日ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝で、日本代表「侍ジャパン」が米国を撃破し、2009年大会以来3大会ぶりに世界一になりました。熱き戦いで日本中を沸かせた侍ジャパンでしたが、私はこの勝利をもたらした栗山監督の采配に注目をしていました。

栗山監督のキャリアや活躍は多くの人がご存知だと思いますが、私自身はこれまで様々な活躍をされてきている中、プロの選手としての活躍自体は6年間と極めて短いにもかかわらず、監督としてたくさんの実績を残していることに関心がありました。栗山監督は現役引退後にまず解説者やキャスターになり、次に大学で教鞭を振るっていました。プロ野球の指導者としては日本ハムの監督がスタートですが、監督就任1年目にリーグ優勝を果たすなど、指導者として当初から目覚ましい活躍をされています。

それではなぜ、栗山監督は選手としての活躍の期間が短かかったにもかかわらず、指導者として結果を出し続けられているのでしょうか?これまでに様々なメディアで語っている栗山監督の言葉から私なりに想像すると、チームの勝利と選手の育成を同一線上でとらえていて、育成に時間を惜しんでいないように見えます。さらには、野球の技術だけでなく選手が人としても成長できるような働きかけを積極的にしているそうです。具体的には、選手とのコミュニケーションはコーチに任せずに自ら直接話をしたり、各選手に直接期待を伝えたりしているとのことです。また、自分自身の「学び」もおろそかにはしていないそうで、「人としてどのように生きるか」ということに対してはハウツー本ではなく論語等を読み、同時に選手にも「論語と算盤」を読むことを進めたりもしているのだそうです。

加えてチームとしての課題も徹底的に追及し、優勝したらそれでよしとするのではなく、さらなる高みを目指して絶えず課題の解決を図っているということです。2016年に日本シリーズで優勝した際には、「優勝したからこその課題が見えてくる」と語るなど、優勝したときでさえ、新たな課題も認識していらっしゃったのです。

こうした栗山監督の取り組みを見ていると、ビジネスパーソンが異動により新天地で管理職として新たな職務を担う際、部下よりも経験が少ない業務を担うことになったとしても、過度に不安にならなくても大丈夫と言えるのではないかと思うのです。仮に部下の方が専門業務の経験値が高く知識が豊富であったとしても、組織における管理職としての使命(目標)を達成するために積極的に部下をやる気にさせるための働きかけをする、部下を育てる、そして自らの言動に説得力を持たせるための努力を続ければ、必ずや成果はついてくると思います。

侍ジャパンの優勝をお祝いするとともに、4月から新天地で活躍される方々に対し、陰ながら心よりのエールを送りたいと思います。

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第1,158話 指示待ち人間から脱出するためには

2023年03月15日 | キャリア

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「指示待ち人間が多くて困っています」

これは先日、弊社がある企業の新入社員フォロー研修を担当させていただく前の打ち合わせの時に、研修のご担当者から聞いた言葉です。

皆さんはご存知だと思いますが、「指示待ち人間」とは、他者から指図されない限り自分から何も行動を起こさない、主体性に欠ける人を指す言葉です。この言葉がいつから、そしてどういうことをきっかけに使われるようになったのかはわかりませんが、少なくとも私が人材育成の仕事を始めた30年前には使われていました。そのように考えると、いつの時代にも新入社員に限らず、指示がなければ自らは行動を起こさない「指示待ち」の人が多かれ少なかれいるのだと思います。

さて、先日、昨秋現役を引退したスピードスケートのオリンピック金メダリストの小平奈緒さんがテレビ朝日「徹子の部屋」に出演されていたのを見る機会がありました。

小平さんは、ソチオリンピック後にオランダに2年間留学した際に、「自ら考えて未来を描き、自分を育てることを意識的に行った」との話をされていました。その中で、オランダで暮らしている際にある程度はオランダ語を理解できるようになった後も、言葉はわかるけれども(自らの)言葉が出てこないということを体験したそうです。

それは、オランダ語に精通していないからということではなく、「私の中に意見がなかった。日本で暮らしていると、何でもかんでも指示されることに対して応えるということが多かった。」「『奈緒はどうしたい?』という問いに対して、『私はどうしたい、私はこういう未来を描きたい』ということを言葉はわかるけれども、意見を言えなかった。」のだそうです。そして、その体験を踏まえ、「自分はこうしたい。という自分を育てていこうと思った。」そして、「1人で何とかしないといけない状況に身を追い込んだことで自分という人間が育った。自分を持てるようになっていった。」とおっしゃっていたのが印象的でした。

マスコミなどを通して私が持っていた小平さんのイメージは、「ストイックに試合に挑戦し、話をする際は自分の言葉で話し、自身に対して責任を持つ人」というものでした。しかし、それらのイメージからする小平さんの姿は、決して天性のものではなく、意識的にそういう生き方、考え方を選択してきた結果であることが、ゆっくりと言葉を選びながら丁寧に話をする姿から伝わってきました。

私たちも、仕事などで自分にあまり自信が持てなかったり、周囲の反応を気にしすぎてしまったりすると、主体的に動くよりもつい指示を待ってそれに応えて動くという選択をしたくなることが多いと思います。しかし、自分はどうしたいのか、その結果、どういう行動を選択するのかということを自ら考えることによってこそ、自分自身を育て、ありたい自分に近づいていけるということなのだと思いました。

小平さんには以前から「いろいろな意味でとても強い人」というイメージを持っていましたが、ご本人の話を聞いてその理由の一端が分かった気がしたとともに、あらためて自分もそれに向けて頑張らねばと思いを新たにしました。

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第1,157話 性別の表記は必要か否か

2023年03月08日 | 研修

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「男女の表記を入れる必要はありますか?」

これは、私の知り合いの研修講師がある企業の研修で、受講者名簿へ性別の表記を依頼したときに、研修担当者から言われた言葉です。

その講師は今までにそのような質問を受けたことがなかったため、一瞬うろたえてしまい、その場では明確な返答ができなかったとのことでした。

近年、自治体などでは申請書類やアンケート用紙から性別欄を廃止する流れになってきていますので、この企業の研修担当者はそのような考えに基づいて質問をしたのかもしれません。実際、性別を記載することによって無意識の偏見であったり不利な扱いを受けたりするような例も少なくないようですので、その点には十分な配慮が必要なことは確かなことです。

その一方で、性別を伏せることにより、たとえば男女別の統計が取りにくくなりジェンダー不平等の改善をめざす政策立案に影響が出る恐れがあるといった声があります。また、組織における昇進スピードの男女差などの解消のためには、性別のデータが必要になるといった専門家の意見などもあります。

それでは、研修の際に受講者名簿への性別の記載は必要なのでしょうか?

この点については様々な考え方があるかと思いますので、一概にどちらが正しいと決めることはできません。しかし、私自身は自分が担当させていただく研修においては、記載していただきたいと考えています。

弊社が担当させていただく研修では、テーマにかかわらず様々なグループ演習に必ず取り組んでいただくようにしています。その際には、はじめに個人で課題に取り組み、次にグループでディスカッションをしていただく場面を設けています。そのグループ編成の際には極端に議論が偏らないように、できるだけ男女別や年齢、キャリアなどが偏らないようにバランスを意識して、できるだけ多様な意見が出るようにしています。

グループ討議は、グループで取り組むことによって自分だけでは考えつかなかったような見方をすることができたり、人それぞれに様々な意見があることを確認できたりする大切な機会です。メンバー同士で意見交換することでたくさんの気づきを得られることを実感する受講者が多いと感じています。そのためにも多様な考え方や意見に接することができるよう、グループ編成の段階では男女別の記載も参考にしているのです。

同時に、この多様性の大切さについては通常の仕事をしている組織ではなかなか気づけない、仕事を離れた研修という場だからこそ、気づけるという面があるのではないかとも考えています。

今後、様々な組織のみならず世の中全体において、多様性の重要性と、それを受け入れていくことの大切さが認識され、その方向にさらに進んでいくものと思います。私もその動きにはもちろん大賛成であり、その際には決して表面的な対応で終わってしまわないようにしていくことが重要だと考えています。しかし一方では、先述のように多様性を担保するために必要となる情報もあり、その兼ね合いをどうとっていくのか、なかなか難しい問題です。

私が研修講師を始めた頃は、男女別の記入欄があるのが普通の時代でしたが、今後は研修においても多様化に向けた取組みの流れをしっかり見据えながら対応していかなければならないと、あらためて考えています。

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第1,156話 リスペクトされる人は、まず相手を尊重している

2023年03月01日 | コミュニケーション

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「リスペクトしています」

これは、FIFAワールドカップ2022でサッカー日本代表チームを率いた森保一監督に対して、多くの選手が異口同音に発する言葉です。ワールドカップ終了後、はやくも2か月が経ちましたが、現在も様々なメディアが森保監督を取り上げており、今も変わらず注目されていることがわかります。

私自身も森保監督のリーダーシップには注目をしていたのですが、先日、生配信のオンライン講座である「NHKアカデミア」を聴講する機会を得ました。「NHKアカデミア」は各界のトップランナーが「今こそ共有したい」を語り尽くす講座なのです。当日は森保監督の人気を象徴するかのように、スペインやイングランドなど海外から参加した人も含め、1、000名を超える参加者が聴講したとのことでした。

番組は、参加者が申し込み時に予め質問した内容を基に、「チームをまとめる」から「決断力を鍛えるために」などの4つのプログラムで構成され、森保監督が指名した人の質問に答える形で進行していきました。

森保監督が指名したのは10代から20代の若い人が中心で、質問はサッカーに関することだけでなく多岐に及びましたが、そのときの森保監督の対応に人間性がとても出ていたと感じられ、なぜこれほど多くの人を魅了し尊敬されるのかがわかったような気がしました。

番組で監督は、1. 質問者からの話に傾聴する、2. 質問へのお礼を言う、3. 質問者が置かれた立場や役割に対して「すごい、すばらしい」と賛辞を送る、4. 質問に懇切丁寧に応える、5. コメント後に質問に対する答えになっていたかを確かめる、6. 最後に「頑張って」などのエールを送るという流れで進めていました。

こうした対応は、まさに森保監督自身が質問者である他者を尊重していることの現れだと思います。どの質問に対しても、決しておざなりに応えるようなことはなく、真摯に丁寧に対応し、一人一人に対してかなりの時間をかけていました。事前に時間は1時間30分間と聞いていたのですが、森保監督はその1時間30分が経過した後も「アディショナルタイム」と称して引き続きたくさんの質問に答えており、結局番組が終了したのは30分延長した開始2時間後でした。これには参加者は皆、大満足だったと思います。

番組の中で私が特に印象的だったのは、質問内容にかかわらず監督が質問者へ対し「楽しんで」、「楽しむことを忘れずに」、「難しいことを含めて楽しむこと」などと、「楽しむ」ということを繰り返し強調していたことで、森保監督の姿勢として「楽しむ」ことをとても大切にされていることが伝わってきました。そして時間を気にせず真摯に対応する姿勢に、相手に対するリスペクトを感じました。

今回この2時間の講座を聴講して、森保監督がなぜ選手をはじめ多くの人からリスペクトされているのか、その理由がよく分かったような気がしました。それは、監督自身が何よりもまず相手をリスペクト(尊重)し、それが相手に伝わるからなのだと感じました。

誰しもが、時として周囲との信頼関係について思い悩んだ経験があるのではないかと思いますが、信頼されるためには、まず森保監督のように相手を尊重することから始めることが大切であることをあらためて認識しました。私自身、まずは相対する人を大切にすることから始めてみたいと思います。

(「NHKアカデミア」によると、本講座は4月5日と12日にEテレで放送予定とのことです。)

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