「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
「何かお手伝いをすることはありますか」
ある土曜日の昼下がりに自宅近くの通りを歩いていたところ、顎と手から血を流して仰向けに横たわっている男性がいました。男性の隣には携帯電話で消防に連絡をしているご夫婦がいたのですが、たまたま傍を通りかかった私も素通りをすることができずに、「どうしたのですか」と声をかけたのでした。そのご夫婦から聞いたところでは、前を歩いていた男性が突然躓いて倒れ、顎と手にすり傷を負い立ち上がることができなくなってしまったので、救急車の手配をしたところとのことでした。事情を聞いた私は、男性の頭の下に彼のカバンを枕代わりに添える程度のことしかできなかったのですが、そのままその場を立ち去ることはできませんでした。
先述の通り、この日は土曜日の昼下がりで、また駅に通じる道でもあることから、多くの人が現場の前を通ったのですが、驚いた(そして嬉しい)ことに通りかかった人の大半が声をかけてくれたのでした。具体的には「救急車は呼びましたか?」、「お手伝いできることはありますか?」、「この先の病院にこれから行くのですが、受付の人に伝えましょうか」、「病院まで一緒に運びましょうか」、さらには「私は看護師です」と脈を測ってくれる人もいました。その後、救急車の音が近づいてくると、一方通行の道路だったために迷わないように救急隊に道案内をしてくれる人もいたのです。最終的に救急隊に「第一発見者と救急車を呼んだ人以外は解散してください。」と言われ、お互い特に挨拶などをすることもなく、そのままその場を後にしたのでした。
この出来事には全体で10名ほどがかかわっていたと思いますが、他の誰かの指示で動いたのではなく、皆がそれぞれできることを見つけて自主的に動いたという点で、客観的に見ても素晴らしい連携プレーでした。
これはまさに、組織で言うところの「組織市民行動」だったのではないかと思います。組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior)とは、アメリカ インディアナ大学のデニス・オーガン教授によって提唱された概念で、従業員が与えられた役割のみを遂行するのではなく、自分の職務の範囲外の仕事をする行動のことです。報酬などの見返りを求めることなく自発的に他者を支援する行動で、組織を支える重要なものです。
今回、たまたま通りかかった人達によってこうした「組織市民行動」的な動きが生じたのは偶然の出来事だったのかもしれません。しかし同様に企業などにおいても職場で困っている人がいたら役割如何にかかわらず助けたり、声をかけたり、休んでいる人の仕事をフォローしたりするなどの行動をとることができれば、組織の力がさらに大きく強くなれるのは間違いないのではないかと感じました。
しかし、ただ単に何もせずに待っているだけでは、なかなかこうした行動には至らないでしょうし、組織に定着することもないと思います。従業員が「組織市民行動」をとりやすくするためには、その意義を理解してもらうとともに積極的に働きかけていくこと、さらにはそうした行動がきちんと評価されるなどの組織としての取組みが必要でしょう。その結果として組織の風土として根付かせることができるのだと思います。
今回、私は冒頭の出来事から組織的市民行動のことを思い出したわけですが、組織で仕事をするということはメンバーの合計人数の力ではなく、人数の合計値に+アルファをもたらすこと、それこそが組織で仕事をする意味なのだと、今回の経験をとおして改めて感じたのでした。