中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

社員99人以下の会社の人材育成に役立つ情報を発信しています。

第1,135話 挨拶の先にあるもの

2022年09月28日 | 研修

「上司に挨拶をしても返事がないのです。それでも挨拶はし続けなければなりませんか?」

弊社では、毎年秋になると4月に入社した新入社員のフォロー研修を担当させていただく機会が増えます。研修では、新入社員が仕事を進めていく中で困っていることや、ビジネスパーソンとしてのマナーやルールなど、半年間の経験の中で感じた疑問点を解消させることも目的の一つです。

その際、受講者から挙げられることの一つに、「上司に挨拶をしても、返事が返ってこない」があります。

新入社員研修や若手を対象にした研修では、「挨拶をしっかりとすることは、ビジネスにおいて大変重要な意味を持っています」と伝えています。なぜならば、挨拶はコミュニケーションの入り口だからです。「挨」「拶」という漢字には、心を開いて相手にせまるという意味や、「私はあなたを受け入れます」という意味もあります。当然のことながら職場は挨拶で始まり、挨拶で終わるのですから、挨拶をしなかったり無視したりすることはマナー違反でもあるわけです。

しかし、先述の通り職場の中には挨拶をしない人がいるのも事実です。コミュニケーションの入り口である挨拶をしても相手から返答がないと、人はどういう気持ちになるのでしょうか?それがたまに会う人であるならば、いたし方がないと割り切ることもできるかもしれません。しかし、毎日会う上司にそれをされたら、当然のごとく上司への信頼感は失墜し、部下はやる気を失います。管理監督職は、組織の目標を達成するために部下に最大限の成果を出してもらう必要があるわけですが、このような上司は自ら部下のやる気を削ぐようなことをしているわけです。

研修中にこのような話をしてくるときの若手社員の表情はとても辛そうであり、その心情はいかばかりかと思います。しかし、上司からの返事がないからといって、そこで挨拶を止めてしまえば同じことの繰り返しになってしまうことから、辛い気持ちは受け止めつつ、「そういうあなたの姿を見ている人が必ずいるから、シンパを増やしてほしい」ということをお伝えしています。また、外部の人間である私ができることには限りがありますが、研修のご担当者にその旨を話し、上司にそれとなく伝えていただければとお願いをすることもありますが、実際のところそれが精一杯です。

こうした状況が続けば、いずれこの若手社員は上司に愛想をつかして組織を去るか、あるいは同様の行為をまねて、次に新人が入ってきたら挨拶をされても返事をしない先輩になってしまいかねません。

古今東西、組織におけるコミュニケーションの難しさが語られ続けていますが、たとえコミュニケーションを活性化させるためのデジタルツールを導入したとしても、入り口である挨拶ができなければ、そもそもコミュニケーションが始まることすらないわけです。

「組織を活性化させたい、業績を向上させたい」と本気で考えるのであれば、まずは全員がしっかり挨拶をできるようにすることから始めるべきであり、経営者の皆さんにはまずはそこから真剣に取り組んでいただきたいと思います。

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第1,134話 人の育成に一番大切なポイントとは

2022年09月21日 | 研修

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「やる気がない部下にどのように指導したらよいのか?」、「反抗的な部下への指導法を教えてほしい」

これは弊社が管理職を対象にした研修を担当させていただく際に、必ずと言ってくらい受講者から尋ねられる質問です。

組織を取り巻く環境は以前にも増して急速に変化していることから、部下の育成もそれに応じた新しいやり方に対応していかなければならないという話もよく聞きます。たとえば、今時の若者への育成ポイントという部分もあるかと思いますが、一方で人を育てることの重要性や押さえるべき事柄は、いつの時代であっても大きな違いはないのではないかとも思うのです。

エリザベス女王のご逝去にともない先日放送されていた「英国王のスピーチ」という映画をあらためて観ました。吃音症に苦しむ英国王ジョージ6世と、その治療に尽力したオーストラリア出身で平民の言語療法士 ライオネル・ローグの2人の実話に基づく映画です。

吃音症に苦しむジョージ6世(当時はヨーク公)は様々な医師の治療を受けるのですが、そのどれもうまくいかず、結果ライオネル・ローグの一風変わった治療を受けることとなるのです。

当初はローグに対して懐疑的であったため、時に反抗的ともいえる態度を示していたジョージ6世でしたが、ローグはジョージ6世に対して信頼と対等な関係を求め、時に厳しく接しながらも、「必ずできる」、「できるとも」と繰り返し励まし続けたのです。

クライマックスのジョージ6世の戦争スピーチのシーンで、ローグは「頭を空にして私に言うんだ」、「私だけに向かって話して」などと落ち着かせるように、手を上げ下げさせて非言語もフル活用して全身で言葉がけを行ったのでした。

さらに、ジョージ6世が語る幼少期の辛い体験に対し、ローグは「辛かっただろう」と心から共感することなどを通じて、お互いの信頼関係も築かれていきます。

全身全霊で行うローグの指導でしたが、中でも最も大切であり、人の育成においての肝だと私が感じたのが、「相手を信じ『必ずできる』という言葉を繰り返しかけたこと」だと考えています。

これは教育心理学でいうところの「ピグマリオン効果」に通じる話だと思います。ピグマリオン効果とは、相手から期待されていると感じるとやる気が上がり、スキルや知識が身に付き、人は育つというものです。

まさに、ローグがジョージ6世に行った「相手を信じること」は、ピグマリオン効果が働いていたということだと思います。

私たちは、部下をはじめ人を育成する際、相手がこちらの思うような状態にならないと、つい「この人はだめだ」とマイナスのレッテルを張ってしまいがちになります。しかし、そうするとそれが相手にマイナスの感情として伝わってしまい、相手はますます育たないということになってしまうのです。

人はこちらが期待すれば期待した分だけ育ち、逆もまたしかりということです。人を育成する際には、ぜひ相手は「いつか必ずできるようになる」と信じて行っていただきたいと思います。

そして、できなかったことができるようになった際には、ぜひそれをはっきり伝えていただきたいと考えています。この映画でも、ジョージ6世が吃音を発せず行えた戦争スピーチ終了後に、ローグは「とてもよかった」と心からの賛辞をジョージ6世に送り、その後は遠くから姿を見守っていました。

指導の際には、相手に対して必ずできるようになると期待すること、そしてできるようになったときにはそれを承認すること。この映画を通して、育成の際のポイントを改めて確認したように感じました。(冒頭の写真はWikipediaより)

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第1,133話 ライブ感を大切にする

2022年09月14日 | 研修

「A講師とぴったり同じタイミングで同じ冗談を話していますが、当人がやるのとは異なり、お弟子さんである別の講師がやると少々わざとらしく感じてしまいます」

これは以前、ある企業の研修担当者から聞いた言葉です。A講師は研修業界では著名なカリスマとも言われている人です。そのお弟子さんと言われている複数の別の講師がA講師と同様に講義を進め、寸分違わぬタイミングで同じ冗談を言っても、受講者にはさほど伝わらないようで、あまり受けないという話でした。

この話を聞いたときに私が感じたのは、冗談やユーモアはその時々の聞き手の反応や雰囲気に応じて伝えるからこそ相手に伝わるのであって、とってつけたように別の人が言っても聞き手には伝わらないということです。

先日、久しぶりに寄席に行く機会がありました。チケットの発売と同時に即完売してしまう人気の噺家の寄席でしたが、久しぶりに生で落語に触れてあらためて感じたのは、演目の面白さだけでなく噺家と客とのライブでの一体感にあると思いました。

寄席では、まず「まくら」があります。まくらとは演目に入る前の小噺です。このときは、当日の午前中は何をしていたか、会場までの移動はどこで乗り換えをしてきたというような観客にとって身近な話題から入り、さらに時節や時事ネタも上手に取り入れており、我々観客は一気に話に引き込まれました。

このまくらは観客が本編に入りやすい状態にほぐす役割も兼ねているようで、その日の演目に関係する話が提供されることが多いようです。たとえば、食べ物に関する演目であれば、まくらでも食べ物に関する話をしたりすることが多いように感じています。噺家はこのまくらを「話す」のではなく、「振る」と表現するそうですが、まさに観客を噺家の方に振り向かせているのだと思います。

演目に入ってからは、噺家の一挙手一投足にさらに引き寄せられましたが、噺家自身も会場の雰囲気とともに、どんどん乗ってきていることが伝わってきて、会場全体と噺家が一体になっているような臨場感が感じられました。まさにライブ感満載であり、そこにいる全員の気持ちが一つにまとまっていくような空気が感じました。

この噺家が当日取り上げた古典落語を過去に何回話したことがあるのかはわかりませんが、おそらくは会場の雰囲気に合わせて適宜一部を変えたりしているのではないかと思います。同じ噺家の同じ演目を聞いても、その時々で全く雰囲気が違った話に聞こえることがあるのは、まさにライブなのだと思います。

そのように考えると、先述のカリスマ講師とそっくり同じように研修を提供したとしても、それはその場の雰囲気やライブ感を一切反映していない、似て非なるものということだと思うのです。

研修講師が話す事例や冗談などのユーモアは、それぞれの体験や個性にもとづき生み出されるものです。さらには受講者の反応を見ながら提供されるものであり、他の講師の冗談を同じタイミングでそのままなぞるだけでは、聞き手に伝わるものではないのではないと考えています。

弊社でも同じ会社の同じ階層を対象にした研修を同じ年に複数回担当することがありますが、その時々の受講者の反応などによって提供する内容を少しずつ変えることがあります。

噺家であれ研修講師であれ、相手こそ異なるものの目の前にいる聞き手に伝えることを使命としているという意味で、まさに同じくライブの勝負をしているということだと思います。

師匠と全くと同じように演目を行ったとしても、それだけでは相手には伝わらない。相手の反応をふまえた、ライブ感を大切にすることこそが大切なのではないかと改めて感じました。

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第1,132話 人的資源の拡大の現況

2022年09月07日 | 研修

「人的投資を拡大して、育成等を通じて企業価値を高める動きが高まっていることは承知していますが、実際のところ、これ以上は無理です」

これは、先日来年度に向けて研修等の打ち合わせをしていたB組織の育成の担当者からお聞きした言葉です

先日本ブログでも取り上げましたが、人材への投資に向けた取組への関心が近年急速に高まってきています。

しかし、様々な企業で今後の取り組みについて改めてお聞きしてみると、マスコミ等で報道されているほどには人材への投資は進んでいないのではないかと感じることが少なくないのです。

B組織では既に若手から管理職に至るまで研修はある程度行ってきているため、これ以上育成予算を増やすことはできない。研修で足りないところは、現場のOJTで補強するとのことでした。

厚生労働省が毎年行っている能力開発基本調査において、OFF-JT(研修)や自己啓発支援に費用を支出した企業は、直近(令和3⦅2021⦆年度)の調査結果では45.9%となっていますが、3年移動平均でみると、前年の調査と同様に数字は低下してきているようです。

このことからも、報道と実態との間には大きな乖離があり、人材投資への必要性は認識されつつあるものの、現実はまだまだ投資は進んではいないのが実態のようです。

また、B組織では「OJTで補強する」とのことでしたが、同調査ではOJTに関しても調査しています。その結果、正社員に対して計画的なOJTを実施した事業所は59.1%と、前回と比べて2.2ポイント増加(3年移動平均の推移では低下)しているとのことです。このことからも、人材育成の中心的な手段はOJTであることは変わらないようです。

さらに、同調査では能力開発や人材育成に関しての問題についても質問していますが、何らかの問題があるとした事業所は76.4%と、4分の3以上の事業所が能力開発や人材育成に関する問題があるとしています。具体的な問題点の内訳は、「指導する人材が不足している」(60.5%)が最も高く、「人材育成を行う時間がない」(48.2%)、「人材を育成しても辞めてしまう」(44.0%)と続いています。

今後、人材育成への投資に対する注目はますます高まっていくとは思いますが、様々な問題を抱えつつ、当面はその手段はこれまでと大きく変わらずOJTが中心となると考えられます。であればこそ、「指導する人材を育てる」こと、まずはそこから力を入れていく必要があるのではないでしょうか。

実際、人的資源への投資と労働生産性は密接に関連しており、内閣府の経済財政報告(経済財政白書)2018年度版によれば、社員教育や社会人の「学び直し」などによる人的資本投資が1%増加すると労働生産性は0.6%上昇すると試算するなど、人材育成の重要性が指摘されています。

そのように考えると、すぐに人材投資へ大きく舵をきることは難しいとしても、長期的なスパンでは人的資源への投資を増やすなどの取組みを進めていく必要性は続いていくと考えられます。ぜひ、少しずつでも人材育成への投資を増やす方向で進めえていただきたいと考えます。そのためには、まず、どういう人材が必要なのかを言語化し、どのように育成するのかをしっかりと考えることから始めていただきたいと思います。

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