今年度も残すところ、あとわずかになりました。この時期、街中では送別会で受け取ったのだろうと想像される大きな花束を持っている人をよく見かけます。
実際、弊社にも「異動の辞令が出た」ということで、数件のご挨拶のお電話をいただいています。
研修担当者として数年から長い方では10年位にわたり、定期的にお会いしていた方が異動されてしまうというのは、われわれにとっても正直寂しい気持ちがします。
この異動ですが、日本の企業等においては毎年4月をはじめとして定期的に行っているところが多いですが、実際のところ何を目的に行い、どのようなメリットがあるのでしょうか。
まず、よく言われるのは、業種によってですが異動により外部との癒着等を防ぐと言う目的があるということです。
しかし、私は一番の目的は何と言っても能力開発、人材育成だと考えています。
異動で本人が様々な部署を経験することによって、組織全体の流れや部署ごとの役割を理解することができます。そうして様々な経験を積むことによって、本人にとっては視野が広がりますし、人事部門にとっては各人の適性を見極めることができることになります。その結果、適材を見極めて適所に配属することができるようになれば、組織全体の業績の向上を望むことができるのです。
また、人が入替わることで組織としての視点も変わってきますので、問題点や改善点を見つけることもできると思います。
さらに副次的な効果として、異動には本人だけでなく受け入れる側の人間が「引き締まる」というメリットもあるのではないでしょうか。
つまり、元々いた人間にとってはNew Faceが入ることによって「いいところを見せたい」という気持ちが働き、一時的かもしれませんが部署全体が引き締まるということもあるのではないかと思います。
このように、異動には本人のみならず組織自体も活性化されるというメリットがあるため、日本の企業では定期的に異動が行われているのでしょう。
一方で、異動にはデメリットがあることも否めません。異動前の部署とまるで異なる業務を行う部署に異動する場合には、本人にとっては転職するのと同じくらい仕事の内容が変わってしまうことになります。部署にとっても、業務に慣れていた人から不慣れな人に替わるのですから、一時的にせよ生産性が落ちてしまうことにもなります。
さらに、転居を伴う異動であれば引っ越し等の費用もかかります。実際、この時期に引っ越し業務を担当している部署の担当者は連日残業しなければならない位の業務量過多になるという話を聞いたことがあります。
また業種によっては、文系と理系でそれぞれ配属される部署が限定される場合があります。このような場合には、あらかじめ異動させる先を限定しておかないと本人の専門を活かせないという事態が起きてしまいます。
このように、異動にはメリット、デメリットの双方があるわけです。そう考えると異動はする方もさせる方も決して簡単なものではないと言えると思いますが、それでも私はやはり定期的な異動は必要だと考えています。
と言うのは、企業によっては異動がほとんどないというところもあるのですが、20代前半で入社した後、ずっと同じ部署に何十年もいるという状態になってしまいます。
そうなると、さきほどメリットで触れたことが全くない事態に陥ってしまい、情報共有がされなかったり問題が発生してしまったりします。それを解決すべく話し合いをしても、セクショナリズムがあって全体最適の視点が生まれない、結果として業績が落ちる事態に繋がってしまいかねないのです。
そうした際に、問題を解決するために組織横断的なプロジェクトを立ち上げて解消を試みたりすることが多いのです。しかし、他部署を知らない人同士が話し合いをしても各々が部分最適を追求してしまい、結局はなかなか生産的な話し合いができないようです。
こうした問題は前述のデメリットよりもさらに大きなマイナスをもたらしてしまうと考えていますので、やはり異動は必要というのが私の考え方です。
最後に、前述の「専門性の関係で異動させたくても異動させることができない」に関しては、以前このブログである製造業で開発部やで技術職として働いていた方々が人事部に異動したことにより、文系出身では簡単にはできないような統計手法を使って採用人数の提言を上層部に行い、成果をあげた例について書いています。参考にご覧ください。(「製造業の人事部に理系を配属する意味」(製造業の人事部に理系を配属する意味)
さて、来週からいよいよ新年度が始まります。新天地に異動される皆さんには一抹の不安もあるかもしれません。しかし、ぜひ、異動のメリットを発揮できるよう頑張っていただきたいと陰ながらエールを送ります。