採用担当者:「あなたは何ができますか?(どういうことで会社に貢献してくれますか?)」
応募者「部長ができます」
これは、昔バブルがはじけた頃にリストラされた、ある中高年の再就職活動の中での発言です。本当にこのようなやりとりがあったのか、真偽のほどはわかりません。しかし、中高年の人たちが長年勤めた会社から思いもよらずに退職勧告をされた後の再就職活動の際に、自分の強みが言えずに困っている様子をよく表しているやりとりだと思います。
最近、中高年の知り合いが企業からリストラされた後、長い就職活動を経てようやく就職先が決まったという話を聞きました。彼は文系の大学を卒業後メーカーに入社し、営業一筋、真面目にコツコツと働いてきたそうです。しかし、1年前にいきなり退職勧告をされたとのことでした。
「こういう話はこれまでにもいろいろ聞いてきたけれど、まさか自分の身に降りかかるとは思っていなかった。長年、真面目にやってきたし、毎年ではなかったけれど営業数字もまずまず達成してきたつもりだったから」とのことです。さらに、彼は続けて次のように話してくれました。
「再就職活動は想像以上に大変だった。でも一番ショックだったのは、人に語れるような自分のキャリアがなかったこと。法人営業ができますということ以外に、自分のキャリアで人に言えることが何もなかったんだ」とのことでした。これは彼に限った話ではないと思いますし、冒頭の「部長ができます」という話と同じことだと思います。
ビジネスパーソンが所属していた会社で、長年一所懸命に働いたにもかかわらず、結果として他社で役に立つような知識やスキル・経験など、いわゆるポータブルスキルが獲得できていないのです。では一体なぜ、こういうことが起きてしまうのでしょうか。
それには、日本特有の新卒一括採用などの原因もあるかと思いますが、もう一点思うのは、ビジネスパーソン自身に危機意識がないのではないかということです。
もはや終身雇用の時代ではなくなったと言われて久しいです。しかし、それにもかかわらず、目の前のことで一杯一杯になっていて、自分のキャリアをどのように作り上げていくのかについて全く意識していないビジネスパーソンが実に多いです。
弊社が担当させていただく研修の中で行っている自己診断で、受講者の回答の数値が相対的に低くなる設問の一つに「自己啓発(仕事に関連する本を読む、セミナーを受講するなど)に努めているか?」があります。低い点数になってしまう理由を尋ねると、「目の前の仕事が忙しい」、「家に帰ると疲れてしまっていて、何をする気にもなれない」とのことです。
ほとんどの方は、実際にそのとおりなのだろうと思います。
しかし、会社のためにそこまで努力して働いたとしても、では20年後30年後に会社が面倒を見てくれるかどうかは、残念ながら定かではないと言わざるを得ないのが現実です。
「ポータブルスキルを身に付けることは自己責任」と言われるようになって20年以上もたつのに、あまりに危機意識が薄いビジネスパーソン。ここを何とかしないと、今後も冒頭のやりとりが繰り返されるのではないでしょうか。
話は変わりますが、NHKの朝のドラマ「ひよっこ」はいよいよ今週末で終わってしまいますが、皆さんはご覧になっていますか。
本日はバスの車掌をしていた次郎さんがキャリアチェンジに向けて動き出していることがわかりました。バスがワンマンカーになり車掌の仕事がなくなってしまった次郎さんは、何と奥茨城の町長戦に出馬したということです。危機意識を持って準備していたわけではないでしょうが、実際に車掌から町長への華麗なる転身ができるかどうか・・・それはまだわかりません。が、これもキャリアチェンジの形でしょう。
さて、「忙しい、忙しい」が口癖になってしまっている方は自分を次郎さんに置き換えたら一体どうするのか、「ひよっこ」は後3日で終わってしまいますが、考えてみるのもいいかもしれません。