中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第1,242話 マイクロアグレッションをしていないか

2024年11月27日 | コミュニケーション

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「事あるごとに、『て言うか、〇〇だよね』と言われてしまうんです」

これは、先日弊社が担当させていただいたコミュニケーション研修の際に、20代の受講者Aさんから相談をされたときの言葉です。

具体的に話を聴いてみたところ、AさんがB上司に業務の報告をすると、毎回冒頭のように言われてしまうのだそうです。Aさんとしては事実関係とそれについての考えを整理してきちんと報告しているつもりなので、「て言うか・・・」と連発されてしまうと自分を否定されているような気持になってしまい、話を続ける気持ちがすっかり失せてしまうとのことです。

この「て言うか・・・」は、元々は「と、言うか・・・」や「と言うよりは・・・」と表現するところを縮めた言い方だと考えられますが、相手の発言や提案を否定する意味合いを持っています。言っている本人は「そんなつもりはない…」と考えているのかもしれませんが、これを繰り返されると言われている方としては否定され続けているように感じられてしまいます。同時に話を続ける気持ちがだんだんと失せてしまい、やがては自信すら喪失してしまうことになりかねないことが心配されます。

これに関して、最近「マイクロアグレッション」という言葉を耳にするようになりました。マイクロアグレッションとは、「小さい」を意味する「micro(マイクロ)」と「他者への攻撃」を意味する「aggression(アグレッション)」を組み合わせた言葉で、直訳すると「小さな攻撃」と言えます。個人と個人の間のミクロな関係に注目した概念なのですが、B上司はAさんに対してまさにマイクロアグレッションをしていたのかもしれません。

このマイクロアグレッションの背景にあるのが、以前本ブログでも取り上げたことがある「アンコンシャスバイアス」(無意識の思い込みや偏見)です。これは無意識の思い込みや偏見によって、本人にはそのつもりはないけれども他者を傷つけてしまうということです。そのように考えると、冒頭のB上司からAさんへの発言は「アンコンシャスバイアスに基づいたマイクロアグレッション」(無意識の思い込み・偏見による小さな攻撃)に当たると言えるのかもしれません。たとえばBさんは自分よりも上の立場の人や顧客の発言に対しては「て言うか、〇〇だよね」と言うことはないはずです。

それでは相手の発言と自身の考えが異なる場合に、上記のような状況にならないようにするためには、どのように表現したらよいのでしょうか。

それには、相手の意見をいったん最後まで聴いたのちに、「Aさんは○○のように考えたんだね。私の考えはAさんとは少し異なっていて、△△のように考えるけれど・・・」などと言えば、相手が受ける印象は冒頭の例のような頭から否定されたようなものとは全く違ってくるのではないでしょうか。

B上司のように「て言うか、〇〇だよね」を連発している人は、それが自分の口癖なのだと考えるだけでなく、その根底には「無意識による小さな攻撃」があるのかもしれないということを認識することが大切です。

このブログでもこれまで何度も書いてきているように、人と人のコミュニケーションはとても大切なものですが、それゆえに難しいものでもあります。自身の言葉が相手への小さな攻撃になっていないかどうか、一度自身を振り返ってみてはいかがでしょうか。

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第1,241話 情報のファクトチェックとは

2024年11月20日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

記者:「それはファクトなんですか?」

返答者:「それはわかりませんが、作り手(ユーチューバー)が調べていると思いますよ!」

去る11月17日に行われた兵庫県知事選挙の結果判明後に、テレビ局が街頭インタビューをした際のインタビュアーと答え手の間で、このようなやりとりがなされていました。

職員へのパワーハラスメント疑惑等で県議会から不信任を決議され、失職した知事の出直し選挙でしたが、その結果は前知事が再選されました。前述の街頭インタビューでは、知事を支持した人が「ユーチューブではパワハラはなかったと言っている。テレビの報道がいい加減だ。テレビは信用できない」と興奮冷めやらぬ様子で語っている姿が報道されていました。私自身はこれらのユーチューブを見たわけではありませんが、話の様子からはマスコミ等で報道されていたものとはかなり違った内容であると想像できます。これを含め、今回の一連の流れを見ていて改めて思ったことは、自分が目にする情報には事実がどうかわからないこと・間違っていることが含まれている可能性も否定できず、自分で情報の取捨選択をできるようにならなければならないということです。

インターネット上で膨大な情報が発信されるようになり、SNSをはじめとして私たちの身の回りには様々な情報があふれかえっている状態だと感じています。その情報はまさに玉石混合で中には明らかな間違いや偽情報が含まれており、そうした誤情報や偽情報を信じてしまった結果、誤った判断や行動をしてしまう例も少なくないようです。

日本ファクトチェックセンター(JFC)が国際大学グローバル・コミュニケーション・センターと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%だったとのことです。人は誰でもバイアスがあって、情報が自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向があるということです。

前述のインタビューに答えた人も、ユーチューブの内容が事実なのかどうか(少なくともマスコミで報道されていることと違うのはなぜなのか)を自身で考えることなく、頭から正しいと信じているように見えました。

インターネット上の真偽の不確かな偽情報や誤情報に振り回され、間違った判断や行動をしないようにするためには、情報の真偽を検証するファクトチェックを行うことが重要であり、最近では総務省も「ファクトチェック」の推進をしているとのことです。

弊社が担当させていただいている研修でも、インターネットから入手した情報を参考として受講者に提示する機会が時々あります。これまでも情報元の組織や概要を調べることはしていましたが、私自身もその際に自身のバイアスに基づいて情報を判断していることも確かです。

情報はファクトであって初めて意味をなすものであり、誤情報は人の判断を誤らせるものであるとの認識のもと、これまで以上に情報のファクトチェックを怠らないようにしなければならないと思っています。

もちろん、個人でできるチェックには限界があるとは思いますが、それでも何かの情報に接したときに、わからないことがあったり、ちょっとでも疑問を感じたりしたら「これは本当に事実なのだろうか?」と一旦冷静になって、考えてみることが大切だと改めて考えています。

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第1,240話 対象に関係なく、教えたり指導したりする側にとっての大切なポイント

2024年11月13日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「Aコーチが良いから来ています」

これは私が通っているスイミングスクールの若い仲間が語った言葉です。スクールには老若男女様々なメンバーがいるのですが、長期間通っている人が多く各々の技量の向上に向けて毎週練習に励んでいます。その中の一人が1年前に練馬区に引越しをしたのですが、引き続き品川区にあるこのスポーツクラブまで毎週遠路電車を乗り継いでやってきていて、その彼が語ったのが冒頭の言葉なのです。

彼の言うとおり、我々のAコーチはなかなかに魅力的な人です。具体的には、まず説明がとてもわかりやすく、理論に基づき一挙手一投足の動きを説明してくれるため、我々も十分に納得した上でそれを実践することができるのです。Aコーチは50代だそうですが、現在でも定期的にレースに出て良い成績を挙げていて、経験に裏打ちされた説明には説得力があります。

また、Aコーチはメンバーに一律にコメントをするとともに、個々へのフィードバックがとても豊富です。コーチのコメントに基づき改善できた泳ぎができると、その瞬間に水中で親指を立てて「グッド」を示してくれることもあり、こちらも正しく改善できたことが即座に理解できるのです。そして、25m泳ぎ終えるたびに、「○○さん ここが良くなったですね。あとはこの点をこのようにすると、さらに良いですよ」と言うなど、とても褒め上手でもあります。

さらに一貫して明るく、「必ずできる」といった雰囲気で接してくれるため、たとえ難しい課題を与えられてもこちらも前向きな気持ちなって、俄然モチベーションが上がるのです。現在はメンバー全員に「年末までにバタフライ50m完泳」という目標が与えられていて、毎週それに向けて努力しているのですが、皆、達成できそうな気持になってきています。

このようなAコーチの指導を毎週受けるたびに、私も「教えることとはこのようなことか」と改めて実感しています。知識やスキルを伝えることに加え、やる気にさせることがいかに大切かを改めて感じています。

これらは様々な組織における上司から部下へ、先輩から後輩に仕事を教える際にヒントとなるところが多いと感じます。同時に私が日々担当している研修でも、「Aコーチのようにできているだろうか」と自身で振り返るきっかけにもなっているのです。

一方で、私が担当している研修や職場での指導と、Aコーチをはじめとするスポーツ競技などでの指導では、条件が大きく異なる点があると考えています。

それは、教えられる側のモチベーションの高低です。スポーツなどの監督やコーチが指導する選手は、そもそもその種目に対するやる気が高い人達です。サッカーやラグビーなどの球技スポーツも、駅伝をはじめとする陸上競技であっても、「レギュラーになりたい、試合に出たい」という強い目標があると思います。同じ意味で私が通うスイミングスクールの受講者の多くも、「もっと楽にもっと長く泳げるようになりたい」という前向きな気持ちを持っていて、そもそもモチベーション高い人たちです。

そのように考えると、Aコーチの指導が職場や研修においてすべてが活用できるというものではないとは思います。しかし彼の行っていることは教える対象がどういう人であっても、教えたり指導したりする側にとっての大切なポイントをしっかりと押さえていると思いますので、私も研修講師としてAコーチのようでありたいと考えています。

「教える」ことは実に奥が深く、やり方も一つではないでしょうが、それ故に追求し続けるべき課題であると考えています。

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第1,239話 できない理由を雄弁に語っていないか

2024年11月06日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

弊社ではコンサルティングの相談をいただいたり、研修終了後に質問をいただいたりした際に、こちらから提案をさせていただくことがあります。

その際に「やってみます。アドバイスをありがとうございます」と答える人もいらっしゃいますが、多くの場合はそこでその提案ができない、することが難しい理由を語り始められるのです。

その理由として挙げられるのが、「私はぜひその方法を取り入れたいと思うけれど、うちの社員はとても忙しいので、新たなことを取り入れるのはなかなか難しい」。また、「一般的な業界であればその方法はうまくいくと思いますが、うちの業界は特別だから、そのやり方を取り入れるのは難しい」などなど、「できない理由」を理路整然と、ある意味で実に「雄弁」に語られるのです。

そのような場面では、私は「できない理由」を一通りお聞きした後で、「それでは、今の状態を続けるのが宜しいかと思います」とやんわりとお伝えすることがあるのですが、そうすると今度は「先ほど教えていただいた方法より、もっと簡単にできる方法はないでしょうか」と質問されるのです。しかし、組織で新しいことを始めたり職場の問題を解決したりすることは決して簡単なことではありませんので、本気でそれを解決したいと思うのであれば、時間をかけて真剣に取り組まなければならないことは言うまでもありません。

それでは、そもそもコンサルティングの相談をされる人や研修終了後に熱心に質問されたりするような人が、なぜ「できない理由」を雄弁に語られるのでしょうか。

その理由は様々あるのだと思いますが、一つには課題の解決に相応の時間と労力をかける「覚悟」ができていない、あるいはその権限などがないため、まずそれができない理由を挙げた上で、次に簡単に効果が得られる方法を知りたいと考えられているように思います。

しかし、前述のとおり組織で何か新しいことを導入したり職場の問題や課題を解決したりするには簡単な解決策はないのが実際のところです。本当に解決をしようとするのならば覚悟をもって真剣に取り組む必要があると私は考えているのです。

また、「この業界は特別だから」とおっしゃっている人の話をよくよく聴いてみると、ご本人がおっしゃるほどには特別ではないことが少なくないということは、長年様々な組織の話を聴いてきている中で、私が感じていることでもあります。

このように、できない理由を雄弁に語られる場面に出会ったときに私が思い出す言葉の一つに、「沈黙は金、雄弁は銀」というものがあります。これは19世紀イギリスの歴史家・評論家であるトーマス・カーライルが広めたとされる言葉で、その意味するところは「時として多くを語らない方が良い、つまり沈黙を保つことにこそ価値がある」という状況が存在することを示唆しているものです。

この言葉の意味するところを踏まえると、問題や課題を解決するためや、新たなことに臨むにあたっては、まずは「できない理由を雄弁に語る」ことに終始するのでなく、「どうしたらできるのか」をじっくりと「沈黙して」考え、具体的に取り組んでいくことが必要なのではないかと考えています。

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