「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
「夫のアメリカへの転勤に伴うため、退職することにしました」、「転勤する前に同じ職場だった夫と社内結婚をしましたが、遠方のため当初から別居結婚でした。夫の転勤があと3年はかなわないことがわかりましたので、この度私が退職して一緒に暮らすことにしました」
これは先月末に別々の企業に勤める2人の女性からそれぞれ聞いた言葉です。2人は人事部に所属していましたが、とても優秀な社員で生き生きとした表情で活躍し、将来を期待されていました。そういう2人が同じタイミングで退職という決断をされたため、連絡を受けたときは、正直驚きました。
夫の転勤への同伴を理由に、女性がそれまで築いてきたキャリアを断念せざるを得ないことは、本人のみならず組織にとっても大きな損失です。特に女性自身の希望とは異なるわけですから、苦渋の決断をしなければならなかったことは非常に残念だと思います。
近年、さまざまな組織において社員の異動をどのように考えるのか、活発な議論が交わされるようになっています。転居を伴う異動を敬遠する人も少なからずいることから、そうした人から選ばれる組織になるためには、全国への異動はさせず地域を限定して異動させたり、また、異動を受け入れる社員に対しては報酬面で優遇したりと、いろいろと工夫をする組織が増えています。世の風潮としては転勤を見直す方向に動き始めているようですが、それでは今後、転勤は減少へと進むのでしょうか?
これに関しては、簡単に答えを出せるものではないと思います。それは、転居を伴う異動の目的は組織により様々だからです。一般的に、異動を行う目的は人材育成をはじめ、ローテーション、組織の活性化、転勤先の社員の教育、社員のモチベーションの向上、顧客開拓など、実に多様です。これらの目的を達成する手段は他にもあるかもしれませんが、異動による効果は大変大きいこともあり、多くの組織で取り入れられてきた経緯があります。
私は以前に異動を積極的に行っていない企業の研修を長期にわたり担当させていただいたことがありますが、それによるプラスの面もある一方、マイナス面も多々顕在化していると感じました。マイナス面の一番には、セクショナリズムがありました。異動がなく一つの部署に居続けることで、自部署のことには精通する反面、他部署との交流が限られてしまうことから「垣根」ができてしまうのです。その結果、部署ごとに部分最適の視点のみで仕事をしてしまい、全体最適の視点が生まれにくいのだと感じました。その企業では、マイナスを解消し社内を活性化するために、部署横断的なメンバーを集めプロジェクトチームを作ったり、レクリエーションを行ったりしましたが、部署の壁を超えることは簡単ではなかったようです。
このような企業の実例を知っている者としては、組織における異動によるメリットはデメリットをはるかに凌ぐものだとは考えていますが、一方でそれによって冒頭の例のように、女性がキャリアを中断せざるを得なくなることはとても残念だと考えています。
それぞれの家庭の事情や人生観なども関わることから、それぞれがどのように折り合いをつけるのか、その答えを見つけるのは簡単なことではありません。
しかし、「女性の活躍」が叫ばれている中、また今後ますますそれが求められていくであろう中、組織はこうした問題をどのように考え対応するのか、個人はどのように決断するのか、今後も議論は続きそうです。