意思決定(decision making)とは、人や組織が複数の代替案の中から最善の解を選ぶことです。その言葉から連想するのは、合理的で断固とした判断を下す主体的な意思です。意思決定論はH.サイモンから始まり、経営学や心理学、経済学など広い範囲にわたって研究されてきました。経営大学院(MBA)で意思決定論を学べば、ビジネスにおいて常に正しい決定を下すことができそうな気がします。
意思決定のための手法は様々ですが、ゲーム理論やファイナンス理論で使われる数理的な手法が意思決定論の基礎になっています。ビジネス上の意思決定は、選択肢それぞれが持つ期待値を計算し確率的に最も利得が高いものを選ぶ、ということにつきます。そのため、全く未知の条件を選択肢に加味してしまうと、利得の計算が難しくなります。そこで、そうしたナイト流の不確実性(確率分布が未知のもの)が存在するときは、一部分を意思決定者の勘にゆだねることになります。
ビジネスの場で日々直面する意思決定においては、ほとんどが明確な選択肢と合理的な期待値が示されていると言ってよいでしょう。経営大学院(MBA)で意思決定論が人気を集めているのもそのためかもしれません。
ただし、経営者層となるとそう簡単にはいきません。合理的な利得を見積ることができない決定事項が増えてくるからです。その時にMBA流の意思決定論はどのくらい役に立つのでしょう。
その答えは「わかりません」。なぜなら「確率分布が未知の不確実性」だからです。
その時は経営者の決断力に頼るしかありません。
意思決定論で学ぶのが「選ぶ」ことなら、決断とは「断つ」ことです。断つことによって生じる様々なやっかいごとを全部引き受ける気持ちの強さ(あきらめの良さ)がなければ、経営者としては三流でしょう。
decisionには「決断、決心、裁断」という意味があります。昨今、不祥事を起こした大企業のトップや自治体の長の振る舞いを見ていると、果たして日々「決断」していたのだろうかと疑問を感じてしまいます。
おそらく、その場その場の合理性に基づいて意思決定をしてきたのでしょう。しかし、そうした行為の集積が結局は組織を弱体化させてしまっています。
そう考えると、decision makingを意思決定と訳して果たしてよかったのか疑問をいだきます。MBA流の「合理的な選択のテクニック」が意思決定論だとした、それはむしろ新人や若手社員が学ぶべきことです。
管理職、経営者が学ぶべきは本来のdecision makingです。
アカデミックな方面からお叱りが来そうですが、最近のニュースを見るにつけ、MBAで意思決定論を学んでもあまり役に立たないのでは?などとつい考えてしまいます。
(人材育成社)