劇場の中で一番前にいる観客が、舞台の上の役者がよく見えないからといって立ち上がったらどうなるでしょう。二番目にいる人は見えなくなってしまうので、立ち上がって見ようとします。するとその後ろの人も、そのまた後ろの人も・・・結局全員が立ち上がってしまいます。
個人個人が自分の利益を最大化するように行動すると、社会全体ではかえって利益が損なわれてしまうことを「合成の誤謬(ごびゅう)」と言います。合成の誤謬は、経済学の入門レベルで必ず学ぶ概念です。
ところが、頭では分かっていても実際の人間の行動の多くは合成の誤謬を引き起こします。
自分が持っている仕事のノウハウを一切部下や後輩に教えない、という人がいます。「苦労して身につけたノウハウは自分ひとりの財産」、だから他人には絶対教えないというわけです。
確かに努力して身に付けたものであることは間違いありませんが、それは先輩たちが積み上げてきたものの上に成り立っていることを忘れてはいけません。
しかも、会社から給料をもらっているわけですから、コストは会社が負担していることになります。つまり、そのノウハウはコスト負担者である会社の所有物(資産)なのです。
もしも部下や後輩にノウハウを移転せずに職場を去るようなことがあれば、それは会社の資産を持ち逃げしたのと同じことです。
あなたが「仕事のできる人」で、たくさんのノウハウを持っているなら、社内のたくさんの人に教えてあげてください。
その結果、社員全体の能力がアップし、成果物としての利益も大きくなります。(その逆を考えれば、会社および自分自身がいかに損をしてしまうかが分かると思います。)
合成の誤謬を避けるには、社内の誰にでも快く「教える」ことです。
「教え合う会社」は絶対に伸びます。
(人材育成社)