「異動が決まりました。後任は○○です」
毎年、この時期になると、お客様からこのようなご挨拶の連絡をいただきます。
異動の連絡をいただくと「出会いは別れの始まり」とはよく言ったものだと、こちらも少々感傷的な気持ちになります。後任の方との新たな出会いの楽しみはありますが、せっかく築いた人間関係が異動によって途切れてしまうことへの一抹の寂しさも感じます。
春は異動する人が新たな門出を迎えるだけでなく、残された人にとっても出会いと別れの季節なのだなと、今更ながらに思うのです。
しかし、現実問題として毎年この時期には、前任者から後任者への仕事の引継ぎがきちんとされていないことにより、大なり小なりの行き違いが発生することも有り、特別なエネルギーを使うように感じます。
たとえば、新年度に行う研修の内容の打合せを前任者と終えていたとしても、異動を挟むとそれが後任者にきちんと伝わっていないのです。そのため一から打合せをし直さなければならないことが多いです。
また、数年間継続して依頼いただいている研修については、紆余曲折があって現在の内容になっているのにもかかわらず、その経緯がきちんと引き継がれていません。その結果、後任者から質問をいただくことも多く、こちらが経緯をお伝えしなければならなくなってしまいます。
こうした場面に出くわすと、「一体、引継ぎはどうなっているのだろうか?」と心配になってしまうのですが、実際の引継ぎの様子を聞くと、引継ぎ期間は想像以上に短いようです。双方が忙しい中で引継ぎをしなければなりませんから、短時間でしかも口頭のやりとりで終るようです。異動した人はさらに新天地での引き継ぎも受けなければなりませんから、どうしても細かい内容までは引継ぎできず、結局「あとはよろしくやって!」ということになってしまうことが多いとのことです。せめて、「未了案件」だけでも文書できちんと引き継いでもらえればと思うのですが、話を聞いていると、簡単にはいかないことが伺えます。
「どうして引継ぎが上手く進まないのか」、これは今に始まった話ではありませんので、これまでいろいろな人に尋ねてみたところ、理由は大きく次の2点に集約できるようす。
1点目は、自分の仕事の分析がきちんとできていないことです。目の前の仕事を作業として取り組むことはできても、全体を俯瞰し細かい部分を分析するほどまでには深く精通していない。数年間も担当してきた仕事であるのにもかかわらず、引継ぎの際にその仕事を作業に分解したり、内容を的確に説明したりすることができない。そのため、どうしても口頭で簡単に説明するだけの引継ぎになってしまうというわけです。
2点目は、引継ぎが個人任せになっていて組織やチームで対応していないため、人によって引継ぎのレベルに差が生じてしまっています。同じ組織でありながら丁寧な引き継ぎ書を作成する人がいる一方で、口頭で簡単に済ませてしまう人も出てくるわけです。
弊社がコンサルテイングを担当させていただいている企業では、引継ぎをする際には引き継ぎ書の定型のフォームを決めて、必ずそれに記入することをルールにしていただいています。
文書にすることで、前任者にとっては、あらためて仕事を俯瞰し整理してまとめることができます。また、後任者もとっても、文書になっていれば全体像も把握しやすく、さらに引継ぎが終わった後でも、何度でも細かい点まで繰り返して確認することができる利点があるのです。
つまりは、引継ぎがスムーズかつ効率的に行えるわけで、口頭で「あとはよろしく」では決してそのようには行きません。
大きな組織であればあるほど、異動する人数も多くなるわけですから、スムーズに引継ぎができるかどうかは、組織全体の効率にも大きな影響を及ぼすことになります。
多くの組織では明後日に2016年度の最終日を迎えます。「立つ鳥跡を濁さない」ためにも、引継ぎは個人任せにするのではなく、組織でルールを決めて行うことをお薦めいたします。