神戸製鋼所の検査データの改ざん問題は、JIS認証の取り消しという製造業にとっては致命的な事態にまで至りました。このところ、日産やSUBARUの無資格者検査問題など、日本を代表する大手製造業の不正が連日のように報じられています。世界に誇る高品質と信頼性の代名詞「メイド・イン・ジャパン」は過去のものになったのでしょうか。
私は10年ほど前、「組織風土と不祥事に関する実証分析」という論文(共著)を書きました※1。その際、日本企業の過去の不祥事を調べたのですが、製造業の品質に関する不祥事は決して少なくないことに少し驚きました。そのとき、日本のものづくりは海外が評価するほど優れているとは言えないのではないかと思いました。優れていると見られているのは、単に他の国がひどすぎるからではないかと思うほど多くの不祥事がありました。
なぜ品質に関する不正が後を絶たないのかは、新聞や雑誌、ウェブの記事等で多くの学者や評論家が様々な意見を述べているので、そちらをお読みいただきたいと思います。ここでは今後このような不正を生じさせないようにするには、どうすれば良いのかを考えてみます。
よく耳にする方法は、検査基準を厳しくすることです。今までどちらかと言えば「性善説」で管理していた工程を「性悪説」に立って「不正があるもの」として厳しく検査するやり方です。これは経済学で言う「モラルハザードに対するモニタリングの強化」にあたります。確かに効果はありますが、弱点もあります。モニタリング(検査や監視)のコストが大きくなること、モニタリングを行う人にモラルハザードが生じる可能性があることです※2。
私は、どれほど厳しく検査をしても、企業の不正をゼロにすることはできないと思っています。ゼロにするためには企業活動を一切止めてしまうしかありません。ちょうど自動車事故をゼロにするために、自動車の使用を禁止してしまうようなものです。
そこで、自動車の強制保険と同じように「不正保険」が解決策のひとつになると考えています。すべての企業に「不正保険」を義務付け、不正が元で生じたトラブルによる損失の一部を保険金でカバーするのです。掛け金はすべて企業の負担とします。トラブルが生じなかった場合は次回の保険料が安くなります。この保険の特徴はPL保険やリコール費用保険、生産物品質保険と違って、欠陥や過失ではなく「不正」に対する保険です。
「不正行為がばれても保険があるなら、企業は”安心して”不正を行ってしまうじゃないか。」と思われたかもしれません。しかし、不正が発覚すれば次回の保険料がべらぼうに高くなります(しかも強制です)。また、企業内で不正があると確認されたら、保険でカバーできるので「いつまでも隠しておくのは損だ。早いうち明らかにしてしまおう」というインセンティブが働きます。
ここで重要な役割を担うのが保険会社です。保険会社は、不正が生じる可能性を事前に調べて、企業ごとに保険料を設定します。保険金の支払いによる損失が生じないよう、徹底的に調査を行うことでしょう。その際、少しでも怪しいとなれば高額の保険料を設定するはずです。もし、どの会社も保険を引き受けないとしたら、強制保険のない車が運転できないのと同じように、その会社の製品は販売することができないようにします。
メリットは次の3つです。
(1)製造業者は不正が元で損失が生じても保険でカバーできる
(2)国や公的機関は不正防止の事前調査を保険会社に任せることができる
(3)消費者は保険料率を見て製品の品質を判断することができる
・・・いかがでしょうか。