中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第1,176話 退職理由は「自己実現」?

2023年07月26日 | キャリア

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「自己実現のためです」

これは、最近ある企業において退職を表明した人(若手社員)の理由です。この例に限らず、弊社が新入社員研修や若手の社員研修を担当させていただいている企業でも、研修の受講者として私がお会いしたことがある人が退職する際に、この言葉が理由として挙げられることが多いとのことです。

「自己実現」とは具体的にどういうことを指すのか、あらためて辞書で確認してみたところ、「自分の中に潜む可能性を自分で見つけ、十分に発揮していくこと、それへの欲求」とあります。

この自己実現ですが、提唱者として有名なのがアメリカの心理学者アブラハム・ハロルド・マズロー(Abraham Harold Maslow)です。マズローは、「欲求5段階説」では、「人間は自身の自己を実現するために行動する」という前提にもとづいて、人間の欲求はピラミッドのような構造を持ち、低階層の欲求が満たされれば、さらに高次の階層の欲求を満たすように行動すると述べています。具体的には、第一段階の生理的欲求に始まり、第二段階の安全性の欲求、第三段階の社会的欲求、第四段階の承認欲求、そして最高峰の第五段階として自己実現の欲求としています。自己実現の欲求は「自分の人生観に即したあるべき自身」を実現したいという欲求なのです。

そのように考えると、退職の理由が自己実現というのは目標に向けた一歩を踏み出すということになることから、気持ちよく送り出してあげたいと思うのですが、一方で気になることもあります。それは、退職する際に「本当の理由を伝えてもメリットがない」という理由で、敢えて本心を言わずに組織を去る人が43%もいるというデータがあるからです。2022年に株式会社エン・ジャパンが行った調査によると、退職の本当の理由は「人間関係が悪い」35%、「給与が低い」34%、「会社の将来性に不安」28%・・・などだそうですが、実際に組織に理由として伝えたのは、「新しい職種にチャレンジしたい」30%、「別の業界にチャレンジしたい」18%などです。本当の理由を伝えなかった理由としては、「円満退社したかった」43%、「話しても理解してもらえないと思った」36%が続くそうです。

冒頭で紹介した例の、「自己実現のため」という理由の真偽のほどはわかりませんが、本当に自身の可能性にかけて新たな世界に進んでいくということであるならば、今後の飛躍を心から応援したいと思います。

一方で、入社からまだ数年ほどしか経っていないのに、自己実現を求めて新たな世界を目指すというのは、少々決断が早すぎるのではないかと思わなくもありません。もし退職の本当の理由が職場や仕事への何らかの不満や不安であるのならば、組織としても彼らがその決断をするまでに打てる手は少なからずあると思いますし、今の仕事を通じて自己実現できることも必ずあると思うからです。

上司や先輩社員が積極的にコミュニケーションを取り、若手社員が悩んでいることや困っていることを聞き相談に乗りながらしっかりフォローをし、同時に自分の仕事の面白さにも気づいてもらう。あわせて、組織としても改善すべきところは改善をして、また将来の展望を明確に示すなどを通じて、若手の不満や不安にきちんと向き合っていく。企業の将来を背負っていく大切な存在である若手社員の早期退職という事態を極力少なくしていく、そのための努力がこれまで以上に求められているのだと考えています。

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第1,175話 褒められることを、求めすぎていないか

2023年07月19日 | コミュニケーション

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「他者から褒められたときです」

これは、弊社が研修を担当させていただいた際に、演習等で「仕事において、やる気が出るのはどういうときか」を考えてもらう際に、多くの受講者が口にする答えです。

確かに、他者からほめられたり認められたりすると嬉しい気持ちになったり、前向きな気持ちになったりするのは年代に関係なく、共通するところだと思います。私の祖母は104歳まで元気に手芸を嗜みながら暮らしていましたが、手先の器用さや手作りした品を周囲にプレゼントしていることを周囲が褒めると、とても嬉しそうな表情をしていたことを覚えています。また、私が子どもの頃に飼っていた犬は17年生存しましたが、老犬になってから長老であることを市から表彰されたときは、誇らしげな表情になっていたように感じました。

このように考えると、褒められると嬉しいと感じるのは、私たち人間を含む生き物の本質なのかもしれません。

学術的には、動機付け理論の大家のエドワード・L. デシ(Edward L. Deci)が「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の関係性を理論化しています。内発的動機付けには3点の方法を示していますが、その一つが「他者受容感」です。他者受容感とは、周囲の人から「受け入れられている」と感じる気持ちであり、「自分自身がどれだけ他者や社会の役に立つことができるか」という感覚とされています。褒められることによって、他者や社会の役に立てていると感じることができるため、やる気やモチベーションが上がることにつながっているのだと思います。このように、「役に立っている」ということを周囲から告げられたり、褒められたりすることで前向きな気持ちになれるのは、とても素敵なことだと思います。

しかし一方で、最近私は他者から褒める言葉をかけてもらうことだけでなく、自分自身を客観視して「以前よりもできるようになった」、「私なりに頑張った」というようなことを自らが評価して、それ肯定的にとらえ、やる気を上げられるようになるということも、同じように大切なことなのではないかとあらためて考えています。

振り返れば、1996年アトランタ五輪女子マラソンで銅メダル手にした有森裕子さんが、ゴール後のインタビューで「自分で自分を褒めたいと思います」と話していました。当時流行語にもなるほど多くの人の共感を呼んだ言葉でした。最近では「頑張った自分へのご褒美」として、好きなものを買ったり、おいしいものを食べたりといったコマーシャルなどを目にする機会が増えてきているように思いますが、今の社会の「空気」のあらわれではないかと感じているのです。

他者から褒められることはとても嬉しいことであり、ありがたいことでもあります。しかし、それがないと不安になってしまったり、いつでも他者からのほめ言葉を待っているようになってしまっては、ある意味での他者依存の状態になってしまうのではないかと、少々心配になってします。

このブログでもこれまで何度も人材育成の観点から、たとえば上司や先輩社員の役割について触れる中で、「褒める」ことの大切さをお伝えしてきています。それはこれからもますます重要になっていくと思っています。しかし、同時に他者からの誉め言葉は「もらえたらラッキー」というくらいに考え、過度に気にしすぎない、あわせて、自分で積極的に自己を評価し、がんばったときにはきちんと肯定し褒めていくということが、自身を成長させるうえでも、大切なのではないかと考えています。

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第1,174話 「ホワイトすぎる」対応も不安にさせる

2023年07月12日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「仕事が何となく物足りないのです。社会人とはもっとバリバリ働くものだと思っていたので」

これは最近、弊社が若手社員を対象とした研修を担当させていただいた際に、研修終了後に相談されることが多い内容です。

詳しく聞いてみると、職場に配属後、上司をはじめ先輩達は忙しそうに働いているのにもかかわらず、自身はまだ担当する仕事があまりなく、また残業になることもほとんどないことから、そのことが物足りなく感じてしまうのだそうです。また、学生時代の友人の中には、既に複数の顧客を担当したりプロジェクトのメンバーに入ったりするなどしていて、どんどん成長している。一方の自分は、今は少々ぬるま湯の中にいるような感じすらして、このままの状態が続けば友人たちとの差は広がる一方のように感じ、自身の将来に不安を感じてしまうとのことです。

少々贅沢な話のようにも思えますが、これはここ最近話題に上ることが増えている、いわゆる「ホワイト企業」のことを言っているように思われます。かつて長時間労働の企業を「ブラック企業」と評したことがありましたが、ホワイト企業はその反対を指す意味で近年使われるようになりました。具体的には、仕事量をはじめとして若手に配慮をした結果、若手社員にとっては仕事の難易度が低すぎると感じられたり、仕事の絶対量が少ないために不安にさせたり、やる気を削いだりしてしまう企業や上司の対応のことを指しています。冒頭の受講者の悩みは、まさにこのホワイトすぎる対応によるものだと思います。

このような話を聞いた際には、上司や先輩に仕事量を増やしてほしいと具体的に話をしてみると良いのではとアドバイスをしているのですが、入社後半年から数年程度の彼らが自らそのような話をすることは少々ためらわれるようです。実際にそのような行動に移せる人はあまり多くはないように感じます。

しかしながら、こうした状態が長期間続いてしまうと、成長の実感が得られないことに不安を覚え徐々にモチベーションが下がってしまい、その結果離職につながってしまうというケースも実際にあるそうなのです。

それでは、こうした問題にどのように対応すればよいのでしょうか?「べた」な方法かもしれませんが、私は上司と若手社員が定期的、継続的に意見交換をする場を設けることが最初のステップだと考えます。そのような場を通じて、若手社員の考えや希望を聞きながら仕事量が適切であるかどうかを見極めて必要な対応を行い、それを繰り返すことで若手社員の成長の度合いを確認することもできるのです。もちろん、組織としてオフィシャルな面談の機会を用意しているところも多いと思いますが、若手社員の不安や物足りない気持ちに向き合うためには、もう少しカジュアルな雰囲気の面談を月に1回程度設け、フリーな意見交換をできる場があるとさらに良いのではないでしょうか。「昔は一緒に飲みに行けば、話を聞いていろいろアドバイスができたのに・・・」と思われる上司も多いのではないかと思いますが、今は昔ではありません。飲み会や飲ミュニケーションに頼るのではなく、双方が率直に話すことができる場を上司の方から積極的に設けていくことが「ホワイトすぎない」ためにも必要なのではないでしょうか。

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第1,173話 仕組みを根付かせるための、(株)キーエンスの根幹にあるものとは

2023年07月05日 | 仕事

「仕組みを作っても根付かない。時間の経過とともに、いつの間にか機能しなくなっている」

仕組みを作ってもそれがなかなか継続しないというのは、多くの組織に共通する悩みではないかと思います。職場で問題が生じた際に、解決策の一つとして挙げられることが多いのが「仕組みにする」であり、仕組みを万能薬のようにとらえている人も少なくないように感じます。

では、そもそも「仕組み」とは何なのでしょうか?辞書によると、「物事の組み立て、事をうまく運ぶために工夫された計画」とあります。つまり、組織において「仕組みにする」とは、たとえば異動や退職によって人が変わることがあっても、きちんと回るシステムを構築するといったことなのではないでしょうか。しかしこの「仕組み」、作ること自体も簡単ではありませんが、さらに大変なのは継続的に回し続け、きちんと組織に根付かせることです。

これに関して実際に仕組みを作り、それを徹底することにより驚異的な数字を出している会社があります。それは株式会社キーエンス(以下(株)キーエンス)で、時価総額14兆4,482億、平均年収 2183万円、売上高営業利益率55.4%、自己資本比率93.5%とのことです。(西岡杏(2022)「キーエンス解剖 最強企業のメカニズム」日経BP)

(株)キーエンスの仕組みは様々あるようですが、私が最も驚いたのは営業の仕組みです。その一部を紹介すると、毎夕先輩と後輩でペアを組み、顧客役と営業役に分かれて1000本ノックのようなロールプレイングを繰り返したり、5件以上のアポがないと外出が許されなかったり、さらに顧客との商談後には5分以内に外報と呼ばれる報告書を記入したりするのです。本書によると、こういった仕組みは営業のみならず、例えば代理店を通さない「直接販売にする」、「当日出荷にする」体制など、「付加価値を最大化する」という目標に向けた同社の仕組みはあらゆるところにあるそうです。

本書では、多くの企業では仕組みを構築したとしても維持継続が難しく、時間の経過とともに仕組みが壊れてしまうのに、(株)キーエンスがこれだけの仕組みを維持継続できるのはなぜなのかについても紹介されています。それによると、これらの仕組みをやりきる人材を育てる取組みや、そのベースにある風土、さらにはその源流をなす創業者の基本的な経営観や仕事観にも焦点が当てられています。ポイントは仕組みを表面的に真似するのではなく、そこに込められた「哲学」も真似するということだとされています。

しかし、入社してすぐにその哲学が浸透するわけではないことから、(株)キーエンスでは個人ではなくチームとしてより良い結果を残すことを目指して、部下の育成にも余念がないようです。こうした育成を通して社員に哲学がしっかり浸透し、それが組織の風土になっているのだと思います。このように(株)キーエンスでは個々の社員が自らやる気になるような内発的動機付けをしっかりと行い、同時に営業利益の一定割合を賞与として社員に還元するなど、外発的動機付けも徹底して行っているのだそうです。

どの組織もが(株)キーエンスのようになるのは簡単なことではないでしょうが、50年という社歴としてはそれほど長くはない時間の中で「哲学」をしっかり根付かせた(株)キーエンス。書籍を通して一部しか垣間見れていませんが、今後もますます目が離せない存在ではないかと感じています。

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