中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

社員99人以下の会社の人材育成に役立つ情報を発信しています。

ビジネスで必要なのは数学ではなく、数字にすること

2018年08月29日 | コンサルティング

Aさん:「私は学生時代から数学が苦手なので、数字を見るだけでアレルギー反応が出ちゃうんです」

Bさん:「私も同じです。数学の時間はほとんど寝ていました。だから、数字を見るとあの時間を思い出しちゃって、眠くなってしまいます」

これは、先日弊社が担当させていただいた「仕事の生産性の向上」の研修のときに、受講者から発せられた言葉です。

仕事の生産性を考える際には、インプット(投入した資産)とアウトプット(成果)の割合を考えることが必要です。生産性を向上させるには、インプットであるコストを抑えるか、アウトプットである付加価値を高めることが必要です。

そこで、インプットとアウトプットを数値化する演習に取り組んでいただいたのですが、その際に冒頭の会話がなされたのです。

生産性の向上に限らず、ビジネスにおいては様々な場面で「物事を数値化する」ことが求められることがあります。

物事を数値化することにより、それは主観的なものから客観的なものに変えることができ、確かな根拠とすることができます。

その結果、説得力が高まるわけで、このようにビジネスにおいては「数字」は欠かせないものなのです。

たとえば、「Cさんは毎月たくさん残業をしているから、Cさんの仕事の一部をDさんに担当してもらおう」と言うのと、「Cさんは毎月60時間残業しているから、Cさんの仕事の一部をDさんに担当してもらおう」というのでは、印象が全く異なります。明らかに数値化した表現の方が、説得力があるわけです。

このようにビジネスは数値、つまりデータに始まり、データで終わると言っても過言ではなく、数値化はビジネスパーソンにとって必須の行為と言えます。

そして、この数値化に求められる力は、基本的に学生時代に学んだ数学とは異なります。しかし、冒頭の例のように数値(数字)化=数学ととらえてしまう人が少なくないようです。

ここであらためて「数学」とは何かを辞書で調べてみると、「数についての学問、数量および空間に関して研究する学問。代数・幾何学・解析学(微分、積分など)」とあります。やはり、「数値化」と「数学」は別のものであることがわかりますね。

ですから、今後物事を数値化する際には、かつての数学への苦手意識を引きずる必要は全くないというわけです。

しかし、ここで誤解してはいけないのが、「数値化すること自体が目的ではない」ということです。大切なことは、その数字の持つ意味は何なのか、その数字から何を読み取るのかということで、求められるものは「その数字が表していることは何か」を明確に分析できる能力だということです。

学生時代に数学が苦手だったという方も、様々なビジネスシーンで常に数字を意識し、数字の意味や背景を分析し、数値化してみる。

それを積み重ねていくことで、数値化の勘どころを身に付けることができるのではないでしょうか。

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研修担当者の皆さん、現場の味方になってください。

2018年08月26日 | コンサルティング

企業という存在には実態というものがありません。2つの建物の中に、それぞれたくさんの人間が集まっていてなにやら動いているとします。どちらか一方が「企業」であり、もう一方が無関係な人々の集まりだとしても、両者を物理的に識別する手立てはありません。そこに存在しているたくさんの人々の意思が企業そのものです。まさに「企業は人なり」です。

ところが、企業を形作っている「人」は決して一枚岩ではありません。現場で働く社員と経営者はそれぞれ異なる立場だからです。最近そのことを強く意識させられたのは「日本品質」に対する信頼の崩壊です。この数年で起こった大企業、特に日本を代表する製造業で起こった様々な不正、不祥事がそれです。

エアバッグ、免震ゴム、くい打ち工事、燃費データ、製品強度といった単語を検索すれば出てくるのは不正、不祥事に関連した記事ばかりです。日本製=高品質というのはただの神話だったのでしょうか。

当社は製造業の研修を数多く手がけていますが、現場の人たちは品質について非常に強いこだわりを持っています。

ではなぜ不正、不祥事が起こるのでしょうか。

ずばり答えを言うならば「現場の品質の捉え方」と「経営者の品質の捉え方」の違いです。現場はあくまで安全、安心を担保できる品質を追求します。一方経営者は利益や効率を第一に考えた品質を望みます。

「いや、そんなことはない」という経営者もいますが、「では、貴社のXXという製品の品質基準書を読んだことがありますか?」と聞くと、ほとんどの場合「それは私の仕事ではない」という答えが返ってきます。大変失礼かもしれませんが、特に銀行出身の製造業の経営者の方々の一般的な答えです。

このように、品質は単に「現場の仕事」であるとしか考えない経営者のもとでは、現場の人間は戸惑うことが多くなります。「品質よりも効率を優先しろ」などとはっきりと口に出して言わなくても、「利益最優先」といった経営者の言葉が四六時中現場に響き渡っていれば、ある程度の「忖度」は起こりうるでしょう。

経営者は役員の任期中に多くの利益を上げれば、当人の「お手柄」となり退職金も十分に手に入ります。現場が追い求める品質など単なるコストに過ぎず、邪魔な存在だと考えるのはむしろ自然なことでしょう。

こうした経営者と現場の「品質対決」では圧倒的に現場が不利です。

悲観的な話ですが、これからも不正、不祥事はなくならないでしょう。

さて、研修担当者の皆さんにお願いがあります。皆さんだけは現場の味方になってあげてください。「任期が終われば去っていく人」ではなく「定年まで何十年も現場で頑張る人」のことを考えて仕事をしてください。

それが会社を守ることであり、皆さん自身を守ることでもあるからです。

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外国人労働者が組織に与える影響

2018年08月22日 | コンサルティング

「128万人」

これは、2017年10月末現在の日本で働く外国人労働者の数です。ここ5年間で倍増したとの記事が、先日の日経新聞(2018年8月20日)に掲載されていました。

確かに、近年、弊社が担当させていただく研修でも以前と比べて外国人の受講者が増えたように実感しています。

今までに研修でお会いした受講者は、様々な国の方がいました。具体的には中国、韓国が最も多く、次いでアメリカ、そして、インド、インドネシア、マレーシアの方々です。

研修を担当させていただく者の印象として、外国人受講者は国籍を問わず皆さんとても前向きかつ積極的です。たとえば、研修中に受講者に対して「質問はありますか?」と尋ねると、多くの日本人の場合はなかなか手が上がりません。しかし、休憩時間や研修終了後には個人的に質問に来る場合が多いのです。

つまり、質問があっても大勢の受講者の前では手を上げることは少ないのです。

それに対して、外国人の受講者は「質問はありますか?」とこちらから声をかけた場合はもちろんのこと、そうでないときであっても、主体的に質問をします。

質問内容は研修テーマに関してのみならず、演習の意味や日本語の言い回しなど、実に様々です。つまり、研修時間を漫然と過ごすのではなく、「この時間を大切にしよう」という姿勢を強く感じます。

また、「仕事の生産性」の研修の際には、毎回研修の冒頭に「仕事が予定通りに進むことが多いか」または、「予定通りに進まないことが多いか」について質問しています。そうすると日本人の受講者の場合は9割方が「予定通りに進むことは少ない」と答えますが、反対に外国人受講者の9割は「予定通りに進む」と答えます。

実はこれまでに何度か、「仕事が予定通りに進んでいる」と答えた外国人の受講者にその理由を尋ねたことがあります。

すると、「細かく1日の計画や仕事の計画を立てているから」や「予定通りに仕事が進むように、タイマーを使ったりするなどして納期を決めて仕事をしています」というような答えが返ってきました。

では、なぜ多くの日本人受講者は外国人受講者のように仕事が予定通りに進むように綿密に計画を立てたり、仕事の進め方を工夫したりすることができないのでしょうか?

先の日経新聞の記事によると、「そもそも外国人労働者の受け入れは、高度な専門知識を持つ高度人材に対して限定しており、いわゆる単純労働については原則として認めていません。行動人材は年収や学歴、職務経験、日本語能力などをポイント化し・・・」とのことでした。

実体は必ずしもこの通りではなく、単純労働についても認めているようですが、研修の受講者に限って考えると、外国人労働者は非常に優秀であるという印象を持ちます。

一方で、弊社が毎年担当させていただいている企業の研修では、受講者から外国人労働者に対してのマイナスの感想を耳にしたこともあります。

具体的に話を伺ってみると、外国人労働者の積極的な行動が日本人には時として特異なものとして捉えられてしまっているようなのです。

今後、日本では人口減少にともない労働力不足も進むことから、外国人労働者に頼らざるを得ないわけです。

こうした中、異なる価値観や文化を持つ外国人労働者といかに共存していくのか、新たな課題が顕在化しつつあります。これを解決しないとその企業や、大きく言えば日本という国が外国人労働者から選ばれなくなることもありえるのではないかと思います。

さて、あなたの会社では外国人労働者が既に働いていますか。または、受け入れについて具体的に取り組みを進めていますか。

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たたき台の使い方

2018年08月19日 | コンサルティング

 前回のブログにも書きましたが「これから批判・検討を加えて良い案としていくための、最初に出される案」がたたき台です。ビジネスにおけるたたき台とは、一番初めに出されるアイデアまたは計画ですから、スピード優先で内容はラフなものになります。

通常、第1回目の会議で提出されるたたき台には不備な点が多々あります。初期の段階では不明確な点が多く、そのすべてをカバーすることはまず無理だからです。しかし日本の、特に大企業では次のような光景をよく目にします。

A係長「では、第1回の企画会議を始めます。これが現時点でまとめた計画案です。」
B課長「どれどれ・・・ん?何これ、前提条件が2つしかないじゃない。しかも見積コストの幅があり過ぎるよ!」
A係長「はあ、すみません。おいC君、これ作ったの君だよね。ちょっと課長に説明して差し上げて。」
C君 「は、はい。えーと、まず前提Xですが先週顧客訪問した際、いろいろと聞き取りをして作りました。ただ、昨年度の実績を加味すると前提Yもあり得るわけでして・・・(心の声:なんだよ係長、これで良いって言ったじゃねーか!)」
A係長「見積コストがこんなになったのはなぜ?過去のデータ全部当たったの?」
C君 「いや、時間がなくて全部というわけには・・・」
B課長「おいおい、これじゃたたき台になってないじゃないか。しょうがないな、今日の会議はなかったことにして、仕切り直しは来週にしよう。」
A係長「課長、来週は大阪で展示会があるので時間が取れません。」
B課長「あ、そうだったな。じゃ、再来週ということで。日程は後で調整して決めるように。」

・・・と、ここで終われば良いのですが、次回の会議でも「見積が甘い」といった声が出てくること間違いなしです。こうして「たたき台」が完成する頃には、すでに何回もたたかれた後、という笑えない状態になります。その結果、タイミングを逸した頃に「立派な計画」が出来上がります。

たたき台はもちろん、その後に作られる計画も状況に応じて何度も変更する必要があります。計画は作ることが目的ではなく、運用することが目的だからです。

「すべての計画は変更のためのたたき台に過ぎない」これはイスラエル国防軍が好んで使ったスローガンだそうです。その成果は「ほぼすべての計画が戦闘中に放棄されたが、目標はすべて完全に、しかも想定より早く達成された。」という第2次中東戦争の報告に表れています※。

ビジネスにおいても、こんなスローガンを信奉する競合他社がいたら・・・ぞっとしますね。

※「超予測力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 」2018年、早川書房

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たたき台が欲しい

2018年08月15日 | コンサルティング

「昼食の時に『ランチはどの店に行こうか?』と部下数人に声をかけても、みんな遠慮して答えないんですよ。そこで、『じゃあ、○○家の牛丼にする?』と言うと、急に誰かが「先日行った定食屋がおいしかったですよ」とか、「牛丼よりもラーメンが食べたいです」といような、具体的な意見が出てくるんです」

これは、先日ある企業の管理者から伺った話です。ランチのみならず、研修のグループ討議などで意見やアイディアを募っても、初めはお互いに遠慮しあってなかなか口火を切る人がいないということは、よくあることです。

私自身の体験でも、研修の提案をする際に、事前に研修担当者からニーズを伺いたいと思っても、なかなか具体的な話を聞くことができないような場合があります。しかし、そういうときに試しに予め想定していた案をお見せすると、不思議と次々と具体的な要望が出てくることはよくあります。

目の前に何もないと、なかなか具体的に希望や要望が言えない人も、「たたき台」があることにより、自身の考えがきちんと整理できるようになるということなのでしょう。

では、この「たたき台」とはどういうものなのでしょうか。

改めて広辞苑で意味を調べてみると、「これから批判・検討を加えて良い案としていくための、最初に出される案」とあります。また、たたき台の語源は鍛冶屋が熱した金属を叩いて成形する際に乗せる専用の台から来ているようです。

まさに、一つの案に対して様々な意見を加えながら、精度を高めていくというのがたたき台ということです。

通常、企画や提案内容をまとめていく場合には、何度も会議やブレーンストーミングなどが行われます。

そうしたときに何か取っかりとなるものがないと、なかなか議論は盛り上がりませんが、その取っ掛かりとなるのが、このたたき台なのです。冒頭のランチの話も、牛丼というたたき台が出されたことによって、定食屋やラーメンなどのアイディアが出てきたわけです。

ランチの話ですら、簡単に自分の希望を伝えることが難しく感じる人がいるわけですから、研修のグループ討議で口火を切ったり、会議の場で発言したりするのは難しいと感じる人がいるのは、当然と言えば当然のことでしょう。

このように、たたき台の効果は思った以上にあるのです。会議でなかなか意見が出てこない、盛り上がりが足りないなと考えている管理者の方は、まずはたたき台を用意することから始めてみてはいかがでしょうか。

きっと定食や牛丼の話よりも、具体的なアイディアがたくさん出てくるはずです。

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10回のうち1回は「間違えている」と考える

2018年08月12日 | コンサルティング

最近のアマチュアスポーツ団体で生じているトラブルの多くは、非常に簡単な原因から生じています。一言でいえば「上意下達 (じょういかたつ)※」です。これは、上位の者の意志や命令を下位の者に徹底させることです。

評論家の山本七平氏は『「空気」の研究 (文春文庫 1983年)』で、日本人の集団では当事者以外には説明しにくい「場の空気」があり、誰が決めたということが曖昧なまま意思決定がなされてしまうと述べています。個人の意見をはっきりと言いづらい「空気」が生じると、いつのまにか「1人だけ、意見を言って良い」ボスが生まれます。

やがてそのボスは、自分の意見=集団の意見と思い始めます。

こうした集団の悪しき特性を防止するために、様々な策が提案されています。それらについては、ご自身で詳しく調べていただきたいのですが、残念ながらどれも実行するのが難しいものばかりです。たとえば、「リーダーはメンバーが批判者としての役割を果たすように鼓舞する」とか「グループの外部に、別の評価グループを設置する」などです。

企業においては最初から社長(経営者)というボスが存在しています。経営者が学ぶべきは日本的な組織の特性であり、自分自身の意思決定のやり方についてです。経営者は、少なくとも次の2つを忘れないようにしていただきたいものです。

(1)意思決定において「自分が正しい」と思うことが10回を超えていたら、きっと1回は間違えている。

(2)そんなことはないと思ったら(最近テレビでよく見る)某会長や某理事長にだいぶ近いづいている。

これは経営者に限らず管理職など、「リーダーシップ」を身に付けるべきすべての人々にとって、とても大切な心構えではないでしょうか。

※「下達」は「げだつ」とも読みます。

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お互いの仕事を知る機会

2018年08月08日 | コンサルティング

 「他部署の仕事を知ることができたことがとても有益だった」

これは、研修終了後の受講者アンケートなどでもたらされることが多い感想の一つです。

研修の感想については、やはり研修テーマに関するものがもっとも多いわけですが、冒頭のように「お互いの部署の情報が得られたことが有益だった」と感じる人が多いのも事実です。

これは長年同じ会社に勤めていたとしても、他部署の仕事については案外知る機会が少ないということの表れなのでしょう。

それでは、どうすれば有益であるお互いの仕事のことを知る機会を得ることができるのでしょうか。

そこで、思い出したのが「ワイガヤ」です。

かつてホンダ(本田技研工業)で有名になった「ワイガヤ」を聞いたことがあるという方も多いでしょうが、「ワイガヤ」とは文字通り「ワイワイガヤガヤ」と賑やかに意見交換をすることです。

所属や立場に関係なく、同じ組織に所属する人が大勢で行う会話のことを指していました。

ホンダでは、このような場が自然発生的に設けられていたことにより、お互いの仕事の内容に触れることができたり、問題点を共有できたりしていたそうです。おそらくこれを通して新しいアイディアなども浮かんだりしたことでしょう。

一方、このワイガヤは仕事の話だけではなく、ときにはプライベートの話などにも発展したために単なる雑談のようにもとらえられ、メリットだけではなくデメリットも指摘されました。

先日、弊社が担当した研修の中で、事前に上司が書いた受講者へのメッセージを受講者が受け取る時間を設けました。その際、一人の上司が書いたメッセージ(改善点)に「作業中の必要以上の私語の削減に注意を払って欲しい」といった記述がありました。

この受講者が仕事中にどれくらいの私語をしていたのか、現場を見ているわけではないので、実際のところはわかりません。

ここで指摘されているように、仕事中の必要以上の私語は慎まなければなりません。一方で仕事に関係する話なのか単なる時間の浪費にすぎないものか、このような会話は線引きが難しいのも事実です。

仕事の生産性の向上が叫ばれている中、「仕事中の会話は生産性を阻害するもの」と一律に決めつけてしまうと、自分の仕事だけを黙々とこなすようになります。その結果、隣の人が担当している仕事すらわからないようなことが発生してしまい、職場での情報共有ができないという弊害が生まれる可能性もあります。

Face to Faceのコミュニケーションは一見すると無駄のようにも思えますが、冒頭の感想のように有益な部分もあることから、巡り巡って生産性の向上に寄与している部分もあります。  

かつては、ホンダのワイガヤのように日本の組織の特徴的なものともされていたFace to Faceで行うコミュニケーションが減りつつあります。今後、お互いの仕事の内容や問題点を知る機会を設け、それをどう活かしていくか、働き方改革や生産性向上が求められている現在だからこそ、重要な課題なのではないでしょうか。

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「わかんない」子供と大人の違い

2018年08月05日 | コンサルティング

学生時代、夏休みの間だけ塾の講師をやっていました。小学校の高学年の子供たちに算数を教えるのですが、相手はいわゆる落ちこぼれ寸前の子供たちでした。黙々と問題を解いていると思いきや、まったく意味不明の数字を書き連ねる子。私の前に座り込んで熱心に、しかし的外れな質問を繰り返す子。落書きをはじめる子。眠そうな子。

皆さんがこの塾の先生だとしたら、おそらくほとんどの方は「ギブアップ」となるのではないでしょうか。

実は、私はこうした子供たちを扱うのが得意でした。一人ひとりの個性(クセ)に合わせて根気よく付き合いながら少しずつ勉強に誘導していきます。

たとえば、落書きをする子には絵(マンガ)の描き方を教えながら「これは弟の太郎君、こっちはお姉さんの花子さんね。2人が学校に行くよ。花子さんが先に歩いて出て、後から太郎君が自転車で追いかけると、何分後に追いつくかな」と数字を少しずつ混ぜながら説明します。ほとんどの子はこれで「旅人算」ができるようになりました(夏休みいっぱいかかることもありましたけれど)。

しかし、唯一お手上げの子がいます。「わかんない」しか言わない子です。

マンガを描いて、ていねいに説明しても「わかんない」

じゃあ、太郎君と花子さんて、どんな子かな?と聞いても「わかんない」

どこがわかんないの?と聞いても、「わかんない」

今、なにがしたいの?「うーん・・・わかんない」

とにかく勉強が嫌いだし、少しでも勉強に関係することは一切聞きたくないのです。「わかんない」と言っていれば、この場から逃げ切れると思っていたのでしょう。

とはいえ、子供には知らないことを知りたいという本能(?)があるせいでしょうか、やがて「わかんない」に飽きて、ゆっくりとですが勉強に近づいてきます。

しかし、これが大人だと大変厄介です。私は講師として数多くの研修を担当してきましたが、「わかんない」受講者に何度か遭遇しました。

研修なんて時間の無駄だ。とにかくテキストも見たくないし、講師の話も聞きたくない、時間が過ぎるまで「わかんない」を連発してやり過ごそう、というわけです。

会社は学校ではありませんから、研修の時間も「業務時間」となります。「わかんない」は一種の怠業であり、怠業は労務提供の不完全履行であり、賃金カットの対象になります(あくまでも原則論です)。

講師としては、研修という業務を請け負っている立場上、そうした「わかんない」を見過ごすことはできません。事実を記録し、氏名を人事部に報告します。

塾の講師のときのように、広い心で対応できないのが残念です。

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コメント

もし~だったら、〇〇だろう

2018年08月01日 | コンサルティング

「アイディアが浮かばない・・」、「解決策が考えられない・・・」

問題発見・課題解決研修を担当させていただくと、グループ討議の途中で受講者からこうした言葉が頻繁に発せられます。

確かに、泉が湧くように次々とアイディアが思い浮かぶという人はそうそういるものではないと思います。ですから、問題の解決策を考えるのは簡単なことではないと生の声を聴くたびに感じます。

そもそも、解決策が簡単に浮かぶような問題であればすぐに解決できるわけです。逆に言うと、問題が複雑で深刻であればあるほど、解決策を考えるのは難しくなっていくわけです。

産業能率大学の調査(課長に関する実態調査2018年1月)でも、管理者が部下に対して不足していると感じる上位3点は、「新しいアイディアを生み出す力」、「課題を明確にする力」、「問題を把握する力」だったそうで、調査結果は、まさに研修の現場で聴く生の声と一致しています。

話は変わりますが、先日(7月8日)放送されたNHK大河ドラマ「西郷どん」スペシャルの第二弾では、今後ドラマ内で活躍する主要人物の生きざまを紹介していました。

その中で、街頭インタビューによるアンケートの結果、知名度ナンバー3だったのは岩倉具視でした。40代後半以上の人であれば、500円札の肖像が懐かしく感じることと思います。

番組で紹介されたところによると、岩倉具視は公家で朝廷の一員だったそうですが、その身分はかなり低かったそうです。それでも最終的には天皇の側近にまで上り詰めることができたのです。そこまでいくことができたのは、彼にはものすごく知恵があり、それを武器としていたからなのだそうです。

たとえば、天皇家の和宮と将軍家の家茂の結婚を画策したのは岩倉だったそうです。それまでの歴史を考えれば、天皇家と将軍家の結婚を考えるというは、当時としてはきわめて斬新なアイディアだったのでしょう。

岩倉は5年間の蟄居も経験したようですが、そういうときであっても政治の熱は衰えず、これだという人には意見書を送り続けました。日本のあり方を夢想し続けたとのことで、こうしたときにこそ着々と「知恵」という武器に磨きをかけていたのではないでしょうか。

番組に出演していた歴史学者の磯田道史さんによると、岩倉のキーワードは「ヤモリ」だそうです。一見ひ弱そうなヤモリですが、中には暗闇でもモノを見分けられる能力を持つものもいて、実は優れた能力の持ち主なのだそうです。岩倉は混とんとした情勢の中、ヤモリのように幕府の倒し方を見抜き、そして死に物狂いで実行したのです。

磯田さんはさらに続けて、岩倉具視は「反実仮想力」がすごかったともおっしゃっています。「反実仮想力」とは、「もし~だったら、○○だろう」というように考えることです。岩倉は絶えず頭の中で反実仮想をして、前述の知恵を生かして新たな時代を切り開く原動力の一人となったのでしょう。

私たちも、岩倉ほどではないまでも、ビジネスにおいて問題や課題を解決する際に、ちょっとだけ「もし~だったら、○○だろう」とイメージしたり、妄想したりすることで、案外よいアイディアが浮かぶのではないでしょうか。

実は私もこのブログのテーマをどうするか、アイディアが浮かばずに困ることが結構あります。そんなときは少しは岩倉具視のまねをして知恵を働かせてみることにします。

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