Aさん:「○○さんはいらっしゃいますでしょうか?」
Bさん:「確認します」・・・(20~30秒後) 「あいにく留守にしております」
Aさん:「会社に戻られるのは何時ころでしょうか?」
Bさん:「たぶん来週くらいです」
Aさん:・・・
これは、先日弊社が担当させていただいた営業研修の際に受講者から伺った、お客様(会社)と営業パーソン(女性)の電話のやりとりです。
彼女の話によると、既にお取引をいただいているお客様に先日新たなサービスの提案をした際に、「前向きに検討したい」として見積もりの依頼をされたため、すぐに送付したのだそうです。
後日、検討の状況を確認したいと思い何度か電話を入れたところ、冒頭のやりとりが繰り返されたため、何回目かの電話のときにようやく居留守を使われていることが分かったとのことでした。
もちろん、営業をしていれば多かれ少なかれ居留守を使われるような経験をすることはあります。しかし、それは一般的にはまだ取引がない会社に対して新規顧客開拓の電話をした際などにされることが多いです。
この対応を受け、彼女は「本当に留守なのだと思って、何度も電話をしてしまいました。まさか面識のある担当者に、そのような対応(居留守)をされるとは思っていませんでしたので。検討した結果で必要ないという結論に達したのであれば、そのように言ってもらえれば何度も電話をしたりしないのに・・・これでは私の時間をムダにしただけでなく、あちらの会社の電話に出てくれた人の時間もムダになっていますよね」と話していました。
働き方改革の一環で「仕事の生産性向上」の重要性が叫ばれるようになって久しいです。このケースのようにはっきり断られない結果、何度も電話をすることになる人がいて、同時にそれを受ける人がいるというようなやりとりは、仕事の生産性の向上を阻害していると言わざるを得ません。
日本中で一日にいったいどれくらいの営業パーソンとその顧客の間で、同様のやりとりがされているのでしょうか。これは仕事の生産性向上という観点からは決して看過できない事態だと感じます。
このようなやりとりが繰り返される背景に、はっきり断ることをあまり良しとしない日本独特の文化や風習があるだろうということは、もちろん承知しています。しかし、はっきりとした態度を示さないことによる弊害は前述の生産性向上の面だけでなく、結果として信用や信頼を失うことにもつながりかねません。
冒頭のケースでも、営業パーソンである彼女は信頼をしていた担当者(お客様)からのこのような対応をされたことによって、「私が営業パーソンだからこのような対応をしても良いと先方は考えたのかもしれません。しかし、ところ変われば私がお客様にもなり得るのに、この対応にはがっかりしてしまいました」と話していました。
この話を聞いて、思い出したあるやりとりがあります。
以前、私が新規顧客の開拓のために電話をしたある会社の担当者に、「こちらも情報交換の場は欲しいと思っています。ただ、折角いらしていただいても残念ながら当面はお取引にはつながりません。それをご理解くださるのであれば、ぜひいらしてください」と言われたのです。
実に潔い対応です。この簡潔明瞭な対応に促され、私はその会社に出かけました。実際にお会いして情報交換をさせていただきましたが、こちらにとっても非常に有意義な時間になり、「いつかお取引をいただけるように頑張ろう」と思いました。
この例から「断ることは決して失礼なことではなく、むしろはっきりとした対応をしないことこそが失礼であり、生産性向上の上でも問題であること。ただし、断るときは誠意をもって断ることが重要である」ということを学びました。
そして、これは営業パーソンと顧客の関係のみならず、上司と部下の間でももちろん同様なのです。
生産性の向上というと、つい大上段に構えてしまいがちですが、実はこうした身近なちょっとしたところにもきっかけはあり、まずはそこから始めてみるとよいのだと考えています。