ターミナルで春を感じて

ふるさとの　訛なつかし　停車場の
　ひとごみの中に　そを聴きにゆく　　啄木

春の駅が好きだ。
東京で生まれ育った私は、啄木の気持ちはわからない。
それでも負けじと、ターミナルで季節を感じ、
「故郷」を感じる春となった。

朝のターミナル。
不安な顔つき。でも、引き締まって見える横顔。
まだ「スーツを着ている」というより、
「スーツに着られている」感じがする立ち姿。
そんな彼らの朝の様子は、
「がんばれよ！」と小さく背中を押してあげたくなるだろう。

夕方のターミナル。
会社を出て、改札の前でたむろしている新社会人たち。
研修で疲れながらも、まだ学生のように話している姿。
自分にも、そんな時代があったと思い出させてくれる。
走って終電を目指すことは、いつ覚えたのだろう。

みんな、ウキウキしている。
そして、ドキドキしてる。

春を迎えてウキウキしたり、ドキドキしたりするのは、
若者の特権ではない。
社会人生活を始めた頃の上司が、こんなことを
教えてくれた。
「君たちは、これから自分が社会でどう生きていくのか、
不安かもしれない。
でも僕たちは、君たちをどう活かしていくか、
活かしていけるのか、これからずっと悩んでいくんだよ。」

今思えば、幸せな新社会人生活であった。
子が親を選べないように、部下は上司を選べないのだから。
そして気づけば、若い人のために「悩める」立場となった。

そうして思うのは、これほど幸せな悩みはないということ。
やれ売上だ、利益だという「円」の単位の悩みでも、
納期がいつだ、あと何分だという「時間」の悩みでもない。
これほど夢があり、価値がある悩みなら、
いくらでもしていきたい。

そう、ターミナルで春を感じることができるのは、
「故郷」と呼べる業界飛び出して、違う世界にいる自分が、
「故郷」の「あの人」のことを思い出すから。
気候だけでなく、心が暖まり引き締まる季節なのだ。

新しい生活を始めたあなたに、僭越だけれど、こんな歌を贈ろう。
新しく入った学校や会社では、まだ子供かもしれない。
運転の仕方も覚えたばかり。
でも、遠慮はいらないんだから。

のぼり坂の　ペダル踏みつつ　子は叫ぶ
　「まっすぐ？」、そうだ、　どんどんのぼれ　　幸綱

(啓)

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