父が亡くなって何年経ったのか正確に覚えていなかった。墓参りの途中、その話になった。妹もうる覚えだった。「でも大丈夫。お墓に行けば書いてあるから」。その通りだった。墓石の脇に刻まれた父と母の没年を見て、その向こうに湧き上がる入道雲に視線を転じながら計算した。
終戦記念の日に至る夏の日々は、息子の誕生日、父の命日と続いている。父は学徒出陣で満州に行った。帰国後、戦後の混乱の中で結婚し2児を設けている。20代のことだ。その後何があったのか細かなことはわからない。30代の半ば、仙台からやってきた母と出会い、私が父を亡くしたのと同じ36歳の時に私が生まれて、新しい人生を始めた。
私の息子は、上の娘から3年離れて授かった子だ。生まれて来た日のことは、昨日のことのようによく覚えている。忙しくて深夜に帰る日が続いていて「お盆休みになるまで我慢できれば」と予定日を過ぎた妻に話していた。今日から盆休みという日の朝早く「破水した」と妻に揺り起こされ、ああ盆休みまで我慢していたのだなと、目を覚ましてまずそう思ったのだった。妻と娘を車に乗せ、娘もそこで取り上げてもらった産科医院に向かった。病院に着いて手続きを済ませ、母に電話して産まれそうだと伝えた。
もうすぐ3歳になる娘は緊急事態であることを自覚して、おとなしくしていたが、長い時間は保つまいと考え、医院の道路を挟んだ向かい側にあるコンビニに何かおもちゃになるようなものはないか買い物に行くことにした。娘はその後大きくなってからもまったく変わっていないが、買い物に時間をかける。目の前にあるすべての物を吟味しつくしてからでないと決断しない。いよいよ決心したかなと思って「これでいいか」と声をかけると首を横に振る。「うん」と言ってもらうまでにずいぶん時間がかかるのである。
長い時間かけてコンビニで買い物をして病院に戻ると、父と母が待っていた。車で駆けつけてくれたのだ。「男の子だ。おめでとう」。64歳には見えない若さの父が満面の笑顔で祝ってくれた。
あれから27年。息子は今年、自分の誕生日も父の命日も関係なく「穂高に登る」と仲間とさっさと出かけてしまい、墓参りには出席しなかった。山小屋かテントの中で誕生日を祝ってもらったことだろう。
墓参りの後は「うなぎ」と決めている。もっとも、それを一番楽しみにしていたのは母だったので、今年は少し寂しい。年々値上がりしていたうなぎは今年「松」のお重が3750円だった。焼きあがるまでに時間がかかるが、その間にお茶を飲みながらあれこれと他愛ない話に盛り上がる。朝のテレビ小説に関する評価は恒例で、毎年痛烈な女優評を下していた母の口調を妹が引き継いでいておかしかった。
お盆が過ぎれば、残っている夏はもう幻のようなものだ。耳を澄ませばセミの声よりコオロギやキリギリスの声のほうが大きい。平和であることは素晴らしい。(三)
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製品開発(monipet)、それに農業も手がけるIT企業
終戦記念の日に至る夏の日々は、息子の誕生日、父の命日と続いている。父は学徒出陣で満州に行った。帰国後、戦後の混乱の中で結婚し2児を設けている。20代のことだ。その後何があったのか細かなことはわからない。30代の半ば、仙台からやってきた母と出会い、私が父を亡くしたのと同じ36歳の時に私が生まれて、新しい人生を始めた。
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お盆が過ぎれば、残っている夏はもう幻のようなものだ。耳を澄ませばセミの声よりコオロギやキリギリスの声のほうが大きい。平和であることは素晴らしい。(三)
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