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名古屋嬢

 昨年、名古屋地区で放映された「加藤家へいらっしゃい~名古屋嬢っ~」という馬鹿げたTV番組が再放送されている。3月25日には、DVD-BOX(全5巻)まで発売されたというから、人気番組だったのかなと不思議に思う。関東地区・関西地区でも放映されたらしいが、名古屋以外の地区の人が見たって何も面白くないだろうなと思う。余りにコテコテな名古屋弁と名古屋ネタ満載の番組なので、地元の人間ならツボにはまって大うけするところも、他地区の人には「何だこれ?」と思われるに決まっているからだ。
 主な登場人物である加藤家の人々の人物設定からして、地元の人間じゃなければ笑えないだろう。一部紹介してみると、
 
 父親 --- 自宅で開業の歯科医(名古屋は歯医者が多い)。前近代的・典型的な名古屋人でドラゴンズファン。
 母親 --- 有名ブランドづくしのカリスマ主婦としての地位を金でキープしている。 
 長女 --- 名古屋のTV局のフリーアナウンサー。
 次女(主人公)--- 名門金城(かねしろ)学院大3年生。ワガママで世間知らず。他人に気を遣うこともなく、世界は自分中心に回っていると思い込んでいる。名古屋のお嬢さまであることを誇りに思っている。「JJ」の読者モデルに選ばれることが生きがい。
 長男 --- 東海(ひがしうみ)高校2年生。家族の中では最も影の薄い存在。名古屋が嫌いで、ロス在住を切望。

 とまあ、地元の人間から見れば、よくもここまで嫌味な家庭を設定できたものだと思うくらいのいやらしい家庭だ。まず、父親。統計的に名古屋に歯科医が多いかどうかは分からないが、私の従兄弟でも、2人歯科を開業している。その暮らしぶりは、言うまでもなく派手である。たまに会うと、錦(名古屋の銀座)での豪遊振りを自慢してくれる、困った人たちである。その奥様達は、全身ブランドというほど金ピカではないが、優雅な生活をされているようだ。名古屋嬢を生み出す設定として、歯科医の家庭としたのはかなりの慧眼であると言えよう。
 その名古屋嬢の典型として描かれる主人公の次女のプロフィールには笑える。実は、私の妻も「金城(かねしろ)学院」らしき学校の出身であるが、共通する部分が色々あってなかなかの傑作だ。そんなことを言えば、自分の性格は全くの反対で、「他人を優先し、憂き世の辛さも身に沁み、人に気を遣ってばかりで、世界の片隅で健気に生きている」とでも反論するだろうが、そう思うこと自体がもうすでに、自分のことが一番大好きな名古屋嬢気質を表わしている。私の娘も京都では、「名古屋嬢!」などとからかわれているらしいが、そこまで派手とは言わないまでも、その素地は十分持ち合わせているだけに、反発はしても否定はできないようだ。
 去年あたりは、名古屋嬢と言えば「ブランド服と巻き髪」のゴージャスな外面ばかりが取り上げられたが、本当の名古屋嬢のいやらしさは、内面の高慢さにあると私は思う。地元で、SSKと称される名古屋の私立3大女子校に通うお嬢さま方にはそういうオーラを身にまとった子が多くて、塾生にも数人いるのだが、なかなか御しがたい。
 さらに長男の東海(ひがしうみ)高校というのは、私の出身校を模したものだろうが、この学校は多様な人材を輩出していて面白い。政治家で言えば、何の役に立ったのか全く分からない、元総理大臣の海部俊樹をはじめ、今回の衆院選で落選した直後に覚醒剤の常習で逮捕された小林憲冶まで、有名人が目白押しである。だが、お勉強ができる秀才さんの集まる学校としてのイメージが先行しているため、他の私立男子校と比べると華やかさに欠ける。それを上手く利用して長男の影の薄さを強調したのはうまいやり方である。
 この番組は、こうした人物設定が鋭いと思える、ごく一部の人にはリアリティーあふれる逸品だと言えなくはないだろうが、それが理解できない人が見れば、ただのドタバタ三文芝居に過ぎない。地元の、しかもコアな人々のウケ狙いとしか思えないこんな番組が、堂々と放映され、しかもDVD化までされるなんて不思議な気がしてならない。
 勿論、私は買うつもりは全くない。
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