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暗記法

 中学に入って初めて勉強した漢文の教科書に、「己・已・巳」の読みの違いを歌の文句のようにして覚える方法が書いてあった。
 「キ・コの声、オノレ・ツチノト下に付き、イ・スデニ半ばに、シ・ミはみな付く」
なるほど、こう覚えればいいのかといたく感心した。今でもすらすら言えるくらいだから、こうやって口ずさむやり方は本当に覚えやすい方法なんだなと悟って、それからは自分なりにいくつか考案して、暗記の助けとしてきた。今でもそらんじることができるのはかなり少なくなってしまったが、古語の助動詞はすべて言える。
 「る・らる・す・さす・しむ・き・けり・つ・ぬ・たり・り・む・むず・けむ・らむ・めり・らし・まし・べし・ず・じ・まじ・なり・たり・まほし・たし・ごとし」
これは教科書の助動詞一覧表に載っていたものを、右から左に少しばかし節をつけて覚えたものだが、お経のようなもので何度も繰り返すうちに、見事暗記することができた。塾生にも、「とりあえず助動詞をすべて覚えろ、意味や活用はその後でいいから、何が助動詞なのかをまず覚えろ」と言って、こうやってやるんだと、ざーっと言ってみせると、なるほどと素直に感心して、自分も覚えようとしてくれる。でも、やっぱり何の意味もなく音が羅列されたものでは、長さとしてはこれくらいが限界だろう。それ以上になると何らかの意味がなければ、覚えにくくて仕方がない。その点、「いろは歌」は素晴らしい。 
   
  いろはにほへと ちりぬるを
  わかよたれそ つねならむ
  うゐのおくやま けふこえて
  あさきゆめみし ゑひもせす(きょう・ん)

  色は匂へど 散りぬるを
  我が世誰ぞ 常ならむ
  有為の奥山 今日越えて
  浅き夢見じ 酔ひもせず(京・ん)

古来、空海の作とされてきたが、何の根拠もない説のようだ。しかし、誰が作ったにせよ、これだけの文字を重複することなく使い、無常観を見事歌い上げた才覚は驚嘆に値する。
 私も職業がら、他にも暗記しやすい方法をあれこれ考えてみるのだが、なかなかうまくは行かない。その中でも、12か月の異称の覚え方は上出来の部類に入るだろうと思う。
 「向きや、宇佐美、ふっ、鼻が湿疹」
少しばかり言葉を補うと、「こちらを向きや、宇佐美君、(宇佐美君が振り返ると)ふっ(笑い)、鼻が湿疹で荒れている」となるのだが、これは「む・き・や・う・さ・み・ふ・は・なが・し・し」すなわち「むつき(睦月)・きさらぎ(如月)・やよい(弥生)・うづき(卯月)・さつき(皐月)・みなづき(水無月)・ふづき(文月)・はづき(葉月)・ながつき(長月)・かんなづき(神無月)・しもつき(霜月)・しわす(師走)」のうえ1文字をとって並べたものであるが、無理やり意味づけすることができたので、面白くて塾生に毎年教えている。笑いながら何度か繰り返せば自然と覚えることができるので、自分としてはヒット作だと思っている。
 さらに、ヒット作と密かに自負しているものには、江戸時代の三大改革(享保・寛政・天保)の年号の覚え方がある。
   享保の改革---1716年(吉宗のような将軍、いないだろう)
   寛政の改革---1787年(松平定信は、いーなはな)
   大塩平八郎の乱---1837年(いやみなオッサン、大塩平八郎)
   天保の改革---1841年(水野忠邦は、いやよいち番)
社会の歴史で、江戸時代になるとこれを教えたくてうずうずしてくる。一度聞いたら忘れられないインパクトがある暗記法だと自負している。
 
 いつでも、こんなふうに楽しみながら勉強できたらそれに越したことはないが、そうばかり言っていられないのが辛いところである。
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