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「戦争と文学」

 久しぶりにしっかりした文学全集が発売された。集英社の「戦争と文学」。そのコンセプトは次のよう、

 『戦後世代が、次代に継承すべき遺産として、現代の読者に向け、あらたな視点に立って精選!平成版・戦争文学大アンソロジー!
本コレクションの特色
◎ 日清戦争から現代の戦争まで、百年以上の流れの中から作品を精選。
◎ 編集委員は戦後生まれの小説家や文芸評論家、歴史家。新しい世代の新しい視点を反映。
◎ 中・短編小説を中心に純文学からエンターテインメントまで、さらには戯曲や詩歌も収録。
◎ 各巻テーマを表現する「一文字」を気鋭の書家・華雪氏が書き下ろし、装幀に使用-』

 戦争など自分の生まれるずっと昔の出来事だと、昭和33年生まれの私は思っていたが、よく考えてみれば、太平洋戦争が終わってわずか13年後に生まれていたのだった。今から13年前と言えば1998年、長野オリンピックが開かれ、和歌山毒物カレー事件が発生した年・・、本当に少し前に過ぎない。それなのに、戦後生まれの申し子のように何も考えずに平和を謳歌してきた。平和であることが当たり前であるが故に、何も刺激のない平和を疎んじたことさえあった。この平和を手にするためにどれだけの命が犠牲になってきたかなど、真剣に考えたことがあまりなかったように思う。いわば平和ボケ・・。
 そんな己の危うさを、存在の核となる体験、すなわち己の行動の指針となりうる根源的体験の欠如に起因するものだと、長い間思ってきた。それならそれで、その長い間に己の核とすべきものを追体験すればよかったのに、生来の惰弱さが邪魔をしてそれも叶わずにきた・・。だらだらと日常にかまけているうちに、いつしかそんなことすら忘れかけていた私だが、この全集の発刊を知って、一気に思いが蘇ってきた。
 「戦争だ。理不尽の象徴である戦争のまっただ中に身を置き、そこで感じたこと、考えたことを記録していけば、己の核とするべきものが自ずと見えてくるのではないか・・」
 妙に高揚した思いに突き動かされて、すぐに全巻を予約した。

 第1回配本の「第8巻 アジア太平洋戦争」と「第19巻 ヒロシマ・ナガサキ」が昨日から届けられた。


 早速、「ヒロシマ・ナガサキ」の冒頭に掲げられた、原民喜の「夏の花」を読んだ・・。 

 昭和20年8月6日の広島に私はいた。被爆して多くの人々の焼けただれた姿を目の当たりにし、もがき苦しむ声を聞いた・・。やり場のない怒りと苦しみで体中が満たされた・・。
 思わずそう感じた。
 「夏の花」はずいぶん昔に読んでいたが、初めて読んだかのように一文一文が心に突き刺さった。心が重く、痛かった・・。

 しかし、どんなに辛くても目を背けてはならない。全巻を読み通すにはかなりの精神力が必要だと思うが、心を決めて読み続けていかねばならない。
 それができなきゃ腑抜けのまま死んでいくしかない・・。





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