

【7月30日投稿分 】
読者男性が「住職さん、ある日突然、妻がブチ切れて『別居する』と私に言い出して、訳を聞くと『自分で考えろ。自覚がないんか。何度も注意したぞ』と、更に、激怒を」と。「じゃ、ある日突然の話じゃなかったんだ。あなた、本当に身に覚えがないの」「いや、ないという訳では。私の潔癖のせいではないか、とは思うんですが」「結婚生活は何年ですか」「15年を超えました。私の潔癖症は、結婚前から妻は、知ってるはずなんですが。だから、何で今更、と」「なるほど。やっぱり、あなたは自覚がないんだね」と。
対し、この読者男性が「自覚がないって、どういう事ですか」と。「15年前の頃の潔癖症より、今現在のあなたの潔癖症の方が、間違いなくエスカレートしてると思いますよ。今、あなたが身に付いている潔癖は、今現在持っている知識からなる潔癖症でしょ。潔癖の情報が新しく入ってくる度に、どんどんエスカレートしていくばかりですよ。奥さんは恐らく、我慢が限度を越えたんだろうね」「どうしたら、いいですか」「これ以上、潔癖の知識を入れない事だね。例えば、ですが『ゴキブリは、洗わない手と不潔さは大差はない』と、その筋の専門家が言われておりました。そう考えたら、ゴキブリを過度に嫌う必要なんてないですよね。人間はゴキブリと同等の不潔な手と、四六時中一緒に過ごしてるんだから。生理的にあの様相が気持ち悪い、というは別にして。英国では、ゴキブリは『幸運の虫』という事で、引っ越しの時には、前の家から数匹連れて、新たな住まいに行くらしいですよ」「そうなんですか」「そりゃ、皆が皆、そうするとは思えませんが、英国人と結婚して25年間、ロンドンで住んでいる妻の妹が『英国人は日本人みたいには、過度にゴキブリを嫌ってないよ』と言ってますよね。潔癖症はどこかで、拘り過ぎを抑える必要がありますよね」と、この過度の潔癖症読者男性に。
続けて、この読者男性に「この話は余談ですが、江戸時代、臨済宗の良寛さんの庵に、旅人が一夜の宿を求めに来られたと。対し、良寛さんが『これで足を洗いなされ』と桶を。次の朝『これで顔を洗いなされ』と良寛さん、昨夜の足洗い桶を。『えっ』と旅人が躊躇すると『早く顔を洗ってくれんかい。その桶で米を洗わにゃならんでな』と。この話を檀家さんに話して聞かせると『そりゃ、あかんやろ、良寛さん。汚いがな』と。対し、拙僧『その桶が、何に使われていた桶かを知らなければ、平気で使う事が出来るでしょ。良寛さんもその桶で洗った米を食べる訳だから、綺麗に洗って使ってるでしょ』『なるほど、そういう事か。良寛さんは、拘るな、と言いたかったんだね、住職』と檀家さんが。一時期、食堂の厨房の料理人が、料理に自分の唾を吐き掛けて、お客さんに出していたという報道があったでしょ。そんな事をされていても、それを知らなかったら、お客さん達は『美味しい』と平気で食事をするでしょ。いちいち『そんな事をしてるんじゃないか』と憶測で疑っていたら、外食など一切出来ないですわな。この外食に限らず、人間って、知らないで済む事なら、知らないでいた方がいい、という事が少なからずありますよね」と。
因みに、昆虫学者の梅谷献二さんが「ゴキブリは世界に5千種、日本にいるは60種、屋内にいるは10種。3億年以上前に出現し、姿を変えずに現代まで。食器を舐める習性に由来して江戸時代には『御器噛り(ごきかぶり)』の名が。野口雨情の童謡『黄金虫(黄金虫は金持ちだ • • • 』の黄金虫は、ゴキブリの事と。沢山住み着くと裕福になるという伝説が。拙僧のお寺は山の上にあるので、ゴキブリやムカデは、なんぼでも家の中に。拙僧に見つかった時は、その子らはまだ、寿命が。が、拙僧の妻や、同居している妻の母親に見つかった時は、その子ら(ゴキブリ、ムカデ)は、それまでの寿命にて。
余談ですが、拙僧が高校生の頃、通学路の途中に、それは、それは、汚い店だが、美味しいちゃんぽん屋(現在は閉店)さんが。友人達と食べていた時、拙僧のちゃんぽんの中に小さなゴキブリが1匹、死体で。箸で摘んで捨てて、その箸を手拭きで拭いて食べようとすると「げぇ」と友人達が。対し、拙僧「何が、げぇ、や。出汁(スープ)は同じやで。お前らも既に、散々そのスープを飲んでるやんけ。今更遅いわ」と。店長の親父さんを見ると、我関せずの顔で、仕事を。この話を以前、法話で載せたら、皆さん、引かれたみたいで。
次回の投稿法話は、8月5日になります。