佐賀県の山岳会に所属する高齢者3人が八ヶ岳天狗岳で遭難した。同じ高齢者として、いましめとして以下にごく常識的な考えを書いてみた。具体的な登山計画が明らかでないので、あくまで想像しながらであることをお断りしておく。とにかく考えられないような事故であること、その最たるところは救助の要請が17日19時50分、あたりは真っ暗で体力が残っていたとしても進退窮まるところであろう。不思議に思うのは、こんな時間までどうしていたのかという点である。通年営業している天狗岳直下の黒百合ヒュッテの情報によると17日より少し前の積雪が70cmと出ていたので、彼らがいた場所ではもっとあった可能性が高い。私たちが登る奥揖斐の山々では少なくとも12時になったら、無条件に引き返すことにしている。天気が悪ければ(そんな時は行かないようにしているが)、もっと早めに判断する。
少し彼らのとったコースを想像してみる。最もポピュラーなコースは渋ノ湯から黒百合ヒュッテを経て、天狗岳に登る。もう一つは唐沢鉱泉から直接天狗岳に登るもので、夏道で3時間で最短のコースである。彼らはどこから登ったのであろうか。私は唐沢温泉から登ったと推測した。というのは渋ノ湯からであれば、黒百合ヒュッテに到着した時点で明るいうちに帰ってくることは不可能であることがある程度わかるだろうと思うからである。唐沢温泉から入った彼らは思いがけない積雪に苦労しながら天狗岳に登ったのであろう。とにかく天狗岳までは登ったが、暗くなり小屋にたどり着くことができなかったものと勝手に推測した。体力がある50台以下ならいざしらず、70台2人、80台1人である。それと九州の山岳会では雪のある山に登る機会は多くないであろうから、いかに積雪期と無雪期の登山が違うのか身体で実感することが少ないと思う(九州の方ご免なさい。あくまでも一般論なので。)この少ない機会に登りたいという気持ちはわかるが、やはり安全登山第一とすべきなのである。
コースタイム図 下の第一展望、第二展望を通るコースが唐沢鉱泉コース(このルートは登ったことがない)
以上が前置きである。ここからは、吉田智彦著「山小屋クライシス」(ヤマケイ新書)によって山小屋の抱える様々な問題を考えてみる。正直これほど問題が山積していることに少々驚いた。今山小屋を直撃しているのが、新型コロナであり、2020年には営業休止となった山小屋があったり、営業開始が遅れた山小屋もあった。新型コロナに対応するため、完全予約にしなおかつ収容人数を半減させたところが多かった。この新型コロナの前、2019年にはヘリコプターによる荷揚げを行う会社のヘリの修繕が必要となり、夏の繁忙期に間に合わないところも出てきた。有名な所では、この本での半ば共著者とでも言っていいような雲ノ平山荘の主人の伊藤二朗氏のところもヘリの会社と契約を結ぶことができず、その荷揚げに苦労したようである。かつては(1960年代以前)人力による歩荷(ぼっか)によっていたのだが、大部分の営業小屋はヘリによる荷揚げに切り替えた。このヘリの活躍によって、山小屋のサービス(生ビール、コース料理等々)が格段に向上した。今回のコロナは元々山小屋が抱えていた問題をより見えるものにした。
皆さん是非読んでください!!
三俣山荘で目撃した富山県警のヘリ 2018年7月
雲ノ平山荘 2018年7月
山小屋の利用者は最近減る傾向にある。一つは中高年登山ブームが過ぎ去ったことである。確かに10年前には名古屋発の登山ツアーが多くの旅行会社によって企画されていた。その時、おじさんは百名山の半分ほどをこのツアーに参加して登っていた。今やそうしたツアーは数えるほどしかない。そしてキャンプブームで山小屋に泊らず、(一人)テントに泊る登山客が多くなった。そこにヘリ問題(需給が逼迫すると荷揚げ代金が上がる)とコロナが重なった。宿泊者は減り、経営困難となる山小屋が多くなる。山小屋は厳しい環境(半年間以上雪の中に閉ざされる)にあり、補修が常に必要となる。時には大規模な修繕も必要となる。トイレ改善も多額な費用が必要となる(環境に易しいトイレとするために国、自治体の補助金があるが、四分の一程度の小屋負担は必要)。こうした山小屋自体の維持が難しくなりつつあるのである。
山小屋の果たす役割で私たちが認識していないのは、登山道の整備である。登山道の整備は本来、国立公園内であれば環境省(あるいは林野庁)が行うのが理想的であるのだが、それが行われていない。予算が非常に少なく、また職員が少ないこともありその整備必要箇所に目が届かないのである。登山道、特に登山者が多いところでは崩壊などを起しやすい。かつて作られた木道も十分メインテナンスされずに、木道から降りて歩くところも多く見られる。
日本とアメリカ、イギリスの比較 職員一人当りの管理面積 中部山岳国立公園約173平方キロ、イエローストーン約27平方キロ、ピークディストリクト約5平方キロ
国立公園であれば本来国が責任を持つべきだと思うのだが、この予算と職員数ではどうしようもない。そこで山小屋や山岳会や自治体がやむを得ず整備をしている(もちろん整備をしていないところの方が断然多い)。この責任はやはり国民の自然環境の保全、国立公園に対して国民の財産だとする考えが薄いからということになる。
国、自治体、山小屋オーナー、山岳会、 ボランティアなどによる協議会を組織し、問題を話し合うという試みがあちこちで行われているのだが、予算も人員も不足している。現在山小屋は、温泉地にあるホテルと同じ扱いになっている。行政が作った避難小屋と山小屋は違う扱いになっている。これを公園事業の中で、山小屋の機能を明確にし、登山道整備などインフラ整備のためのお金は国が負担するようなことを考えるべきだと識者は述べている。
おじさんとしては、国民の財産ともいうべき国立公園等の適切な管理のために、目的税を新設して財源にすることはできないのかと考えたりするのだが(日本では環境税の導入も財界の反対がある難しいようだ)。
少し彼らのとったコースを想像してみる。最もポピュラーなコースは渋ノ湯から黒百合ヒュッテを経て、天狗岳に登る。もう一つは唐沢鉱泉から直接天狗岳に登るもので、夏道で3時間で最短のコースである。彼らはどこから登ったのであろうか。私は唐沢温泉から登ったと推測した。というのは渋ノ湯からであれば、黒百合ヒュッテに到着した時点で明るいうちに帰ってくることは不可能であることがある程度わかるだろうと思うからである。唐沢温泉から入った彼らは思いがけない積雪に苦労しながら天狗岳に登ったのであろう。とにかく天狗岳までは登ったが、暗くなり小屋にたどり着くことができなかったものと勝手に推測した。体力がある50台以下ならいざしらず、70台2人、80台1人である。それと九州の山岳会では雪のある山に登る機会は多くないであろうから、いかに積雪期と無雪期の登山が違うのか身体で実感することが少ないと思う(九州の方ご免なさい。あくまでも一般論なので。)この少ない機会に登りたいという気持ちはわかるが、やはり安全登山第一とすべきなのである。
コースタイム図 下の第一展望、第二展望を通るコースが唐沢鉱泉コース(このルートは登ったことがない)
以上が前置きである。ここからは、吉田智彦著「山小屋クライシス」(ヤマケイ新書)によって山小屋の抱える様々な問題を考えてみる。正直これほど問題が山積していることに少々驚いた。今山小屋を直撃しているのが、新型コロナであり、2020年には営業休止となった山小屋があったり、営業開始が遅れた山小屋もあった。新型コロナに対応するため、完全予約にしなおかつ収容人数を半減させたところが多かった。この新型コロナの前、2019年にはヘリコプターによる荷揚げを行う会社のヘリの修繕が必要となり、夏の繁忙期に間に合わないところも出てきた。有名な所では、この本での半ば共著者とでも言っていいような雲ノ平山荘の主人の伊藤二朗氏のところもヘリの会社と契約を結ぶことができず、その荷揚げに苦労したようである。かつては(1960年代以前)人力による歩荷(ぼっか)によっていたのだが、大部分の営業小屋はヘリによる荷揚げに切り替えた。このヘリの活躍によって、山小屋のサービス(生ビール、コース料理等々)が格段に向上した。今回のコロナは元々山小屋が抱えていた問題をより見えるものにした。
皆さん是非読んでください!!
三俣山荘で目撃した富山県警のヘリ 2018年7月
雲ノ平山荘 2018年7月
山小屋の利用者は最近減る傾向にある。一つは中高年登山ブームが過ぎ去ったことである。確かに10年前には名古屋発の登山ツアーが多くの旅行会社によって企画されていた。その時、おじさんは百名山の半分ほどをこのツアーに参加して登っていた。今やそうしたツアーは数えるほどしかない。そしてキャンプブームで山小屋に泊らず、(一人)テントに泊る登山客が多くなった。そこにヘリ問題(需給が逼迫すると荷揚げ代金が上がる)とコロナが重なった。宿泊者は減り、経営困難となる山小屋が多くなる。山小屋は厳しい環境(半年間以上雪の中に閉ざされる)にあり、補修が常に必要となる。時には大規模な修繕も必要となる。トイレ改善も多額な費用が必要となる(環境に易しいトイレとするために国、自治体の補助金があるが、四分の一程度の小屋負担は必要)。こうした山小屋自体の維持が難しくなりつつあるのである。
山小屋の果たす役割で私たちが認識していないのは、登山道の整備である。登山道の整備は本来、国立公園内であれば環境省(あるいは林野庁)が行うのが理想的であるのだが、それが行われていない。予算が非常に少なく、また職員が少ないこともありその整備必要箇所に目が届かないのである。登山道、特に登山者が多いところでは崩壊などを起しやすい。かつて作られた木道も十分メインテナンスされずに、木道から降りて歩くところも多く見られる。
日本とアメリカ、イギリスの比較 職員一人当りの管理面積 中部山岳国立公園約173平方キロ、イエローストーン約27平方キロ、ピークディストリクト約5平方キロ
国立公園であれば本来国が責任を持つべきだと思うのだが、この予算と職員数ではどうしようもない。そこで山小屋や山岳会や自治体がやむを得ず整備をしている(もちろん整備をしていないところの方が断然多い)。この責任はやはり国民の自然環境の保全、国立公園に対して国民の財産だとする考えが薄いからということになる。
国、自治体、山小屋オーナー、山岳会、 ボランティアなどによる協議会を組織し、問題を話し合うという試みがあちこちで行われているのだが、予算も人員も不足している。現在山小屋は、温泉地にあるホテルと同じ扱いになっている。行政が作った避難小屋と山小屋は違う扱いになっている。これを公園事業の中で、山小屋の機能を明確にし、登山道整備などインフラ整備のためのお金は国が負担するようなことを考えるべきだと識者は述べている。
おじさんとしては、国民の財産ともいうべき国立公園等の適切な管理のために、目的税を新設して財源にすることはできないのかと考えたりするのだが(日本では環境税の導入も財界の反対がある難しいようだ)。