醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより 151号  聖海

2015-04-14 11:35:13 | 随筆・小説

   パックス・アメリカーナの終焉

 パックス・アメリカーナの終焉に今、私たちは立ち会っている。フローレンス・サマーズ元アメリカ財務長官は4月5日、「今月は、米国が世界経済のアンダーライターとして地位を喪失した月として後世に残ることになるだろう」と自身の公式サイト「larrysummers.com」を通じて述べた。中国によるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の発足は米国が戦後進めてきた世界銀行とIMFによる世界秩序(ブレトンウッズ体制)を崩すことになると異例の警鐘を鳴らした。同時に絶えず日本がトップの座を占めていたアジア開発銀行もまたその生命を失うのかもしれない。
 第一次世界大戦後、イギリスに変わってアメリカ合衆国が世界の大国として君臨し始めた。1920年代、大量生産、大量消費の大衆社会がアメリカに出現した。フォードの車が世界中の憧れになった時代である。1929年の大恐慌後、1930年代の第二次世界大戦へと向かう時代の企業倒産と失業者増大の苦しい時代を経て、1940年代の第二次世界大戦でアメリカは大恐慌で疲弊した経済を回復し巨万の富を築いた。1950年代と1960年代がアメリカの黄金期だった。この時期のアメリカ外交政策の失敗がパックス・アメリカーナの終焉を準備したといっていいだろう。そのアメリカの外交政策とは中国封じ込め政策である。アメリカ合衆国の勢力圏化にある東南アジアの国々がドミノ倒しのように社会主義国化するのを恐れたアメリカは社会主義国中国の勢力が周辺地域に及ばないように中国を封じ込める外交政策である。1950年には早速、北朝鮮が南の人民を開放するという戦争を始めた。スターリンのソ連も中国の毛沢東もアメリカの勢力圏化にある南朝鮮人民解放戦争を支援している。アメリカは中国の勢力が南朝鮮に伸びて来るのを阻止しなければならない。台湾に中共の勢力が伸びないよう、金門島、馬祖列島での砲撃事件があった。第二次世界大戦後、インドシナに再び進駐してきたフランス軍に対してベトミン軍が蜂起した。1954年にはディエンビエンフーの戦いによってフランス軍は手痛い敗北を喫した。北緯17度線で停戦協定が成立したが北ベトナムが南ベトナムを開放する戦いは何としても阻止しなければならない。これがアメリカの中国封じ込め政策であった。この戦費がアメリカ経済に重くのしかかった。ベトナムでのアメリカの敗北が濃厚になるに従い、この敗北を最小限に食い止める対策としてアメリカは中国と接触を始めた。キッシンジャーの忍者外交である。
アメリカは1971年7月15日、ニクソン大統領の訪中を発表した。日本の頭越しに中国との国交回復交渉を始めた。日本政府のショックは計り知れないものがあった。
 また一方、アメリカは1954年フランスに代って1975年までのベトナム戦争でベトナム人を殺し、自国兵士も殺した。枯葉剤を散布し、ベトナム人に何十年にもわたる被害を与え、自然を破壊した。これらの人殺しと自然殺しのためにドルを使い過ぎてしまった。1971年8月15日、金1オンスを35ドルと交換していたのを突然停止すると発表した。金とドルとの交換比率を保証することによって成り立っていた戦後のブレトン・ウッズ体制、IMF体制の根幹を揺るがす出来事だった。それも事前に予告されることなくアメリカは一方的に発表した。この出来事によって日本政府が受けたショックもまた計り知れないものであった。1971年に起きた二つの出来事、ニクソンショックはパックス・アメリカーナ黄昏の始まりだった。あれから40年、いよいよ大国の地位を中国に譲る時がきたようだ。
 アメリカはAIIBに加入しないようG7の国々や勢力圏化にある国々に圧力をかけたようだ。しかしイギリスが加入を表明するとドイツ、フランス、イタリアが加入を表明した。米韓FTAを結んでいる韓国がアメリカの圧力を受けながらAIIBへの加入を表明した。同じ英語を話すオーストラリアまでがAIIBへの参加を表明した。アメリカからの指示を守ったのは日本一国のようだ。安倍政権は時代錯誤も甚だしく中国包囲網を築こうしていたが反対に日本はアジアで孤立を深める結果になりそうな形勢だ。中国市場なくして日本経済は成り立たないことが分かり切っていながら、中国との関係を悪化させようとしている。日本はウクライナとは遠く離れ、経済的にも関係がほとんどないにもかかわらずアメリカの指示で安倍政権はロシア経済制裁をした。その結果、北方領土返還交渉は頓挫したままである。
 今や中国の国際基軸通貨ドルの保有高は台湾政府、香港政府とを合わせると4兆6000億ドルに達する。AIIBを設立するだけの力を中国は持っている。今までIMF、世界銀行、ADB(アジア開発銀行)という組織を使ってアメリカは欧州と日本を手足として発展途上国を半ば経済的に支配する新植民地体制を強いてきたがこの体制が崩れさることだろう。これからは発展途上国が欧米や日本に発展を妨害されることなく、順調な経済の発展がのぞまれる。
 習近平やプーチンには大人の風格があるが安倍晋三にはアメリカの腰巾着のような風情がある。日本国民に苦しみを強いて、アメリカのご機嫌を伺う賤しさがある。残念なことである。