醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより 158号  聖海

2015-04-22 11:14:05 | 随筆・小説
 
 
  高千代酒造 蔵開き 新潟県南魚沼市

 4月19日、どんより曇っていた。朝9時集合の場所に行くと後ろから私を呼ぶ声がした。振り返るとニコニコ顔した酒屋の社長が私に向って歩いてくる。私も社長に向って急ぎ足になった。「今日はよろしくお願いします」と私は社長に挨拶した。社長と肩を並べて社長の自家用車に向って歩いた。「車が汚れていますね。チョットガラスを拭きます」。社長は自動車の窓ガラスを拭き、ボンネットや扉を拭いていた。そこに仲間が一人やって来た。「お早うございます」とサングラスをしたMさんが言った。「今日の天気はどうなりますかね」と話していると後ろから「お早うございます」と声がかかった。Kさんが来てくれた。「あとGさんだけだね」とKさんが言った。Gさんが急ぎ足でやってくるのが見えた。全員揃ったね。さぁー出発だ。
 午前8時59分、越後塩沢に向け出発した。Mさんが高速に乗るナビをしてくれた。日曜日の道路は空いていた。関越自動車道路石打・塩沢インターを11時50分に降りた。まだ蔵開きの時間には間があるな。「へぎそばを食べて行きましようか。ケーブルに乗って山に登り、アルプスの山々を眺めましようか。雲洞庵に行きましようか。鈴木牧之記念館、『北越雪譜』の著者の記念館にしましょうか」と私は尋ねた。
 「雲洞庵に行きましょう。良い所だった覚えがありますよ。家内と六日町温泉に一泊したときに拝観した覚えがありますよ」とMさんが言った。「雲洞庵に行きましょう」。皆の気持ちが一致した。南魚沼の道路の脇には雪がうず高く積まれていた。
 雲洞庵の駐車場に止めた自動車から降りると寒さが肌を刺した。拝観料三百円を支払い、杉木立の中の参道を歩いて行くと雪解け水の中に水芭蕉が咲いていた。土の上を透明な水が薄く流れ、その脇に水芭蕉がツンと背筋を張った緑の葉に囲まれて白い花が咲いている。曹洞宗の禅寺の中は寒さがピンと張りつめていた。うん、これは俳句の世界だ。一句と、思っていたがとうとう句は生まれなかった。帰り際、寒そうにしている親子連れがいた。「寒いね」と私が声をかけると「本当に寒いですね」「どちらからですか」「千葉県です」「あぁー、私どもも千葉県野田市からです」「あら、そうですか。私たちは安孫子からです」というような話を母と娘の親子連れと話を交わした。「ちょうど、良い時間です。高千代酒造に行きましよう」。
 雲洞庵から5,6分で目的地に到着した。蔵人が迎えてくれる。受付を済ますと早速、樽に入った絞りたての大吟醸の酒とおりがらみの無濾過生原酒の酒が迎えてくれた。柄杓で汲んだ酒がチョコに注がれる。あぁー、酒蔵に来た醍醐味だ。一杯づつ飲んだ。大吟の酒と生原酒の酒を飲んだ。「何杯飲んでもいいですよ。一杯づつではありませんからね」と蔵人が楽しい声をかけてくれた。もう一杯、もう一杯。4,5杯飲むと突然酔いが回ってきたように気分になった。2階でマッチングをしていますよ。「おぉー、やろう」。Gさんの声がする。この声に励まされて2階に登った。5種類の酒が用意されている。意気こんで利酒をしたが残念ながら全問正解をした仲間はいなかった。酒を講釈する私自身も全問正解できなかった。お酒のことがわかったようなことは何も言えないと深く反省した一瞬であった。