徒然草40段 『因幡国に、何の入道とかやいふ者の娘』
因幡国に、何の入道とかやいふ者の娘、かたちよしと聞きて、人あまた言ひわたりけれども、この娘、たゞ、栗をのみ食ひて、更に、米の類を食はざりれば、「かゝる異様の者、人に見ゆべきにあらず」とて、親許さざりけり。
今の鳥取県にあった因幡国(いなばのくに)に何某の入道とかいう者の娘がいた。その娘は大変な美人だという噂だった。その噂を聞き、求婚する者が後を絶たなかった。ただその娘は栗ばかりを食べ、困ったことに米の類のものは食べなかったので「このように変わった娘でございますと、言って人様に嫁がせるわけには参りません」と親は娘を嫁がせることを許しませんでした。
この章段を読み、昔読んだ野坂昭如の小説『エロ事師たち』を思い出した。
「男客は一業種から一名で、それもシナリオ・ライター、鉄ブローカー、証券会社重役、税関の役人、京都の大学助教授、尼ヶ崎の銘木屋、BGM制作会社社長、御影の地主と、まずこの場以外では絶対に顔をあわさぬとりあわせ。西宮北口に時刻をずらして集合させ、かりそめにも人眼にたたんようにと、そこから三人ずつ山荘へスブやん自身が案内した」。
『エロ事師たち』より
男たちを集め、秘密の場所に案内し、怪しげな見世物をするエロ事師たちの生業を表現した生きる哀しみを表現した小説だった。
この小説にあった話か、どうか、忘れてしまったが、キュウイだけを女の子に食べさせ、緑色の便をさせ、それを見せる生業を読んだ記憶がある。二人の痩せた髪の毛の長い女の子か襖を開け、裸のまま入って来る。女の子にはここしばらくキュウイのみ食べさせております。緑色の便を皆様にご披露させていたただ来ますので、じっくりご覧下さいと、中年の男が話をする。二人の若い女の子はギラギラした男たちの目に曝されることに快感があるのか、胸を張り、男たちの目の前で股を開くと細くて長い緑色の便をする。男たちは目を輝かせて息を飲んで見つめている。
小説の話か、実話のルポか、忘れてしまったが、妙に脳裏に焼き付いている話だ。今もこのようなエロ事師たちが横浜の黄金町とか、大阪の飛田とかには跋扈していることだろう。