[1]関係代名詞を巡る論点
関係代名詞と準動詞(不定詞・動名詞・分詞)は、中学校で英語が嫌いになるかどうかを分ける分水嶺だと思います。これらが使えるようになれば、少し長めの長文問題も苦にならなくなるし、ここで躓くと英語の授業自体が苦痛に感じられる。
しかし、関係代名詞の論点はそう多くはないです。このブログ管理者の私がここ3年ほど毎回TOEIC本試験を受験した経験からも、多分、TOEICでも次の6個(7個)でほとんどカバーできるはず。
・関係代名詞の種類(who, which, that, what, but, +複合関係代名詞)
・関係代名詞の格変化(特に、所有格の形)
・関係代名詞の省略と先行詞の省略
・前置詞に支配される場合の前置詞の位置
・制限用法と非制限用法(特に、文意を受けるwhich)
・関係代名詞が修飾する先行詞(普通名詞)に定冠詞がつく場合と不定冠詞がつく場合の差
これらにListeningのセクションでは、関係代名詞の二つの用法による発音の強さと発声の長さが加わるとしても全部で7個。ただ、もちろんこれらの論点は相互に関連していますが関係代名詞を巡るルール自体はそう多くはない。
では、なぜ、関係代名詞が理解できず、英語自体も苦手になる方が少なくはないのか。それは、「制限用法の関係代名詞が率いる語句(関係節)は長い前置きならぬ長い後置きである」「非制限用法の関係節は、挿入された副詞句である」という、関係代名詞を巡る大枠の理解が欠落しているからではないかと思います。以下、これら制限用法(限定用法)と非制限用法(継続用法)について説明します。
[2]制限用法の関係代名詞は<長い修飾語句>の機関車
制限用法の関係代名詞が率いる節について具体的に見てみましょう。
"the white house" のように、英語では普通、名詞を修飾するthe とか whiteのような言葉は(形容詞や限定修飾語といいますが、)修飾される言葉(house)の前に来ますよね。修飾される言葉を「被修飾語」といいますが、英語では長い修飾語(句)は被修飾語の後ろに来る場合が多いのです。例えば、
a sleeping baby
a baby sleeping in a cradle
(眠っている赤ちゃん)
(揺りかごの中で眠っている赤ちゃん)
の違いです。この長い修飾語が被修飾語の後ろに置かれるパターンを「後置修飾」といいます。
そして、関係代名詞が率いる節は「長い修飾語」の典型であり、当然、被修飾語(=先行詞)の後ろにくる。
普通の修飾:a sleeping baby
後置修飾: a baby sleeping in a cradle
a baby which is sleeping in a cradle
よく、関係代名詞は「二つのセンテンスを関係づける(つなぐ)役割を果たす」という説明を聞きます。確かに、関係代名詞の「関係=relative」はそういう意味なのですが、この説明の仕方では、「制限用法の関係代名詞が率いる語句(関係節)は長い前置きならぬ長い後置きである」という大枠の理解を妨げかねない。関係代名詞が果たしている機能に注目する場合にはあくまでも、
制限用法の関係代名詞は長い修飾語による後置修飾である!
要は、アメリカ人が関係代名詞を使う場合、わざわざ二つのセンテンスを頭の中に思い描いてから、それらを関係代名詞で連結して話したり書いたりしているでしょうか?
そんなわけはないですよね。「関係代名詞は二つのセンテンスをつないでいる」という説明は、関係代名詞が含まれている例文を分析して理解する際には大変有効なのですが、話者や作者の立場に自分を置いてみるとそううまい説明とは言えない。
もう一度書いておきますが、関係代名詞が率いる語句(=関係節)は長い修飾語なんだということ。それは後置修飾だということ。それは、先行詞を長い修飾語句を使って具体的に説明したい、もっと多くの情報を聞き手や読み手に提供したいという話者の欲求を反映した文法形式なんだ、と。
そう考えれば、関係代名詞の理解はクリアになると思います。この大枠の理解の上に、上で述べた6個(7個)の個別の知識を積み上げれば、関係代名詞の攻略完了! 是非、このアプローチ方法で関係代名詞を克服してみてください。
[3]非制限用法の関係代名詞は<挿入された副詞句>
次に非制限用法の関係代名詞について一緒に考えましょう。まず、制限用法と非制限用法の関係代名詞(とそれが導く関係節)はどう違うのでしょうか。尚、非制限用法(継続用法とも言います)とは、そうあの「カンマ+関係代名詞」の用法のことです。
次の英文の違いを考えてみてください。
(1)There were a few students who could speak English well in the college campus.
(2)There were a few students, who could speak English well in the college campus.
ヒント! 次の(3)(4)は初級者だけでなく上級者にも英文法の整理をするにはお薦めの、綿貫陽『基礎からよくわかる英文法』(旺文社)の中の有名な例文。
(3)She had two sons who became doctors.
(4)She had two sons, who became doctors.
さあ、(1)と(2)、(3)と(4)の違いが分かりましたか。 分かったという方は、日本語に訳すか英語で言い換え(パラフレーズ)してみましょう。別に、英文和訳を勧めるわけではありませんが、「ある英文の意味や二つの例文の違いが本当にわかった」ということは和訳かパラフレージングがきちんとできるということですよ。
(3)の”She had two sons who became doctors.”は「彼女には二人の息子がいた」が、それはどんな息子達かというと「医師をしている息子」である。つまり、他に何人の息子がいたかどうかは置いとくとして、「彼女には医師の息子が二人いた」という意味。
これに対して、(4)の”She had two sons, who became doctors.”は「彼女には二人の息子がいた(息子は二人しかいなかった)」。そして、「その二人の息子は医師だった」という意味です。微妙ですか(笑)。
要は、(3)では、彼女には医師をしている二人の息子以外に何人の息子や娘がいるのかは全く言及されていないのに対して、(4)では彼女には(娘の存在はわからないけれど)少なくとも二人の息子しかおらず、その二人は両方とも医師をしているという意味なのです。
彼女の息子達の可能性
(3)医師, 医師, 自衛官, 商社勤務 ・・・
(4)医師, 医師
(3)と(1)の関係代名詞の制限用法(限定用法とも言います。)では、読んで字の如く、あくまでも関係代名詞が導く節は先行詞の意味を「制限」している。だから、(3)の” who became doctors”は”two sons”を修飾する長い修飾語にすぎません。それは、”two diligent sons”(二人の勤勉な息子達)の”diligent”(勤勉な)と文法的に果たしている役割は変わらない。
それに比べ、(4)と(2)の関係代名詞の非制限用法では、「カンマ+関係代名詞」以下は「追加の独白」や「関連情報の補足的な提供」なのです。つまり、(3)(4)を強引にパラフレーズするとこうなります(なぜ「強引」かと言えば、(3)でも「彼女には息子が二人しかいない」ケースもあるからです)。
(3’)She had some sons, and two of them became doctors.
(4’)She had only two sons, and both of them became doctors.
お待たせしました。では、(1)(2)の意味はどう違うのでしょうか。
(1)There were a few students who could speak English well in the college campus.
(2)There were a few students, who could speak English well in the college campus.
もうわかりましたね。これらをパラフレーズしてみると、
(1’)There were some students, and a few of them could speak English・・・.
(2’)There were a few students, but all of them could speak English ・・・.
(1)キャンパスには(学生は何人かいたが)英語を話せる学生はあまりいなかった。=キャンパスには英語を話せる学生も何人かいた。他にも学生はいたんだけどね。
(2)キャンパスにはあまり学生はいなかったが、そこにいた学生はみんな英語が話せた。=キャンパスには何人かの学生がいたが、それらの学生はみんな英語が話せた。
つくづく、英語では、「カンマ一つ。あるのとないのと大違い」ということが実感できると思います。是非、上の例文とそのパラフレーズを暗唱しみてください。そして、今後英字新聞などを読む時には、いちいち和訳するのではなく制限用法と非制限用法の違いが反射的に識別できるようになると思います。
<確認演習>
この記事で説明したことを例題で確認しておきましょう。
▼例題1:
The chemical company succeeded in developing an industrial catalyst < > would contaminate the air much less than the existing counterparts.
(A) who
(B) which
(C) where
(D) when
訳:その化学会社は現行の同等製品に比べて大気を汚染する度合いが少ない工業用触媒の開発に成功した。
正解:(B)
説明:空所より前は完全な「S→V→・・・」構造の節。また、空所から後ろの単語列も「S→V→・・・」構造を取っているものと思われます。つまり、空所には接続詞または関係詞が入るはず。ところが、空所から後ろの「S→V→・・・」構造には主語が見当たらない。よって、空所には節の主語を兼ねる関係代名詞しか入れません。あとは文意から先行詞が「物事」のan industrial catalyst であることがわかれば「物事」を先行詞に取る which が正解になることがわかります。
Step1:空所から後ろが節→空所は接続詞か関係詞
Step2:空所から後ろは主語を欠いた「S→V→・・・」構造→空所は関係代名詞
Step3:先行詞が「物事」→「物事」を先行詞に取れる which, that
Step4:選択肢にはwhichしかない→正解はwhich
▼例題2:
The gentleman standing in front of the vending machine is the person < > laptop computer was stolen in the vestibule area of an Odakyu Romancecar.
(A) who
(B) that
(C) which
(D) whose
訳:あの自動販売機の正面に立っている紳士が(先日)小田急ロマンスカーの車輌連結部分でラップトップ型のコンピューターを盗まれた方です。
正解:(D)
説明:空所の前後とも「S→V→・・・」構造の節。よって、空所には接続詞または関係詞が入るはずですね。ところが、空所から後ろの「S→V→・・・」構造の主語、laptop computerは可算名詞の単数形なのに冠詞類が見当たりません。よって、空所には冠詞を兼ねる関係代名詞が入る。つまり、「その人物の」という所有の意味を表す whoseが来るのです。
▼例題3:
The new legislation, < > was passed by Diet, may result in an amendment to the constitution.
(A) that
(B) which
(C) who
(D) whose
訳:今度国会で成立した法律の中でも、あの新しい法律は今後憲法改正を引き起こすかもしれない。
正解:(B)
説明:関係代名詞の非制限用法の理解を確認しましょう。「The new legislation」の次の部分に注目。空所以下の節は主語を欠いた「S→V→・・・」構造であり、また、カンマで区切られています。このことから、空所には節の主語になりうる非制限用法の関係代名詞が来ることがわかります。
つまり、(i)「物事」を先行詞に取れる, (ii)非制限用法の,(iii)主格の関係代名詞が正解。而して、「人」のみを先行詞にするwhoは不適当。(who, whichの)所有格 whoseも不適当。そして、thatは非制限用法には使えない。よって、消去法からもwhichが正解。
▼例題4:
There is nothing < > we can do about it.
(A) that
(B) what
(C) whose
(D) which
訳:我々がそれに関して出来ることはない。
正解: (A)
説明:先行詞がnothingであることから関係代名詞はthatに特定されます。なぜならば、先行詞がthe only, the very, all, every, any, no, および、最上級の形容詞、序数詞で限定された名詞の場合、あるいは、「Ms.Vanille and two her cats」等の「人+物事」の場合には、原則、関係代名詞はthatになります。
▼例題5:
This is one of the Tibetan villages that < > seriously damaged by the Sichuan Earthquake.
(A) is
(B) was
(C) have
(D) were
訳:こちらは四川大地震で深刻な被害を受けたチベット人の村の一つです。
正解:(D)
説明:「one of + 複数名詞」を関係代名詞が受ける場合、ofの次にくる複数名詞が先行詞になるのが原則です。つまり、上の例文では、villagesが先行詞となり(A)(B)は三人称単数に対応したbe動詞のため不適当。haveは「ダメージを与える」という能動の意味しかなく不適当なのです。
ただ、複数の先行詞候補があるセンテンスでは前後関係から本当の先行詞を判定するしかない場合も少なくありません。以下の例文を参照してください。(1)の関係代名詞は制限用法でその先行詞はthe only person, (2)の関係代名詞は非制限用法で、かつ、先行詞もall my weblog matesです。先行詞の単数複数に対応して関係節の述語動詞(has, have)も所有代名詞(his, their)も変化していることがわかると思います。
(1)Moai is the only person among all my weblog mates who has expressed his own opinion on the issue.
(2)Moai is the very person among all my weblog mates ,who have expressed their own opinion on the issue.
(1)モアイさんは、私のブログ仲間の中でもその問題について自分自身の意見を表明している唯一の方だ。
(2)その問題について自分自身の意見を表明している私のブログ仲間が何人かいるけれど、モアイさんは正にその一人です。
▼例題6:
Averting danger of North Korea, the Aso administration began preparing laws to restrict the trading activities of the General Association of Korean Residents < > North Korea improves its intelligence activities in Japan.
(A) through which
(B) through that
(C) which
(D) that
訳:北朝鮮の脅威を避けるべく、麻生政権は北朝鮮がそれを通じて日本国内での諜報活動を行っている朝鮮総連の貿易活動を制限する法律制定の準備を始めた。
正解:(A)
説明:空所から後ろの「S→V→・・・」構造の節は文法的に完結しており、空所には(いずれも選択肢に挙げられていない)接続詞か関係副詞、あるいは、「前置詞+関係代名詞」のいずれかが入ることがわかります。而して、関係代名詞の that は「前置詞+関係代名詞」の語順をとれないので正解はthrough whichに絞られるのです。
尚、関係代名詞の先行詞はactivities と the General Association of Korean Residents のどちらであるとも文法的には決められません。よって、「北朝鮮がそれを通じて日本国内での諜報活動を行っている」という前後の意味から上の例題の場合、先行詞はthe General Association of Korean Residentsになります。
▼例題7:
< > the conservative reformers are looking for is to develop national economic policies both to promote free competitive enterprise and to realize revitalization of local communities.
(A) Where
(B) Which
(C) What
(D) That
訳:保守改革派が探し求めているものは、自由競争に基づく企業活動と地方再生を同時に達成しうる国の経済政策なのです。
正解: (C)
説明:空所以降は目的語を欠いてはいるものの「S→V→・・・」構造の節であり、同様に、is以降も主語を欠いてはいるけれど「S→V→・・・」構造の節です。よって、空所にはare looking forの目的語になりつつ、文頭の節全体をisの主語にすることができる関係代名詞が求められます。つまり、先行詞を含む関係代名詞whatの出番。次のように考えればよいでしょう。
[Something which=what] the conservative reformers are looking for is to develop ・・・
↓ 【関係節の目的語(↑)】
↓
The conservative reformers are looking for [something which=what] is to develop ・・・
↓
↓ 【関係節=主節の主語(↓)】
[The conservative reformers are looking for・・・] is to develop ・・・
なぜwhatは先行詞を含むのか? あるいは、先行詞と併用されない関係代名詞はそもそも「関係代名詞」と呼べるのでしょうか(なぜならば、関係代名詞や関係副詞は先行詞を後置修飾する形容詞節を作る「特殊な接続詞」とも言えるのですから)。英語史からは、しかし、意外な風景が見えてきます。
実は、現在の関係代名詞の中でもwhatの登場は一番古く。また、whatは古英語期の末から18-19世紀頃までは、先行詞を含まない普通の関係代名詞(「単一関係代名詞」と呼ばれます)としても、先行詞を含む関係代名詞(「複合関係代名詞」と呼ばれます)の両方の用法を持っていました。
そして、なんと、who、which、whose、whomにも18-19世紀頃まではその両方の用法があり、この200年足らずの間にwhatが「複合関係代名詞」に、who、which、whose、whomが「単一関係代名詞」に純化して現在にいたったのです。
尚、関係代名詞のthatはもともと「あれ」「それ」を意味する指示形容詞(指示代名詞)から派生した関係代名詞であり、よって、先行詞との結びつきはwho、which、whose、whom 等の疑問詞から派生したwh-系の関係代名詞よりも遥かに強い。この出自の違いが、wh-系の関係代名詞と異なりthatには非制限用法がみられない理由と考えられています。英語の歴史は面白いですね。
英語史的文法論の要点覚書--異形の印欧語「現代英語」の形成、それは「格変化」の衰退から始まった
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/91718985f1a5d1b7df4c7485a966c123