初級者にとっての<英語の正体>の紹介です。つまり、TOEIC730点程度の英語力の獲得を目指している方は、どんなことが英語でできるようなスキルや知識を身につけようとしているのかを説明します。今回は、特に英語の音声のどのような特徴を乗り越えて(日本語の音声とは異なる性質に惑わされることなく、)流れてくる英語の意味を把握すればよいのか、他方、音声としての英語のどんな特徴を踏まえて話せばよいのかについてコメントします。
もちろん、本稿を読んだだけで英語が聞けるようになったり/話せるようになったりすることは絶対にありません(自慢でもないですが断言します)。しかし、「何時までに」という目標到達の「納期」をにらみつつ合目的的な学習をする上では少しはお役に立てるかもしれない。そうなればいいな、と思っています。尚、英語らしい発音のためには、同化・脱落・連結・弱化という一連の音の短縮や変化の仕組みを覚えることが有益ですが、初級者にとっての<英語の正体>としては本稿では割愛します。
本稿は「続・英語の正体を知ると少しは気が楽になるかも 音としての英語編」の続編ですが、文法と単語・熟語を扱った前々作も併せて目を通していただくことをお勧めします。また、★註の記述は少しマニアックなのでご用とお急ぎの方は飛ばしちゃってください。尚、英語の学習方法に関する私の基本的な考えについては次の拙稿をご参照ください。
▼英語学習方法のTipsのようなもの
・英語学習方法のTipsのようなもの(英単語編)
http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/177326176225661c74a2e7507a75d543
・英語学習方法のTipsのようなもの(リーディング編)
http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/6695d98d8c0ced03fc5355129fb44e3f
・英語学習方法のTipsのようなもの(ライティング編)
http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/d5bdd6f185996c25df7ad322a74a14c0
・英語学習方法のTipsのようなもの(リスニング編)
http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/1ffd9cc90ca27a11208b0e332d0140ff
◆知らない単語は聞き取れない
最初に<真理>の確認。それは「知らない単語は聞き取れない」ということです。英会話スクールでもTOEICのリスニング対策講座でも、「とにかくたくさん聞きましょう。恥ずかしがらずどんどん話しましょう」という指導をされる先生方を今でも時々見かけます。しかし、超能力者でもあるまいに、知らない単語や意味の解らないセンテンスを話したり聞いたりできるはずがありません。
読むのと聞くのとは別の能力。子供は(うにゃ、「人間は」かな、)まず音声として言葉を覚え次に文字の形態をとる言葉を覚えます。また、人類の言葉の長い歴史の中で文字が登場したのはごくごく最近のことです。個体発生は系統発生を繰り返す。ならば、読めなくとも聞き取れる単語やセンテンスは存在するし、それは「知らない単語」や「意味が解らないセンテンス」ではありません。しかし、例えば、日本人の大人がスクリプトを読んでも理解できない英文を聞き取れるでしょうか?
英語が母語ではない社会人にとって、英文を読んで理解すること(Reading Comprehension)が困難な単語やセンテンスをスクリプトを見ずに聞いて理解すること(Listening Comprehension)は一般的に困難だと思います。この両者が別々の能力であることは当然ですが、聞き取りよりも読解が得意な日本人の現在の英語力の傾向を念頭に置けば(極めて特殊な場合を除けば)、読んでも理解できない英文を聞き取れるはずはないのです。
TOEICのリスニングのパートでも(設問も選択肢も印字されていないパート2は別にして、)、流れてくる英語がとても速く曖昧に感じるのは、単にナレーションのスピードが速いだけではなく(英語を聞き取るスキルが乏しいだけでなく)、読解力が乏しいことが原因の場合が少なくありません。読解力不足のために設問と選択肢を読む時間が十分とれず、また、読んでもよく理解できないケースです。
Listening Comprehensionとは<英語特有の音声という文字>で<中空に書かれた英文>の<読解>です。ならば、空中にせよ紙の上にせよ、<書かれた英文>に対する"Comprehension"が欠落しているならListening にせよReadingにせよその英文は理解されることはありませんです。よって、初級者にとっての<英語の正体>は音声の形をとった英単語・熟語の知識であり、音声の形を取る英文を理解できる文法力なのです。
◆アナログ→デジタル→アナログ
初級者にとっては外国語の音声は<雑音>です。文字通り<訳のわからない音の塊>です。そして、初級者にとっての英語の音声は、最初、アナログ的な<連続する音>にすぎません。少し複雑な喩えになりますが(定番の笑い話でもありますが)、このことを事例で説明しましょう。
日本の農村であるオジサンが言われた。「掘った芋いづんな」(=Don't touch the potatoes that
were dug up just now.)、と。それを聞いたアメリカ人は "What time is it now."と尋ねられたと勘違いして "It's three o'clock now." と答えた。ちゃんちゃん。
日本語の発話「ほったいもいずな」は、日本語の音声としては「/ほ/っ/た/い/も/い/ず/な/」というさらに細かく分析できる(デジタル化できる)音の単位が作る列です(★)。ところが、日本語特有の音の単位を知らないアメリカ人にとっては、日本語の音声「ほったいもいずな」は、先ずは単なる<音の塊>にすぎません。しかし上の事例では、この<音の塊>をなんとか理解したいと思った親切なアメリカ人は、自分が慣れ親しんでいる英語特有の音声の単位が並ぶ列としてこの<音の塊>を理解しようとした。それが "/What/time/is/it/now/"だったわけです。よって、"It's three o'clock now."と返答した。ちなみに、このデジタル化した英語特有の音声の単位が作る列("/It's/ three/ o'clock/ now/")はオジサンにとってはこれまた単なるアナログ的な<音の塊>にすぎません。
この喩えで明らかになることは、音声としての言語は「アナログ→デジタル」という順序で人間に理解さるということ、そして、「アナログ→デジタル→アナログ→デジタル→・・・」という順序で人間と人間の間でやりとりされるということです。ここから初級者にとっての<英語の正体>の一つが導かれます。それは、英語に特有な音声の単位を把握できる/識別できることです。
英語に特有な音声の単位は大きく二つの層に分かれます。音韻と音節。物理的な音の最小単位が音韻;英語の辞書の一つ一つの「発音記号」のことと考えていただいて結構です、実際に英単語を発話する際の最小単位が音節;英和辞典の見出し語で「・」で区切られている部分です(例えば、”dictionary” は辞書の見出し語としては「dic・tio・nar・y」になっているでしょう。このdicやtioやnarやyは総て別々の音節なのです)。大切なことは、日本語と英語の音韻と音節は異なるということ(★)。英語がうまく聞き取れない/うまく話せないという場合には、音韻と音節まで遡って何度もトレーニングしてみてください。
★註:音声の単位としての音節
「/What/time/is/it/now/」や「/It's/ three/ o'clock/ now/」および「/ほ/っ/た/い/も/い/ず/な/」においてスラッシュ(/)で区切られている部分を音節といいます。実際の発話の最小単位のこと。日本語の音節は「/ほ/」とか「/い/」のように、原則、子音+母音(もしくは、母音単体)であり、音節の長さは、これまた原則、すべて等間隔(メトロノームの周期にさも似たり)。手拍子の「拍」と似ているので、日本語の音節は「拍=Mora」と呼ばれています。これに対して、英語の音節の長さは等間隔ではない。英語の音節は、母音を中心に一息で発声される音の集まりのことで、「音節=Syllable」と呼ばれるています。例えば、「春」は「/は/る/」と日本語では2音節;つまり、二息で発話されますが、英語の「spring」は「/spring/」と1音節で一息で発話されるのです。復習です。日本語の「スプリング」は「/ス/プ/リ/ン/グ/」の5音節、五息です♪
★註:音声の単位のシステムは言葉により異なる
アナログ的な<音の塊>を分析するのはその音を受け取る人間の耳です(もちろん本当は「脳」です)。つまり、<音の塊>をさらに細かく分析するための音の単位は、あたかも物理学でいう分子や原子や素粒子のように自然界に確固として存在する普遍的なものではなく、英語とか日本語とかドイツ語という言葉使用の慣習なのです。「所変われば音の単位も変わる。言葉が異なれば音の単位も違ってくる」。この考え「言語の恣意性」は、有名な言語学者ソシュールが確立した言語観の一部です(最も重要な他の一部は、言語の指差性の指摘;ある音の単位のアイデンティティーはそれと別の音の単位との差異によってだけ定まるという指摘です)。
◆ストレスとイントネーション
初級者にとっての<英語の正体>として本稿でもう一つ紹介したいのがストレスとイントネーション(あるいはアクセントとリズム)です。このシステムが体得できていなければ上手に発話することは難しいですし、逆に、これらが身につけば音としての英語の聞き取りは格段に向上します。簡潔にまとめます。
・英語の音の正体としてのストレス
日本語のストレスは音の高さ低さの違いを利用するのに対して、英語のストレスは音の強さ弱さを利用します。そして、英語では(一般的に)強く発声される箇所は「ゆったり」発声されます。つまり、英語の場合はストレスも音声の流れに緩急を与える要因になるのです(確認! 日本語では音節の間隔は原則等しい♪)。
・英語の音の正体としてのイントネーション
日本人の話す英語は日本人には解りやすい。しかし、日本人の英語のスピーチを5分も聞くと異様に疲れることがあります。なぜでしょうか。「解りやすい」理由は、発話される日本語訛りの英語の音声(=音韻と音節)が自分にも親しいからです。では、「疲れる」理由は何でしょうか? それがイントネーションです。
朝日新聞でも読売新聞でも何新聞でもいいのですが、ご自分が新聞を読む場面を想像してください。もし、記事に句読点がなかったとしたら疲れませんか? この場合、語と語の前後関係から「文」を読者自身が復元しなければならず、疲れます。Listening Comprehensionにおいて、この「句読点」に該当するシステムがイントネーションなのです。
文頭から文末にかけて強弱のリズム(特に、文末の上がり/下がり)がなければ、どこからが次の新しいセンテンスなのか、あるいは、次に流れてくる部分も今まで聞いてきたセンテンスの中の一部にすぎないのか(名詞節・副詞節・関係節等々にすぎないのか)不明確になります。その場合、聞き手は単語と文法の知識を総動員して発話されたセンテンスを「復元」しなければならず、疲れます。蓋し、イントネーションの拙い発話はリスナーフレンドリーではない! では、これらのポイントに注意して学習を進めてみてください。頑張ってください。
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今日は2時間も聞いてました。かなり疲れました…。
気を抜くと、どこで切れてるのかさっぱり判らなくなりました。
>「句読点」に該当するシステムがイントネーションなのです。
なるほど~!納得、です。
ところで、訪問件数が2000を超えたとの事おめでとうございます。
やはり英語の話題は関心が高いんでしょうね。
わかります。上で書いた、イントネーションとリズムが、音の世界のパンクチュエーション(句読点)だという認識は、数多の疲れる実体験を通して汗と涙と眠気との闘いの代償に得たものですから。
>英語の話題は関心が高いんでしょうね
そうとばかりは言えません。
平均すれば(また、半年とか1年とかのトータルでは)、政治系やビジネスの話題がやっぱ皆さんの関心は強いのではないでしょうか。他の方のブログを見させていただいても、英語系なら、やっぱ、TOEIC対策に特化したものとか、毎日、400字くらいの肩の凝らない英単語とか英米の風習習慣へのエッセーとかじゃないとコンスタントに多くの方に訪問していただくことは難しいと思いますよ。
まあ、私の場合、どちらのブログもヒット数はあんまり関心がないのでそんなことはどうでもいいですが(欲望の赴くまま書きたいときに書きたいことを書いています)。逆にだからこそ、1ヶ月で訪問件数が2000を超えたのは素直に嬉しかったです。今後とも宜しくお願いいたします。