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原文de確認:アメリカ国務省は日本の歴史認識に圧力をかけたのか?

2015年01月24日 14時43分52秒 | 雑記帳




2015年の年明け、「安倍総理の戦後70年談話に注文」「アメリカが村山・河野両談話の継承を促す」といった報道が流れました。アメリカ国務省のJen Psaki報道官(Spokesperson)の1月5日の定例記者会見での発言をもとにした報道記事。しかし、Psaki報道官ご自身、翌日の同じ定例記者会見でその発言を修正した。

これ、泰山雷同、ネズミ1匹の事態かな。

朝日新聞には嘘が書かれているかもしれないので、
ことの顛末を他紙の記事でまず事実復習。


▼米国務省「村山談話の継承を」 戦後70年の首相談話巡り
米国務省のサキ報道官は5日の記者会見で、安倍晋三首相が今夏までにまとめる戦後70年の首相談話を巡り、過去の植民地支配と侵略を認めた村山富市首相の談話などを継承するよう求めた。歴史認識問題について「近隣諸国との対話を通じた友好的な方法で解決するよう日本に促したい」と語った。

当時の村山首相の談話と従軍慰安婦問題を巡る河野洋平官房長官の談話に関して「謝罪」との認識を表明。両談話とも「近隣諸国との関係改善に向けた日本の努力の中で、重要な位置を占めている」と強調した。米政府は歴史認識問題で中韓両国につけいるすきを与え、北東アジアが不安定になることを警戒している。

菅義偉官房長官は6日の閣議後の記者会見で「安倍内閣は村山談話を含め歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継ぐ。日本の歴史認識は米国にも説明している」と語った。首相談話に関し「先の大戦への反省、戦後の平和国家としての歩み、アジア太平洋や世界にどのような貢献を果たしていくか、未来志向(の内容を)を書き込みたい」と強調した。

(日経・2015/1/6


▼米政府が軌道修正 戦後70年談話の首相発言を「歓迎」
米国務省のサキ報道官は6日の記者会見で、安倍晋三首相が年頭記者会見で語った戦後70年の首相談話に関する発言を歓迎した。サキ氏は5日の記者会見で発言への評価を避け、過去の談話の継承を促していたが、軌道を修正した。新たな談話に懸念を示したと受け止められることを避ける狙いがあるとみられる。

首相は5日、「先の大戦への反省、戦後の平和国家としての歩み、アジア太平洋地域や世界にどのような貢献を果たしていくか、英知を結集して書き込みたい」と述べた。サキ氏は前日の記者会見での内容を「言い直したい」と前置きし、「歴史問題での前向きなメッセージと戦後日本の平和への貢献を含んでおり、歓迎する」とした。

サキ氏は5日の記者会見で、過去の植民地支配と侵略を謝罪した平成7年の村山富市首相談話や慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の河野洋平官房長官談話を挙げ、「(両談話による)謝罪は、近隣諸国との関係を改善しようとする日本の努力の中で重要な節目となった」としていた。

(産経・2015.1.7


そして、これが朝日新聞になるとどうも
トーンが違うと感じるのは私だけ(笑)


▼米「謝罪が重要な区切り」 戦後70年の首相談話に見解
米国務省のサキ報道官は5日の定例会見で、安倍晋三首相が8月の終戦記念日に合わせて発表するとしている戦後70年の首相談話について、「これまでに村山富市元首相と河野洋平元官房長官が(談話で)示した謝罪が、近隣諸国との関係を改善するための重要な区切りだったというのが我々の見解だ」と語った。

米政府としては、過去の植民地支配と侵略を認めてアジアの人々に苦痛を与えたとして反省とおわびを表明した村山談話と、慰安婦問題に関して反省と謝罪を盛り込んだ河野談話の趣旨を、戦後70年の首相談話でも引き継ぐことが好ましいと指摘した形だ。

サキ氏は「(日本には)過去に公表された談話がある。それ以上のコメントはない」と述べ、戦後70年の首相談話が村山談話や河野談話で示された歴史観を塗り替えることがないよう暗に求めた。その上で「日本が引き続き周辺国と平和的な対話を通じ、歴史をめぐる懸案を解決することを望む」とも語り、中国や韓国との関係改善を促した。

(朝日新聞・2015年1月6日





ただね、

この会見原文と日本の報道記事を読み比べると
私は幾つか不満が残った。

それは、
左右というかリベラルか保守かという報道各社の立ち位置の違いではない、
より基本的な事柄。

それは、

(Ⅰ)アメリカ政府の発言を過度に重視しすぎていないでしょうか?
多分、歴史認識を巡るイシューについて、朝日新聞や毎日新聞等の日本国内のリベラル勢力は、①保守派の歴史修正主義色濃厚な歴史認識は正義に反する→②アメリカもそう思っている→③ならば、支那と韓国という特定アジアが「首相の歴史認識を巡る発言」および「首相の靖国参拝」に敏感に反応するのは当然だ→④よって、日本政府は特定アジア諸国を苛立たせ東アジアの国際関係に波風が立つことは厳に慎むべきだ。とかとか主張しているの、鴨。

けれども、

アメリカは、村山談話や河野談話の内容が正義にかなうという意味で正しく、また、その内容が歴史的事実とも整合的という意味でも正しいから、両談話を支持する。ということはないのですよ。あくまでも、アメリカは、歴史認識の件で日本と特定アジア諸国がこれ以上外交関係を荒立てないでほしい。特に「歴史認識などで日韓というアメリカの同盟国間の関係が揺らぐことは困る」それはアメリカにとって迷惑。という外交実務的というか事務的なスタンスじゃないかい。

ならば、

1月5日の定例記者会見での発言をもとに「村山談話・河野談話の見直しは世界的にも許されない」とか。1月6日の定例記者会見での発言をもとにして「アメリカも安倍総理の歴史認識を是認した」とか大騒ぎするのは筋違いだと思うのです。それは、この日本に関する発言が報道官定例会見の極ごく一部でしかないことからも推察される、鴨。そう思います。


(Ⅱ)日本の歴史認識を他国にとやかく言われる筋合いはない
歴史認識は国家の社会統合イデオロギーの重要な一斑。そして、というか、ならば、国ごとに異なる歴史認識があってもいいし、現にそうなっている。実際、アメリカと英国の歴史認識も鋭く対立する部分があるもの。而して、そのような主権国家の内部の社会統合マターに国際法も容喙できません。それ、ある国の憲法の解釈を他国が国際法をたてにして左右できないこととパラレル。

この理路を看過した報道があまりにも多くないか、
という不満。


いずれにせよ、このイシューに関する支那や韓国からの国際法や確立した国際政治の慣習とも無縁の<批判>に対して、日本だけが我慢する必要は毛頭ない。それらの実定国際法を逸脱するリスクとコストを--悪しき前例を自ら日本が作る外交リスクとそれを補うために必要な外交コスをト--日本にのみ求めた上で、特定アジア諸国と日本との関係を<対処療法>的におさめようという、虫のいいアメリカの「推奨」など日本は一考だにもする必要はない。

と、そう私は考えます。



・歴史修正主義を批判するリベラル派の知性の貧困
 --占領憲法をガダラの豚にしましょう
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/65362635.html


と、以下、皆様のご参考にすべく、
アメリカ国務省の件の報道官発言を翻訳紹介します。





Daily Press Briefing
January 5, 2015


MS. PSAKI:
・・・Any more on Lebanon? Okay. Go ahead, Elliot.

QUESTION:
Thanks. A couple on Japan, quick ones. I was wondering if you saw Prime Minister Abe’s opening – year-opening press conference where he said that Japan would be issuing a statement on the 70th anniversary of World War II expressing remorse for Japan’s actions. I was wondering if you had a response.

MS. PSAKI:
We did see President – Prime Minister Abe’s remarks. As you know and we’ve stated many times from here, the apologies – our view is that the apologies extended by previous Prime Minister Murayama and former Chief Cabinet Secretary Kono marked important chapters in Japan’s efforts to improve relations with its neighbors. As we’ve indicated many times, we encourage Japan to continue to work with its neighbors to resolve concerns over history in an amicable way through dialogue.


定例会見
2015年1月5日


>サキ報道官:
・・・レバノンについては他に質問はありませんか。
はい、では、次に行きましょう。エリオットさん質問を始めてください。

>質問者:
ありがとうございます。日本について幾つか手短に質問させてください。安倍首相は年初の、年頭の記者会見で、日本政府は第二次世界大戦の戦後70年に際して日本の行為に対する深い反省を発表すると発言しましたが、そのことはご存知ですか。もしご存知ならば、このことに関するアメリカ国務省の感想を聞かせてください。

>サキ報道官:
総理、安倍首相の所見は承知しています。そして、ご承知の通りに、我々は何度となく、かって村山首相と河野官房長官が切り開いた謝罪、それらの謝罪が日本の近隣との諸国の関係改善において重要な節目節目をなしてきたと述べてきました。而して、これまたこれまで幾度となく日本に対して示唆してきたことですけれども、歴史を巡る懸案について対話を通して平和的に改善するように日本が近隣諸国とともに努力をすることを推奨したいと思っています。


QUESTION:
Will you be encouraging the Japanese to include specific language in the statement that reconciles historical differences with its neighbors?

MS. PSAKI:
Well, I think, as I mentioned, there’s been a statement that’s been issued already. Beyond that, I don’t have anything to preview for you.

QUESTION:
Well, the statement is going to be made later this year. I was wondering what --

MS. PSAKI:
I understand. I mean, there’s been a statement previously issued.

QUESTION:
Sure.

MS. PSAKI:
Beyond that, I don’t have anything to convey. I can check and see if there’s more to add.・・・

>質問者:
近隣諸国と日本の間の歴史認識を巡るいさかいを和解に至らしめるべく、特に何かの要素をその戦後70年首相談話に盛り込むよう日本に対して推奨の働きかけをする予定はありますでしょうか。

>サキ報道官:
といいますか、今述べたように、すでに出された談話が現在も存在しているわけです。それら以外には特に付け加えるものはないと考えています。

>質問者:
そうなんですが、戦後70年首相談話は今年後半には出されることになっている。そこに何が盛り込まれるべきとアメリカは考えているのか・・・。

>サキ報道官:
ですから、私が申し上げているのは、もうすでに出された談話があるでしょうよ、と。

>質問者:
そうですよね。

>サキ報道官:
それら村山談話と河野談話を超える内容は思いつかない。付け加えられるべきなにかがあるものか検討してはみますけれど。・・・



Daily Press Briefing
January 6, 2015


・・・
QUESTION:
So yesterday, you made some comments on the Prime Minister Abe’s remarks at the New Year opening press conference.

MS. PSAKI:
Mm-hmm.

QUESTION:
And you also mentioned about the importance of Murayama Danwa and –Murayama Statement and Kono Statement, and some people see that as a kind of pressure on Japanese Government to take over that – those statements. So I’m wondering whether you have --

MS. PSAKI:
Well, it certainly wasn’t intended to be. Let me just reiterate – or restate, I should say – that we welcome Prime Minister Abe’s comments yesterday, including the positive message on history issues and Japan’s postwar contributions to peace. We believe that strong and constructive relations between countries in the region promotes peace and stability and are in the interests of both the countries as well as the United States.・・・


定例会見
2015年1月6日


・・・

>質問者:
昨日、報道官は年頭の記者会見で安倍首相が表明した所見についてコメントされました。

>サキ報道官:
ええっと、そうでしたね。

>質問者:
昨日のコメントで報道官は、村山談話、あるいは、村山談話および河野談話の重要性もまた指摘された。この発言について、これらの談話を踏襲するように日本政府に対してアメリカ政府がある種の圧力をかけたのだ、と。そう受け取る向きもあります。そこで、この点に関するアメリカの真意を確認したいのですが --

>サキ報道官:
圧力などは私が述べようとしたことと明らかに異なります。この点、端的に確認というか修正させていただきたい。歴史認識と平和への戦後の日本の貢献に対する前向きな認識を含んだ安倍首相の年頭の所見をアメリカは歓迎していると、そういう言い方を私は昨日の会見ですべきだったのだと思います。東アジア地域諸国間の強く、かつ、建設的な関係は世界の平和と安定に寄与すること少なくないこと、そして、そのようにして強化される平和と安定は東アジア諸国の利益であるだけでなくアメリカにとっても利益になるということ、そうアメリカ政府は確信しています。・・・



http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2015/01/235595.htm

http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2015/01/235630.htm




P/S
それにしても、この同じサキ報道官が、同じこの1月に起きた
「イスラム国」の人質事件に関して、ヨルダンと日本に対して、
紛うことなき<圧力>をかけていること。

>テロリストに身代金を払うべきではない!
>テロリストと人質交換の交渉もすべきではない!


と、
事例が異なるとはいえ、

サキ報道官のこれらの発言と本編記事の彼女の発言の
単刀直入さのそれを比べた場合、

>アメリカ国務省は日本の歴史認識に圧力をかけたとはいえない

と、そう思います。まあ、こんなもん(↓)ですよ。世間も世界も・・・。

http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2015/01/236853.htm#JORDAN


【2015年1月29日】



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