2008年のアメリカ大統領選挙からちょうど3週間、結果はすでにhistoryの範疇。アフリカ系アメリカ人として始めての大統領が選出された歴史的選挙(the historic and historical election)における民主党バラク・オバマ上院議員の地滑り的勝利については多言を要しないでしょう。その詳細については、下記のNYTのURLおよび私が作成したYahoo検定「アメリカ大統領選挙観戦資格検定」を見ていただければと思います。
・2008年アメリカ大統領選挙(上院・下院・州知事選挙)結果
http://elections.nytimes.com/2008/results/president/votes.html
・アメリカ大統領選挙観戦資格検定(四級)(五級)(六級)
http://minna.cert.yahoo.co.jp/ormh/cert_list?order=0
選挙直前、私の友人である筋金入りの共和党支持者のある黒人の弁護士は「オバマがアフリカ系アメリカ人だからといって私達黒人が彼に投票するとは限らない。俺は保守の美徳を愛しこの国を愛する共和党員として党のチケット(マケイン&ペイリン)に投票する」と語っていた。而して、選挙の帰趨が決した(このWPSTの記事が書かれた)11月5日に電話で話したとき彼は、「マケインが負けて残念だが、オバマが大統領に当選したのは黒人としても合衆国の市民としても誇らしい」とその気持ちを吐露してくれました。
畢竟、選挙中盤の9月15日。リーマンブラザーズの破綻に端を発するアメリカ発の国際金融危機が駄目押しとなり、オバマ圧勝の流れは決した。しかし、(歴史にifはないにせよ、結果から見るに)恐らく金融危機が惹起しなくとも民主党の圧勝は動かなかっただろう。それだけ、共和党現政権の不人気は凄まじく、逆に言えば、今回政権交代が起きないようなら「アメリカの民主主義は死んだ」とさえ言わなければならない状況だったと思うからです。しかし、「奴隷の子孫」ではないにせよ、また、「肌の色が白」ではないものの絵に描いたような東部エリートであるにせよ、アフリカ系アメリカ人をその大統領に選出するアメリカ合衆国の社会は侮りがたい。これが私の偽らざる感想です。
この感慨に関してはブログ仲間のANNE先生が素晴らしい詩を紹介されていました。記事URLと共に引用させていただきます。尚、 Rosaはローザ・パークス、そして、 Martinはもちろんマーティン・ルーサー・キング牧師のことです。
Rosa sat so Martin could walk.
Martin walked so Obama could run.
Obama ran so our children can fly.
http://blogs.yahoo.co.jp/anne_in_pei/59031416.html
さて、オバマ民主党の勝利により日米関係はこれからどうなるのか。この点に関して私は率直に言って、今回の大統領選挙で民主党が勝とうが共和党が勝とうが結果はそう変わらなかったと考えています。蓋し、国際政治のプレーヤーは(グローバル化の時代こそ)「主権国家」にならざるをえず、その主権国家が対内的には「最高」の対外的には「独立」の存在である以上、(どんな友好国家間でも)利害の対立は避けられない。また、個々の国家の正当性を謳う<政治的神話>は両立しえない(例えば、米国建国の父は英国では大叛逆人!)。
他方、各主権国家がその産業構造も人口も歴史も言語も文化も異にする限り、他国との関係はすべて「非対称的」にならざるをえない。ならば、例えば、韓国はこの世に存在しないものとして扱い、支那とは(やはり、支那は大国だから。そのことを認めない国粋馬鹿右翼的認識はかえって日本を危うくすると思うから)「政凍経冷」の関係に入るべき。而して、今後衰退して行く米国にはそう大きな期待は持たず、ただ、相互に騙まし討ちがなければ「有難い」くらいのつもりで日米同盟のメンテナンスを進める親米独立路線でいくべきであろう。要は、アメリカとの同盟が不可欠でありアメリカが衰えて行くことが不可避だとすれば、日本はアメリカに頼るよりも、むしろ、<唯一の同盟国たるアメリカ>に日本が何を貢献できるかについてこそ脳髄に汗して考え断乎として行動に移すべきだと私は考えるのです。
以下紹介するのは大統領選挙翌日、11月5日のWashington Postの記事“Obama Makes History,”U.S. Decisively Elects First Black President; Democrats Expand Control of Congress,「オバマ歴史を創る:アメリカ合衆国、初の黒人大統を果敢に選択-議会の主導権を強化した民主党」です。
Sen. Barack Obama of Illinois was elected the nation's 44th president yesterday, riding a reformist message of change and an inspirational exhortation of hope to become the first African American to ascend to the White House.
Obama, 47, the son of a Kenyan father and a white mother from Kansas, led a tide of Democratic victories across the nation in defeating Republican Sen. John McCain of Arizona, a 26-year veteran of Washington who could not overcome his connections to President Bush's increasingly unpopular administration.・・・
イリノイ州選出のバラク・オバマ上院議員が、昨日【11月4日】、第44代の大統領に選出された。変化を求める改革派の声に押され、また、ホワイトハウスに駆け上がる最初のアフリカ系アメリカ人になることを熱望する時代の趨勢に押された結果である。
オバマ氏はケニア人の父と白人の母の間に生まれたカンサス州出身の47歳。そのオバマ候補は、中央政界歴26年のベテランにしてアリゾナ州選出、共和党のジョン・マケイン上院議員を打ち負かし民主党に全国津々浦々で大勝をもたらした。マケイン氏は日々不人気の度を増しているブッシュ政権と自身との結びつきからくる劣勢を挽回することができなかったのだ。(中略)
It ushered in a new era of Democratic dominance in Congress, even though the party's quest for the 60 votes needed for a veto-proof majority in the Senate remained in doubt early today. ・・・
Democrats will use their new legislative muscle to advance an economic and foreign policy agenda that Bush has largely blocked for eight years. Even when the party seized control of Congress two years ago, its razor-thin margin in the Senate had allowed Republicans to hinder its efforts.
McCain congratulated Obama in a phone call shortly after 11 p.m. and then delivered a gracious concession speech before his supporters in Phoenix. "We have had and argued our differences," he said of his rival, "and he has prevailed."・・・
民主党が上院で目標にしていた、少数党の議事妨害を阻止すのに必要な60議席が達成できたかどうかは今日の早い段階では不明なままであるにせよ、議会もまた民主党支配の新しい時代に入ることがこの投票日に確実になった。(中略)
民主党は彼等が議会で得た新たな勢力を使い、ここ8年間ブッシュ政権が封じてきた民主党の経済と外交政策を推進していくものと思われる。2年前【の中間選挙で】民主党が議会の主導権を握った時でさえ、上院における両党のきわどい議席数によって共和党は民主党の意図を封じてきたのだから。
マケイン氏は午後11時を過ぎてすぐオバマ氏に電話で祝福を送った。而して、フェニックスにおいてマケイン氏は彼の支持者を前にして従容と敗北宣言を行う。曰く、「我々(共和党と民主党)はその違いを明確にした上でその優劣を競ってきました」。そして、マケイン氏は彼のライバルについてこう語った「その結果としてオバマ候補が我々に打ち勝ったのです」、と。(中略)
Obama became the first Democrat since Jimmy Carter in 1976 to receive more than 50 percent of the popular vote, and he made good on his pledge to transform the electoral map.
He overpowered McCain in Ohio, Florida, Virginia and Pennsylvania -- four states that the campaign had spent months courting as the keys to victory. He passed the needed 270 electoral votes just after 11 p.m., with victories in California and Washington state.
オバマ氏は1976年のジミー・カーター候補以来となる、一般投票者の50%を上回る支持を獲得した民主党の候補になった。そして、彼は選挙の勢力地図を塗り替えてみせるという支持者への約束を見事にやってのけたのだ。
オバマ氏は、オハイオ州、フロリダ州、バージニア州、および、ペンシルバニア州でマケイン氏を圧倒した。これら四つの州は大統領選挙の鍵を握るものと考えられ、実際、これらの州で支持を得るべく両陣営が数ヵ月に渡り激しい運動を展開した所なのである。カリフォルニア州とワシントン州でとともに午後11時過ぎに確定した勝利によってオバマ陣営は当選に必要な270の大統領選挙人を超えた。
The Democrat easily won most of the Northeast, the Rust Belt, the West Coast and mid-Atlantic states that normally back Democrats. By midnight, he appeared to be running strong in North Carolina, Indiana, Missouri and Montana, each of which was too close to call.
Obama melded the pride and aspirations of African Americans with a coalition of younger and disaffected voters drawn to his rhetorical style, and a unified base of Democrats worried about the economy and frustrated with the war in Iraq.
He is the fifth-youngest man elected to a first presidential term, after Theodore Roosevelt, John F. Kennedy, Bill Clinton and Ulysses S. Grant. He is the 16th senator to ascend to the office, and the first since Kennedy's election in 1960.・・・
民主党は東北部、北部の旧工業地帯、西海岸、および、一般的に黒人民主党員が多い中部大西洋側の大部分の州で余裕の勝利を飾った。夜半までにはノースカロライナ、インディアナ、ミズーリー、および、モンタナという接戦ゆえに勝敗の判定が容易でない諸州でもオバマ氏の優勢が明らかになった。
オバマ氏はアフリカ系アメリカ人の誇りと大志を結集すると同時に、若い世代と政治に不信を抱く有権者を彼一流の演説のスタイルによって引き付けた。而して、民主党の支持基盤は一丸となって経済の現状や先行きに不安を抱き、そして、イラク戦争に不満を堆積していったのだ。
オバマ氏は当選した一期目の大統領としては、セオドア・ルーズベルト、ジョン・F・ケネディ、ビルクリントン、そして、ユリシーズ・S・グラントの各大統領に次いで5番目に若い大統領候補である。また、オバマ氏は大統領に当選した16番目の上院議員であるが、これは1960年のケネディ大統領以来のこと。(中略)
The election was in many respects a referendum on the two-term president, whose popularity has plunged to the lowest levels since the 1930s, because of his administration's handling of the economy, Hurricane Katrina, and the wars in Iraq and Afghanistan. Bush has not been seen with McCain since May, and the president has made no public appearances since late last week.・・・
During a sometimes chaotic race, McCain promised voters that he would reform a broken and corrupted Washington and bring change that he said the American people demand. But his economic and national security proposals largely echoed Bush's policies, a charge that Obama made repeatedly.
Republicans watched yesterday as the electoral map turned blue in places where they have labored for a decade to cultivate a permanent, conservative voter base that would ensure presidential victories.
The party -- now clearly a minority one -- is left wondering whether the Democratic rout is the result of a coincidental marriage of a powerful personality and a terrible political and economic environment or if it signals a deeper change in voter patterns and beliefs that will make it difficult for them to recapture the White House for years.・・・
今回の大統領選挙はいろんな意味で2期目を務めている大統領に対する国民投票であった。而して、現在の大統領の支持率は、彼の政権の経済運営、ハリケーンカトリーナ、そして、イラクとアフガニスタンにおける戦争によって1930年代以降の最低水準に陥っている。それもあって、ブッシュ大統領は5月以来マケイン氏を同伴する姿を見せることはなかったし、先週後半以降は公に表れることさえなかったのである。(中略)
幾らか選挙の先行きが混沌としていた時に、マケイン氏は彼がワシントンの退廃した政治の仕組みを改革するつもりであること、そして、マケイン氏が語る所のアメリカ国民が求めている変革をもたらすつもりであると有権者に約束した。しかし、彼の経済政策や国家の安全保障政策に関する提案はその大よそにおいてブッシュ政権のそれらの亜流でしかなかった。つまり、マケイン氏の提案はオバマ氏が繰り返し非難した事柄そのものだったのである。
共和党の支持者達は、昨日、選挙結果を表示する地図で幾つもの州が青色に変わるのをまんじりともせず見つめていた。10年にも及ぶ彼等の努力により永遠に続くとさえ思われる保守派の牙城とした、而して、大統領選挙で彼等の勝利を保証するものだったはずの幾つもの州が【民主党の勝利を示す青色に塗られるのを】目撃したのである。
共和党は、最早、間違いなく少数派になってしまったのだが、その共和党は現在自問自答している。すなわち、この壊滅的な敗北は民主党の大統領候補の力強い資質と政治・経済における極めて劣悪な状況が重なった結果にすぎないのか、それとも、共和党が大統領のポジションを奪還するのに何年もかかるような困難さを意味する変化、つまり、有権者の投票パターンと政治信条が深い所で変化した兆候なのかを問うている。(中略)
In a sign that Obama's race did not hold him back, he won as large a share of the white vote as any Democrat in the past two decades, although he still fell short of a majority. Preliminary exit polls showed him winning among 43 percent of white voters, while Sen. John F. Kerry won 41 percent in 2004 and Vice President Al Gore won 42 percent in 2000.・・・
Obama appeared to have made huge gains among Hispanic voters, earning about two-thirds of their support, according to exit polls. He also captured 95 percent of black voters. Obama also won a majority of women and took the support of 49 percent of men.
McCain appeared to have performed more poorly than his GOP predecessors, especially among young people. He earned about 30 percent of voters aged 18 to 29; in 2004, Bush captured 45 percent of that group.・・・
オバマ氏の人種的な属性が彼の選挙戦を妨げなかった兆候として、過半数には僅かに届かなかったもののオバマ氏は過去20年のどの民主党大統領候補に優るとも劣らない白人有権者からの得票率を記録したことが挙げられる。予備的な出口調査の結果では、白人有権者の43%の支持をオバマ氏は集めたのだが、2004年大統領選挙のジョン・F・ケリー上院議員は41%、そして、2000年の大統領選挙での副大統領のアール・ゴア氏の得票率は42%だったのだから。
出口調査によれば、オバマ氏はヒスパニック系有権者の中で大量得票したものと推測されている。すなわち、彼等の三分の二から支持を得たもよう。他方、オバマ氏は黒人有権者の95%から得票した。而して、オバマ氏は女性有権者の過半以上、および、男性有権者の49%の支持を得た。
マケイン氏の得票は、歴代の共和党大統領候補に比べても振るわなかった。特に、若い世代の有権者に対してはその傾向は顕著であった。畢竟、18歳から29歳までの有権者に関して、2004年の選挙でブッシュ大統領が45%獲得したのに対して、今回、マケイン氏は30%の支持しか集められなかったのだから。(後略)