快風丸

俺の船に乗らないか。

女剣士 朱音 参上

2018-07-14 22:25:36 | Weblog

柘榴坂を下ると別れ橋のたもと、鵺の鳴く声がした。

胸ポケットのシガレットをまさぐるとき、言の刃の気配がした。

 

上段に構えた剣におののいた。

ひれ伏して命乞いをした。

夜の月、冷たく光る切っ先。

嘲笑いながら立つ影はこちらを見据え、静かに振り下ろす。

時に風吹かば、満月は鈍色の雲をまとい、剣士の刀が舞う。

不埒なダティのジャズは鳴り止み、ただ闇を舞うは光の切っ先。

 

そこで時空は止まる。

 

全てが無に帰する予感の中で、鼓動は果てしなく続く走馬燈を回し始める。

優しい母、強い父、風に揺れる森、荒ぶる海、収穫を待つ田畑、働く者、

泣く女、益荒男、揺れる火、情けない心。

 

全てが消えかかったその時、一瞬きらめいたのは月の裏側、この世の向こう。

 

 

喧騒のなか、草の波間で朽ちていた。

https://youtu.be/DC4bccH6gAw