柘榴坂を下ると別れ橋のたもと、鵺の鳴く声がした。
胸ポケットのシガレットをまさぐるとき、言の刃の気配がした。
上段に構えた剣におののいた。
ひれ伏して命乞いをした。
夜の月、冷たく光る切っ先。
嘲笑いながら立つ影はこちらを見据え、静かに振り下ろす。
時に風吹かば、満月は鈍色の雲をまとい、剣士の刀が舞う。
不埒なダティのジャズは鳴り止み、ただ闇を舞うは光の切っ先。
そこで時空は止まる。
全てが無に帰する予感の中で、鼓動は果てしなく続く走馬燈を回し始める。
優しい母、強い父、風に揺れる森、荒ぶる海、収穫を待つ田畑、働く者、
泣く女、益荒男、揺れる火、情けない心。
全てが消えかかったその時、一瞬きらめいたのは月の裏側、この世の向こう。
喧騒のなか、草の波間で朽ちていた。