快風丸

俺の船に乗らないか。

連続ブログ小説 お寺の地下の秘密 7

2006-06-30 19:23:02 | Weblog
 それでも、自分の懸念はこうだった。
  
   「あなたたちは何が欲しい?
    なぜその進化した様を人間に学ばせようとしない?
    なぜ本当の姿を隠す?
    我々とあなたたち、お互いにとって、より良い社会の為の
    近道ではないのか?」

声、いや、テレパシーが届いた。

 「人間たちは戦うことが好きだ。
  逃げることを否定する。
  弱いことを嫌い、負けることを恐れる。
  平和を戦いを正当化する言い訳にしてきた。
  その歴史は史実として否定出来ませんが、
  その精神性は否定されるべきです。
  あなた方のほんの数メートル上を飛んでいれば、
  どんな鳥もそれは理解しているはずです。」


連続ブログ小説 お寺の地下の秘密 6

2006-06-29 13:17:43 | Weblog
 そして彼らの一人が静かに語りだした。

  「ここは、私たちにとって思索する場所です。
   私たちは、ずっと長い間、人間の所作を見守ってきました。
   お寺は人の生れ、そして死ぬことに深くかかわる場所。
   今日、あなたが感じたようなことを捨てたり、拾ったりする
   場所なのです。私たち、鳥が進化するための精神性を深めるには
   格好の場所なのです。」

      ”誰なんだ、お前は”
聞こうとして躊躇した。相手は鳥だからだ。弱々しい姿をしている。
彼らの前には、全ての暴力は無力だと直感した。
そして俺も彼らにとって十分過ぎるほど挙動不審者だからだ。

つづく

連続ブログ小説 お寺の地下の秘密 5

2006-06-28 18:11:14 | Weblog
 たしか、春先の川原、通勤途中で見た光景だ。
働き盛りとは名ばかりで、ぼろぼろで自転車の上だった。
鳥が飛んでいた。

  ”鳥は自由でいいな。
   鳥こそが最も進化した生物かもしれないな。
   だって飛んでるんだもんな。
   言葉なんかなくったってコミュニケートし、
   争うことをしない。
   ケータイもパソコンもなくても楽しそうに暮らしている。
   これこそが、動物としての本当の進化ではなかろうか。”

そんなことを思った日があった。

つづく

連続ブログ小説 お寺の地下の秘密 4

2006-06-27 17:54:42 | Weblog
 薄暗い中になんとなく、鈍く光るヨロイをつけたものたち
が動いているように見える。
息をひそめ、暗順応を待つ。
それにしてもこの落ち着いた空気は何なのだろう。
奴らが武士ならば、もう刀の鯉口を切っている距離だ。
もちろん俺は丸腰。
あたりまえの、ただの礼服姿のサラリーマンだ。
「心配要りませんよ。戦う意思はありません。」
どこかで声がした。
「テレパシーですよ。」
ヨロイじゃない。羽だ。鳥だ。
鳥が俺に話しかけたのだ。俺の心に。
不思議と驚かなかった。
どこかでみた光景に近かったのだ。

つづく

夕焼けトランペッター 3

2006-06-19 19:03:49 | Weblog
 先日、大阪でひさしぶりに練習をしたんですよ。
フルメンバーがそろったのは半年振り。
夕焼けトランペッターもやりました。

そして反省会をべーシスト宅で。
練習の音源を聞きながら、ま、飲んでたわけです。

この曲には、ギターソロがありまして、8小節なんですけどね、
トランペットの音をイメージしたんですよ。
酔いも手伝って
「ここはほんとはトランペットを吹きたいんだよね。」
もちろん、吹けませんし、トランペットもありません。

べーシストが、なんかごそごそやってるなと思ったら、
なにやら黒いハードケースを持ち出してきた。
あけてびっくり、中身は札束..なわけはなく、トランペット。
「お前はドラえもんか!!」

近鉄電車で、持って帰りました。部屋にあります。
どこで、いつ練習しよう。
とりあえず、図書館で”初心者のためのトランペット教室”を
借りてきました。

面白いのが半分、不安が半分、なぜべーシストはトランペットを
所持していたのだろう。
どうなることやら。

つづく

連続ブログ小説 お寺の地下の秘密 3

2006-06-19 18:22:05 | Weblog
さて、ひととおりお経も上がり、これからオトキ(お葬式の食事)が振舞われる。
それにしてもお葬式って疲れます。ちょっと外の空気に当たりたくなりました。
結構、広い庭があるんです。いや、もっと広かったように思うのです。
鐘は健在。ちょっと撞いてみたい衝動にかられますが、大人なので。
なつかしついでに散策してみました。
すっかり忘れてましたが小さな木製の扉を発見。地下への入り口だ。
オトキの準備で皆、忙しくなんかここだけエアポケットになってます。
鐘撞きは思いとどまったが、扉はあけてみる。半分、子供なのだ。

あの頃と同じ湿ったにおいがする。寛永通宝も和同開珎も落ちてない。
誰かが、拾い尽くしたのだろう。
中は以外と広い。なんか、奥に人の気配。そんなはずは無い。
いや盗賊か、浮浪者か、平家の落ち武者か。

つづく

連続ブログ小説 お寺の地下の秘密 2

2006-06-16 18:32:18 | Weblog
 しかし、最も不思議だったのは、お寺の地下なんです。
本堂の横っちょにわかりにくい入り口があるんです。
小さな木製の扉を開けて忍び込むわけです。
戦時中、防空壕だったといううわさです。
中は、がらんとしてて、湿ったにおいがするんですが、なぜかここに
古銭がバラバラおちてるんですね。それを拾うわけです。
ま、軽い窃盗ですが、子供のすることですし、親鸞上人様は慈悲深いので、
許されたと解釈しております。

さて、そんなことを思い出している間に、お経が上がるというので、本堂へ。
靴を脱ぎ、木の階段を少し登っていきます。そして正座して心静かに故人を
しのびます。大往生ゆえ、葬式特有の重い空気は薄い。

つづく

夕焼けトランペッター 2

2006-06-16 18:18:09 | Weblog
 そして時は行き、大学を卒業し、だんだん、バンド活動も
思うに任せなくなってきました。
子供が生まれました。生活すること自体に時間を費やすのみの日々が
始まりました。なんかしなきゃと漠然とした強迫観念がありました。
このままバンド活動は昔話になってしまうのか。不安でした。

 曲を作ろう。
”夕焼けトランペッター”の歌を今こそ作ろう。
バンド活動が再開したら、その曲をやろう。
家族が寝静まってから、ギターを取り出し、少しずつ作っていった。
詞は推敲を繰り返した。

やっと完成。
そして、LIVEで披露しました。

自分で言うのもなんですが、いい曲なんです。
つぎのライブ(8/15)でまたやります。
期待しててください。

つづく 

唐突スタート!! 連続ブログ小説 お寺の地下の秘密 1

2006-06-15 13:50:43 | Weblog
 朝一番の新幹線で発って、今、お寺の境内にいる。
まだ午前中。実家の近くの寺でお葬式に参列のため、急遽帰省したのだ。
この寺の名前は昇天寺。浄土真宗。
親戚の家が隣接しており、幼少のころ、よくこの寺で遊んだ。

思えば、ばちあたりな子供でした。
すっかり忘れてましたけど。
小学校の低学年のころだと思いますが、
毎正時に和尚さんが鐘をつくわけです。田舎のことで、遠くまで響き渡ります。
農作業をしている人なんか、これが時計代わりだったりするのです。
これを勝手に鳴らしちゃうんですよ。ぜんぜん関係のない時間に。
怒っておいかけまわされるんですけど、それが楽しいのなんの。

あるときは、本堂に忍び込むわけです。欄間にすごい彫刻が施されていたり、
柱がすごく立派だったり、もちろんご本尊様があり、張りぼての子象があったり、
もう不思議なワンダーランドてすよ。

つづく



夕焼けトランペッター 1

2006-06-14 10:49:41 | Weblog
私、少年時代に住んでおりました家は、海のすぐ近くです。
今はもう埋め立てになり、1Kmほど遠くなりましたが、
窓から5m先が堤防なんです。

小学校低学年の当時、その海を背に、堤防に腰を下ろして、
トランペットの練習をしている人がいたんです。
よく夕方にその音が聞こえてきました。
どこの誰かは知らないのですが、とても印象に残る景色と音でした。

大学生になって、実家を離れ、京都に住みました。
ある雨の朝、まどろんでいると、波の音が聞こえました。
北山通りを走る車が、雨の路面を通る音でした。
寄せては返すように聞こえました。

そのころ、”夕焼けトランペッター”を歌にしようと思いつきました。
ただ、あまりにも思い入れが強く、なかなか実現はしませんでした。