もう高校のころからバンド生活を始めて、いったい何度スタジオに入って、何回ライブステージ
に立っただろうか。
練習と本番は全く違うということは身に染みていると思っていた。
練習の70%の力を発揮できたなら上出来だ。
客が入り、照明に照らされ、緊張のボルテージは極現まで上り詰める。
そう、何十回となく経験してきたこの感じ。
しかし、今回、気づいたのは、もっと決定的な練習と本番の違いだ。
それは、本番のステージ上は、練習の成果を聞かせる場ではないということ。
つまり、スタジオで100%できたことが仮にそのまま舞台上で再現できても、はたしてそれが
すなわち良いライブではないのではないかという疑問がわいてきたのです。
今までも、なんとなく、舞台上の自分のモニターにはほとんど音を返さないようにしてきた。
なんとなくモニターの位置から何かが聞こえることが不自然に感じるから。
その理由はよくわからないし、テンポ、リズムは合わせにくい。
スタジオの環境とは全く違うが、なぜかモニターは最小限の音にしている。
今回、ふと気が付いたのは、ライブとは、バンドとお客さんが、向き合ってコミュニケートする
場であり時間であるなということ。
練習の成果を聞かせる場ではないということに気が付いたのです。
ボーカルは、バンドを代表して、他のメンバーより1mほど前に立つ。
何かを伝えるためにそこに立っているのだと。
自分の前には、客しかいない。
ベースが、ギターが、ドラムも、後ろにいるが、当然、姿は見えない。
スタジオでは、向き合って演奏する、アイコンタクトする、確認する、ボーカリストも安心の
中で演奏ができる。
しかし、舞台の上では、一人。
みんなは後ろ。
ここへ立ったからには、覚悟を決める。
後ろの3人にすべて任せて、客と向き合う。
歌詞が飛んでも構成を間違っても、MCが滑っても、全部受け止めるしかない。
たった1mの孤独。
そうか、だからモニターを絞るのか。
確かに演奏は合わせにくい。
しかし、もう、後ろを信じて突っ走れば良いのか。
最も意識すべきは、バンドのサウンドではない。
ここにいる客なのだ。
さあ、こっちを見て、こんな曲どう、こんなアンサンブルはいかが、退屈、楽しい、うれしい、
悲しい、すべての瞬間を共有するのだ。
そう、バンドの音楽を聞かせるのではなく、一緒にライブを作るのだ。
大切なお金を払って、二度と戻らない貴重な時間を使って、よく来てくれたね。
さあ、一緒に楽しもう、素晴らしいライブを一緒に作ろう。
バンドだけじゃライブはできない。
ほんとに楽しいライブができて幸せでした。