うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

Warmth of winter

2020年12月03日 21時21分33秒 | ノベルズ
腕時計は午後1時まで10分を切っていた。
「少し早く来すぎたかな…」
オノゴロの街の繁華街。目印の噴水前は、同じように待ち合わせなのか、数人が佇んでいた。
温暖なオーブと言えど、12月にはいると流石に肌寒い。
(―――「なるべくカジュアルで、目立たないような服装できてくれな。」)
そう彼女のご指定だったが、何しろ服には無頓着。「着ることができれば何でもいい」という感性ゆえ、適当に長袖のものを選んで外に出てみたが、思いのほか冷え込んでいた。
(何か羽織るものは…)
まだ蓋も開けていなかった衣装ケースを久しぶりに解禁して見れば、随分と懐かしいものが出てきた。
(これなら寒さに対応はできるけど…今なら問題なかろう)
そうして待ち合わせ場所に到着してはや20分。
広場の時計台が13時の鐘を鳴らすと同時に、ようやく彼女が現れた。
「すまない、結構待ったか?」
「いや、それほどは…」
キチンと約束の時間を守った彼女を咎める理由はない。自分だけが気がせいてこんな早くから待っていたのは自己責任だ。
見渡せば、同じように「待った?」「いや、今着いたところ」とカップルが挨拶もそこそこに腕を組み、あるいは腰に手を回し、と思い思いのスキンシップを図りながら散っていく。
「俺たちは、どんなふうに見えるのかな」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何でもない。」
慌てて頭を振る。
戦火の中、一度は別れを決意した二人だ。「別れよう」「さよならだ」と口にせずともわかる、互いの空気で伝わる『暗黙の了解』。
こうして今、オーブで俺が彼女の傍らに居ようとも、『恋人』とはまだ認定されていない。
あの頃に直ぐ立ち返れる―――一時期そう安直な期待を抱きもしたが、オーブ代表として凛々しく世界を相手にする彼女を目の前にした瞬間、手を伸ばすことができなかった。
以降、代表と軍人という関係のそれ以上でもそれ以下でもないまま、今に至る。
そんなカガリから
(―――「これは私個人の相談なんだが、12月に入ったら、一度付き合ってもらいたいところがあるんだけど、頼めるか?」)
そう聞かれた時は驚きと、喜びが入り混じって心にもないことを口にした。
(―――「いいのか?こういう時はSPに頼むのが通例じゃないのか?」)
何故わざわざ自分からチャンスをつぶすようなことを…と、ほとほと情けなく呆れたが、彼女は首を横に振った。
(―――「ん~~できれば、そういうかしこまったものじゃない方がいいんだ。代表が街中を歩く、なんてなったら、警備だ警護だ!で街中が騒然とするだろ?行く場所も限られるし。それに―――」)
彼女がニッコリと笑って言った。
(―――「お前が一緒なら、何処にいても一番安全で安心だ。」)
意中の女性からそう言われて、喜ばない男がこの世のどこにいるだろう。
(―――「了解した。」)
そっけなくそう言って、しまりのなくなっていく顔を誤魔化すのが手一杯。彼女を背にしてその場を去ろうとしたその時、冒頭の言葉を言われた訳である。

「へ~アスランのジャケット姿って珍しいな。お前もこんなカジュアルなスタジャンみたいなの、持ってたんだ。」
カガリが俺の姿を検分する。
「『ZAFT』のロゴが入っているけど、軍の支給品か何かだったのか?」
「あぁ。寒冷地への任務にあたるとき、制服の上に羽織れるよう、フリーサイズで支給されていたんだ。…最も俺は寒冷地への出撃命令は無かったから、そのままロッカーの肥やしになってしまったけど。」
赤いジャケットはまさしくZAFT/REDの証。ただ、16歳の当時はフリーサイズはやや大きく、腕周りがもたついたため動きづらくて、着るつもりはなかった。
まさか、今になって丁度いいサイズになってしまうとは。
「まぁ、今はプラントとの関係も落ち着いているし、そのロゴだったら目立たないから、着ていても不自然じゃないだろうし。ていうか、お前そんなかっこいいの持っているんだったら、普段からちゃんとすればいいのに。顔の偏差値高いんだからさ。」
カガリが苦笑する。
そういう彼女はブラウンのニットセーターにダークグリーンのショートパンツのいで立ち。黒のオーバーニーのソックスを履いてはいるが…何だか寒そうに見える。
「カガリはそれでいいのか?何だか風邪ひきそうだ。」
「いんや、大丈夫!私はオーブ育ちだぞ?この時期の寒さくらいちゃんと知っているからな!」
チッチッチと指を振って見せる彼女に思わず顔が綻んでいく。
やっぱりカガリは不思議だ。俺の無駄な緊張をあっという間に溶かしてくれる。
「で、付き合ってほしい、というのは…」
SPも介入させず、個人的に俺を指名してくれるのは、やはり…期待していいのだろうか…?
すると、あっさりとカガリは言った。
「うん、実はラクスから託を預かっていて。」
「ラクスから?」
「もうすぐクリスマスだろ?孤児院の子たちにプレゼントを、ってお願いされているんだ。私たちが代理に購入して届けて欲しいって。それを買いに行きたいんだが、SPなんか頼んだら、おもちゃ屋を貸し切り状態になっちゃうだろ?そうしたらほかの子供たちが買いに来られないじゃないか。だからこうして身バレしないような格好で来てほしかったんだ。」
「…。」
何だか期待が淡く弾けて飛んで行ってしまった。
そうだよな。そんな簡単にもう一度、昔のように戻れたら、なんてできないよな。
抱きしめるどころか、手を触れることさえも、躊躇われる距離だというのに。
「どうした?腹でも痛くなったか?」
彼女はそんな俺を心配してくれるが…心配の内容は全くの不正解。
どうして自分のことになると、ここまで無頓着になるのか不思議でならないのだが。
「いや、何でもないよ。」
「だったら行くぞ。貴重な時間を無駄にはできん。」
そう言ってカガリは俺に触れることもなく、颯爽と歩き出した。





「あー、結構買い込めたな。思いのほか嵩張るし、アスランに来てもらってよかったよ。」
買い物帰りに立ち寄ったカフェ。ボウルカップに注がれたカフェオレを包み込むようにしてカガリが満足そうに啜る。
「キサカさんでもよかったんじゃないのか?」
また言ってしまった…俺は本当にバカだな。詰められないカガリとの距離への軽い苛立ちが、どうもこう口をついて出てしまう。
だが、カガリは口をとがらせる。
「ダメだ。キサカはデカいから目立つだろう!?一発でバレバレだけど、お前となら、その…カップルに見られたり…///」
「え!?」
「だから、その辺のカップルに紛れられるだろう、ってことだ!」
何か一瞬カガリの頬が赤くなった気が。
(カガリ、もしかしたら、これは買い物を利用した、デート、とか…)
「それにラクスが言ってきたんだ。「アスランはプレゼントと言えば「ペットロボット」しか思い浮かばない人なので、子供が喜ぶものとか教えてあげてください。将来の為にも」って。」
「将来…」
なるほど、ラクスからの指令だったのか。そうなると確かにカガリは断らないだろう。要は内々で二人きりになることを公認してきたわけだ。ラクスに感謝しなければ。
そう思った矢先
「クシュン!」
カガリがくしゃみをした。
「ほら、この時期にそんな肌を見せているから。風邪ひくぞ?」
「だから、大丈夫だって、このくらい―――クシュン!クシュン!」
「全く…」
俺はジャケットを脱いで、カガリの肩にかけてやる。
「え?いいよ、お前が風邪ひくぞ?」
「俺はインナーも厚い生地のものを着てきたから大丈夫。それよりちゃんと袖を通して。」
「はーい。」
「ほら、前もちゃんと閉じて。」
そう言って甲斐甲斐しくファスナーも閉じてやる。プリンセスは着替えは人が手伝うのは日常的の為か、俺が世話を焼いてもむくれはするが、拒否はしない。
「わぁ、温かいな…」
そういって着こなしを確認するカガリを見て、ふと思う。
(こんなに、小さかったのか…?)
俺にとって丁度いいサイズなのに、カガリが着ると肩のラインが崩れ、袖口からは指先が少し見えるだけ。
そうして気が付く。
コーディネーターは13歳で成人扱いとなるが、男性としての体格はまだ成長途中だったこと。
無人島でカガリと白兵戦に及んだ時は、まだそんなに体格差を意識するほどでもなく、抱きしめたときもまだそこまでではなかったのに。
今、俺が彼女を抱きしめたら、胸の中に納まりきるくらい、彼女は華奢なのだろうか。
(ゴクリ)
思わず生唾を飲み込んでしまった。なんかジャケットを介して間接的にカガリを、その…抱きしめているようで///
「アスラン、やっぱり寒いんじゃないのか?顔が赤いぞ!?」
「い、いや、その…暑いくらいだ!」
「そ、そうか。」
全力で拒否したら、今度はカガリが呆気に取られていた。




時間のたつのは早い。それが好意を抱く相手なら猶更。
「今日はありがとうな。お前の貴重な休みを使わせてしまって。」
「いや、俺も久しぶりに話ができて楽しかったよ。」
これは嘘じゃない。そして、もう彼女とともに居られる時間が終わりに近づいていることも紛れもない事実。
こういう時に「また今度、休みが取れたら一緒に―――」と気軽に言えればいいのに
「……」
唇が回らない、声が出ない。全く、こんな自分にほとほと呆れてしまう。
俺が再会のチャンスというガラスの靴を用意しなければ、車がアスハ邸に到着した瞬間、シンデレラはもう戻っては来ない。
子供のころは気持ちの昂るまま、抱きしめ、口づけられたのに、『大人』という理性は感情を見事に押さえつけてしまう。
何も言えないまま玄関先には既に侍従たちが並んで彼女を迎えようとしている。
「じゃあ、ありがとうな、アスラン。」
行ってしまう前に、どうかもう一度―――
「あの、カガ―――」
「あ、そうだ!これ返すの忘れてた!!」
そう言っておもむろに彼女がジャケットを脱ぎ、俺の背にかけてくれた。
「温かい…」
「だろ?私が人肌程度に温めておいてやったから、ありがたく思え。」
そうやって屈託なく笑うカガリ。すると急に真顔になった彼女が思い出したように言った。
「あ、それから、もしよかったら、なんだが…」
「何だ?」
「ま、また遊びに行こうな!じゃ!///」
片手だけちょこんとあげて、そのまま翻って慌てて玄関ホールに駆け込んでいく彼女。

「やっぱり君には敵わないな…」
俺の幾度となく口にしたかったことを、こうして君が先に導いてくれるなんて。
ふと背中に、袖に感じるカガリのぬくもり。そして襟元に残るカガリの匂い。
消したくなくって存分に感じ入った後、もう一度心に誓う。
今度こそ、ジャケットで間接的じゃなく、直に俺の腕で
「君を、抱きしめてみせるから。」
君の温度と、その香りをこの胸に…

 ・・・fin.

***

突発SSです。
先日、STRLIC-Gのキラとアスランモデルのジャケットが販売されまして


↑これな。
ご覧の通り、一着4万円弱するので、到底かもしたには手が届かない(貧乏だから)ので、眺めているだけなんですが、ツイッターさんの方で、息子がゲットしたり、お知り合いさんがこのジャケットを着たアスカガネタの素晴らしいイラストを描かれているのを見て、妄想が止まらなくなり吐き出しました。
うん、読むとただの変態さんですけれどねw でも女の子が着たジャケットの肩の線が着崩れていたり、中指と薬指と人差し指の先っちょが見えているだけなのを見ると、何か可愛いんですよ♥(*´Д`)ハァハァ ちょっとした性差が垣間見れるってなんかいいですよね。いくつでもネタができる。えぇ、それが例え変態であっても!
しかし、アスランは何故か私服ってすごく何を着せたらいいのか悩みます。無論SS書きでも、洋服のイメージを説明するのにアスランは何を着せるか、頭の中で想像するんですけど、何着せてもしっくりこないんですよ(哀)ZAFT制服は似合うのに。あ、後オーブ軍服も。正直制服なら似合うのに、私服が似合わん💧 顔面偏差値高いのに、何で!?―――って、先週も劇場版見に行った時、皆で語り合っていたんですが。煉獄さん(鬼滅の刃)の髪と、アスランの私服の赤&黄色のせいで、赤と黄色の組み合わせは、もういろんな意味で伝説クラスです!✨
あ、オオカミパーカーは似合っていたかもw。モフ耳がたまりませんけど、あれは誰が着ても可愛い♥ そんなもんです。
コメント (2)
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