アカツキ島地下ドッグ。カガリに呼び出されたアスランとメイリンは、そこで紅の機体とそれに接続された機体と対面した。
「これが『ズゴック』と『キャバリアーアイフィリッド0』ですか・・・」
メイリンがずんぐりとした赤いMSと、その上に装着された、巨大な円盤、というべきか何とも形容しがたい形状の支援機を下から煽る様に見上げた。
そんな彼女の隣でカガリがメイリンの肩にそっと手を置いた。
「これにはミラージュコロイドが装着されている。これに接続することで、ズゴックもミラージュコロイドが併用できるようになった。でもキャバリアーの一番の目的は「移動式指令室」といったほうがいいな。」
「『移動式指令室』か。確かに有事の時、砲弾を避けながら指示ができるな。」
アスランも並んで見上げると、カガリはちらとアスランを見やって頷く。
「先の大戦で、私がオーブを離れていたために、ユウナを拘束した後、直ぐに指揮に移れない事態になった。それに私が降り立ったことで、敵に指令室の場所がどこだか解析されるリスクも高まったしな。なので、量子情報処理のスパコンが整ったことを得て、こうした移動式指令室を用意したんだ。」
アスランがカガリを見やり、口角を上げる。
実はアスランが、この支援機についてエリカ・シモンズに相談したのがきっかけだった。
カガリは動くことのできる司令塔だ。ならばその強みを最大限発揮できる機体を作ってみてはどうか、と。
自身の意見が取り入れられたことは、カガリのためになると判断されたことが何より嬉しい。自分の力が彼女の助力となることが、今のアスランの最大の喜びであり、やる気の源だ。
カガリは尚も続けた。
「ズゴックは潜入調査しやすいMSを、ということで、エリカがハインライン大尉が設計していたものを基に作られた機体だ。アスランのスペックが最大限、活かせるようにしてある。」
「カガリ・・・」
こうして自分の力を発揮できるよう取り計らってくれた彼女の好意。何よりの信頼を感じ取れ、アスランはどこか心の奥にあった、彼女との心の距離を縮められた自信が沸いた。
「そこでだ。」
カガリは二人より一歩前に出ると、クルリと振り返って二人を交互に見やった。
「二人にはこれでターミナルへ出向して欲しい。キャバリアーはちゃんと個室もベッドもあってダイニングやリクライニングなスペースもある。勿論キッチンやシャワーもしっかり使えるぞ!」
アスランとメイリンは、同時に頭の上に「?」を思い浮かべる。
「あの、それってどういう・・・」
言いかけたメイリンに、カガリはにっこり答えた。
「ここを二人の生活の拠点にしろ、ということだ。」
・・・
・・・
「「はぁ!?(゚Д゚;)」」
同時に二人は叫んだ。
「そ、それって『同棲』ってことですか!?」
ドギマギしたように、でもどこか心の弾みが抑えられないようなメイリンの言葉に、アスランが血相を変えて彼女に振り向く。
「そうだが?」
キョトンと答えるカガリもカガリだ。
またも血相を変えたままカガリに振り向くアスラン。
既に顔色が真っ青になっている。
「ま、ま、待ってくれ!同棲って、一体どういうことだ!?!?」
「言葉通りだ。・・・だってお前たちは潜入捜査に入るんだぞ?入国してビザとって、ホテル、あるいはアパートを借りて滞在するには、一々手続きが必要だ。そんなの隠密行動になれないだろうが。足跡残しまくって。しかもいつまで滞在できるかわからないのに、宿泊代やら賃貸代、敷金礼金払っていられないだろう。それに情報がいつ入るかわからない。常に傍にいて、一人が動けない時はもう一人が動けるようにしたほうが、より迅速に任務を遂行できるだろう。」
カガリが手を腰に、高説を述べる。
・・・言われてみれば確かに。
だが未婚の男女が二人きりで、何か月も、いや下手をすれば何年も一つ屋根(?)の下で過ごすというのは道徳や倫理的にどうなのだろうか?
「私は大丈夫ですよ。だってザフトでも男女混合で生活したことありましたし。」
確かにそうだ。戦場に出れば男女なんて関係ない。それはアカデミーでも叩き込まれている。
「・・・」
アスランにしては珍しく、返す言葉もない。だがそんな彼を見やってか、カガリがアスランに真っ向向き合った。
「これはお前じゃないと頼めないんだ。」
「カガリ・・・?」
「お前は真面目だからな。間違ったことはしないと信じている。メイリンはルナマリアから預かっている彼女の大事な妹だし、私にとっても大事な存在だ。だからこそ、メイリンとパートナーを組ませるには、お前が一番安心なんだ。」
「な?」と上目遣いに金眼がのぞき込めば、もうアスランに勝ち目はない。
「・・・わかった。任務と併せてメイリンの安全は守るよ。」
ようやくアスランの表情が和らいだのを見て、カガリは頷く。
「勿論、個室は鍵がかかるし、24時間の監視体制でメイリンの安全を見守るから安心してくれ。」
「はい!」
「ちょっとまて。それって本当に俺を信頼して―――」
「じゃぁ、二人とも。よろしく頼むぞ!」
カガリはにこやかなメイリンと、また顔色を悪くしたアスランの肩を同時にポンポンと叩いた。
そうして、彼らが出向して数日が経った。
「二人とも、上手くやってるかな?」
正直年頃の男女を二人きりにして、カガリも心配がないとは言えない。全幅の信頼を置いている二人ではあるが、人の心はいつ何時、何がきっかけで変わるかもしれないのだから。
そんな時、キャバリアー0から通信が入った。しかも秘匿回線の緊急通信だ。
「どうした!?何かあったのか、メイリン!」
モニターに映ったメイリンは、エプロンをしたまま涙ぐんでいる。後ろには困り果てているアスランがいた。
「一体どうしたんだ、二人とも。」
<聞いてください、カガリさん。アスランさんが、私がせっかく作った食事、温かいうちに食べてください、って言ったのに「後でいい。冷めても構わないから」とかいうんですよぉーーーー!!>
「・・・は?」
話が見えないカガリの前に、アスランが割って入る。
話が見えないカガリの前に、アスランが割って入る。
<いや、だから今、手が離せないからと言っただろう。>
<でも冷めてもいい、なんて。だったら「後で温め直して一緒に食べよう」とか言ってくれたっていいじゃないですか!>
<二人並んで一緒に食事をとること自体、難しいと言ったはずだ。仕事の効率を図るには、どちらかが手早く食事を済ませておいた方が―――>
<二人並んで一緒に食事をとること自体、難しいと言ったはずだ。仕事の効率を図るには、どちらかが手早く食事を済ませておいた方が―――>
<でもでも!今日は特に腕によりをかけて作ったのに~~~!!>
「・・・。」
目の前の光景に、カガリは押し黙る。
「・・・(何だろう…この「社宅のお隣に引っ越してきた新婚夫婦の愚痴聞く隣のおばちゃん」みたいな状況は・・・)」
更に数日後
≪ピーピーピー!≫
「これはキャバリアー0から秘匿回線の緊急通信?今度は何が!?」
<カガリ、聞いてくれ!>
「アスラン?何が起きたんだ?」
<メイリンが・・・>
後ではメイリンが頬を膨らませてむくれている。
「何だ、またお前、メイリンの食事を放置したとか失礼働いたんじゃないだろうな?」
<違う!彼女がゴミの収集日を守らないんだ!>
「・・・は?」
またも話が見えないカガリに、メイリンは通信画面いっぱいに接近しながら訴えてくる。
<だってだって!女の子は男の人に見られたくないものが、ごみの中にだってあるからって言っておいたのに!カガリさんならわかってくれますよね?アスランさんたら、勝手に私の部屋のゴミ箱、空けようとするんですよ!デリカシーなさすぎです!>
<だったらきちんと指定日の前に、まとめて出せるようにしておいてくれ!分別もしっかりしていないし、これじゃ結局俺が中を見直さなきゃいけない状況になるじゃないか!>
<だったらきちんと指定日の前に、まとめて出せるようにしておいてくれ!分別もしっかりしていないし、これじゃ結局俺が中を見直さなきゃいけない状況になるじゃないか!>
カガリはまたも押し黙る。
「・・・(何だろう・・・この「必死に住人の言い訳を聞かされる、大家さん」みたいな心境は・・・)」
更に数週間後
≪ピーピーピー!≫
≪ピーピーピー!≫
「・・・今度は何やらかしたんだ、あの二人。」
もはや慌てもしない。
チベスナギツネみたいな目になって、カガリがスイッチを押す。
<大変なんです、カガリさん!アスランさんが!!>
<大変なんです、カガリさん!アスランさんが!!>
<メイリン!>
<あ、あんなものを・・・>
メイリンが珍しく口ごもる。加えてアスランまで俯きどこか苦し気に吐き出す。
<仕方ないだろう。その・・・一応俺だって男なんだから・・・>
<だとしても酷すぎます!あ、あんな・・・私・・・>
流石に今回はやらかしたのか!?
<だとしても酷すぎます!あ、あんな・・・私・・・>
流石に今回はやらかしたのか!?
カガリは<バン!>と両手を机に叩きだし、モニターに向かって叫んだ。
「アスラン、お前、メイリンになんてことしたんだ!?」
<誤解だ!俺は何も彼女にはしていない!>
「じゃぁなんでメイリンがこんなに真っ赤になって泣きそうなんだ!?」
<私は・・・私は何もされていないんです。>
「え?」
またも話が見えない。しかしメイリンは目を潤ませて叫んだ。
<されたのは、カガリさんなんです!>
「は?私??」
<見てください!アスランさん、部屋にこんなにカガリさんの生写真貼っていたんですよ!>
そう言ってモニター越しに映ったのは、メイリンが掴んだ写真の数々。
<メイリン、それは私物だ!それに断じて俺はこの写真でやましいことなど―――>
<やましくないって言えますか?カガリさんのこんなプライベートな写真、凛々しい為政者の姿はもちろん、オフの日の伸び伸びしているところとか、美味しそうに食事食べているところとか、挙句、こ、こ、こんな寝顔までっ!>
<だからこれは―――>
<破廉恥です!こんな破廉恥なもので、私の憧れのカガリさんを汚さないで!!>
<破廉恥です!こんな破廉恥なもので、私の憧れのカガリさんを汚さないで!!>
カガリは力が抜けたようにがっくりと椅子に座り込む。
「・・・((何だろう・・・この「部屋に隠してたエロ本を妹に見つけられて、必死に兄の弁解を聞かされる母親」みたいな心境は・・・)ていうか。メイリン。」
<はい!>
「アスランを殴ってよし!フライパンで。」
<わかりました!(`・ω・´)ゞ>
<ちょっと待てカガリ!何でフライパンなんて―――>
「普通の力じゃお前にダメージなんて与えられないだろう。思いっきりやってやれ。」
<いや、それはまずいだろう!?>
<いいですか、アスランさん!代表命令です!しっかり受けてください!せーの!>
<誤解だぁああああ>―――ブツッ←通信の切れた音。
「はぁ・・・うん、今日もいい天気だ。」
「カガリ姉様、どうされたんですか?」
「トーヤか。いや、ちょっとな。平和っていいな、と思ってさ。」
・・・Fin.
***
SS、という程のものじゃないんですが、なんか書きなぐりたくなったので、ちょろっとアップしてみました(笑)
『同棲中』というと、誰もが「キララク」のことかと思うでしょうが、アスランとメイリンですw
『同棲中』というと、誰もが「キララク」のことかと思うでしょうが、アスランとメイリンですw
というのも、17日の静岡での劇場版種自由の舞台挨拶で、監督が「キャバリアーには生活空間があって、アスランとメイリンはそこで同棲している」という話があったそうで。
そういえば、昨日届きました『ガンダムSEEDFREEDOM キャラクターアーカイブ』のメイリンのページに「キャバリアーは生活スペースを備える」って書いてあったんですよ。
そもそものキャバリアーの目的って、「移動式指令室」だそうで、有事の時に固定された指令室だと、そこを攻撃されたらおしまいなので、移動型にしたほうが何かと都合がいい、という話を5ちゃんだかどこかでみかけました(ソースが思い出せない💧)。ということは、長期戦ともなれば、指令室の人員は皆そこで食事したり寝たり日常生活を送ることになる訳なので、生活空間はありき、なんですよね。しかもAAが轟沈したとき、乗員を避難させるのに結構な人が乗っていましたし(アカツキ島ドッグに降りるときにぞろぞろいらっしゃいました)、ズゴックがインジャ弐式を収納している<ズゴック自体が結構なデカさ<それを包み込んで浮かせるくらいキャバリアーはデカい、となるので、相当大きいんでしょうね。
加えて、上記のカガリの説明通り、任務の効率化や密偵任務の場合の拠点移動の手間を考えると、キャバリアーに住んじゃったほうが、確かに利点はいっぱい🌸 まぁ、カガリもそしてメイリンもアスランを信頼していないと、同棲なんてできないですけどね^^; 同棲、というよりは共同生活・シェアハウスみたいなイメージの方がいいのかな。監督がストレートかましてくれたので、みんな同棲=結婚前提の男女が一緒に住む、みたいなイメージになってますけど。
現実的に日本の海上自衛隊の潜水艦は、魚雷の上で寝ている、らしいので、せめてキャバリアーは弾丸の上じゃなく、ちゃんと個室で寝てもらえる仕様になっていて欲しいです(笑)
・・・それにしても、同じ舞台挨拶で、あの「全国ご当地SEEDフリーダム行きます」の静岡県が「イザアス」で、「茶畑でイザークが決済版持っている前でアスランがお茶飲んでいる」という物でしたが、監督曰く「イザークはお茶の生産効率とかチェックしに来ている。アスランは🍵飲みながら、カガリの妄想してます」だそうで( ̄▽ ̄;)
リップサービス(苦笑)だと思いますが、公式で発表しちゃうとアスランが本当に妄想間男状態ですね💦 いや、ちゃんと味の確認していると思いますよ。私は。
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