うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

cheekはいらない(後編)

2023年12月16日 16時05分34秒 | ノベルズ

鏡の向こうに映った自分の顔が、いつの間にかアスランに変わって いる。

優しく微笑んでくれたのは、半年以上も前だ。

出向の日に、彼とメイリンを見送ったあの姿で、カガリの前に立っている。

ちょっと寂しげで、でも懸命に心配させまいと優しく笑んでくれて。
だから自分も「寂しくないぞ」と精いっぱいの笑顔で見送った。
彼の瞼の裏にも、あの時の姿のままの自分が残っているはず。

(なぁ、今の私はお前にとって、その…魅力的に見えるか?)

カガリが心の中でそう問いかける、すると鏡の向こうのアスランの唇が開きかけた。
が、次の瞬間、
<コンコン>
部屋へのノック音とともに
「代表、そろそろお時間です。」
まだ幼さが残る少年の声―――トーヤが迎えに来たのだ。
その声に急に現実に引き戻されたカガリの目に飛び込んできたのは
「ちょ、ちょっと待て!お前らやっぱり盛りすぎだろう!?」
照明に負けないようオークルのファンデーションとともに、やや赤みがかったピンクのルージュ。そして目元には淡いグリーンのアイシャドウに深緑のマスカラ。アイライナーはきりりと目じりを引き締め、アイブロウは美しい弧を描いている。
カガリがアスランの表情を思い浮かべている間に、女性二人がどんどんカガリのメイクアップをエスカレートさせたらしい。
(これって、どこからどう見てもシェークスピアメイク(※舞台用の強調されたメイク)だろうが!!)
カガリが動揺している間に、声が聞こえてこないことを訝しんだトーヤがドアノブを回す。
「代表?あの、失礼しま…」
「わぁああっ💦入ってくるな!トーヤ!!」
「え?」
慌てるには遅すぎた。トーヤが見事にメイクアップされたカガリを見る。
途端に<ギョッ!>と少年が驚きのあまり面食らって引いている。
「あぁ~~っ!!やっぱり驚かれたじゃないか!もうメイク落とす――」
「何おっしゃっているんですか代表。最後にまだチークが入っていませんよ!?」
ルナマリアが慌てて立ち上がったカガリの腕を、引き留めつかむのを振り切った。が、
「あらあら。もうそんなお時間でしたか。これではメイクを落とす時間もございませんわね…」
ラクスがいかにも残念そうに言うが、目だけはしっかり笑っている。
「あ~~っ!もういいっ!!」
カガリはケープを取り去ると、まだ目が真ん丸のまま固まっているトーヤの横を通り抜け、さっさと玄関に向かっていく。
「行くぞ、トーヤ!」
「ちょっと、代表、チークがまだ―――💦」
「ルナマリアさん。」
急ぎ追いかけようとするルナマリアを、ラクスの手がやんわりと止めた。
「大丈夫ですわ。チークはカガリさんには必要ありません。」
「え?でも、あれじゃ…」
「トーヤさん。」
戸惑うルナマリアを置き、ラクスは先ほどから固まったままの少年秘書に尋ねる。
「いかがですか?今日のカガリさんは。」
「あ、はいっ!あのっ!///」
「落ち着いて。素直な感想で構いませんわよ。でも…」
ラクスが柔らかく微笑む。
「もう、お答えはその表情で十分にわかりますわね♥」
ルナマリアもトーヤを見れば、彼はもじもじとしたまま、すでに頬は真っ赤に染まっていた。

 

***

 

会議場には誰より早く到着し、並み居る世界の重鎮たる出席者を歓待しなければならない。
それが開催国であり、この関係機関の発起人たるカガリの心得だ。
既に突撃されたとはいえ、遅れて現れたラクスはルナマリアを従え、凛々しくも優雅に挨拶を交わす。
「本日はお忙しいところ、この場を取り仕切っていただきありがとうございます。アスハ代表。」
「いや、こちらこそ、発足間もない多忙の中、よく来てくださいました。クライン総裁。」
先ほどまで女三人、年相応に楽しんだり揉めていたとは思えないほどの変貌ぶりだ。
(はぁ~私にはまだあそこまでの境地に達するなんてできないわ…)
ルナマリアが優雅にあいさつを交わし合う二人の女神に感嘆していると、次々に上段のカガリへの挨拶に並ぶ列の中に、彼を見つけた。
(来たぁーーーー!)
ルナマリアの目が輝きだす。
そういえば、ZAFTの赤服でも、オーブの軍服でもない、礼装のアスランを見るのは初めてだ。
落ち着いた、髪の色と溶け合うような、シックな紫に近い灰色のシャツに黒に近い濃紺のスーツ姿。
時折オーブに出向していたとはいえ、ルナマリアがアスランを最後に見たのは1年近く前になる。
元々彼のファンではあった。優し気でそれでいてクールで。もちろん眉目秀麗でアカデミーでの成績は断トツの1位。あの第二次ヤキンデューエ戦を生き残った程の、MSを華麗に駆る腕前。
その伝説のエースが焦がれるほどの相手が、ラクス・クラインではないと知った時の衝撃も凄かったが、今ではそのラクスでさえ心を許し合う盟友のカガリの求心力―――アスランの想う相手として相応しいことも十分理解できた。
その二人がようやく会えるのだ。しかも自分たちがカガリを女性としても、見目麗しくさせたのだから、あの朴念仁の反応がどう来るのか、心沸き立って仕方がない。
挨拶を終えたラクスの席に近づき、ルナマリアはこっそりラクスに耳打ちする。
「来ましたよ、アスランさんが。」
「半年以上ぶりの対面ですわね。」
ラクスも口元を綻ばせながら、二人は遠巻きにカガリとアスランの対面を見守る。

一人、また一人と、あいさつを交わし、そして…カガリの前に彼が立つ。
(アスランだ―――!)
カガリが俯いた顔を決心したように上げれば、間違いなくそこには見慣れたあの碧い瞳。
背がまた伸びたのだろうか…少し視線の位置が高くなった気がする。
(お、落ち着け、私!!)
先ほどまで全く感じなかった緊張、そして心臓の音がやけに耳につく。
(今の私を見て、アスランはどう思うだろうか…)
先ほど鏡の中で対面した時と同じ反応をするだろうか。
少し笑って「久しぶりだな…」と、言葉少なに、でも隠し切れない嬉しさを目に湛えてくれるのだろうか。
顔が勝手に火照ってしまう。
たちまちカガリの頬は化粧せずとも、色濃いチークを挿したかのように赤くなっている。

「あ!なるほど。ラクス様がおっしゃった、アスハ代表にチークがいらない、というのはこのためですね?」
ルナマリアがラクスの意図を掴んだように見返すが、ラクスは何も言わない。

一方カガリは
(冷静になれ!他の参加者と同じように対するんだ!)
自分に言い聞かせて
「た、ターミナルからの出向、ご苦労だったな。アスラン。」
そういいながら手を差し出す。

だが

(…え?)

カガリの表情から笑顔が消え、あれほど火照っていた熱がサッとひいて、目が驚きに見開く。

アスランは何も言ってくれない。
それどころか、目が合った瞬間、少し驚いたような表情を見せたかと思ったが、瞬時視線を逸らし、次の瞬間彼が放ったのは、怒りに満ちたようなきつい視線―――

「…開催議事、ご苦労様です。アスハ代表。」

カガリの差し出した手を握ろうともせず、彼は一度足元に置いた鞄を掴んで、さっさと用意された席に向かってしまった。

「あ…」
差し出した手もそのままに硬直する。
わずか1,2秒だったかもしれない。だがカガリには数分、いや数十分以上、身体は硬直し、声すら上げられなくなっていた体感だった。
「いかがされましたか?代表。」
アスランの後ろにいた出席者がふとカガリに問いかける。
「あ、いや、何でもない。今回はよく来てくださった。」

何事もなかったかのように笑顔を取り戻して応じるカガリ。

笑顔は取り戻したんじゃない。

張りぼての仮面を無理やり付けた。その奥に隠された表情は痛みに涙を隠しながら。

 

***

 

会議は終わった。
おおよその方向性と、新国家「ファウンデーション」からのコンパスへの依頼の受理。そして情報提供を交わし、決議に至った。
今はコンベンションアフターとして、ささやかながら打ち上げの場へと移動している。
簡単な料理…といっても、急ぎ自国や機関に戻る者もいるため、立食パーティーの様を呈している。
ここで個人的に行われる対話もまた、重要なファクターだ。そのためか、用意されたワインなどのアルコールも、皆たしなむ程度で和やか、かつ慎重に談笑を続けている。

部屋の隅に用意された席で、ルナマリアは足を組み、いらだたし気につま先をゆすっていた。
その隣では、人垣の中から戻ってきたイブニングドレス姿のラクスが座り、何も気にしていないように優雅に白ワインを口にしている。
ラクスが戻るなり、ルナマリアは心の中の鬱屈を一気にまくし立てた。
「何なんですか!あの態度はっ!!」
「落ち着いてください、ルナマリアさん。」
「これが落ち着いていられますか!!」
片手にしていた空になったオレンジジュースのグラスを、回ってきたボーイのトレーに叩くようにして戻すと、ラクスの横顔に熱弁をふるう。
「久しぶりの恋人との再会ですよ!?確かにアスランさんは口数は多くないことくらい知ってます!女の子が喜ぶようなことを口にすることも聞いたことありませんし! そりゃミネルバにいた時は戦時下ですから、そりゃオシャレしたって戦闘ともなればそんなことにかまっている暇なんてないのもわかります。でも今は条約を締結し、落ち着いているこの時に、アレはないでしょ!? アスランさんのためにオシャレして、精いっぱいの笑顔で迎えた代表を、なんであんな冷たくあしらうんですかっ!」
「ルナマリアさんは、お優しいのですね。」
何故かこの状況でも微笑みかけるラクス。その柔和な表情はルナマリアの心を諫める。
「優しい、というか…だって、これって私の責任ですよね?」
「あらあら、どうしてそのようなことをお思いですの?」
「だって、今朝私が提案したんですよ。「アスランさんを喜ばせるためにも、飛び切り綺麗にお化粧して、お迎えさせてあげなきゃ」って。私がしたことで、アスハ代表にあんな可哀そうな思いさせてしまうとは思っていなくって…」
ルナマリアがうつむき加減にしょんぼりする。
その頭を、やさしい手が柔らかく撫ぜた。
「大丈夫ですわ。もう少ししましたら、私達も席を移しましょう。」
「もう少しって…本部への帰国は明日にって、ヤマト隊長から命令を受けていますけど、早めに出立されるのですか?ラクス様。」
「いいえ。本来なら、こういうことはしないほうがいいと思うのですが、ルナマリアさんの元気を取り戻すためにも、カガリさんの頬にチークが入るところを是非、見守りに行きましょう。」
「は?チーク??今更ですか?」
「フフフ」とラクスは意味ありげに笑んで、視線の先をひときわ賑わう向こうの人だかりに視線を送った。

 

「ありがとう。皆のおかげで今日は充実した意見交換ができた。」
「いえ、アスハ代表。こうして宇宙、地上とも現在停戦が叶ったのは、まさしく代表のご尽力の賜物です。」
「今後もどうか、代表にお力添えをいただきたいものです。」
幾人もの重鎮に囲まれたカガリが、彼らを見送りながら、ようやく一息つく。
一人首長服に身を包んだまま、全ての差配に気を配る。
正直、こうして仕事に没頭していたほうが、気がまぎれた。
しかし、気を抜くと、ふと視線があの姿を探している。

(もう帰っちゃたのかな…)

それらしい姿は見えない。
ターミナルは情報収集のエキスパートが集まる部署だけに、こういった場所でも必要な情報を得るのにいい機会のはずだが、彼の気配は微塵も感じなかった。
実働部隊だけに、あまり顔が知れないほうがいいのだろう。
それだけでなくとも、彼は「パトリック・ザラの息子」という十字架を背負っている。
生来の人見知りも手伝って、こういった場所はあまり好まない。

―――「カガリ様は、アスランさんと一緒の時って、どう過ごされているんですか?」

メイリンに一度聞かれたことがある。

―――「別に、特別なことは何も。ただ普通に喋ったり、一緒に食事したり。…それが何か?」
―――「だって、アスランさんと一緒にいても、ずぅ~~~~っと無口で、こっちが色々と話題をふって、ようやく会話が成立するんですよ?でもすぐ黙っちゃうし。」
―――「え?アスランは普通に私に話しかけてくるけど。」
―――「それって本当ですか!?オーブの通信部の人たちとも、ザラ二佐は必要事項以外全然喋んないから、折角会っても会話が続かないってぼやいてましたもん。でもそれってやっぱり…カガリ様だから、なんですよね…」
―――「私以外にもキラとも喋ってるぞ。」
―――「キラさんは幼馴染だから、でしょ?カガリ様は違うじゃないですか。はぁ~…やっぱり特別なんでしょうね、カガリ様は…」

顔を見知ったオーブ軍の間でも、一時でも苦楽を共にしたメイリンにも、あまり会話しない。
でも私は初めて出会った時から、ずっと遠慮なく話し合えた。

(でも…)

思えば今日が初めてかもしれない。
あんな風に、会話すらしてもらえなかったのは。
会議中も一度も視線を向けてくることはなかった。議事録とディスプレイを見るばかりで。
忘れようとしても、つい気が緩むと思い返してしまう。
「はぁ…」
「代表、お具合でも悪いのですか?」
カガリの普段の太陽のような明るい表情が影を潜めたのが心配なのか、トーヤが様子をうかがいに来てくれた。
「ありがとう。少し疲れたようだ。」
「少しお休みください。僕も五大首長家の一人として、接待くらいやって見せますから。」
少し頬を赤らめつつも、この聡い少年は時として大人顔負けの落ち着きと判断力を見せてくれる。
普段であれば、責務を譲るつもりはないが、流石に精神的に疲れたようだ。今はその言葉に甘えるとしよう。
「わかった。本当にトーヤはしっかりしてるよな。ありがとう。少し外の風にあたってくるよ。」

そう言ってカガリは、ホールを抜け出し中庭に出た。
南国といえど、夜風はこの時期、やはり冷たさを帯びる。
今日一日、滅多になく化粧を肌に張り付かせていたせいか、どうにも肌も疲れているみたいだ。
「気持ちいいな…」
そうだ。化粧なんかして、アスランの気を引こうなんて、頭がのぼせ上っていたんだ。
こんな大事な会議を前に、何をしているんだ、と叱責してくれたんだ。
もっとしっかりしなくちゃな!
「よし!」
頬をぴしゃんと叩いて、ホールに戻ろうとしたその時だった。
<ガサ>
「!」
風のせいではない、植え込みの枝葉が揺れる音。
(侵入者か!?)
背中に気配を感じた瞬間
<パシッ>
左腕を強く掴まれた感覚が走る。
(しまった―――!)
油断した。警備は厳重にしていたはずだが、それでも暗く人気のない中庭にわざわざ降りてくる人はいない。
何とか体勢を立て直し、軍事教練を受けた時を思い出し、カガリは必死に相手の腕を取り直そうとする。
「これでどうだ!」
遠心力と関節技で、逆に相手を引きずり出して押さえつけようとする。だが心得のある侵入者はそれすら見越して、カガリの足元をすくった。
(ダメだ。やられる―――!)
一瞬既視感を覚える。
そうだ、あの時、無人島で出会った少年に、簡単に腕を掴まれ投げられたあの時と同じ―――
「―――っ!!」
カガリはぎゅっと目を瞑り、次に体に走るであろう、あの時と同じ衝撃を予想する。

が…痛みは一向に襲ってこない。

それどころか

(フワ…)

身体が宙を浮いているような浮遊感。
そして、背中と膝関節に感じる温かくも逞しい腕…

「…?」

恐る恐る目を開けば
「…全く。君は本当に好戦的だな。」
そう言って優しい口元が笑む。もっと目を開けば、夜に溶け込む髪と、吸い込まれるような碧い光。

「え、あ、アスラン!?」

一瞬思い詰めるあまり、幻を見たのかと思った。
だけど、背に回された手のひらの大きさも、抱き留められた胸の広さも、そして―――いつもの少し儚げな笑顔も確かにアスランだ!

カガリが口をパクパクさせていると、アスランは口元で「クス」と笑った。
「立てるか?」
「あ、うん…」
促されて、ゆっくりと降ろされた芝の上。
(なんで、ここに通常モードのアスランが!?ホールで姿なんて見かけなかったのに・・・)
何とか口をついて出た言葉、
「お前、帰ったんじゃないのか?」
「どうして?この会議は情報の床上浸水みたいなところだ。必要な情報だけでなく、この会場全体の情報も見て回っていたんだ。動きに違和感がある者がいないか、見覚えのない顔も覚えて、帰還次第、情報統合するしな。」
「ほー」
流石は抜かりない。会場の隅々まで行動情報を探っていたらしい。
というか、ここまで仕事に徹する当たり、流石はストイック、とうより”仕事バカ”だ。
すると、
「君が推薦してくれたんだから、それだけの働きは見せないとな。君の顔に泥を塗るようなことはできない。」
「そんな…」
(私のために?わざわざしなくていい仕事までして?)
そこは口にできなかった。とんだ自惚れだ。だって今朝はあんなに冷たい視線で避けられたんだぞ?
まだ心の整理が付かないでいた刹那、<ヒュー>と一陣の夜風が二人を撫ぜて海へと向かう。

夜風のお陰で頭が冷えた。
今朝は頭が回らなかったが、今ならちゃんと口にできる気がする。
カガリは「スーハー」と深呼吸すると、意を決した。
「その…今はちゃんと話してくれるんだな。」
「は?」
「だから!その…挨拶の時…」
「あ、あぁ…」
何か思い出したように、夜空を見上げるふりをして視線を逸らすアスラン。
こういう時の彼は、絶対感情が揺れている。
予見できる行動や言動には、あらゆる経験値から一番最短で間違いのない選択をできるのに、未知の反応や言動には困る癖がある。

ことに、感情の面で彼は言葉にするのが苦手だ。

「私は、その…あんな風に言われて、そして、冷たく見返されて、お前が何に怒っているのかわからなくって…」

あの時はもう頭の中がぐしゃぐしゃだった。
自分が哀れなのは構わない。
ただ、彼を傷つけたことが悲しいのだ。

もちろん喧嘩だってした。
無人島で出会った時も、キラを殺したと涙した時も
クレタで叱責された時も。

でもあの時のアスランは懸命に訴えていた。世界の火種を止めたくて。私たちを守りたくって。
その時の彼の眼は、誰よりも熱かった。

なのに、今朝の彼はまるで氷のような冷たい視線で。
そして今は変わらずこうして話すことができて

「…意味が分からない。私は一体何をお前にしてしまったんだ?」

他に人には話さなくても、なぜかカガリにはちゃんと心の内を伝えてくれる。
時には言葉で。感情は口にできずとも、その衝動が身体を突き動かして、抱きしめられ、そして口づけられて。

無邪気に恋ができていた時が、ずいぶんと遠く感じる。たった4年前なのに。

すると、アスランは一度目をゆっくり閉じ、意を決したように口が開いた。
が、
「…が…いるのか…」
「は?」
声が小さすぎて聞こえない。カガリは耳に手を当てる。
「だから、その…な…が、できたのか?」
今度は俯いてボソボソ。
「何言っているんだよ。聞こえな―――」

「だから、「俺以外に好きな男ができたのか!?」と聞いているんだ!!」

「・・・はぁ?」

カガリの開いた口が塞がらない。

この男は一体何を言って…

「なんでお前以外に好きな男ができるんだよ。第一私にそんな暇の欠片もないことくらい、お前だってわかっているだろう?」
「じゃぁ何だ?そのメイクは?」
「は?これの事か?」
アスランは口をへの字にしながら、併せられない視線を宙に浮かせる。
「だから…君が今日、そんなメイクをしていることにびっくりして…その…綺麗で…女性として///」
夜目じゃなくてもわかる。アスランの頬が真っ赤だということが。
「君は、そんなメイクをする女性じゃなかったから。驚いて、注視する自信がなくなって…」

そういえばあの時、驚いたように目を開いたと思ったら、視線を外したのは、そんな理由で!?

「自分の表情が、会議にふさわしくないほどほころんでいくのを耐えるのに必死だったんだ。でも、俺と会う時でさえメイクしなかった君が、しているということは、今日集まった人物の中に、意中の人ができたのかと思ったら、急に怖くなって…」

アスランが、あのアスラン・ザラが―――「怖い」!?

「君に問おうと思っていたんだが、君の口からその男の名前なんか聞きたくなくって、でもあのパーティーの会場でもし君と誰かが二人きりになるのかと思うと心配で…」
「お前さ、もしかして会場全体の情報を見て回っていたって、もしかして遠巻きに監視カメラで私と密会するやつがいるか、監視していたのか?」
「…悪かったな…」
ぼそっとぶっきらぼうに答える彼。
冷静沈着なZAFTのエースで、士官クラスの権限を与えられたFAITHで。オーブでも誰もが認める強さと明晰さを備えた最強の騎士―――『女神の盾』

―――それを一体どこに置き忘れてきちゃったんだよ!?

「ぷっ、アハハハハハ!」
「仕方ないだろう!?こんなに美しい女性がいたら、普通の男だったら意識しない奴なんている訳がない。」
懸命に言葉を紡ぐアスランだが、まさか存在しない男に嫉妬して態度を急変させただけだったとは。
「この化粧はな、お前のためなんだぞ。アスラン」
「俺・・・の?」
今度は翡翠を見開いて驚く。カガリはしっかりと頷いた。
「今朝方、ラクスとルナマリアが来てくれてな。「アスランが来るんだから、美しくして出迎えなきゃだめ!」って説教されながら、半強制的に塗りたくられただけだ。」
「そう、だったのか・・・」

アスランの全身から、強張った空気が消えた。
そうか、コイツも心配していたんだ。

「安心しろ。私は国と、世界と未来を守ることと、それから・・・お前の幸せを願う以外、眼中にないから。・・・って為政者にしたら欲張りだな。」
そうやって自嘲気味に笑うカガリ。
だがアスランは首を横に振る。
「いや、むしろそこに自分についての欲を一つも入れていないのがカガリらしいよ。もっと自分の幸せを願ってもいいんじゃないのか?」
「そうか?だったら…」
そして改めて顔を上げる。
「私がこうして化粧して、お前を出迎えるの、嫌いか?」
すると彼は最初はやや控えめに右手をそっと彼女の頬に触れる。
「嫌な訳ないだろう?ただ君も本当に女性なんだなと。」
「・・・お前、無人島の時以来、まだ私を女かどうか疑っているのか?」
「そうじゃない!大人の女性として、こんな魅惑を湛えられるほどまでになったなら、他の男からのアプローチが無いか、心配なだけだ。だから―――」
グイと腕をひかれたカガリ。
そしてそのまま彼の腕の中という、甘い檻に閉じ込められる。
「ちょ、待てよ、こんなところ誰か来たら―――///」
「大丈夫だ。ここは監視カメラの死角になっている。それに、立ち入り禁止にしておいたから。」
「・・・全く、油断も隙も無いな。」
「今を誰にも邪魔されたくないから。今だけは、君は俺だけのものだ。だから」
顎をくいと上げられ、そのまま唇を重ねられる。
やがてカガリの頭に回された手が、彼女を逃さないよう押し付けられて、幾度となく角度を変えて。

「・・・ん・・・は・・・」

息継ぎする間も惜しむ様に、いや、離れていた時間を埋めるように、何時しかカガリも自ら求めるように身体を摺り寄せる。

そんな二人の様子を、気配をギリギリ隠せるところからのぞき込む2つの視線。
「あ、あ、アスランさんっ!?あんな大胆な人だったなんて!///」
「もちろん、カガリさん限定ですわ♥」
ラクスの言う”席の移動”とは、この二人の様子を見守るためだったのか、とルナマリアが感心する。
確かにアスランもカガリも互いの動きを見る余裕はなかった。むしろ第3者のラクスの方が、二人の動きを見守っていたからこそ、この展開が読めたということか。
一人納得したルナマリアに、ラクスがそっと指をさす。
「ごらんください。カガリさんの頬を」
「あ・・・」
見るとカガリの頬は何時しか艶やかになって、そして見事な美しい赤味が挿している。
ラクスは人差し指を唇に当てながら、コッソリと告げた。

「カガリさんの頬にチークを入れられるのは、アスランだけですわ♥ いいえそれだけじゃなく・・・」

檻の中のカガリはされるがままに、額に、瞼に、頬に、そして、また唇に、口づけが注がれている。
一つ、また一つと、注がれていく個所から、艶やかできめ細かな肌へと変わっていく。
ラクスが優しい笑みを湛えながら、そっと呟いた。

「カガリさんには、アスランが傍にいればお化粧は必要ありませんわね。お二人が共にあることが、カガリさんにとって一番の美しい装いですわ。そう、きっとこれからも、ずっと―――」

 

・・・Fin.

 

***

 

一週間、間が開いてしまいましたが、前編に引き続きようやく後編です。
色々今週も忙しくって、全然落ち着いてSS書けなかったので、色々穴が多いと思いますが、笑ってくれていいのだよ( ̄▽ ̄)

ということで、件の頬染めカガリ様✨の秘密wをダラダラ書きとどめてみました。

カワユス♥(*´Д`)ハァハァ
でも、カガリにこんな顔をさせるのは、もちのろん!向かって左側で今はちょん切れている彼ですよね~(´∀`*)ウフフ
男勝りの16歳の時からたった4年でこうも色っぽくなるとは( ゚Д゚) これはアスランとて、ウカウカしていられませんよ?
そんな焦りも織り交ぜつつ書きなぐってみましたが、実はこれはなが~い前章でして、本番の話はクリスマスにUPしようかと思っております(注意:可能なら)
そっちのプロットではもう遠慮なしにイチャイチャ♥どころか、鬱陶しいくらいにベッタベッタ(笑)してます。
なので多分Rつきますから、UPするとしたらpixivになるかな。
お気になりましたら、よかったらとUP情報はここでもお伝えしますね♪

さて、ここのところ、種自由情報が溢れまくっておりますが、昨日は仕事している間に、ようやくやってくれました、「アニメイトカフェ」の情報が上りましたね~!\(^o^)/

やってくれるだろうと、7割くらい思っていましたが、東京は1月10日から始まるそうで。(主張店の方が早いですね)
限定グッズもあるそうで、おっきなハロを転がしている(笑)カガリたんが滅茶苦茶可愛いので、ランダム&クローズドですが、ゲットのためにチャレンジしたい!
今も普通にガンカフェが残っていたら、多分今以上に散財していたはずだから、ここまで来たら遠慮はしない( ー`дー´)キリッ✨
ただ、どうしても仕事をしている関係で、平日はいけないし、土日も両親の具合によっては行くことができないので、両親の体調具合によるかな。母の足が全然骨がくっついている気配がなく、昨日お医者さんも悩んでいたくらいなので、下手すると手術になるかもしれませんし💧
そうなると、代行してくれる友達にお願いできたらありがたいな(友達少ないんですが^^;)
仕事している間に「つなぎゅっと」が発売告知された途端に完売していたし、かもしたが見た時はぺんぺん草も生えていない状態に(ノД`)・゜・。
最近スマホのお陰なのか、発売日当日に告知するグッズやイベントが多くって、仕事して張り付いている身としては、チャンスを悉く逃しているのが悔しい( ;∀;)

まぁ、それはともかく、ガンカフェもあまり焦らずゆっくり行けたらにしようと、心を落ち着かせております。

明日はそれこそ台場に行く予定なので、謎解き&ガンダムベース覗いて楽しんできます!(≧▽≦)ゞ

 

 


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