うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

彼の秘密(三度目)

2022年06月25日 21時04分36秒 | ノベルズ

天井まで届く窓から眩しいほどの日差しが、無機質なこの執務室を明るく染め上げてくれる。
その窓辺に沿う、大きな一枚板から作られたらしい重厚で広いアンティークデスク。
普段から山済みになった書類の数々に覆われてるそこは、いかに彼女の仕事が山積しているかを語らずとも物語っている。
そして―――来室者からは見えない位置―――彼女の足元に用意された「それ」。
兵器と同じく今後、二度と使わなくて済む、平和なオーブ、そして世界であって欲しい。
常々願いつつ、姿勢を正した彼女が決裁書類に目を通していると、
<プ>
埋もれたデスクの隙間に鎮座していた固定電話。いくつも張り巡らされている各省庁から繋がる直通回線の、とあるランプが点滅を始めたその0.75秒、呼び出し音が最初の<プ>を告げるとほぼ同時にカガリは受話器をもぎ取った。
<おいそが―――>
「わかった。待っていろ。」
相手が誰なのか、用件は何か、聞きだすこともない。それだけ告げて受話器をやや乱暴に置いた瞬間、顔をあげた金眼の奥に揺らめく炎。そして、二度と使わない日を願った「それ」を手に、カガリは全身からオーラを立ち昇らせ、執務室を後にする。
無論、彼女を見送る同室にいた秘書たちは、自ずと黙って立ち上がり、敬礼してその背を見送っていた。

***

「待っていろ」を有言実行、普段なら軽く移動に20分はかかる距離を、彼女は10分そこそこでやってきた。
「…」
そのままツカツカと無言で進むカガリ。もう誰も何も言わない。ただ姿勢を正し、敬礼して隊列するオーブ軍整備士一同が、自然と『そこ』に辿り着くまでの道を作っていた。
彼女はようやく『そこ』の前で足を止めた。
ここ、オーブ軍MS格納庫。そして彼女の目の前に佇むのは―――オーブの旗印ともなっている機体『インフィニット・ジャスティス』。
カガリは無言のまま、コクピットまでのロールアップに足をかけ、そのままスイッチを押し上昇させる。当然そこには操縦席があるわけで。
(で、今回は何だ? クッションだろうが、ブランケットだろうが、ぬいぐるみだろうが、もう流石にあれだけ〆てきたから、置くことはないだろうけど。)
まさか、この期に及んでガレージキット…まさかのフィギアとか作りだし、地震用の滑り止めシールまで張って固定していた(これで戦闘時、幾ら暴れてもフィギアは固定されたままで壊れない♥)とかないだろうな!?
覚悟を決めて今は主のいないそのコクピットの中を覗き込む。

が―――

「ん…?」
何もない。普段通りの無機質なコクピットだ。
どこぞに何か隠しているのでは?とも思い、シートの隙間や裏まで隅々確認したが、フィギアどころか写真一枚も何もなかった。
「おーい、お前たち。」
カガリがコクピットから、先ほどまで下で敬礼していた整備班の人員に声をかけた。
「アイツ、今回は何やらかしてくれたんだ? コクピットには何もないぞ?」
そこまで言ってカガリは気づく。
(あ、もしかして既に私の(恥ずかしい)グッズは既に回収済み、とか…?)
ならば降りて彼らに礼を言わねば、と思ったが、整備班全員の無言の表情―――動物で言うなら「チベットスナギツネ」みたいな目をしたまま、そのうち一人が申し訳なさそうに声を上げた。
「いえ、今回は『物』ではなく…。申し訳ありません代表、お手数をおかけしますが、そのままジャスティスを起動していただけますでしょうか。」
「はぁ?」
「起動させれば直ぐお分かりいただけるかと…」
「はぁ…」
何やらよく分からないが、コクピットに座り込む。
背中に感じるシートのフィット感。これがアイツの背中の感覚なんだ…温かくもないのに、背中から彼に抱き着かれたようだ…と一瞬今の状況を忘れて顔を火照らせてしまったが、起動スイッチをONにした瞬間、私のそんなほのぼのした心に雷が落ちてきた。
<コンデイションオールグリーン、核エンジン起動確認したぞ!>
「は? はぁぁああ!?」
<カタパルト確認。モニター投影開始する!>
「…」
もはや口をパクパクさせるしかできない。モニター越しに下を見れば、整備員たちのチベスナギツネ目から、悲しみの涙が溢れていた。
「な、何で…」
グリップを握る手が震える。ワナワナと打ち震えたままだったが、コクピットマイクをオープンにして私は叫んだ。
「何で操作確認音声が付いているんだ!?しかも『私の声』で!!」
もう頭が沸騰しそうだ。慌てて下に降りれば、整備班と、あと空軍将校がいつの間にか数人集まっていた。
「…お分かりになられたかと思いますが、その…普通は無音で、パイロットが起動ランプを確認しながら、人によっては自分で声出し確認をしていくものなのですが…」
「何故かインフィニットジャスティスが、いつの間にかランプ点灯時に自動音声が流れるようにプログラミングされていまして…」
「しかも、その…代表のお声でしたもので、これはご本人の許可を得ているのかと、一応確認をお願いしようかと…」
全員ほぼ泣き顔状態だ。加えて空軍士官たちも悲しみの涙にくれている。彼らが語るには、
「実は、空軍の演習中も模擬弾を使っての実践訓練を行うのはご承知のことと思いますが…」
「こちらがインフィニットジャスをロックオンすると、機体から『右後方ベータ10にムラサメ接近しているぞ!』と代表のお声が聞こえてしまい、つい撃つのに躊躇してしまい…」
「加えて「分かった、ありがとうカガリ!」とご機嫌で返答して操縦される准将に成すすべなく、毎回敗北を重ねる次第であります…💧」

「…」
もうお腹いっぱいである。
というか、言葉さえ出ない…

確かにアスランの演習の模擬訓練は、インフィニットジャスティスの性能もある故、パーフェクトなのは毎回の事だ。だが最近それにスピードが加わって、相当にモチベーションも高く、調子がよくなっているのは記録報告から知っている。
だが、しかし、だ!!
あれだけ私のプリントされたグッズだけでなく、前回、私の隠し撮り写真をモチベーションアップに使っていたのを見て、即刻削除。代わりに部屋の鍵を渡してやったのに、何の学習もしていないじゃないか!(怒)
アイツのあの無駄に広いデコは、肝心なところが全くと言っていいほど機能していないじゃないか!!(泣)

「…び出せ。」
「え?」
「いいから、即刻ザラ准将を呼び出せ!!」
「「はっ、はいっ!!」」
その場にいる全員が一気に敬礼したのち、蜘蛛の子を散らすように持ち場につく。

そして…待つこと5分少々

「一体どうしたんだ? 先の整備では何の異常も…」
何も気づかずに現れたのか、このデコ。
真っすぐインジャスに向って歩いてくるアスランに、背を向けていた私が振り返ると、アスランの眼が見開くと同時に表情と動きがフリーズした。
そしてそのまま「回れ右」を決めてくれる。
うん、美しい「回れ右」だ。軍事演習で行進させたら、まさしく一級品の見本だが―――
今はそんなことを褒めてやっている場合じゃない!!
「ザラ准将!停止!」
私の声に機械のような動きが<ピタ>と止まる。
「回れ右してこっちにこい!」
何だかブレイクダンスのようにガクガクしながら、表情はもはや葬式にでも出ているかのようだ。
「駆け足!」
軍部の鬼教官よろしく私が怒鳴ると、しっかり走ってきた。
そして、決して出番が来ることのないことを願ってやまなかった『それ』を手にし、私は走ってきたアスランめがけてそれを放つ。

<スパァーーーーーーーン……>

私の手にしていた『それ』は『ハリセン』とかいうやつだ。マーナがどこぞの新喜劇で見て以来気に入り、私はその極意を受け継いだ。
見事に輝くヤツのデコにジャストミートし、快音を響かせたゆえか、その場の整備班たちが揃って明後日の方向へと目をやっている。多分場外ホームラン張りの当たりだったのだろう。
肝心の彼は、既に慣れ切った『正座待機』状態にスタンバったまま、デコを両手で押さえている。
「…痛いよ、カガリ…」
「ここでは「代表」と呼べ!」
「失礼しました。痛いです、代表💧」
丁寧語になっただけで、何も変わっていないじゃないか。
「お前はもう、毎度毎度毎度毎度…一体何をやらかしてくれるんだっ!!」
「お言葉ですが代表、その、戦闘に出る時、励みになるものが欲しい心境は分かっていただけますでしょうか?」
それならわかる。中には戦闘中に命を落とす覚悟でいるため、最期の瞬間は家族や大事な人と共に居たい、と、写真の入ったロケットを身につけたり、コクピットに写真を貼っている者もいる。
それは別に戦闘の邪魔にならないのなら、心理的にも許せることだ。だが、
「何で私の音声なんだよ!?」
一体何時録音していたのか…まぁ、時折ルージュのメンテもしてもらっているから、その時駆動系を確認する際、通信を入れたままにしていたから、そこから引っ張ってきたのだろうけれど。
まだ怒りというか、恥ずかしさが止まらない私を前に、アスランはキッ!と顔を上げた。
「…物を作ったら取り上げられるし、写メにしたら消去されるし…だったら残っているのは「声」くらいじゃないか!」
・・・なんでそこだけ「俺は諦めがよくない!」みたいな真剣な顔してくるんだよ…(´Д`)ハァ…
「声だって肖像権があるんだぞ!罰金50万(2022年現在)だぞ!前回だって教えただろうが!」
「君に内緒にしていたのは済まないと思う。しかし、戦闘中でも君の声が聞こえると、共闘していたあの頃を思い出して、心強いというか、力が出る、というか…///」
顔赤らめながら言うことかよ(呆)
でも確かに、記録がさらに伸びているのは知っている。
見れば彼の(思いっきり)後ろで空軍士官が「(゚д゚)(。_。)(゚д゚)(。_。) ウンウン」と必死に頷いている。何だか同情されているみたいだ。
「ハァー…」
頭を抱えずにはいられない。空軍からすればアスランの戦闘力が上がればもちろん万々歳だろう。しかし、一方で私の声に(というか、アスランの奇行に)ビビっている兵士がいることは無視できない。
(こうなったら…)
私は手にしたハリセン(この際だから『すとらいくふりーだむ』と名前を付けて置く)を手でパシパシしながら思案すると、整備班一同に声をかけた。
「私の声がすることで、戦闘に集中できない者があってはいけない。故にザラ准将、整備班と共に、音声プログラムは消すように!」
「そんな…!」
一気に悲嘆な表情に変わるアスランと、彼の物凄く後方で胸をなでおろす整備班&空軍士官。
早速作業に取り掛かる彼ら(アスランは、もう肩を落としてトボトボって感じだけど)。

私は内閣府に戻る車中で検討し、執務室に戻ると秘書官に命じた。
「すまないが、これをザラ准将に渡してきてくれないか?」

***

翌朝―――
窓を全開にし、朝の新鮮な空気を一気に取り込む。
「はー。さ、今日も一日頑張るか。」
そうして私は多分出番のなくなった『すとらいくふりーだむ』を脇へと追いやり、書類の山に挑みかかる。
すると
<プルル…>
軍令部からの内線が入った。昨日の今日だから、アスランがまたやらかすことはないとは思ったけど、
「私だ。どうした?」
受話器の向こうはまた困ったような士官の声だった。
<すいません、お忙しいところ。昨日はお世話になりました。>
「あぁ、件の彼か。で、今日は何かやらかしたのか?」
<いえ、代表には大変申し訳ないのですが、昨日のお届け物の中身を変えていただけないものかと…>
昨日、私が秘書官にアスランのために届けさせたのはUSB。
それは私の声の入ったスマホ専用のボイスアクセサリーだ。

『アスラン、今日もオーブのためにありがとう。疲れただろう、ゆっくり休んでくれ。おやすみ、よい夢を…』

携帯の電源を落とすとそう語る様に設定させたのだ。
こうすれば、私の声を聴くにはスマホの電源を落とす以外に手段はない。
そう知れば前回の「妖しい私の写真」も見なくて済むわけだし。
そう思って我ながら名案✨と思ったのだが
<それが…代表のお声が聴きたかったのか、何度も電源のオンオフを繰り返されたらしく。結局一晩中聞いていらっしゃったらしく、准将がかなりの寝不足で、目の下のクマが黒々としてしまい、どうにも戦闘への影響が懸念されまして…💦>

やられた…orz

まさか、こんなオチになるとは💧

私は天を仰いで、盛大にため息を吐き出すと、士官に告げた。
「ザラ准将を内閣府執務室まで出廷させてくれ。」
<了解しました。>

さて、一体どうしたものか。
「あ~~~もうっ!!💦 寝られないのだったら、寧ろ起きる方に変えてみるか…」
私は今度は目覚ましボイス、しかも色気もなく気合が入るようなセリフを思案する課題に取り組むのだった。

・・・Fin.

***

こんばんは、かもしたです。
この暑苦しく鬱陶しい今夜の気候に、また寝苦しいぐらい鬱陶しいSSをUPしました。
なんかすっかりシリーズ化してしまっている、『アスラン・ザラ 彼の秘密♥』の第3段です💧
いえ、今までプレバンやらガンカフェでグッズが出る度に、このヘタレで一途(キュン♥とかしないように!)なザラが「姫様のグッズを集めて憩いの時間及びリラックス♥(*´Д`)ハァハァ」をし、姫に散々っパラ怒られる、というお約束。
もうね、前回の「スマホの待ち受け」やった時点でもう書くつもり一切なかったんですけれど!
実はツイッターの方で、息子ことこびとさんが『SEEDのタイピングソフトのボイスアクセサリー』の話をしていたんですよ。

要はタイピング練習用のソフトで、難易度簡単なものから順次やっていき、一定の勝利を収めるとキャラクターのボイスがもらえるのです。日常生活の、要は「おはよう」系から色々種類があるんですが、何故かザラは怒っているというか、毎回説教染みている(苦笑)で、キラは可愛い☆ ラクス様は癒し系✨ そして姫は…「優しい♥(*´Д`)ハァハァ」なのですよ!その台詞の一つが↑さっきのアレ。
それをツイッター上で話していたら、息子が「母上、このアクセサリーボイスのでSS書いてください!(≧▽≦)/」と来たもんだ! もう既にヘタレ切っているザラを読みたい人もいなかろうし、何より「もうオチが毎回同じで面白くも無かろうに…」と返事したところ、「そこまで行く過程が楽しいんじゃありませんか!(*/≧▽≦)/✨」とリクエスト圧に押され、構想5分&書きなぐり30分で書いたわよ!ヽ(`Д´)ノオリャー!

「これでいいですか?息子よ。満足いったなら連絡しなさい。削除するから。(きっぱり)」



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2 コメント

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Unknown (息子)
2022-06-26 05:47:47
嫌です。まだ読んでないので消さないで下さい。
現在息子は5月に上げて頂いた「彼の秘密」を熟読して、段々と小さくなって行く「ダメなのか?」のあたりとか、ギュッのあたりとかに思う存分にやけたりジタバタしているところです。
そこを十分堪能したのちに、この度の新作に移ろうと考えております。
念のための申し上げておきますが、本当はもう何回か読んでいて、可愛い代表からのマーナさん直伝ホームラン級の切れを持つ、すとらいくふりーだむを正座待機の輝くおでこで受け止める彼とか、優しく囁く姫様のおやすみ終了メッセージにときめきすぎて、待受とか色々つい懐かしくなってしまって前作に戻っちゃったんだvなどと言うことはありませんので!

息子は大好きな母上に決して嘘はつきません。
だからまだ当分、て言うか!!!
消すとか言わないでずーーーっと!
読みたいだけ読ませといて下さっても、いいのではないでしょうか?!
まだ読んでませんけど!
同じご意見のかた既にメール下さってますし、息子の味方は今回は多いですよ?!
………と母上にご命令に従いまして、まず一度目のご報告させて頂きました。
   貴女の可愛い息子より
追伸 長すぎてタイムオーバーになり書き直したのですが、その際顔文字は文字化けの原因になるからと、母上宅のAI様にチェックを入れられました。
少しでも可愛くして母上のご注意を反らそうと思っていたのに無念です……
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Unknown (レノアちゃん)
2022-06-27 20:54:51
えぇえぇ…そうよね~貴方の場合、「読んだ」というのは少なくとも「4周してから」のことを言うのよね。
なので無論、アスランの台詞の端々に「貴方が言いそうな言葉遣い」を混ぜ込んでいるのも、当然まだ気づいていない、と。
顔文字入れなくても、可愛い息子だもの♥よくわかっているわよ(´∀`*)ウフフ
でも多分、このシリーズの続きを望んでいる人はいないわよ?みんな大好き「かっこいい☆ザラ准将」って一体誰の事?って感じだもん。
というか、もう姫様が「私に『すとらいくふりーだむ』をもう使わせないでくれorz💧」と泣きのお願いがきているので、これで最後よ!本当に!
というか、天井裏がもう気温40度越えて暑いので、母もパトリックも頭が回りません。故にもう書けません。天井裏にも冷房つけてください<(_ _)>
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