うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

最強で最弱の男

2024年02月04日 21時14分11秒 | ノベルズ

「―――以上で報告を終わります。」
<わかった。ご苦労だったな、メイリン。>

画面の向こうから送られてきた労りと微笑みに、一気に緊張の解けたメイリンは「フー」と脱力して、背もたれに体を預けた。
<フフフ♪>
そんなメイリンを見てか、向こうでカガリがさらに楽しそうに笑うものだから、”いけない”とばかりに、メイリンはまたピン!と背筋を伸ばす。
(そうよ、相手はオーブ代表首長なんだから、失礼な態度はしちゃだめじゃない!!)
叱責されるのでは…と内心ドキドキしてきたが、カガリは自分もリラックスするように、一度席を離れると、紅茶を入れたカップを持って座り直した。
<いや、そんなこと気にするな。メイリンも何か飲んだらどうだ? 慣れない報告できっと口も乾いただろうから。>
「な?」と軽くウインクされて、メイリンはうなずく。確かに口も喉もカラカラだ。
いつもの提示報告はアスランが行うのだが、生憎現在の監視対象であるファウンデーションに動きが見えたため、そちらに急遽向かったのだ。大事な報告を代わりに任されたと思うと、仕事が信頼されているようで嬉しいが、やはり緊張で生唾ばかり飲み込んでいたのを、カガリには悟られたらしい。

メイリンもいつも使っているマグカップにコーヒーを淹れ戻ると、カガリが柔らかな笑みを見せた。
<急な出向だったけど、変わりないか?何か必要なものがあったら、遠慮なく言ってくれ。>
「いえ、大丈夫です!むしろ自分なんかがお役に立てる仕事ができて嬉しいです!」
本当にそう思う。ZAFTを脱走後、戻る場所を失った自分に、オーブ軍に籍を貰って最後の戦いに出てからかれこれ一年。もうプラントに自分は戻る資格はないのでは?と不安になっていた矢先、カガリからそのまま引き続きオーブ軍所属として正式に採用され、こうして情報戦線の最前線へ引き抜かれた。
(いつの間に私の特技を見抜いてくれたんだろう…アスランさんから聞いたのかな?)
だがAAに救出されて以降、今になるまで二人がメイリンの処遇について話していた形跡はない。だとしたら、カガリの一存だろうかと、当初は不思議に思ったものだ。
しかし、しばらくカガリと会話を続けるうちに、メイリンはカガリへの印象を変えた。

初めて彼女を見かけたのはミネルバ艦内だった。
シンと言い争い、というか殆どシンが怒りをぶつけていたが、それに言い返せずに視線を外す彼女が、本当にあのオーブの代表なのかと思うほど、幼く弱弱しく見えたものだ。
(でも…)
最後の戦いを前に、彼女は国を選んだ。
彼への想いより、自分のやるべきことを選んだのだ。

それだけではない。
あの離別以降、本当に強くなったと思う。
ラクス様…いや、クライン総統と並んで女神と称される彼女。
確かにクライン総統は素晴らしい。歌で人々を癒すことも、カリスマ的指揮力で戦いを制したあの能力も、コーディネートされた能力なのかはわからないが、例えコーディネーターであってもその力を鍛え上げない限りはいきなり発揮できるものではない。自ら人に悟られず養っていたのだろう。その力は「最高」の一言に値する。
メイリンにとって憧れであり、尊敬に値する。

しかし、メイリンにとってはカガリも憧れの存在となっていった。

クライン総統と違ってナチュラルの彼女には、人を魅了する力も、説得する力も、計り知れない努力と忍耐の上に築かれたに違いない。
オーブを再建し、コンパスを創設し、世界各国に協力を求め、何度も掛け合いながら、厳しい言葉にも決して彼女はあきらめなかった。
同時にMSの開発にも携わり、ヤマト准将をはじめ、コンパスへのバックアップも行い、そして―――こうしてメイリンにも居場所を与えてくれた。
ナチュラルの・・・しかも自分と3つしか離れていない年齢の女の子が、これだけ広い視野で皆の背を押してくれる力を携えて。
しかも、彼女はこれも気づいていたのか、メイリンには憧れの人、アスランの傍に椅子を用意してくれた。
最初はそれだけでもう十分幸せだった。だけど、やっぱり満たされると次の欲が生まれてしまう。
でも、彼の視線の先はいつだって―――・・・

<それにしても、本当にこの短期間でよくこれだけの情報をまとめてくれた。礼を言わなければならないな。>
「いえいえ!私は自分の仕事をしたまでです!」
会話の途中だったことを忘れ、慌ててメイリンは現実世界に自分を引き戻す。
<いや、誇っていいと思うぞ?これだけの膨大なデータを処理する仕事量、キラとも十分張り合えるさw>
「え?とんでもないっ!ヤマト准将なんて、恐れ多いです!私全然強くないですし!!」
<そうか?メイリンはとても強いと思うぞ。>
「私が、ですか!?とんでもないです!」
慌てて右手をブンブンと振って否定する。
たかが元ZAFTの一般兵。姉のルナマリアのように赤服にもなれず、ただやれることは電子通信機器くらい。前線で戦うこともできず、内心劣等感を感じていたくらいだ。
すると、画面の向こうでカガリがティーカップをソーサーに置いてほほ笑んだ。
<だってあのアスランの脱走を手伝った上に、後ろ盾も殆どないこのオーブ軍の一員として志願してくれたんだぞ?あれだけの重傷を負いながらも、それでも戦いから逃げなかった勇気は賞賛以外の何物でもない強さだ。>
「そんな///」
成り行きとはいえ、確かにあの時の自分の行動には、自分でもびっくりする。
あの時、自分はどんな感情を持っていたのか、それが原動力になったことは間違いないが。
<それにな―――>
カガリはソーサーを机に置くと、頬杖をついて画面の向こうのメイリンをのぞき込む。
<キラは弱いぞ?MSの操縦は確かに敵うやつはいないだろうけどさ。要は演算処理能力がめちゃくちゃ早いんだ。だけど銃の腕はからっきしだし、腕っぷしだって、私に勝ったことすらないんだぞ。>
「えぇっ!?アスハ代表にも敵わないって、本当ですか!?」
メイリンは思わず口にしかけたコーヒーを吹き出しそうになった。カガリはおかしそうに笑う。
<あはは!そうだぞ。私がまだAAに同行していた時に腕相撲やってな。一回も勝ったためしないんだ。もうフラガ一佐にめちゃくちゃ絞られてさ。大体男のくせにバーベル50㎏も持ち上げられないって、今でも信じられん!>
「…それはアスハ代表がすごすぎるのでは…」
<そうか?そんなことはないと思うが・・・それにな。>
カガリが急に神妙な顔つきになる。
<アイツは心の方もそんなに強くはないんだ。確かに一回行動を決めると、雲が晴れたみたいに自分の役目を全うしようとする責任感は良いんだが、その分ストレスがたまると当たり散らして、そうやって自分をもっと傷つけようとするんだ。以前も友人のアーガイル事務次官に酷いこと言い散らして。それで自分をもっと傷つけているのが、見ていて痛々しくてな。…今はラクスがいてくれるから、大丈夫だと思うけど…>
少し怪訝な顔つきになったカガリを見て、メイリンは思った。
(あ、「お姉さん」の表情だ)
カガリとキラが双子の姉弟という話はアスランから聞いている。どういういきさつで二人がナチュラルとコーディネイターになったのかはわからない。でもこの表情のカガリを見ると、ルナマリアが自分のことを心配しているときとよく似ている。
<今はちょっと心配なんだ。ラクスと通信したとき、彼女も疲れて見えたんだ。>
「コンパスを軌道に乗せるまでは、やはりクライン総統といえど、なかなか難しいのではないでしょうか。」
コーヒーカップを両手で包みながら、コクリと一口飲みこむ。
<いや、なんていうか…うまく説明できないんだが、こう、「すれ違っている」というか、「話ができていない」感じがするんだ。>
「そんな…確かにヤマト准将は今ミレニアムで各地を厭戦していますけれど、ちゃんとお休みの時はクライン総統と過ごされていると聞きますよ?」
<うん、そうなんだが…>
カガリが視線を外して考え込む。
<言葉を重ねても分かり合えないこともある。こんなに近くにいても、すれ違ったり、ほんの小さなきっかけで、あれだけ信じていた相手を信じられなくなることもあるんだ。信頼を築くのは大変な時間がいるが、崩れる時は一瞬だからな。…まぁ、あの二人なら大丈夫だと思うが。>

ここもメイリンが不思議で尚且つ、尊敬するところだ。
双子、というと何か普通の人にはないシンパシーを感じることもあるだろう。
でもカガリの場合、それだけじゃない、天性の感受性というべきだろうか。キラに限らず、他者の心の痛みや苦しみに直ぐに気付き、ラクスとは全く別の方向から、相手が癒される形で手を差し伸べるのだ。ヤマト准将、そして、きっと彼も―――
(いいなぁ・・・)
こんなにアスハ代表から心配されているということは、少なくとも彼らを愛している人がここにいる、ということだ。愛していなければ、心配などしないだろう。
「そうでしたか。でも代表がおっしゃるように、ヤマト准将がそこまでお強くない、というのであれば、やはり最強の男の人はアスランさん、ということですね。だってMSの腕もヤマト准将に匹敵しますし、銃の腕もナイフも体術も、ZAFTの教官さえ敵わなくって、今でもアスランさんの成績を抜いた人はいないんですよ!!」
興奮気味に立ち上がって話したメイリン。
まるで自分のことのように自慢してしまうのは、やはりまだ憧れているからだろうか。・・・ううん、今は同僚だから余計に自慢しておきたい。それだけだ。
だが、カガリは小首をかしげる。
<そうか?アイツも、それこそキラ以上に滅茶苦茶弱いぞ?>
「え?」
キョトンと丸まった金の瞳。思わずメイリンもキョトンとしてしまう。
「え、えぇっ!?それはないですよ!!だって「アスランさん」ですよ!?そりゃ確かにシンに撃墜されたことはありますけど、あれは私を庇って無理な戦闘をしなかっただけで―――」
<そうじゃないんだ。アイツは本当に馬鹿だぞ?>
あの「アスラン・ザラ」を―――「頭脳明晰」「眉目秀麗」を体現したような人を「馬鹿」って言いきるなんて人、初めてだ。
メイリンは尚も応戦する。
「そんなことありません!ZAFTの筆記試験だって、そこらの大学レベルより難しい専門問題を全教科満点だったんですよ!!」
だが、カガリはちょっと困ったように、言葉を選び出した。
<ん~~~というよりさ、確かに頭もいいし、切れるんだろうけど、アイツ、たぶん小さいころからひたすら「優秀」で通ってきたから、自分の知らない世界を見せつけられると、妙に自信が揺らぐんだよ。自分は間違ったことは言っていない、優秀で今まで間違ってきた経験がこれっぽっちもなかったんだろうな。・・・でも世界はそれだけじゃない。私やアイツがいまだに知らないことだってある。キラはまだその辺受け入れいいけれど、アスランはガッチガチだったからさ。おかげで自分がしてしまった失敗への後悔とか自責が半端ないんだ。それでいつまでもクヨクヨして、同じところぐるぐる何度も回って…本当にハツカネズミみたいなやつだったんだ。>
「…」
メイリンは絶句する。
あのアスランさんが、ハツカネズミって!?
ZAFTの特権階級ともいわれる「FAITH」にまで上り詰めた人なのに。
<でもさ。>
つぶやき始めたカガリの表情は優しい。
<人間は失敗したっていいんだ。何度も後悔してもいい。いけないのは「そこから何も学ばない」ということだ。>
「…」
<アイツは、すごい時間かかったけど、ちゃんと自分で一歩踏み出してきた。そして素直に「どうすればよかったんだろうか?」って聞けるようになったんだ。すごいことだと思わないか?自分の自信と価値観を絶対揺るがさなかった人間が、自分と周りの変化に気づいて、人を頼れるようになったんだぞ。>
「人を…頼る…」
カガリは頷く。
<弱くってもいいんだ。全てにおいて神のように完璧な人間なんてこの世にいない。でも失敗から自分の弱いところを見つけて、それを受け入れて、協力を求める。人間とはそれでいいし、そうあるべきだと思う。それが一番自然な姿なんだろう。>

―――「メイリン、これをやっておいてくれないか?」
―――「すまない。今日はこっちを任せるよ。」
―――「ありがとう。流石はメイリンだな。」

ごく当たり前のことだと思っていたけれど、彼にとってはそれはとてつもない大きな壁を乗り越えたんだろう。
そして、それを気づかせてくれたのは―――

<メイリン、色々面倒かけてすまない。仕事だけでも大変だと思うけど、そういうことだから、アスランのこと、よろしくな。>

そういって画面の向こうで笑う彼女。

この二人はキラとラクスのように寄り添える距離にいない。
なのに、この安心したような花笑みを見るだけで、まるで彼女の隣にアスランが寄り添っているように見える。

そういえばカガリと通信をしているときのアスランも、緊張感があるはずなのに、どこか…そう、声色とか、言葉遣いが、柔らかいのだ。そして、彼女を見るあの瞳も―――

その時の表情と同じ時を見たことがある。
彼が重要かつ危険な任務に出る時だ。
一人で胸の上にそっと手を当てて、何かに触れながら語りかけるようにしている。それが終わった瞬間、顔を上げた彼の瞳にはとてつもない力が宿っている。隙もなく、冷静沈着で、間違いなく”最強の男”に変化する。
その彼の背を優しくも力強く支えている…彼女の幻影

遠く離れているほどに、まるですぐそこにいるような。

(あぁ…やっぱり素敵だな。この二人って)

メイリンは素直に認める。
遠距離恋愛は難しい、と姉がぼやいていたことがあるが、本当の愛を捧げあって、強い絆を結んでいる相手なら、距離なんて一気に飛び越えるのだ。
それが―――本当の愛

そしてこの二人は、それを互いに口にすることもなく、それでもちゃんと分かり合っているんだ。

「いいなぁ~」
<へ?どうした?メイリン>
「あぁ!いえいえ、何でもありません!」
慌ててコーヒーを置き敬礼してみせると、カガリはまたクスクスと笑い出した。
<すまないな、久しぶりにメイリンと話せたもんだから、つい長話になってしまった。>
「いえ、こちらこそ!代表もお忙しくていらっしゃるのに。」
<こうしたおしゃべりも、ある意味貴重な情報収集だ。じゃぁともかく無理はしないで、何かあったらすく連絡をくれよ。>
「わかりました!」

画面の向こうで彼女が頷くと、モニターはブラックアウトした。
と、そこに
「今戻った。」
「あ、お帰りなさい、アスランさ…いえ、ザラ一佐。」
「今、カガリの声が聞こえたような気がしたんだが…」
礼儀にうるさい彼が敬称を間違えられたことにも気に留めず、目の前のメイリンより彼女の声を探している。
メイリンは思わずクスっと笑いを零す。
「どうした?何かおかしなことでも、」
「いいえ、何でもありません。コーヒー飲みますか?もちろん、虎のじゃありませんからご安心を♪」
「ありがとう、頼むよ。」
コートを脱ぎ始めたアスランの背を横目で見つつ、メイリンはポット片手にコーヒーを注ぐと、ふと窓の外を見やる。彼女がいるオーブは、あちらの空の向こうだ。

代表、貴方はご存じですか?
貴女が辛そうだと、彼の顔も辛そうになって
貴女が笑うと、彼も凄く嬉しそうな顔をしているんですよ。

メイリンは自然と唇を開いた。

「大丈夫です、代表。貴女がいる限り、アスランさんは間違いなく今「世界最強の男」ですから!」

 

・・・Fin.

 

***

 

突発でまたカキカキしてしまいましたw
劇場版本編前の設定で、カガリ&メイリンです。
運命本編をリアタイで見た時のかもしたは、カガリとメイリンの関係について考えたことはなかったんです。正直。ただ別宅にも上げた「Heliopause」にも書いた通り、「メイリンはアスランに憧れているけど、アスランの胸の内にはカガリがいて、それを消すことはできない」と自分自身気づいている、という感じかな、と受け取っていました。
でも今回の劇場版を見て、メイリンは同僚(というか上司)としてアスランをサポートしている、というスタンスでそれ以上でも以下でもない関係かな、と感じております(6回まで見た現時点で)。ズゴックやインジャ弐式のサポートもバッチリしていて、作戦の重要な部分でしっかりと能力を発揮して。運命の時はどこかまだ(アスラン脱走までは)姉に依存というか、いわゆる「妹」ならではの甘えみたいなところもあったんですけど、脱走以降はもう自分の考えと信念で動いてますものね。メイリンはしっかり者ですよ。ホーク姉妹はしっかり者です。
だからカガリともいい関係が築けているんじゃないかな?多分ミリアリアともいい関係だと思います。なんかターミナル出向部も含めて、オーブ軍皆いい関係を結べているように見えます。
続編・・・そういえば、先週アンケートで「続編があったら見たいですか?」という質問があって、「もちろん見たい!」にチェック入れましたけど、別に媒体は劇場版じゃなくてもいいと思ってます。後藤先生の小説でもいいし、漫画でもいい(※作画にもよりますけど)。まぁできれば「動いて声が付いている」のが最大嬉しいですけどね♪ なので(完全受注販売でもいいので)円盤とかあったら最高ですね☆ 
カガリが代表の座をトーヤ君に譲って、それ以降のドラマでもいいですし、引退する前に何かエピソードがあって、結果新たな道を共に歩んでいくアスカガ、みたいなのがあってもいいなぁ~(*´▽`*)

それまでまだ死ねないので、「(推しを)愛しているから、いやでも仕事をするんです!」とラクス様のお声ではっぱかけてもらって、明日もまた頑張って生きていきます(`・ω・´)ゞ


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