スタートとともに、ペースメイカー役の外国人ランナーともども先頭に飛び出したのは、渋井陽子と原裕美子だった。僕にはこれが意外に思えた。
当初から、独走優勝を狙うと広言していた渋井だが、彼女の後を追うランナーと見られていたのは、2年前に2位となりその年の世界選手権代表になった小まりか、今シーズン、マラソンで好調な資生堂の加納由理か、昨年の「新人賞」ランナー、森本友か、今回が初マラソンとなる、日本育ちのアテネ五輪ケニア代表のルーシー・ワゴイらと思っていた。
原を侮っていたわけではない。2年前の名古屋で初マラソン初優勝で、小らとともにヘルシンキでの世界選手権代表となり、日本人トップとなる6位入賞。メダルを取り逃したことで評価は低いが、金メダルのポーラ・ラドクリフにスタートから食らいつくレースぶりをを称賛する声も少なからずあった。
しかし、その後の復帰が遅れ、昨年の全日本実業団女子駅伝ではブレーキを起こしてしまった。彼女のチームメイトの阿蘇品照美に小川清美も昨年の大阪では奮わず、僕の中で「京セラ女子陸上部」のランナーたちの評価が低くなっていたのだ。
原はスタート直後には、野口みずきのコースレコードを破り、2時間20分切りもと豪語していた渋井の前に出るほどの積極性を見せた。
これは渋井にとっては想定内だったのだろうか?同郷(栃木)の後輩でもある原を、よもや「格下」とは見なしてはいなかったろう。2年前の名古屋では勝てなかった相手だ。
スタートからレースは渋井対原のマッチレースとなってしまった。他のランナーは優勝争いの萱の外。5kmで早くも10秒の差がつき、中間点では渋井&原と、ワゴイが引っ張る第2集団とは1分30秒以上の差がついてしまった。
放送席から渋井のレースを見つめる土佐礼子と高橋尚子との昨秋の東京国際女子マラソンでの対決を思い出させた。あの時の土佐のように、渋井は原を振り切ることができるだろうか?
毎年、変わっているらしいのに、毎年同じ曲に聞えるBGMとともに大阪城公園を通りすぎ、レースは中盤に入った。CMが終わってみると29km過ぎて、原が渋井を引き延ばしていた。
バカたれが!
渋井に腹を立てたのではない。マラソンにおける、最大のみどころである、先頭を争うランナーのスパートの瞬間を放送し損ねた中継テレビ局に対してである。数週間前に発覚した不祥事と結び付けるのも短絡的だが、伝えるべき瞬間をCMで伝え逃すなんて、何年もマラソン中継をしていて、いまだに中継のツボを心得ていないのか。捏造に匹敵するくらい許し難い!
これなら、画面の下半分でドコモダケを走られていた東京国際女子マラソンの中継の方がマシだ。
そのまま大きなペースダウンもなく、原が走りきり、2時間23分48秒と自己ベストを更新し、世界選手権代表入りもしっかりと決めた。
渋井はずるずると後退していき、自己ワースト記録で10位。おそらくは、渋井が優勝した際のお祝いメッセージを送る役として、ゲストに呼ばれた土佐に、レースの後半はほとんど話が振られることはなくなっていた。世界選手権代表入りを強く目指すのであれば、35kmでレースを止めて、名古屋で再挑戦、という選択肢もあったとは思うが・・・。強気のコメントと裏腹に、本当はデリケートなのかもしれない。
「途中棄権というのは、嫌な思い出しか残さない。」
という土佐のコメントは10日前にマラソン途中棄権したばかりの僕には、身にしみる。気持ちの切り替えなんて、そんなに簡単にできることではないのだ。
疲労骨折などの故障に苦しめられていたという原だが、ここまで回復していたのかと驚かされた。ヘルシンキではラドクリフに食らいついたが、今回はマラソンの持ちタイムが4分以上上回る渋井に食らいつき、そして打ち破ることができた。これが彼女のレース・スタイルのようだ。
思えば、僕が彼女を初めてテレビで見たのは5年前の実業団ハーフマラソン。あの時も、シドニー五輪代表の川上優子さんや「駅伝の女王」と呼ばれた小鳥田貴子さんらを差し置いて、先頭に立つ積極性を見せていた。トラックで川上さんのスパートに屈したが、強烈な印象を、若い頃の増田明美さんにも似たルックスともども残してくれた。
今回のレースの解説の増田さんによると、彼女の母親が増田さん似なのだという。納得。ぜひ、写真を見てみたいものだ。
数年前の淡路島女子駅伝でも、福士加代子と同じ区間で、福士の背後にぴったりとつく走りを見せていた。「格上」の相手にも果敢に勝負を挑むというのが彼女のレースパターンりようだ。頼もしいじゃないか。
ようやく、'80年代生まれのエースが台頭してきた、という感がある。ここまで3度のマラソンで2勝、記録は全てサブ25(2時間25分以内)。
2位は小。初マラソンの加納が3位。2人ともサブ25でゴールイン。
しかし、4位の大越一恵がゴールしたのは加納のゴールから6分21秒後の2時間31分04秒。トップ3との溝の深さはどうしたものか。
今回の渋井を見て、つくづく先行逃げ切りで勝つのは難しいと思った。図らずも、原のペースメイカーになってしまった。しかし、東京での土佐も、もし、高橋が万全の体調でスタートラインに立っていたら、彼女のペースメイカーに甘んじていたかもしれない。マラソンにおいて天国と地獄は紙一重であると感じる。
選考レース4回目にして、ようやく世界選手権マラソン代表が一人内定した。あとは名古屋の結果次第だが、現時点で、一番代表に近いのは、小か土佐か?
僕は土佐だと思う、というと、
「また、地元びいきかよ!」
とブーイングを浴びそうだ。しかし、6年前の世界選手権エドモントン大会以来の現在の強化本部の代表選考の傾向を振り返れば、自ずと、どういうランナーが選ばれるかが見えてくれるだろう。マスメディアも、マラソン代表選考を不可解とか不明確とか斬り捨てる前に、傾向の分析くらいは試みて欲しい。
中継の中で、澤木啓祐強化本部長がコメントしていたように、現在の強化部は、「選考レースで優勝する」という結果を最重要視している。
優勝したのにタイムが今ひとつのランナーと、2位でも好タイムのランナーなら、前者の方を評価するであろう。少なくとも、名古屋で好タイムのランナーが続出し、土佐と小のどちらかを外さなければいけなくなった際は、土佐の方が選ばれる可能性が高いと思う。僕が言っても、説得力に欠けるかもしれないが。
同様に、一部の報道では加納も代表有力と言われていたが、資生堂のチームメイトでもある、北海道マラソン優勝者の吉田香織(名古屋には出ないのか?)やアジア大会銀メダルの嶋原清子よりも可能性が高いとは、思わない。
ところで、金メダリストが2人とも出場しない世界選手権の代表選考って、みんな注目しているのかな?
当初から、独走優勝を狙うと広言していた渋井だが、彼女の後を追うランナーと見られていたのは、2年前に2位となりその年の世界選手権代表になった小まりか、今シーズン、マラソンで好調な資生堂の加納由理か、昨年の「新人賞」ランナー、森本友か、今回が初マラソンとなる、日本育ちのアテネ五輪ケニア代表のルーシー・ワゴイらと思っていた。
原を侮っていたわけではない。2年前の名古屋で初マラソン初優勝で、小らとともにヘルシンキでの世界選手権代表となり、日本人トップとなる6位入賞。メダルを取り逃したことで評価は低いが、金メダルのポーラ・ラドクリフにスタートから食らいつくレースぶりをを称賛する声も少なからずあった。
しかし、その後の復帰が遅れ、昨年の全日本実業団女子駅伝ではブレーキを起こしてしまった。彼女のチームメイトの阿蘇品照美に小川清美も昨年の大阪では奮わず、僕の中で「京セラ女子陸上部」のランナーたちの評価が低くなっていたのだ。
原はスタート直後には、野口みずきのコースレコードを破り、2時間20分切りもと豪語していた渋井の前に出るほどの積極性を見せた。
これは渋井にとっては想定内だったのだろうか?同郷(栃木)の後輩でもある原を、よもや「格下」とは見なしてはいなかったろう。2年前の名古屋では勝てなかった相手だ。
スタートからレースは渋井対原のマッチレースとなってしまった。他のランナーは優勝争いの萱の外。5kmで早くも10秒の差がつき、中間点では渋井&原と、ワゴイが引っ張る第2集団とは1分30秒以上の差がついてしまった。
放送席から渋井のレースを見つめる土佐礼子と高橋尚子との昨秋の東京国際女子マラソンでの対決を思い出させた。あの時の土佐のように、渋井は原を振り切ることができるだろうか?
毎年、変わっているらしいのに、毎年同じ曲に聞えるBGMとともに大阪城公園を通りすぎ、レースは中盤に入った。CMが終わってみると29km過ぎて、原が渋井を引き延ばしていた。
バカたれが!
渋井に腹を立てたのではない。マラソンにおける、最大のみどころである、先頭を争うランナーのスパートの瞬間を放送し損ねた中継テレビ局に対してである。数週間前に発覚した不祥事と結び付けるのも短絡的だが、伝えるべき瞬間をCMで伝え逃すなんて、何年もマラソン中継をしていて、いまだに中継のツボを心得ていないのか。捏造に匹敵するくらい許し難い!
これなら、画面の下半分でドコモダケを走られていた東京国際女子マラソンの中継の方がマシだ。
そのまま大きなペースダウンもなく、原が走りきり、2時間23分48秒と自己ベストを更新し、世界選手権代表入りもしっかりと決めた。
渋井はずるずると後退していき、自己ワースト記録で10位。おそらくは、渋井が優勝した際のお祝いメッセージを送る役として、ゲストに呼ばれた土佐に、レースの後半はほとんど話が振られることはなくなっていた。世界選手権代表入りを強く目指すのであれば、35kmでレースを止めて、名古屋で再挑戦、という選択肢もあったとは思うが・・・。強気のコメントと裏腹に、本当はデリケートなのかもしれない。
「途中棄権というのは、嫌な思い出しか残さない。」
という土佐のコメントは10日前にマラソン途中棄権したばかりの僕には、身にしみる。気持ちの切り替えなんて、そんなに簡単にできることではないのだ。
疲労骨折などの故障に苦しめられていたという原だが、ここまで回復していたのかと驚かされた。ヘルシンキではラドクリフに食らいついたが、今回はマラソンの持ちタイムが4分以上上回る渋井に食らいつき、そして打ち破ることができた。これが彼女のレース・スタイルのようだ。
思えば、僕が彼女を初めてテレビで見たのは5年前の実業団ハーフマラソン。あの時も、シドニー五輪代表の川上優子さんや「駅伝の女王」と呼ばれた小鳥田貴子さんらを差し置いて、先頭に立つ積極性を見せていた。トラックで川上さんのスパートに屈したが、強烈な印象を、若い頃の増田明美さんにも似たルックスともども残してくれた。
今回のレースの解説の増田さんによると、彼女の母親が増田さん似なのだという。納得。ぜひ、写真を見てみたいものだ。
数年前の淡路島女子駅伝でも、福士加代子と同じ区間で、福士の背後にぴったりとつく走りを見せていた。「格上」の相手にも果敢に勝負を挑むというのが彼女のレースパターンりようだ。頼もしいじゃないか。
ようやく、'80年代生まれのエースが台頭してきた、という感がある。ここまで3度のマラソンで2勝、記録は全てサブ25(2時間25分以内)。
2位は小。初マラソンの加納が3位。2人ともサブ25でゴールイン。
しかし、4位の大越一恵がゴールしたのは加納のゴールから6分21秒後の2時間31分04秒。トップ3との溝の深さはどうしたものか。
今回の渋井を見て、つくづく先行逃げ切りで勝つのは難しいと思った。図らずも、原のペースメイカーになってしまった。しかし、東京での土佐も、もし、高橋が万全の体調でスタートラインに立っていたら、彼女のペースメイカーに甘んじていたかもしれない。マラソンにおいて天国と地獄は紙一重であると感じる。
選考レース4回目にして、ようやく世界選手権マラソン代表が一人内定した。あとは名古屋の結果次第だが、現時点で、一番代表に近いのは、小か土佐か?
僕は土佐だと思う、というと、
「また、地元びいきかよ!」
とブーイングを浴びそうだ。しかし、6年前の世界選手権エドモントン大会以来の現在の強化本部の代表選考の傾向を振り返れば、自ずと、どういうランナーが選ばれるかが見えてくれるだろう。マスメディアも、マラソン代表選考を不可解とか不明確とか斬り捨てる前に、傾向の分析くらいは試みて欲しい。
中継の中で、澤木啓祐強化本部長がコメントしていたように、現在の強化部は、「選考レースで優勝する」という結果を最重要視している。
優勝したのにタイムが今ひとつのランナーと、2位でも好タイムのランナーなら、前者の方を評価するであろう。少なくとも、名古屋で好タイムのランナーが続出し、土佐と小のどちらかを外さなければいけなくなった際は、土佐の方が選ばれる可能性が高いと思う。僕が言っても、説得力に欠けるかもしれないが。
同様に、一部の報道では加納も代表有力と言われていたが、資生堂のチームメイトでもある、北海道マラソン優勝者の吉田香織(名古屋には出ないのか?)やアジア大会銀メダルの嶋原清子よりも可能性が高いとは、思わない。
ところで、金メダリストが2人とも出場しない世界選手権の代表選考って、みんな注目しているのかな?
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