KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

マラソンを愛する皆様、こんにちは。
2022年は積極的に更新していく心算です。

ドント・トラスト・アンダー・サーティー~34歳のスピード・キング

2005年03月04日 | マラソン時評
生年月日 1970年9月24日
身長   186cm
体重   64kg
5000m  13分13秒40
10000m  27分35秒09
マラソン 2時間6分16秒


とても、日本人マラソンランナーのプロフィールとは思えない。金栗四三氏から数えて100年近い「マラソン・ニッポン」の歴史の中で、このようなランナーがこれまでいたであろうか?
2月13日の東京国際マラソンで2時間7分41秒で、マラソン5回目にして初めての優勝を果たした、高岡寿成のプロフィールである。

「遅咲き」と呼ぶのは適当だろうか?
彼の初マラソンは2001年の福岡。既に31歳になっていた。実業団のトップランナーなら、そろそろ一線から退くことを考える年代である。事実、瀬古利彦さんは32歳で引退した。

京都生まれの彼は、地元の龍谷大学に進学した。箱根駅伝をメインとするスケジュールの競技生活とは無縁の彼は、大学4年の時、当時の5000mの日本新記録となる13分20秒43をマーク。翌年、カネボウ入社後4ヶ月で、世界選手権の代表になる。

'94年の広島アジア大会では5000m、10000mの2種目で金メダルを獲得。'96年の日本選手権10000mでは、花田勝彦や渡辺康幸ら「箱根のスター」たちに競り勝ち、優勝してアトランタ五輪代表入り。

シドニー五輪では、村杜講平氏以来、64年ぶりに5000mで決勝に進出、10000mでは7位に入賞してみせた。

10年に渡って、トラックでは日本のトップの座を維持してきた、堂々たるエースを「遅咲き」などと呼ぶのは、彼の輝かしきトラックの実績をないがしろにすることになると思う。

指導者である伊藤国光監督は、彼を時間をかけてゆっくりとマラソンに移行させた。カネボウ入りして、ハーフマラソンを初めて走ったのは'97年の実業団ハーフ、30kmを走ったのも'01年の熊日と、他に例のないほどの「遅いデビュー」だった。当然ながら、どちらも若いライバルたちを寄せ付けずに優勝。

マラソン・デビューはその年の暮れの福岡。2時間9分41秒で3位、という他の選手なら上々の結果も、彼にしては、と物足りなさを感じさせた。

そして、翌年秋のシカゴ・マラソンで日本最高記録!

トラックで実績を積んで、30過ぎてマラソン・デビュー、というのは海外のランナーでは珍しくはない。ロス五輪の金メダリスト、カルロス・ロペス、そのロペスの世界最高記録達成のレースでペースメイカーを務めていた、ヴァンサン・ルソー、'90年代後半のマラソン界をリードしたスペイン勢の中核、マルティン・フィスにアベル・アントン。高岡の歩んできた道は、彼ら欧州のスピード・ランナーたちと重なる。その、身体同様に、これまでの日本のマラソン・ランナーの有り様から大きくはみ出している。

2003年の福岡で、国近友昭、諏訪利成に秒差で敗れ、アテネ五輪のマラソン代表では補欠に甘んじた。女子の日本記録保持者のように、目を覆いたくなるような失敗だったわけではないのに、代表の座を逃した。これは、彼に勝った2人を褒め称えるべきだ。彼らは、
「高岡に勝ちさえすれば、五輪の代表になれる。」
という気持ちを強く持ち、勝ってみせた。そして、彼らの想いに応えた代表選考も的確だったと思う。

10000m代表になった大野龍二も、代表内定後に高岡とのマッチ・レースを制し、自らの実力をアピールしてみせた。

このまま、ずるずると落ちて行くかと思われたが、今回の東京を横綱相撲で制してみせた。これまでの4回のマラソンで初マラソン以後は全て2時間8分以内。しかし、順位は全て3位。今回の優勝で、真のエースの座を獲得した。34歳にして!!

平均寿命が80歳を越えた今、競技者が世界のトップと戦える寿命も延びるのは当然のことかもしれない。トレーニング方法から、故障の治療、疲労の回復法、それらが進化している以上、30歳過ぎても、一線で戦える力を維持できるようになったのかもしれない。既に世界選手権代表に内定している尾方剛も、今年32歳になるが、北京はもちろんのこと、その次の五輪も目指しているという。

高岡はもう、悲運のスピード・ランナーではない。あえて、「悲運」というならば、
19歳の女子ゴルファーの優勝にスポーツ紙の一面を奪われたことだろうか。

年齢は決して彼の弱点ではない、と思いたい。

前にも書いたが、北京の年の彼の年齢は、ロペスがロス五輪で金メダルを取った当時の年齢と同じ、38歳になる。

10代、20代はまだまだガキだ。マラソンは30代からだ。

世界選手権の残りの代表は今週末のびわ湖の結果次第で選ばれる。現在の時点で、有力候補となっている、福岡2位の大崎悟史も別大優勝の入船敏も、世界選手権の当日29歳である。

代表の平均年齢が30代になる可能性は高い。そうなって欲しい。(東京の結果も、僕の望む通りになったけど。) 



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