KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

マラソンを愛する皆様、こんにちは。
2022年は積極的に更新していく心算です。

走れ、タカオカ!

2005年02月13日 | マラソン時評
テレビ東京で放映された、2002年のシカゴ・マラソンを、東京に住む友人にビデオに録画してもらって見たときのことだ。

長年、海外マラソンの中継を行っていた同局だが、その年は今までと違っていた。
「渋井陽子、日本最高記録への挑戦」
と銘打ち、あの、おなじみのテーマ・ミュージックも無くなっていた。フジテレビのベルリン・マラソン中継に影響されたのであろうか?スタートから、画面は女子のレースの模様ばかりを映し続けていた。
「今度は、シカゴ国際女子マラソンかよ。」
リアル・タイムで見ていたら、そうつぶやき舌打ちしていただろう。ただ、ベルリンと違って、この時のシカゴのロードには、ポーラ・ラドクリフとキャサリン・ヌデレバがいた。渋井が独走で優勝、という結果は想像しにくかった。
(ビデオを見た時点で結果は知っていたのだが。)

今、改めてビデオを見ると、ベルリンでおなじみの黄色いランシャツのペース・メイカー氏が、なんとここでも走っていた。

男子のレースの模様は、10km地点の通過シーンが画面の左隅に、映されるだけだった。

レースはラドクリフが5km16分20秒を切るハイペースで飛ばし、ヌデレバと渋井が必死に食らいつく、という展開だった。

ヌデレバが世界最高を出した、2001年のシカゴの中継には、男子のレースの解説者として、河野匡さんも加わっていたのに、この時は女子のレースの解説の増田明美さんしかいない。ベルリンと同様に、始めから女子のレースしか中継しないつもりだったのか。

先頭はラドクリフ。2位のヌデレバに付いていた渋井は18km過ぎて、遅れ始めた。この時点でもなお、日本記録を更新できるペースだったのだから、前の二人がありえないペースで飛ばしていたのだ。

渋井が完全にひとりきりとなってしまった時に、画面が男子のレースに切り替わった。
なんと、トップは日本人だった!!

当時の世界記録保持者のハヌーシ、2位のテルガトを差し置いて、30kmを1時間28分56秒と、世界最高ペースで独走する、長身の日本人、彼の名前は高岡寿成。レース後半は主役の座を渋井から奪い取った。

シドニー五輪の10000mで7位に入賞している高岡だが、マラソンはこれが2度目だった。初マラソンは前年の福岡で、2時間9分41秒で3位。「トラック日本最速男」にしては、物足りなさを感じたが、そこから10ヶ月で飛躍的な進化を遂げた。しかも、当時33歳。40km地点でハヌーシにかわされ、ゴールは、仙台育英出身のケニア人、ダニエル・ジェンガと同時ゴールで同タイムの3位となったが、2時間6分16秒は今も破られていない日本最高記録である。

これまで、何度か、女子のレースしか映さないベルリン・マラソンの中継を批判してきた。もしかしたら、それはただの言いがかりだったかもしれない。この日の高岡のようなレースを、これまでベルリンに出た日本人男子ランナーは誰もできなかっただけのことだ。世界最高ペースでトップに立てば、イヤでもテレビに映してもらえる。

ともあれ、2年後のアテネ五輪への期待が高まった。代表入りは当然、メダルも夢ではない。

その彼が、アテネ代表選考レースであった福岡で、国近友昭、諏訪利成の後塵を浴びて3位に終わった。ソウルやバルセロナの時のような選考のやり方だと、諏訪が「実績不足」として、補欠に回り、高岡が代表に選ばれていただろう。しかし、選考レースの結果重視の選考基準が、彼を補欠に回し、諏訪の「日本最高記録保持者に勝った」という実績が評価された。

澤木啓祐強化委員長が、発表の記者会見で
「断腸の思い。」
と語ったのは、高岡を落選させざるを得なかったことではなかったのか?

補欠に選ばれた彼に密着したドキュメンタリーがNHKで放映されたほどである。
タイトルは
「それでも僕は走り続ける」

彼に勝って、代表の座を得た諏訪は6位に入賞した。そして、高岡は再びシカゴへ飛んだ。

昨年のシカゴは未見である。結果だけで見るとまたしても3位。4回マラソンを走って全て3位、という珍記録を作ってしまった。それでもタイムは2時間7分50秒。2004年の日本最高記録であるし、3大会連続サブ8(2時間8分以内)という、日本人唯1人の快挙を達成した。

その高岡が今夏の世界選手権ヘルシンキ大会の代表を目指して、明日、東京国際マラソンに出場する。メンバーの顔ぶれから見ると、「高岡の信任投票」と言えなくもない。最大の焦点は、彼がどのくらいの記録で走るか、だ。

伝えられるところでは、ペースメイカーのタイムが5km14分40秒とも50秒とも言われている。代表選考レースに公平性を持たせるために、どのレースも5km15分5秒と決められていた設定ペースが、変更された。

初めての「マラソン日本代表」を目指して、高岡はスタートする。テレビの画面は、長身の彼の走る姿が独占されるだろうか?

独占されて欲しい!

北京五輪の年、彼は37歳。カルロス・ロペスがロス五輪で金メダルを獲得した時と同じ年齢である。



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