うすうすは覚悟していた。しかし、まさか本当にやるとは。
今年のベルリン・マラソン、フジテレビによる地上波での生中継は実施されない。
2000年から昨年まで、6大会連続して日本人が女子の部で優勝しているこのレース、'01年からフジテレビによる生中継が開始された。
以後、'03年以外は全てフジテレビ系列で生中継(昨年は実は1時間遅れの録画中継だった。)されたのだが、いずれも、高橋尚子、渋井陽子、野口みずきによる「タイム・トライアル」であった。'01年には高橋が女性として初めて2時間20分を切る世界最高記録、2時間19分46秒で優勝、'04年には渋井がその記録を5秒更新、そして昨年には野口がさらに29秒更新した。現在の女子マラソンの日本ランキングの上位3位はベルリンで生まれたものである。
そして、意外と見落とされているが、'02年の高橋の優勝記録。前年の記録を更新できなかったゆえに、一部では「平凡な記録」と報道されたが、とんでもない!日本歴代4位に相当するのだ。
このテレビ中継は、前代未聞のスタイルで行われた。現地の国際映像を使わず、日本から持ちこんだカメラによって、ペース・メイカーに引っ張られて記録を狙う日本人女子ランナーの姿のみを延々と映し続けてのだった。男子のレース、他の女性ランナーはほとんど無視されていた。
そのような中継方式に僕は大いに不満を持ち、この欄でもかなり批判的に書いてきたし、賛同してくださる方もいた。僕がここでいくらブーたれても、テレビ局が聞き入れるわけではないが、言わずにはいられなかった。
今回、昨年に続いて野口が記録に挑戦、さらには有森裕子(現役であるらしいので、敬称は略します。)が「最後の海外マラソン」ということが「テーマ」となっていたが、この両者が相次いで故障による調整不足を理由に欠場を表明した。
'03年のレースは始めから地上波で中継する予定が無かったと記憶している。橋本康子の優勝タイムは、彼女にとってのベストではあったが、高橋のベストに7分近くも開きがあった。
しかし、この日、男子の優勝タイムは、ポール・テルガトの2時間4分55秒!2位のサミー・コリルも1秒差でゴール!
人類初の2時間5分切りの「歴史的瞬間」が日本には生で中継されなかったのである。
翌年は渋井が出場すると生中継が復活。そして昨年は野口みずきが高橋に続いて、金メダルと日本最高記録保持者のダブル・タイトルを獲得した。
今年、野口は高橋もできなかった、ベルリンでの自己記録更新に成功できるかどうか、そして有森の復調ぶりは?
実は、先月発売の月刊のテレビ番組情報誌には、今年のベルリンもフジテレビ系列で生中継されることになっていたのである。実況は長坂哲夫アナ、解説は金哲彦さんと増田明美さん。バイクレポーターは近田誉アナ。東京のスタジオでの司会は中野美奈子アナでゲストは小倉智昭さん。
同局のマラソン中継ではおなじみの顔ぶれである。
それが、野口&有森の欠場が発表後に発売された情報誌では「番組未定」となっていて、今週発売の週刊情報誌では、別番組に差し替えられていた。
これではっきりした。フジテレビにとって、ベルリン・マラソンは何であるかが。日本新記録が生まれる可能性がなくなったレースなど、生中継する価値なし、ということなのだろう。
野口と有森以外にも、日本人ランナーは出場することになっていた。'98年の大阪国際4位の小川ミーナにシドニー五輪10000m代表の高橋千恵美。しかし、彼女たちは今や市民ランナーのインストラクターをしている、いわば「セミ・リタイア」した立場である。ケニアやエチオピアの強豪たちとの優勝争いに加わる力は既にないし、彼女たちもそのためにこのレースに参加するのではない。いずれにしても、「日本人女子7連勝」は絶望的である。
だからと言って、決定していた生中継を中止させる、というのはいかがなものか?
ジャイアンツの優勝が絶望的になった時点で9月以降のジャイアンツ戦の中継を取り止められるご時世である。(だからと言って、代わりにタイガースやドラゴンズの試合やパ・リーグの首位争いを中継したりはしないが。)日本人が勝つ見込みのないレースの中継が打ちきられても仕方がないのかもしれない。
むしろ、あのような、日本人女子のみを延々と映し続けるレースがこれまで4回も実施され、3度も日本新記録が更新されたこと自体が「驚異的」なことと言えないだろうか?高橋も渋井も野口も、見事に期待に応えてくれた。きついプレッシャーもあったかもしれない。思えば、高橋も渋井も、ベルリンの次のマラソンでは優勝を逃している。2人とも現役である以上、
「ベルリンで燃え尽きた。」
と断じることはできないが、記録と勝利と引き換えに何かが失われたような気もする。(特に高橋はアテネ五輪の代表権を失った。)
日本の「有名ランナー」の記録への挑戦のみをテーマにした中継は、ある面では実に「分かり易い」テーマだ。だから視聴率も稼げる、と踏んだのであろう。しかし、「リスク」も大きい。'02年のレースのように記録が更新できなければ、たとえ自己2番目の記録であっても、印象が悪くなってしまう。
ここで、下衆の勘繰りをしてしまう。'04年の大会には、大南博美が出場し、渋井との「勝負」を期待したが、彼女は彼女自身の記録の更新を目指して走っていた。彼女のためのペースメイカーも用意され、渋井とは3分35秒もの差をつけられたとは言え、自己記録を3分近く更新する2時間23分26秒で2位。
今だから言うが、この時の大南は、渋井のチャレンジが「失敗」に終わった際の「スペア」だったのだろうか?
もっとも、この時の渋井は、従来の欠点だった「後半、集中が切れて失速」を見せることがなく、この点は評価したかったが。
田嶋某センセイが聞けば激怒するであろうが、欧米の男女同時スタートの都市マラソンにおいて、女子のレースというのは本来は「サブ・イベント」、つまりはオマケなのだ。メインイベントは男子のレースである。今回の男子のレースは、ゲブレセラシエが出場するのだ!!
「それ誰?」
と言う人のために、一番分かり易く説明すると、3年前にこのレースで世界新記録を出したテルガトは、五輪や世界選手権の10000mでは「シルバー・コレクター」に甘んじてきた。彼がなかなか勝てなかった最強のライバルが「皇帝」と呼ばれる男、ハイレ・ゲブレセラシエである。その彼がベルリンを走る。しかも、テルガトの記録をアシストしたコリルとともに。もう、狙いは言うまでもないだろう。
現在発売中の「AERA」でも記事になった、「夢の3分台」へのチャレンジである。
畏れ多くも、ハイレ様を無視するとは、このテレビ局はシューマッハ以外の「皇帝」の存在を認めないつもりか?
日本人男子だって侮れない。早稲田大時代は箱根駅伝のエースだった梅木蔵雄、そして7年前にこのレースで自己記録を6分近くも更新し、日本人初の2時間6分台を記録した、犬伏孝行の所属する大塚製薬から、昨年の世界選手権代表の細川道隆、中森一也がエントリーしている。あの「サプライズ」の再来なるか?
そして、マラソンは優勝争いと記録更新ばかりではない。来年2月の東京マラソンを前に、3万人ものランナーが参加する都市マラソンがいかなるものであるかを、多くの方に示す絶好のチャンスではないか。松山市に合併される前の我が北条市の住民よりも多いランナーが号砲とともに一斉にスタートする。そのシーンだけでも実に壮観である。しかも、実に整然と。
「選ばれた」少数のランナーだけのためではないマラソンもあることを多くの人に知らしめるチャンスではないか?
そして、どうして、あれだけ多くのランナーが整然とスタートできるのか?
それは、こういう大規模なマラソンでは、必ず、自分のゴールできるタイムの順に整列するように決まっているからである。力の無い人が前方に並ぶのはマナー違反であると同時に極めて危険なのである。実際に関西の某タレントがホノルルマラソンに出場した際に、スタート地点で転倒して100mも走らないうちにリタイアした、というアクシデントがあったほどなのである。
そういった話を解説者がするだけでも、視聴者にとっては「新しいトリビア」の誕生になるであろう。
もし、これで、ハイレ皇帝が期待通りの走りを見せ、日本人ランナーが期待以上の走りを見せれば、どんな気分になるだろう。ベルリン・マラソンの代わりに放映されるのが、あの、アスリートたちが漫才師とトークを繰り広げる番組だというのが、いかにもこのテレビ局らしい。
今年のベルリン・マラソン、フジテレビによる地上波での生中継は実施されない。
2000年から昨年まで、6大会連続して日本人が女子の部で優勝しているこのレース、'01年からフジテレビによる生中継が開始された。
以後、'03年以外は全てフジテレビ系列で生中継(昨年は実は1時間遅れの録画中継だった。)されたのだが、いずれも、高橋尚子、渋井陽子、野口みずきによる「タイム・トライアル」であった。'01年には高橋が女性として初めて2時間20分を切る世界最高記録、2時間19分46秒で優勝、'04年には渋井がその記録を5秒更新、そして昨年には野口がさらに29秒更新した。現在の女子マラソンの日本ランキングの上位3位はベルリンで生まれたものである。
そして、意外と見落とされているが、'02年の高橋の優勝記録。前年の記録を更新できなかったゆえに、一部では「平凡な記録」と報道されたが、とんでもない!日本歴代4位に相当するのだ。
このテレビ中継は、前代未聞のスタイルで行われた。現地の国際映像を使わず、日本から持ちこんだカメラによって、ペース・メイカーに引っ張られて記録を狙う日本人女子ランナーの姿のみを延々と映し続けてのだった。男子のレース、他の女性ランナーはほとんど無視されていた。
そのような中継方式に僕は大いに不満を持ち、この欄でもかなり批判的に書いてきたし、賛同してくださる方もいた。僕がここでいくらブーたれても、テレビ局が聞き入れるわけではないが、言わずにはいられなかった。
今回、昨年に続いて野口が記録に挑戦、さらには有森裕子(現役であるらしいので、敬称は略します。)が「最後の海外マラソン」ということが「テーマ」となっていたが、この両者が相次いで故障による調整不足を理由に欠場を表明した。
'03年のレースは始めから地上波で中継する予定が無かったと記憶している。橋本康子の優勝タイムは、彼女にとってのベストではあったが、高橋のベストに7分近くも開きがあった。
しかし、この日、男子の優勝タイムは、ポール・テルガトの2時間4分55秒!2位のサミー・コリルも1秒差でゴール!
人類初の2時間5分切りの「歴史的瞬間」が日本には生で中継されなかったのである。
翌年は渋井が出場すると生中継が復活。そして昨年は野口みずきが高橋に続いて、金メダルと日本最高記録保持者のダブル・タイトルを獲得した。
今年、野口は高橋もできなかった、ベルリンでの自己記録更新に成功できるかどうか、そして有森の復調ぶりは?
実は、先月発売の月刊のテレビ番組情報誌には、今年のベルリンもフジテレビ系列で生中継されることになっていたのである。実況は長坂哲夫アナ、解説は金哲彦さんと増田明美さん。バイクレポーターは近田誉アナ。東京のスタジオでの司会は中野美奈子アナでゲストは小倉智昭さん。
同局のマラソン中継ではおなじみの顔ぶれである。
それが、野口&有森の欠場が発表後に発売された情報誌では「番組未定」となっていて、今週発売の週刊情報誌では、別番組に差し替えられていた。
これではっきりした。フジテレビにとって、ベルリン・マラソンは何であるかが。日本新記録が生まれる可能性がなくなったレースなど、生中継する価値なし、ということなのだろう。
野口と有森以外にも、日本人ランナーは出場することになっていた。'98年の大阪国際4位の小川ミーナにシドニー五輪10000m代表の高橋千恵美。しかし、彼女たちは今や市民ランナーのインストラクターをしている、いわば「セミ・リタイア」した立場である。ケニアやエチオピアの強豪たちとの優勝争いに加わる力は既にないし、彼女たちもそのためにこのレースに参加するのではない。いずれにしても、「日本人女子7連勝」は絶望的である。
だからと言って、決定していた生中継を中止させる、というのはいかがなものか?
ジャイアンツの優勝が絶望的になった時点で9月以降のジャイアンツ戦の中継を取り止められるご時世である。(だからと言って、代わりにタイガースやドラゴンズの試合やパ・リーグの首位争いを中継したりはしないが。)日本人が勝つ見込みのないレースの中継が打ちきられても仕方がないのかもしれない。
むしろ、あのような、日本人女子のみを延々と映し続けるレースがこれまで4回も実施され、3度も日本新記録が更新されたこと自体が「驚異的」なことと言えないだろうか?高橋も渋井も野口も、見事に期待に応えてくれた。きついプレッシャーもあったかもしれない。思えば、高橋も渋井も、ベルリンの次のマラソンでは優勝を逃している。2人とも現役である以上、
「ベルリンで燃え尽きた。」
と断じることはできないが、記録と勝利と引き換えに何かが失われたような気もする。(特に高橋はアテネ五輪の代表権を失った。)
日本の「有名ランナー」の記録への挑戦のみをテーマにした中継は、ある面では実に「分かり易い」テーマだ。だから視聴率も稼げる、と踏んだのであろう。しかし、「リスク」も大きい。'02年のレースのように記録が更新できなければ、たとえ自己2番目の記録であっても、印象が悪くなってしまう。
ここで、下衆の勘繰りをしてしまう。'04年の大会には、大南博美が出場し、渋井との「勝負」を期待したが、彼女は彼女自身の記録の更新を目指して走っていた。彼女のためのペースメイカーも用意され、渋井とは3分35秒もの差をつけられたとは言え、自己記録を3分近く更新する2時間23分26秒で2位。
今だから言うが、この時の大南は、渋井のチャレンジが「失敗」に終わった際の「スペア」だったのだろうか?
もっとも、この時の渋井は、従来の欠点だった「後半、集中が切れて失速」を見せることがなく、この点は評価したかったが。
田嶋某センセイが聞けば激怒するであろうが、欧米の男女同時スタートの都市マラソンにおいて、女子のレースというのは本来は「サブ・イベント」、つまりはオマケなのだ。メインイベントは男子のレースである。今回の男子のレースは、ゲブレセラシエが出場するのだ!!
「それ誰?」
と言う人のために、一番分かり易く説明すると、3年前にこのレースで世界新記録を出したテルガトは、五輪や世界選手権の10000mでは「シルバー・コレクター」に甘んじてきた。彼がなかなか勝てなかった最強のライバルが「皇帝」と呼ばれる男、ハイレ・ゲブレセラシエである。その彼がベルリンを走る。しかも、テルガトの記録をアシストしたコリルとともに。もう、狙いは言うまでもないだろう。
現在発売中の「AERA」でも記事になった、「夢の3分台」へのチャレンジである。
畏れ多くも、ハイレ様を無視するとは、このテレビ局はシューマッハ以外の「皇帝」の存在を認めないつもりか?
日本人男子だって侮れない。早稲田大時代は箱根駅伝のエースだった梅木蔵雄、そして7年前にこのレースで自己記録を6分近くも更新し、日本人初の2時間6分台を記録した、犬伏孝行の所属する大塚製薬から、昨年の世界選手権代表の細川道隆、中森一也がエントリーしている。あの「サプライズ」の再来なるか?
そして、マラソンは優勝争いと記録更新ばかりではない。来年2月の東京マラソンを前に、3万人ものランナーが参加する都市マラソンがいかなるものであるかを、多くの方に示す絶好のチャンスではないか。松山市に合併される前の我が北条市の住民よりも多いランナーが号砲とともに一斉にスタートする。そのシーンだけでも実に壮観である。しかも、実に整然と。
「選ばれた」少数のランナーだけのためではないマラソンもあることを多くの人に知らしめるチャンスではないか?
そして、どうして、あれだけ多くのランナーが整然とスタートできるのか?
それは、こういう大規模なマラソンでは、必ず、自分のゴールできるタイムの順に整列するように決まっているからである。力の無い人が前方に並ぶのはマナー違反であると同時に極めて危険なのである。実際に関西の某タレントがホノルルマラソンに出場した際に、スタート地点で転倒して100mも走らないうちにリタイアした、というアクシデントがあったほどなのである。
そういった話を解説者がするだけでも、視聴者にとっては「新しいトリビア」の誕生になるであろう。
もし、これで、ハイレ皇帝が期待通りの走りを見せ、日本人ランナーが期待以上の走りを見せれば、どんな気分になるだろう。ベルリン・マラソンの代わりに放映されるのが、あの、アスリートたちが漫才師とトークを繰り広げる番組だというのが、いかにもこのテレビ局らしい。
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