田園都市の風景から

筑後地方を中心とした情報や、昭和時代の生活の記憶、その時々に思うことなどを綴っていきます。

東京での仕事・人余話

2018年09月16日 | 遠い日の記憶

 私の長男は東京に住んで二十数年になる。仕事も家庭も東京に本拠があり、言葉もすっかり東京人になったようだ。ただ話を聞いていると、生き馬の目を抜くといわれる東京での仕事はなかなか大変らしい。私は仕事で東京の人と関わったことはあまりないが、幾つか印象に残った思い出がある。

 就職して間もない頃、東京での講習会に参加した。初めての東京出張でもあり、お上りさん気分で夜行列車に乗った。講習会には各地から人が集まっていて、朝一番の講師は婦人団体の役員である。ところが初老の講師は登壇するといきなり主催者を非難しだした。今日の講義が彼女の予定に入っていなかったらしい。連絡ミスでいかに事務局に非があるかを訴えると、ぽかんとしている我々を残して当の本人はさっさと帰ってしまった。

 上京した折りに、思い立ってある建築家に会いに行ったことがある。しかし事務所に着くと、年配の女性秘書から居留守を使われた。奥の部屋のドアは開いており、当の建築家が談笑している姿が見える。だがアポイントも取らずに訪問した私の方が分が悪い。すごすごと引き下がらざるを得なかった。何年か後、当の女性秘書から建築家と私どものトップとの面談のアポイント依頼が入った。電話の声で彼女と分かり、あの時のことを思い出して可笑しくなったが、何食わぬ顔をして(電話で良かった)出先のホテルでの面談をセットした。

 夏目漱石も知らない客には居留守を使っていたことがある。作家として名が売れ始めた頃、訪問客があまりに多いのに閉口したのである。それでも帰らない客には自ら玄関に出て「いない者はいない、私がそういうのだから確かだ」と言ったそうである。

 東京の大手広告代理店のプロデューサーが仕事で当地を来訪したことがある。私は携わらなかったが、上司の課長から後日談を聞いた。宿舎は繁華街のビジネスホテルを押さえていたとのこと。しかしあくる日迎えに行くと、「こんな安ホテルしかないのか」と大変なご立腹だったそうである。おまけに鞄を投げ渡され、俺はカバン持ちをさせられたよと悔やんでいた。

 各県の県庁には中央省庁から若い役人が幹部や管理職として招聘されることが多い。招聘する方と出す方には、それぞれの思惑と力関係がある。ある日、たまたま県庁に行った時のこと。中年の課長補佐が、国から来た三十そこそこの課長に叱り飛ばされている。私は課長補佐に会いに行ったのだが、気まずい思いがして黙って通り過ぎた。まだ国と地方との官々接待華やかなりし頃である。

 楽しい思い出もある。

 東京で仕事が終ってから、関係する団体の次長と居酒屋に行ったことがある。話が盛り上がって宿泊先の中野まで一緒に電車に乗り、駅に着いてまた赤提灯で話が弾んだ。当時、彼がカードで支払いをするのが物珍しかった。その冬には彼が当地へ来た。今度は私が課長と接待した。夜遅くまで飲んで、店を出ると大雪になっていた。大きな鞄を抱え、おぼつかない足取りで雪道を歩く彼の姿は何ともおかしく、お互いに笑いあった。その晩は課長が彼を自宅まで連れ帰った。

 東京との仕事は割り切っているので、深い思い出はない。本筋から外れたエピソードの方が印象に残っている。

 

          フリーフォトより

 

コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 道の駅うきはと野外円形劇場 | トップ | 石橋文化センターの花 »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
東京 (tango)
2018-09-16 07:09:02
私の弟も金融のお仕事でほとんど東京です
当時、景気の良い時で家で食事をしたことが無いと
言ってました
男性のおしごとは大変なようで接待漬け?
リアタイしてゆっくり・・・
私は東京の雰囲気は会いません
住みたくない?行きたくない?
田舎の景色があってます
もちろん、飲めないし・・仕事は私も男性並みに
しているつもりですが、女性ゆえに得するときも
沢山あります?
返信する
こんにちは (九州より)
2018-09-16 12:04:53
東京は人が多くて気疲れします。
しかし刺激があって、時々行きたくなります。
静かな地方にいるよりもボケにくいかもしれません。
tango様は仕事をしているので、充実した日々を送られていますね。
今は仕事面で男女差は小さくなっていると思います。
返信する
東京 (京都で定年後生活)
2018-09-16 15:44:18
こんにちは
在職中月一で東京出張していたときがあります。
勿論全国あちこちにも行きましたが、東京が一番気が疲れました。
新幹線で東京駅に着くとすごい人出です。駅構内も中央線も人が溢れているのにまず疲れます。
そして建物の高さにも圧迫されます。京都は当時11階が最高でしたので余計そう思ったと思います。
新宿の夜、とりわけ金曜日は不夜城のようでした。
出張目的の会議が終わると一目散に新幹線に飛び乗り帰りました。在職中、あれほど東京に行ったのに観光めぐりは全くなかったです。
ただ幸いにも人間関係では全く問題なく過ごせたのは良かったと思います。東京に住んでいる人も出身は地方というのが多かったです。
退職後東京に美術館めぐりで行きましたが、人気企画展の混雑には閉口します。
公務員は公務員で大変ですね。
返信する
京都で定年後生活様 (九州より)
2018-09-16 19:11:58
こんばんは。
東京に難しい折衝ごとで行ったことはあまりありません。
どちらかというと気楽な出張が多かったです。
ただ人混みの多さには気疲れしました。
飛行機で福岡空港に着くとホッとしたものです。
さらに高速バスで久留米に帰ると、のんびりとした風景に神経が弛緩します。
一昨年東京に行き、新宿のホテルに泊まりましたが、
家内はスクラムを組んでくるような群衆に気おされて、もう来たくないと言っていました。
東京での相手方は色々で、個人的な付き合いはなかったですね。
返信する
江戸っ子 (ろこ)
2018-09-17 10:56:15
こんにちは。
 地方と都会の空気はまるで違いますね。
 私は東京生まれの東京育ち。
 地方のさびれた町に嫁ぎました。
 ローカル線は無人駅。
 江戸時代にタイムスリップしたかのような新婚生活でした。
 東京に里帰りしたときなど、新宿の雑踏に紛れ込むとほっとしたものです。
  父は官官接待まっただなかの時の人です。
 夜中に芸者さんを乗せた黒塗りの乗用車で送られて帰宅が続く環境で育ちました。

 東京と田舎暮らしの両方を経験してみると、「住めば都」の言葉通り。今では田舎暮らしが一番です。
 
返信する
こんばんは (九州より)
2018-09-17 18:17:27
東京に滞在中は始終気を張っていました。
旅行中だったこともあると思います。
山が近く人が少ない田舎に帰ると、一気に神経が緩みます。
しかし、たまに上京すると気持ちが活性化します。
正直、田舎で生活して、時々東京にも出掛けたいですね。
ただ九州からは東京は遠いので、何かきっかけがないと足が向きません。
三代続いて江戸っ子といいますから、長男の孫の代が本物の江戸っ子になるのでしょう。
返信する

コメントを投稿

遠い日の記憶」カテゴリの最新記事