お前が20歳になったら

　いつもより長く楽しめた桜も葉桜になろうとしています。入れ替わるように、赤やピンクのつつじが街を彩りはじめました。花の移ろいは早いものです。

　９日は中学校の入学式でした。家で昼食の支度をしていると、長女と孫息子がやって来ました。入学式の帰り、昨秋亡くなった妻へ報告に来たのです。位牌の前で手を合わせた後、玄関前で写真を撮りました。真新しい詰襟の学生服姿が少し眩しく見えました。

　大きな制服にちんまりと納まった孫の顔にはまだ幼さが残っています。帽子はどうしたと聞くと、今どき制帽なんてないよと長女が笑います。

　大むかし、小学校の卒業式に中学の制帽を被って行き、担任の先生から叱られました。当時、学生服と学帽そして丸刈り頭の我が姿に、もう子どもではないと自覚しました。

　孫は春休みの間、毎日私の家に通っていました。入学式の前日は花見を兼ねて外で食事をしようと、弁当を持って二人で近くの公園に出かけました。桜の下で食事をしていると、おりからの風で盛んに花びらが舞い散ります。

　これが花吹雪だよと教えると、知っていると言います。ほうと思っていると、彼の紙コップに花びらが舞い落ちました。あっと言ってつまみ出そうとするので、それも風流だよと言いました。花見の盃に浮かぶ桜の話をしましたが、風流という心の機微は孫にはまだ早いようです。

　ふと、近い将来、彼と酒を飲むことがあるだろうかと思いました。河島英五の歌のなかに、お前が20歳（はたち）になったら、という歌詞があります。それまで元気でいて、歌にあるように彼と酒を酌み交わし、大人の話をしたいものです。