田園都市の風景から

筑後地方を中心とした情報や、昭和時代の生活の記憶、その時々に思うことなどを綴っていきます。

相手の話を聞くということは

2016年02月28日 | 話の小箱

 まだ若い時分、秘書課に勤務していたことがある。

 トップと身近に接する職場だけに色々なことがあり、失敗もある。秘書課では先輩たちの珍談、奇談をよく耳にしたものである。それらは別にして、私の話を一例だけ。

 まだ秘書課に入る前のことである。のどかな春のある日、上司からトップが君を呼んでいると伝えられた。雲の上の人でもあり、何のことかと秘書課に案内を請い、恐る恐る執務室に入った。すると、いきなり頭からどやしつけられるではないか。訳もわからず生返事をし、数分もすると放免された。

 秘書課への異動の内示があったのは数日後である。その時、あれは面接試験であったと気が付いた。そのトップは有能な人だったが、部下を厳しく叱責することでも知られていた。

 昇任人事ではあったが、私は落ち込んだ。やかましい上司の下で24時間拘束される、何だか監獄に入るような暗い気分だった。発令日になって秘書課の椅子に座った時、思わず「とうとう来てしまった」とつぶやいたら、周りの女性職員はくすくす笑っている。

 実際に仕事を始めたら、緊張感はあるが思ったほど窮屈ではなくほっとした。結果的に長年そこに在籍した。秘書課にいて自戒すべきことは、虎の威を借る狐にならぬことである。叔父からはいつまで茶坊主をしているのかと冷やかされた。

 前置きが長くなった。相手の話を聞くということである。

 秘書課には多くのクレームが来る。ほとんどは電話であるが、直接の来訪者もある。その対応に結構時間を費やした。昔のことでもあり、建物には多くの人が出入りしていたが、セキュリティは今ほど厳しくはなかった。

 多くは担当での対応に不満があって電話をかけてくる。秘書課から原課に命令する権限はなく、秘書課にクレームを持ち込まれても結果は同じである。だから私がすることは、ただ話を聞くことである。場合によっては、1時間近くも相手のいうことに耳を傾けることもある。余りに長いと業務妨害にもなるが、そこまでの例はなかった。

 だが電話をかけてきた人の7割近くは平穏裡に話が終る。最初は興奮して声高に話しているが、こちらが相槌を打ちながら話を聞いていると次第に落ち着いて来る。中にはこちらへの気遣いや、御礼を述べて受話器を置く人もいた。そういう人は、もやもやした気持ちや不満を聞いてもらいたいのである。言うだけのことを言うと気持ちがすっきりする。

 私の勤務先がサービス業に近かったこともあるのだろう。残りの3割は最後まで納得がいかない場合や、強面の仕事をしているか、本当のクレーマーである。この場合は礼を失しないようにして、ある時点で打ち切らなければならない。

 秘書課でのこの経験は、後に部下を指導するようになって役に立った。それは仕事面ではなく、心の対応である。会社や団体では昔と違い縛りが多く、ゆとりがなくなった。多くの組織では、心を病んでいる職員の対応にエネルギーを費やしている。

 私も何人もの職員と話し、場合によっては休ませたり配置換えや職場の改善もした。ある時、カウンセラーの講演を聞いたことがある。その講師によると、人はそう簡単には心の内面や本音は打ち明けないそうである。

 カウンセリングを受ける人と2時間以上話していても、心を開かないという。そして最後の最後にぽろっと本音が出てくるそうである。カウンセリングとは相手を理解することではなく、相手の存在を受け入れることだともという。

 ただこれは中々難しい。やってみると分かるが、精神的な強さと忍耐力がいる仕事である。基本は相手を責めたり励ますのではなく、じっくりと話を聞き、寄り添う気持ちで接することである。相手も理屈で気持ちがへこんでいる訳ではない。

 ある本の広告に、聞き上手だけでは相手にリードされるので駄目だと書いてあったそれは交渉術の話である

 

 

 

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2 コメント

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秘書 (<tango>)
2016-02-28 19:00:44
私も大学卒業と同時に秘書として勤めていました
仕事は英語中心、総務の仕事もあり、会議の時は
外人さんは奥様同伴でしたから観光に連れて
いっていました
若いときの思い出です~~
書類は当時4枚複写の英語でしたので大変でしたよ
今は英語は読み書きだけ、会話は出来なくなりました
<わらい>それで英文タイプは得意<?>です
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おはようございます (九州より)
2016-02-29 07:36:15
tangoさんは英語も出来るのでしたね。
私は大学生の時に道案内程度でした。
秘書課ではいろいろ経験しました。
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