マチさんと赤ひげとの出会いは、
マチさんが女子大生の頃、今でこそ月並みだが、合コンだった。
相手が医者の卵と知り、美人ばかりが集まった。
自分はあくまでも引き立て役、そう自戒してコンパに臨んだ。
ところが、幸福とはひょんなところに転がっているものである。
向かいに座った若かりし赤ひげは、マチさんにばかり話しかける。
この人、マザコンで、私がお母さんに似ているのかしら?
そんなことを、ボーっとした頭で考えながら相槌を打っていたのを今でも憶えている。
数日後、コンパを仕切っていた友人から、赤ひげが自分に会いたがっている、
電話番号を教えてもいいか?と聞かれて心がふわふわと天高く舞い上がったような気分になった。
6年の交際の後、入籍した。
赤ひげはまだインターンだった。
新婚旅行は、もちろん海外に行くものだと思っていたが、
赤ひげが、10日間限定あてのない国内ぶらり旅を提案してきた。
正直、始めはがっかりした。
でも、この人と一緒だったらそれも楽しいかな、と思い提案に乗った。
初日はマチさんの希望で、新宿紀伊国屋ホールでつかこうへいの芝居を観た後、
車で西の方へ走り、鎌倉のシティホテルで一泊した。
二日目は一気に長野まで行き、二泊した後、新潟、山形、秋田、青森と
東北地方を一周して帰ってきた。
初めて聞く本場の東北弁は理解不能だったが、
赤ひげのするヘンテコ標準語訳が可笑しくて二人して笑った。
赤ひげはその後、一人前の精神科医になり、
20年公立病院で勤務医をした後独立し、心療内科クリニックを開いた。
それが昨今のメンタルヘルスブームで大当たりした。
「昼飯を食う暇も無い。」といつもぼやいている。
真面目一徹の赤ひげは、ベンツに乗るでもなく、豪邸を建てるでもなく、
いったい何が楽しみなのか、せっせと大金を家に届けてくれる。
心療内科の開業にお金はかからない。
レントゲン検査機もCTスキャンもエコーも、
歯医者のあの嫌あなドリルの装置も、リクライニングシートも、何にもいらない。
玄関を入ると観葉植物が所狭しと置かれた待合室があり、
その奥に十畳ほどの診察室があり、
そのまた奥に血液検査の採血のためだけに使われる狭い治療室があるだけだ。
薬剤師だっていない。
赤ひげが処方箋を書いて患者は近所の薬局に薬を買いに行くシステムなのだ。
こんなに簡単に開業できるんだったら、私にもできそう。そう言って
「こらっ」と睨まれた。
自分の患者を自・殺で亡くした赤ひげも見てきた。
その苦悩振りにこちらの体まで変調をきたすぐらいだった。
簡単そうに見えて誰にでもできる仕事ではない。
ここまで来たのも、決して平坦な道のりではなかった。
ある日、とうとう声に出して尋ねてしまった。
「いったい、何が楽しみなの?」
「人のために役に立つことだよ。」
赤ひげは何のてらいも無く答えた。
その言葉には全く嘘偽りがなかった。
その日からである、マチさんが夫を心の中で赤ひげと呼ぶようになったのは。
心なしか、ひげを剃る前の顎やもみ上げは赤みがかって見える。
マチさんが女子大生の頃、今でこそ月並みだが、合コンだった。
相手が医者の卵と知り、美人ばかりが集まった。
自分はあくまでも引き立て役、そう自戒してコンパに臨んだ。
ところが、幸福とはひょんなところに転がっているものである。
向かいに座った若かりし赤ひげは、マチさんにばかり話しかける。
この人、マザコンで、私がお母さんに似ているのかしら?
そんなことを、ボーっとした頭で考えながら相槌を打っていたのを今でも憶えている。
数日後、コンパを仕切っていた友人から、赤ひげが自分に会いたがっている、
電話番号を教えてもいいか?と聞かれて心がふわふわと天高く舞い上がったような気分になった。
6年の交際の後、入籍した。
赤ひげはまだインターンだった。
新婚旅行は、もちろん海外に行くものだと思っていたが、
赤ひげが、10日間限定あてのない国内ぶらり旅を提案してきた。
正直、始めはがっかりした。
でも、この人と一緒だったらそれも楽しいかな、と思い提案に乗った。
初日はマチさんの希望で、新宿紀伊国屋ホールでつかこうへいの芝居を観た後、
車で西の方へ走り、鎌倉のシティホテルで一泊した。
二日目は一気に長野まで行き、二泊した後、新潟、山形、秋田、青森と
東北地方を一周して帰ってきた。
初めて聞く本場の東北弁は理解不能だったが、
赤ひげのするヘンテコ標準語訳が可笑しくて二人して笑った。
赤ひげはその後、一人前の精神科医になり、
20年公立病院で勤務医をした後独立し、心療内科クリニックを開いた。
それが昨今のメンタルヘルスブームで大当たりした。
「昼飯を食う暇も無い。」といつもぼやいている。
真面目一徹の赤ひげは、ベンツに乗るでもなく、豪邸を建てるでもなく、
いったい何が楽しみなのか、せっせと大金を家に届けてくれる。
心療内科の開業にお金はかからない。
レントゲン検査機もCTスキャンもエコーも、
歯医者のあの嫌あなドリルの装置も、リクライニングシートも、何にもいらない。
玄関を入ると観葉植物が所狭しと置かれた待合室があり、
その奥に十畳ほどの診察室があり、
そのまた奥に血液検査の採血のためだけに使われる狭い治療室があるだけだ。
薬剤師だっていない。
赤ひげが処方箋を書いて患者は近所の薬局に薬を買いに行くシステムなのだ。
こんなに簡単に開業できるんだったら、私にもできそう。そう言って
「こらっ」と睨まれた。
自分の患者を自・殺で亡くした赤ひげも見てきた。
その苦悩振りにこちらの体まで変調をきたすぐらいだった。
簡単そうに見えて誰にでもできる仕事ではない。
ここまで来たのも、決して平坦な道のりではなかった。
ある日、とうとう声に出して尋ねてしまった。
「いったい、何が楽しみなの?」
「人のために役に立つことだよ。」
赤ひげは何のてらいも無く答えた。
その言葉には全く嘘偽りがなかった。
その日からである、マチさんが夫を心の中で赤ひげと呼ぶようになったのは。
心なしか、ひげを剃る前の顎やもみ上げは赤みがかって見える。
うーーん
うーーん
ミチさんに読んでいただけただけでシアワセです。
なかなかイイ話じゃないですか~?
これがこの後下ネタになっていくとはどうしても思えない。
今後のマチさんと赤ひげ先生に何が待ち受けているのでしょうか?