立派に飾った御幣<ミテグラ>を「どうぞ見てやってください」と、天児屋命は“布刀詔戸言<フトノリトゴト>”を“禱白<ネギマホシ>します。そして、その天石屋の
“隠立戸掖<ミトノワキニ カクリタタシ>”
と書いてあります。「天石屋戸」は前にも書いたように、今、我々が使っているような引き戸ではありません。傍に立て懸けている「頑丈な岩で出来た戸」を持ってきて、完全に塞いでしまわれたのです。すると、光も「天石屋」から漏れ出ることはありません。真っ暗闇の世の中になります。この天石屋戸の傍らに
“天手力男神<アメノタジカラヲノカミ>”
を立たしめます。
この神様は、今まで我々が一般的に聞いているような、僅かに開いた戸を一杯に押し開くためにそこに配したのではありません。少しでもその戸が開らこうものならば、間髪をいれずに天石屋の中に入り、そこにいらっしゃるアマテラスの体を抱き抱え、有無を言わせずに屋外に連れ出すのが役目なのです。そのために戸の掖<ワキ>で、戸が開くのは今か今かと待っていたのです。その時のこの神様のお気持ちを想像してみて下さい。総て自分一人の働きが全世界の未来に掛っているのです。世界が自分一人の腕にあるのです。横綱になるかならぬかとプレッシャーに何度も押しつぶされそうになりながら、ようやくその地位を得た誰かさん以上に、ものすごいプレッシャーがこの神様にあったことには間違いあれません。でも、そこが天界一の知恵者「思金神<オモヒカネノカミ>」です。そのような少々なことには決して左右されない剛の者を「思金神」は配したのです。彼ならアマテラスが石屋戸を少しでも開けてくれれば、再び、天界は明かるい世の中になるという希望・期待が十分にあったはずです。その役目を担ったのが
“天手力男神”
です。
彼は、決して、ただ腕力だけが自慢の男神ではないのです。手に特別な彼にしかない力があったのです。その手でアマテラスを抱きかかえ、しかも、何の抵抗もなしに戸外にお連れすればいいのです。だから、その手は、何処までも、女性のような優しくしなやかで、しかも、男性のような強靭な手でなくてはならないのです。何も、かっての大関「朝汐」みたいな天界一の力持ちでなくてもいいのです??????????????
これで総て準備完了です。後は、アマテラスが、“閇<タテ>”た戸をほんの少し開けてくれればいいだけの話です。
さて、その秘策とは?????