松田左衛門に屈辱された団右衛門は激怒して、その場にすくっとたち上がり言います。
「それがしの素姓は、貴殿の言うように船頭じゃ。お好みに侯へば船歌一番歌て聞せ申そう。」
と言うが速いか、側にあった槍を取り上げ、更に、言います。
「船上のまねごとであるので、貴殿に願いがござる。仰向けになっていただきとうござる。その腹を船に見立てて、この槍を櫂として、その上で舟歌を歌ってしんぜる。」
と。それを聞くなり左衛門は、かっとばかりに目を見開き、怒りをあらわにして
「我、腹上にて歌を歌うだと。歌えるもんなら歌ってみろ」
刀を取持ち、仁王立ちに立ちあがります。それを見ていた側にいた鳥越や林等の毛利軍の将兵達がこれを宥め。団右衛門を、別の部屋に連れて行き、その場は一応収まるのです。でも、団右衛門は、今、受けた左衛門からの屈辱を忘られず、大層恨んでいたのです。
「きっといつかは」と心に誓うのです。